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2021年10月14日(木)10:56 AM

オーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要および改正点についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:フランチャイズ法の概要および改正点

 

オーストラリア:フランチャイズ法の概要および改正点

2021年10月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアでフランチャイズ事業を行う場合、または車両の販売代理店契約を締結する場合は、Franchising Code of Conduct[1](以下「Code」という)を遵守しなければなりません。

 Codeは競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))に基づいて規定される強制業界規則という位置づけであり、法律と同様の効果を有しています。フランチャイジーとフランチャイザーの両者の行動を規制することが目的とされているものの、主にフランチャイジー保護の内容であり、2021年7月1日に施行された改正法[2]によりフランチャイザーの義務が更に厳格化されています。また、2021年9月には罰則の強化を図る改正法[3]も施行されています。かようにオーストラリアは他の法域と比較しても、フランチャイジーの保護が求められており、フランチャイズ方式、代理店方式などで進出を検討している日本企業は特に注意が必要です。

 本ニュースレターでは、かようなオーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要およびその最近の法改正を踏まえたCodeの概要をご紹介します。

2.適用対象

 Codeは、「フランチャイズ契約」に関連する行為に適用されます。フランチャイズ契約とは、主に、①フランチャイザーのシステムやマーケティング計画に基づいて商品や役務を提供する事業の実施を許諾し、②事業の運営がフランチャイザーの指定する商標等と実質的に関連し、または③フランチャイジーに事業の初期費用・ロイヤリティ等の支払いを求める契約のことを指します。書面の契約だけでなく、口頭または暗示的な契約であっても、上記のいずれかに該当する場合はフランチャイズ契約とみなされます。そのため、仮に「Franchise Agreement」と題された契約が締結されていなくとも、実質的なフランチャイズ契約の関係にある場合は、Codeの適用を受けることに注意が必要です

 車両の販売店契約および代理店契約(Motor Vehicle Dealership)の関係もフランチャイズとしてCodeにより規制される可能性があります。これに加えて、新車の乗用車または軽貨物車が主要な取引対象である場合は、2020 年6月に導入された別途の規制(Code第5部)の適用を受ける可能性があります。

 ただし、他の強制業界規則が適用される場合、または、いわゆる”Fractional Franchise”の場合は、例外としてCodeの適用を受けません。”Fractional Franchise”とは、米国でも存在する免除規定ですが、フランチャイジーの売上全体に対してフランチャイズ契約の対象となる商品または役務の売上の占める割合が一定以下の場合に、規制適用が除外されるという概念です。

 オーストラリアでは、フランチャイズ契約を締結する前にフランチャイジーが2年間以上提供していた商品または役務と実質的に同じ商品または役務を提供するフランチャイズ契約を締結する場合であって、かつ、当該フランチャイズ契約に基づく初年度の売上が、フランチャイジーの提供する同類の商品または役務の売上全体に対して20%を超えない可能性が高い場合に、Codeの適用が免除されます。

 他方、当該免除規定の運用には不明確な点が多く、例えば、規模の大きいフランチャイジーはブランド毎に子会社を設立し、子会社が実質的なフランチャイジーとなることが一般的ですが、その場合に、仮に親会社がFractional Franchiseの要件を満たすとしても、新設された子会社が契約上のフランチャイジーであってFractional Franchiseの要件を満たさない場合は、免除規定の適用を受けずフランチャイザーはCodeを遵守しなければならないと解釈できます。また、何をもって「実質的に同じ」商品または役務と言えるかについても明確なガイドラインがなく、当該免除規定に判然に依拠できる場合は限定されるのが現状と言えます。

3.誠意を持って行動する義務(Obligation to Act in Good Faith)

 Codeの適用を受けるフランチャイズ関係においては、フランチャイザーおよびフランチャイジーの両者がお互いに対し誠意を持って行動する義務を負います。本義務は、フランチャイジー候補との契約交渉から始まり、契約の履行、紛争解決、契約終了、そして契約終了後の残存義務の履行に至るまでの全ての行為について包括的に適用されます。フランチャイザーに対し商業上の利権の放棄や契約更新等を強制するものではありませんが、フランチャイザーとしては、フランチャイジーによる権利行使に誠実に対応する、合理的な理由に基づいた決定を下す、といったような姿勢が求められます。一方で、虚偽の情報を提供する、根拠なく契約終了を強要する、エリア独占権の侵害行為を黙認する等の行為は、不誠実とみなされる可能性が高いと解釈されます。

4.事前開示義務

 Codeには、様々な資料をフランチャイジーへ事前に開示する義務が規定されています。まず、フランチャイザーは、フランチャイジー候補が正式にフランチャイズ権取得の意思を示した段階で速やかに、Information Statementをフランチャイジーへ提供しなければなりません。Information Statementはオーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)の発行するフランチャイズ権取得前の検討事項等の一般的な情報をまとめたパンフレットで、ACCCのウェブサイトからPDFの入手が可能です[4]

 次に、フランチャイザーは、フランチャイズ契約締結または返金不可の支払いを受ける14日前までに、開示書類(Disclosure Document)をフランチャイジーへ提供する必要があります。Disclosure DocumentはCodeの別紙1に記載の内容をカバーしなければならず、フォーマットについても細則が存在します。その内容は多岐に渡り、例えば、フランチャイザーの詳細(事業実績、財務情報、係属中の訴訟、過去の違反等)、フランチャイズの詳細(現行のフランチャイズ事業、過去のフランチャイズ終了の経緯等を含む)、知的財産権、サプライヤー関連情報(リベート情報を含む)、各種費用の詳細等が挙げられます。

 2021年11月1日からは、Disclosure Documentに記載が求められる内容に変更が加わります。例えば、フランチャイジーがサプライヤーから受領するリベート、物件賃貸、ADRによる紛争処理、設備投資(Capital Expenditure)等に関わる情報について、追加詳細の記載が求められます。この点に関連して、2021年7月1日以降に締結される契約においては、法令で求められる場合を除き、Disclosure Documentに記載がされていない重大な設備投資(Significant Capital Expenditure)をフランチャイジーへ強制することはできません。

 この他に、フランチャイザーは、以下の資料も事前開示しなければなりません。

 ・フランチャイズ契約  ・Key Facts Sheet[5]  ・Code  ・物件賃貸関連資料  ・その他フランチャイズに関し締結が予定される契約

 Disclosure Documentおよび上述の資料は、新たなフランチャイズ契約締結時のみでなく、フランチャイズ契約の更新時、および契約の重大な変更がある場合にも事前に開示する必要があります。開示後は、フランチャイジーより各種声明書を受領しなければなりません。

 なお、Disclosure DocumentおよびKey Facts Sheetは1年に1度、フランチャイザーの会計年度終了の4か月以内にアップデートすることが求められます。

5.フランチャイズ契約

 フランチャイズ契約の内容については、Codeにより各種制限が存在します。例えば、契約終了権、フランチャイジーによる契約譲渡権、販促費用の積立て、弁護士費用の負担、紛争解決方法、競業避止義務の効力、クーリングオフ期間等多岐に渡ります。

 2021年7月1日に施行された法改正により、主に以下の規制が変更となっており、今後締結されるフランチャイズ契約(契約の更新・重大な変更を含む)はこれらを反映することが求められます。

・フランチャイジーは契約期間中いつでも契約終了を提案することが可能となり、提案を受けたフランチャイザーは、28日以内に書面により実質的な回答をしなければなりません。 ・フランチャイザーは従前の通りフランチャイジーの倒産・違法行為など特別な事情がある場合に契約終了権を持ちますが、その場合も7日間の通知をし、フランチャイジーが異議を申立てた場合は当該期間が28日間延長されます。 ・クーリングオフ期間が、フランチャイズ契約締結日から起算して14日間に延長されます。更に、クーリングオフ期間は、物件賃貸に関する資料が提供されるまで開始しません。 ・紛争解決方法にConciliation(調停)が追加されます。なお当事者は紛争時にオーストラリアでのADR手続きを踏まなければならず、契約にも所定のADR手続きの記載が必要です。 ・フランチャイズ契約の準備にかかる弁護士費用について、一定の条件を満たさない限り、原則としてフランチャイジーに支払いを求めることはできません。 ・フランチャイザーが一方的に契約内容を修正することは明確に禁止されます。

6.罰則

 違反毎の罰金は、現行では最高300ペナルティ・ユニット(およそ6.7万豪ドル)ですが、2021年9月に施行された法改正により、競争消費者法における最高額と同等(1000万豪ドル、違反から得た利益の3倍、または年間連結売上の10%)の設定が可能となっています。ただし、当該設定がなされない場合は、最高600ペナルティ・ユニット(およそ13万豪ドル)まで科料が可能とされています。

7.おわりに

 フランチャイズ法には上述の他にも細かな規定が存在するため、フランチャイズ候補または販売代理店候補との交渉の段階から専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。また、フランチャイズ法は近年立て続けに改正がなされており、今後はフランチャイザーの開示登記制度(Franchise Disclosure Register)の制定の法改正[6]が見込まれていることから、フランチャイザーの立場の企業としては今後の動向が注目されます。

以 上

 

[1] Competition and Consumer (Industry Codes – Franchising) Regulation 2014, Schedule 1

[2] Competition and Consumer (Industry Codes–Franchising) Amendment (Fairness in Franchising) Regulations 2021

[3] Treasury Laws Amendment (2021 Measures No 6) Act 2021 (Cth), Schedule 2

[4] https://www.accc.gov.au/system/files/Information%20statement%20for%20prospective%20franchisees_0.pdf

[5]フランチャイズ事業の重要事項をまとめた書面を指す。以下ACCCの提供するSmartFormにて作成可能。

https://forms.business.gov.au/smartforms/servlet/SmartForm.html?formCode=franchisor-key-fact

[6] 新たにフランチャイズの登記制度を確立し、フランチャイザーにDisclosure Documentの内容(ただし個人情報やセンシティブな情報は除く)を登記させて一般に公開するという内容の改正法案が検討されている。政府は2021年10月29日まで、本法案のパブリックコメントを受付けている。https://treasury.gov.au/consultation/c2021-210402

2021年09月15日(水)5:36 PM

オーストラリアにおける電子的方法による署名・オンライン決議の有効性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

電子的方法による署名・オンライン決議の有効性

 

One Asia Lawyers Group

オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの会社による署名および決議は、Corporations Act 2001 (以下「会社法」という)の第127条および第2G章にそれぞれ規定されています。

 コロナ禍となる前は、電子署名やデジタル署名の有効性は明確に規定されておらず、株主総会についても完全にオンラインで実施することは許可されないという解釈がされていましたが、コロナ禍で2020年3月に制定された臨時改正法(Corporations (Coronavirus Economic Response) Determination (No.3) 2020)により、これらが初めて明確に許可されました。

 しかしながら、2021年3月にこの臨時改正法の有効期間が終了し、その後は法令において明確に許可されていない中で、規制当局であるオーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commission)により摘発をしない「No Action」の姿勢をとることが発表される等の配慮があったものの、第三者からの訴訟のリスクおよび決議等の有効性について疑義・懸念が残る状態が続いていました。

 今回、2021年8月14日に新たな臨時改正法(Treasury Laws Amendment (2021 Measures No. 1) Act 2021)が施行されたことで、2022年3月末までは、電子的方法による署名およびオンラインでの会社決議が明確に可能となっています。以下に、その詳細を解説いたします。

2.電子署名

 会社法第127条は、署名方法について、コモンシールを使用する場合と使用しない場合とに分けて規定しています。コモンシールを使用しない場合は、定款に別途規定がない限り、一般的に、①取締役2名、または②取締役1名および秘書役1名が署名することで書面を締結できるとされています。コモンシールを使用する場合は、(定款に別途規定がない限り)上述①または②が証人となることで締結されます。

 今回の臨時改正法により、上述の署名方法において、(1)コモンシールを使用する場合の証人立会をビデオ会議等の電子的方法で実施すること、および(2)コモンシールを使用しない場合に同じ原本ではなく個別の書面に署名し(Split Execution)、または電子的方法により署名することが許可されたことになります。

 なお、いずれの場合も一定の要件を満たす必要があります。具体的には、(1)の場合は書面に電子的方法による証人立会であったことを記述し証人の署名(原本でなくてもよい)をすること、(2)の場合は電子的な署名方法が、個人を特定し当該個人の署名の意思を示すものであり、信頼性があり適切な方法であること等が要件となります。また、いずれの場合も、署名ページのみを切り離して署名・送付することはできず、必ず署名ページが全書面に付随していなければなりません。

 会社法では電子署名やデジタル署名といった署名方法の区別や定義はされていませんが、世界的に使用されているデジタル署名ソフトは暗号化技術等を使用しており、個人の特定や信頼性について証明しやすいと考えられますし、オーストラリアの企業でも一般的に使用されています。この他に政府はPDFに署名を行いメール送付にて交換することも可能であると説明しています[1]

 電子的方法による署名については、この他に電子取引法(Electronic Transactions Act 1999)およびその下位規則(Electronic Transactions Regulations 2000)、州・準州の法令等が適用される可能性があり、電子的方法による署名が許可されない例外規定も存在するため注意が必要です。

3.オンライン決議

 2022年3月末まで、所定の要件を満たすことで、年次総会を含む株主決議および取締役会を完全にオンラインで(または対面とのハイブリッド方式で)行うことが可能です。

 招集通知や決議書面等も電磁的方法で送付が可能ですが、株主は書面をハードコピーでの受領を選択でき、企業はその要請に応じなければなりません。株主への招集通知には電磁的方法にて参加するための十分な情報を記載する等の要件を満たす必要があります。

 また、株主決議は、定款に別途の規定がない限り、挙手ではなく投票で行うことが求められます。更に、オンラインで出席する株主には合理的な質疑の機会(Reasonable Opportunity)を与えなければならず、これを怠った場合は決議の有効性に疑義が生じますので、当日の進め方、および採用するソフトウェアの設定・機能を確認しておくことが推奨されます。

 なお、上記は主な要件ですが、この他にも詳細の規則が存在します。

4.おわりに

 上述の規制は2022年3月末まで有効ですが、その後は新たに改正法の施行が予定されています。その内容は上述と類似することが予想されるものの、会社の定款に規定がない限りオンライン決議を取ることができない等の制限が盛り込まれる可能性があるため、その場合に企業によっては定款の見直しを求められることが想定されます。コロナ禍での行動制限がいつまで続くか予測できない中で、企業としては、次回の法改正前にオンライン特別決議にて定款を見直しておくことも推奨されます。

以 上

 

[1] Explanatory Memorandum, Treasury Laws Amendment (2021 Measures No.1) Bill 2021

2021年09月08日(水)11:12 AM

オーストラリアの消費者保護法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの消費者保護法

 

オーストラリアの消費者保護法

2021年9月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの消費者保護に関する主な法令は、2010年競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010)の別紙2(Schedule 2)として規定されるオーストラリア消費者法(ACL:Australian Consumer Law)です。昨今のVolkswagen[1]およびLorna Jane[2]の違反事例にみられる通り莫大な罰金が科される可能性があり、かつレピュテーションリスクも大きいことから、オーストラリアをターゲットとして商品や役務を提供する企業にとって注意が必要な法令の一つと言えます。

 金融サービスの提供および消費者信用貸付については、オーストラリア証券投資委員会法(ASIC Act:Australian Securities and Investments Commission Act 2001)に規定の消費者保護規定が別途適用されますが、その内容の多くはACLと類似する規定となっています。

 ACLおよびASIC Actの消費者保護規定においては、一般個人のみでなく、事業者も消費者(Consumer)とみなされる場合がありますが、2021年7月1日より、消費者の定義が改正され、オーストラリア消費者法の適用範囲が更に拡大しました。

 また、2021年8月23日には、財務大臣より、不公正な契約条項(Unfair Contract Term)に関する大幅な改正法案が発表され、2021年9月20日まで意見が公募されています(公募ページ:https://treasury.gov.au/consultation/c2021-201582)。

 本ニュースレターでは、これらの法改正および最近の事例を交えて、オーストラリア消費者保護法(ACL)の概要をご紹介いたします。

2.オーストラリア消費者法(ACL)の枠組み

 オーストラリア消費者法(ACL)は、主に、(1)誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)、(2)不当行為(Unconscionable Conduct)、(3)不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)、(4) 消費者保証(Consumer Guarantees)、(5)不公正な取引(Unfair Practices)、特に不当表示(False or Misleading Representations)、(6) 不招請勧誘による消費者契約(Unsolicited Consumer Agreements)、および(7)消費財の安全性(Safety of Consumer Goods)に関する規制に大別され、その多くが、契約で除外・変更ができない法定規則です。

 この中でも、昨今の法改正(または改正法案)で注目されているのが(3) 不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)、および(4)消費者保証(Consumer Guarantees)の規制です。これらは後記3、4にてそれぞれ解説いたします。その他の規制の概要は以下の通りです。

誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)(ACL第18条)

 誤解を招く行為または欺瞞行為を一般的に禁止する規制であり、後記の不当表示(False or Misleading Representations)と併せて執行される場合が多くなっています。

不当行為(Unconscionable Conduct)(ACL第20条)

 不当な行為(Unconscionable Conduct)を一般的に禁止する規制であり、不当行為の定義はされておらず、判例に基づく意味を持つとされます。一般的には、交渉力の違いや、消費者の理解能力、契約内容の合理性など様々な事情を考慮し、取引交渉の域を超え良心(Good Conscience)に反するような過酷な行為がされた場合にこれに反すると広義に解釈されるが、最近の判例では、これに加えて、消費者や小規模事業者の脆弱性を悪用したことを証明する必要はないことが明確にされており[3]、不当行為とみなされる行為の範囲について更に広義に解釈される傾向にあります。

 最近の不当行為に関す課徴金事例では、オーストラリアの最大手電気通信企業Telstraが、100人を超える先住民族系の消費者に対し、契約の理解力および経済力が十分でないにも関わらず携帯契約を売りつけたとして、2021年5月13日に5000万豪ドルの罰金が科せられています[4]

不公正な取引(Unfair Practices)(ACL第29条~)

 不当表示(False or Misleading Representations)、不招請勧誘による供給(Unsolicited Supplies)、ピラミッドスキーム、紹介販売(Referral Selling)等が規制されます。

 不当表示(False or Misleading Representations)とは、商品または役務の提供および販促に関し、一定の事項について虚偽または誤解を招く表示または行為をすることを指します。例えば、以下の事項が挙げられます。

・商品/役務の基準、品質、等級等
・推薦(Testimonial)
・価格
・修理・予備部品の入手可能性
・原産地
・特定の事業活動の収益性、リスク等

 更に、法定の保証・救済等の存在や効果について誤解を招くような記述し、または消費者の法定の権利の行使に対し支払いを求めることも明確に禁止されています。

 この他に、リベート・景品等に関する表示、おとり広告、価格の表示方法等は別途規定が存在します。また、土地の購入についても一定の表示規制が存在します。

 商品の原産地(Country of Origin)については、「Grown In/Product of/Made in 〇〇」といった表記を使用するに、それぞれ一定の基準を満たしていることが求められます。主に、生産や加工の過程の程度によって判断されます。

 なお、冒頭で言及したVolkswagenおよびLorna Janeの違反事例は、いずれも主に不当表示(False or Misleading Representation)に関連する事件ですが、2021年4月にACCCが勝訴し現在罰則に関する審問手続きが行われているGoogleの事件[5]でも不当表示が問題となっており、最近の動向として、不当表示について執行が強化されていると推察されます。

不招請勧誘による消費者契約(Unsolicited Consumer Agreements)(ACL第69条~)

 消費者が招請しないにもかかわらず、事業者の敷地外または電話にて合計価格が100豪ドル以上の商品や役務の勧誘・交渉をする行為が規制される。交渉の時間帯や交渉開始時の消費者への通知事項、契約書の作成義務、クーリングオフ等、詳細の規定が存在する。電話での勧誘については、これに加えて、電話勧誘拒否登録法(Do No Call Register Act 2006)の規制を遵守する必要があります。

 その他の特定の消費者取引として、豪州特有の分割払い契約(Lay-by Agreement)、ギフトカード、インボイス発行等に関する規制が存在します。

消費財の安全性(Safety of Consumer Goods)

 消費財(Consumer Goods)および、その設置・配送等のサービスについては、所定の安全に関する基準および通達に準拠することが求められる。例えば、安全基準(Safety Standards[6])、情報提供の基準(Information Standards)、製造販売禁止令(Permanent/Interim Ban[7])、安全警告通達(Safety Warning Notice)等が政府から発行されている。その他、欠陥に関する保証をする場合は、保証書に一定の事項を記載しなければならない等の義務が課されます。

 安全性に問題がある場合のリコールにつても規制されており、別途当局ACCCよりガイドラインも発行されています。また、製品の安全性が原因で事故が発生した場合は、事故を認識してから2日以内に政府へ所定事項を報告する義務を負います。

3.不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)(ACL第23条~)

 一般消費者または小規模事業者との売買契約において、標準型契約(Standard Form Contract)とみなされる契約に、不公正(Unfair)な条項が含まれる場合、無効とみなされる可能性があります。

 標準型契約(Standard Form Contract)とは、いわゆる標準約款だけでなく、通常の契約であっても、交渉力の違いや、相手方が文言の変更を要請できるか否か等の様々な事情を考慮して、これに該当すると判断される可能性があります。

条項が不公正(Unfair)か否かは、契約内容全体を鑑みて、当事者間に重大な不均衡をもたらすか否か、適正な利益の保護に合理的に必要な条項か否か等の判断が求められます。

 特筆すべきは、一般個人との売買契約に限らず、小規模事業者との契約においても、当該規制が適用される点です。現在のところ、従業員数が20人未満の場合が小規模事業者に該当します。なお、小規模事業者との契約であっても、対価が30万豪ドル(ただし契約期間が12か月を超える場合は100万豪ドル)を超える場合は、Unfair Contract Termの規制は適用しません。

 本規制の違反には、現状、罰金等は科されないのですが、2021年8月23日に改正法案が発表されており、これが可決されれば、他の規制の最高罰則と同等の罰則が科せられるようになりますし、その他の救済措置(差止命令、契約内容の変更の命令等)の対象にもなります。

更に、上述の小規模事業者の規模上限も従業員数100人または年間売上高1000万豪ドルに拡大され、対価の上限が廃止されることが予測されます。

 この他にも細かな規定の改正があり、全体的にUnfair Contract Termに関して規制が強化されることになります。現行の契約にも適用が認められることが予想されるため、企業としては、改正法施行前の段階から、現在使用している契約フォーマットの見直し等の対応を取ることが推奨されます。

4.消費者保証(Consumer Guarantees)(ACL第51条~)

 消費者(Consumer)へ提供する商品または役務については、法定の保証が組み込まれており、これを契約等で除外または変更することは、一部の例外を除き禁止されています。この法定の保証は、消費者保証(Consumer Guarantees)と呼称されます。

 ここで問題となるのは「消費者(Consumer)」の定義ですが、一般的に、①対価が10万豪ドル以下の場合、または②個人もしくは家庭用途の目的で通常取得される商品または役務である場合に、買主は消費者(Consumer)として取得したとみなされるため、一般個人に限らず、企業や事業主がこれらに該当する商品または役務を購入した場合も、売主は、買主である企業または事業主に対し消費者保証(Consumer Guarantees)の義務を負うことになります。なお、冒頭に言及した通り、2021年7月1日施行の法改正[8]により、①の対価の上限が4万豪ドルから10万豪ドルに引き上げられ、消費者保証の適用範囲が拡大されました。

 消費者保証(Consumer Guarantees)の代表的な例として、以下が挙げられます。

・商品を第三者に害されることなく保有できること
・商品が許容できる品質(Acceptable Quality)であること
・事前に通知された目的に適合すること
・商品の説明やサンプルと一致すること
・修理・予備部品の入手が可能であること

 この中でも、特に許容できる品質(Acceptable Quality)については、①通常想定される目的への適合性、②外見・仕上がり、③欠陥がないこと、④安全性、および⑤耐久性について、全てをクリアすると合理的に判断できる場合がこれに該当します。

5.罰則

 刑事罰・民事制裁ともに、最高で①1000万豪ドル、②直接的もしくは間接的に違反行為から得た連結利益の3倍、または③連結年間売上の10%のうち、最も大きい額の罰金が企業に科されます。個人には最高50万豪ドルの罰金が科されます。刑事罰は、行為者の故意や過失という心理的要素のない場合にも犯罪が成立し得るStrict Liability (厳格責任)です。

6.おわりに

 オーストラリアの消費者保護法はその対象となる行為が広範囲にわたり、詳細な規制が存在するため、例えば他国で使用している表示や契約、販売方法を用いることで、意図せずとも違反となる可能性が考えられます。当局による執行活動の活発さ、および法改正による規制の厳格化の傾向を鑑みると、オーストラリア向けに商品や役務を提供する企業にとっては、特に注意が必要な分野と言えます。

以 上

 

[1] Volkswagenの自動車に搭載されていたソフトウェアに、窒素酸化物(NOx)排出量の異なる2つの設定があったにも関わらず、オーストラリアの排出基準を満たす排出量の少ない方の設定のみを公表していたことが問題となった事件。2019年12月20日の判決では、ACCCが当初Volkswagenと合意していた7500万豪ドルから更に上乗せした、ACL史上最高額となる1億2500万豪ドルの民事制裁が科せられた。2021年4月9日には、Volkswagenによるこの民事制裁額に対する不服申し立てを棄却する判決が下されている。

(Australian Competition and Consumer Commission v Volkswagen Aktiengesellschaft [2019] FCA 2166、

Volkswagen Aktiengesellschaft v Australian Competition and Consumer Commission [2021] FCAFC 49)

[2] スポーツアパレルメーカーLorna Janeが、2020年7月2日から23日の間に、一部の商品についてCOVID-19を含むウイルスを滅失し着用者を保護する等という虚偽の効果を謳っていたことが問題となった事件。2021年7月23日の判決で、500万豪ドルの民事制裁が科せられた。(Australian Competition and Consumer Commission v Lorna Jane Pty Ltd [2021] FCA 852)

[3] ACCC v Quantum Housing Group Pty Ltd [2021] FCAFC 40

[4] Australian Competition and Consumer Commission v Telstra Corporation Limited [2021] FCA 502

[5] Google LLCおよびGoogle Australia Pty Ltdが、Androidのデバイス上で個人情報である位置情報の収集等に関する設定について、他にもデフォルトでこれを有効とする設定(Web & App Activity)が存在したにも関わらず、Location Historyの設定のみをオフにすることで無効にできると消費者の誤解を招き、これにより消費者の位置情報を収集し続けていたことが問題となった事件。

(Australian Competition and Consumer Commission v Google LLC (No 2) [2021] FCA 367)

[6] https://www.productsafety.gov.au/product-safety-laws/safety-standards-bans/mandatory-standards

[7] https://www.productsafety.gov.au/product-safety-laws/safety-standards-bans/product-bans

[8] Treasury Laws Amendment (Acquisition as Consumer – Financial Thresholds) Regulations 2020

2021年08月13日(金)12:10 PM

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)

 

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)

2021年8月

One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

 

1.適用法令および適用対象

 ニュージーランドにおける公益通報者保護に関する法令は、Protected Disclosures Act 2000(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、事業体の重大な不正行為(Serious Wrongdoing)の開示および調査を促し、重大な不正行為の通報をした従業員を保護する目的(従業員以外の者は保護の対象としていない)をもちます。そのため、前回のニュースレター(https://oneasia.legal/7138)でご紹介したオーストラリアの公益通報者保護制度と比較して、非常に適用される範囲は限定的であると言えます。

 本法令において適用対象となる通報とは、事業体の従業員による事業体内部の重大な不正行為についての情報の開示に限定されており、従業員が当該情報の真実性を信じるに合理的な根拠がある場合を指します[1]。真実性を信じる合理的な根拠が存する場合であれば、当該情報が間違っていたとしても本法令の保護の対象となります。

 重大な不正行為とは、以下を含むと定義されています[2]

 ・政府機関の資金や資源の不正使用、汚職
 ・公共の健康、安全、環境に対する深刻なリスクをもたらす行為または不作為
 ・犯罪の捜査・摘発、公正な裁判を受ける権利などの法の維持に対して深刻なリスクをもたらす行為または不作為
 ・犯罪となる行為または不作為
 ・抑圧的、差別的、もしくは重大な過失となるような公務員の行為または不作為

 本法令の適用対象となるには、従業員は、通報に際して、事業体の通報に関する社内手順を遵守しなければならないと規定されていますが[3]、通報の方法が多少のテクニカルな部分で社内規定を遵守していなかったとしても、本法令の保護を受けます[4]。例えば、事業体の社内規定において指定されている窓口とは異なる者へ所定のフォーマットを提出してしまった場合でも、本法令の適用を受ける通報とみなされます。

 社内手順がない場合、または、社内手順にて通報先に指定された役職の者が通報の対象となる不正行為に関与している可能性があり、またはその者が不正行為に関与する者との関係性から通報を受け付けるに適切でない場合には、事業体のトップへの通報が許可されます。事業体のトップが関与している案件の場合、または緊急の対応を要する場合などの特別な事情が存在する場合は、適切な政府機関への通報が可能です。また、事業体へ通報したにも拘らず20営業日以内に対応が執られなかった場合も、政府機関への通報が許可されます。以上のいずれの通報も、本法令の保護の対象となります。

2.通報者の保護

 本法令にて保護される通報を行った従業員が、雇用主(元雇用主を含む)から報復措置を受けた場合には、不当解雇、または雇用条件に不利な影響を及ぼす雇用主の不当行為として、雇用法(Employment Relations Act 2000)に基づき申立てをすることが可能です[5]

 通報者は、法令、契約、その他の取決めまたは慣習などによって開示が禁止されている情報を通報したとしても、通報行為について民事・刑事処分または懲戒処分などの対象とはなりません[6]

 通報者の身元が特定される可能性のある情報の取扱い(守秘義務)については、通報を受けた者の努力義務(must use his or her best endeavours)であり、調査を行う上で合理的に必要な場合には通報者の身元情報の開示が許可されます[7]

3.今後の法改正

 以上の通り、ニュージーランドの公益通報者保護法はその適用範囲は限定されており、他国と比較しても整備されていない状況であると言えます。基本的には従業員のみが保護の対象となり、従業員以外は保護の対象とされておらず、報復措置があったと主張を受けた場合は、雇用法の範囲内で対応されます。罰則がないのも特徴的で、執行能力に欠けると考えられます。

 一方で、昨年から、改正法が国会で議論されており、その内容には、「重大な不正行為」の定義、通報方法、規制対象となる通報の受領者の定義、通報者が受ける不利な扱いの形態など、様々な事項の明確化を含みます。

 オーストラリアの現行法などと比較すると抜本的な改正/厳格化とまでは言えませんが、実務上の適用に不透明な部分が多い本法令に対し、ガイドラインとしての役割が期待される改正法案の今後の行方が注目されます。

以 上

 

[1] Protected Disclosures Act 2000第6条

[2] Protected Disclosures Act 2000第3条

[3] 民間事業体の場合は、当該社内規定の策定は義務付けられていない(Protected Disclosures Act 2000第11条)。

[4] Protected Disclosures Act 2000第6A条

[5] Protected Disclosures Act 2000第17条

[6] Protected Disclosures Act 2000第18条

[7] Protected Disclosures Act 2000第19条

2021年08月13日(金)12:02 PM

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)後編

 

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)後編

2021年8月

One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 9.4AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、2019年に大幅な改正[1]が行われ、民間企業の不正行為の通報を促すためのより強固な保護体制が導入されました。

 前回のニュースレター(https://oneasia.legal/7138)では、本法令の適用対象となる通報と何かを、主要なコンセプトの解説を含めご紹介いたしましたが、本ニュースレターでは後編として、本法令の適用対象となる通報があった場合に、企業に対してどのような義務が課せられるのかを解説いたします。

1.通報者の身元の守秘義務

 2019年の改正前は、保護の対象となる通報を行った者(以下、「通報者」)に対し氏名の開示を義務付けていましたが、新法においてはこの義務を除外し、身元を伏せての通報を許可しています[2]。裁判においても、原則として、通報者の身元情報や身元の特定につながる可能性のある情報を開示することは求められません[3]

 また、通報によって直接にまたは間接的に通報者の身元が分かった場合には、通報者の同意がない限り、その身元、および身元特定につながる可能性のある資料を開示することは原則として禁止されます[4]。当該機密保持義は、オーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities Investments Commission)、オーストラリア健全性規制庁(APRA:Australian Prudential Regulation Authority)、オーストラリア連邦警察(AFP:Australian Federal Police)、弁護士、その他本法入れの下位規則にて許可される者への開示には適用されません[5]

 以上から、通報を受ける企業側は、通報者の身元が分からない場合であっても、本法令にて保護されるべき通報である可能があるため留意が必要です。また、通報者の身元情報の他に、間接的に身元が判明する可能性のある情報や資料についても、機密情報として漏洩リスクの管理が求められます。

2.禁止行為

 通報者保護の対象となる場合、通報者は、通報を行ったことを根拠とする①民事・刑事・行政上の責任追及、および②契約またはその他の権利行使から保護されます[6]。従って、例えば、通報が雇用契約違反であることを理由として雇用を解除し、または機密保持義務違反等を理由として賠償請求を行うなどの行為は禁止されます。

 更に、通報者保護規制の対象となる通報を行ったこと、または通報が可能であるということを理由に、その者または他者へ不利益を与える行為を行うこと、または不利益を与えると脅すことも禁止されています[7]。「不利益」とは、従業員の解雇、労働中の怪我、降格などの職務の変更、差別、ハラスメント、精神的苦痛、その他様々な損害を与えることと広義に定義されています[8]

 もっとも、通報を根拠としない理由により雇用解除等の処分をすることは可能ではありますが、通報が理由であると反論を受けないようにするため、当該処分の理由や経緯、調査記録を詳細の記録として残しておき、更に、当該処分の判断をするマネジメント層の人物が通報について知識を有していない者であること(チャイニーズウォールの設置など)を証明できるようにしておくことが推奨されます。

3.個人の雇用に関する苦情の例外規定

 個人の雇用関係に関する苦情については明確な例外規定が存在します。具体的には、個人の現在または過去の雇用に関する当該個人に帰結する事項についての苦情であり、上述の通報を理由とする「不利益」に関する禁止行為に関連しない場合は、本法令の保護の対象となる通報とはみなされません[9]。従って、上述の守秘義務および禁止行為の対象とはならず、企業側は個人に対して雇用法、雇用契約、社内規則等に基づいた処分をすることが可能です。例外規定が適用される具体的な行為の例としては、以下が挙げられます。

・対象個人と他の従業員との間の対人関係
・対象個人の雇用、異動または昇格に関する決定
・対象個人の雇用条件に関する決定
・対象個人の停職、解雇その他懲戒処分の決定

 ただし、通報内容が、規制対象事業者に対し当該個人に関連しない重大な影響がある場合や、本法令または金融関連の法令違反、12か月以上の禁固刑に処される違法行為、その他公共制度または金融制度に対するリスクとみなされる行為に関係する場合は、例外規定は適用されず、本法令の保護の対象となるため留意が必要です。

 4.公への開示

 最初の通報から90日が経っても是正がなされない場合に、通報者は、規制対象事業体に対し通知を行ったうえで、連邦議会、州・準州議会または記者への開示が許可されます。もっとも、当該開示をする場合に、通報者は、通報対象の事項を是正する行動がとられたと信じるに合理的な根拠がないこと、および当該開示が公衆の利益(Public Interest)となることを信じるに合理的な根拠をもっていることが要件となります[10]

 当該開示についても、本法令の保護の対象となる通報とみなされ、規制対象事業体は上記1、2にて記述した対応を取る必要があります。また、通報内容が公となった場合に企業のレピュテーションへ大きな影響が出ることが考えられます。従って、本法令に明確に規定される義務ではありませんが、通報を受けた企業は、速やかに通報の対象となった不正行為の調査をして当該行為が本法令の保護の対象となるかを判断し、必要な場合に是正を図ることが重要であり、そのために日ごろから、企業内で通報を受けた場合に速やかな対応が取れる仕組みを設けておくことが推奨されます。

 5.罰則および補償義務

 上記1の守秘義務違反があった場合、および上記2にて解説した「不利益」を与える行為(またはその脅し)があった場合に、民事制裁の対象となり、企業に対しては最高で①11,100,000豪ドル、②本法令の違反により得た利益の3倍、または③事業体の年間売上の10%のいずれか高い方の罰金が科せられる可能性があります。また、個人に対しても罰則が科される可能性があり、その場合、①1,110,000豪ドル、または②違反により得た利益の3倍のいずれか高い方の罰金が科される可能性があります。また、いずれも刑罰の対象となり、別途刑法上の罰金および禁固刑が科される可能性があります。この他に、裁判所により、不利益を被った者への謝罪、補償、懲罰的損害の賠償、不利益が解雇や降格であった場合は従業員の復職などが命じられる可能性があります[11]

 従業員が守秘義務違反または「不利益」に関する禁止行為をしていた場合に、雇用者である企業も連帯して責任を負う可能性がありますが、裁判所が命令を下す際に、企業が注意義務を怠ったか、社内ポリシーの存在、その他不利益を与える行為を予防するに合理的な手段を講じたかなどが判断材料となるため、企業としては、公益通報に関するポリシーの制定および社内教育をするなどして、日ごろから注意義務を遵守し予防対策を取っていたことを証明できるようにしておくことが重要です。

6.公益通報者ポリシーの策定

 新法においては、事業者が公開会社または大規模非公開会社(連結収益が50m豪ドル以上、資産額が25m豪ドル以上、または従業員が100名以上であることのいずれか2点を満たす非公開会社[12])である場合、公益通報者ポリシーを策定することが義務付けられています

 そして、ポリシーには、通報者に与えられる保護に関する情報、通報の窓口や通報方法、企業の調査方法、通報対象行為に関連する従業員の公平な取扱いを確保するために企業が取る対策など、一定の内容が記載されなければなりません[13]。ポリシーの策定を怠った場合も、厳格責任の刑事違反行為であり、刑事罰が科されれる可能性があるため注意が必要です。

 なお公開会社または大規模非公開会社会社に該当しない事業者であっても、上述の通り通報を受けた場合の対応について社内教育を行う意義はありますので、社内ポリシーを策定し周知しておくことが重要となります。

 

以 上

 

[1] Treasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019

< https://www.legislation.gov.au/Details/C2019A00010>

[2] Corporations Act 2001 第1317AA条Note

[3] Corporations Act 2001 第1317AG条

[4] Corporations Act 2001 第1317AAE条(1)。ただし、通報者の身元でない情報は、通報対象行為の調査に合理的に必要な場合に、開示者の身元特定リスクを低減することで開示が許可される(Corporations Act 2001 第1317AAE条(4))。

[5] Corporations Act 2001 第1317AAE条(2)

[6] Corporations Act 2001 第1317AB条

[7] Corporations Act 2001 第1317AC条、

[8] Corporations Act 2001第1317ADA条

[9] Corporations Act 2001第1317AADA条

[10] Corporations Act 2001第1317AAD条

[11] Corporations Act 2001第1317AD条、第1317AE条

[12] 2019年7月1日以降適用の基準値

[13] Corporations Act 2001第1317AI条(5)

2021年08月13日(金)11:57 AM

オーストラリアのFinTech規制の枠組みについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアのFinTech規制の枠組み

 

オーストラリアのFinTech規制の枠組み

2021年8月

One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの金融取引に関する法令は、現在のところFinTechに特化したものは存しませんが、各種技術の機能および取引される資産に付随する権利の種類によっては既存の規制の対象となり得ます。例えば、株式、不動産などに紐づくトークンの取引(STO)は金融商品の取引とみなされ、ライセンス規制の対象となる可能性が高いのが現状です。

 オーストラリアでのFinTech運用には主に、①金融サービス、②消費者への信用貸付、③消費者保護、④個人情報保護、および⑤AML/CTFの分野での規制に注意する必要があります。本ニュースレターでは、オーストラリアにおけるFinTech規制の枠組みを、規制免除制度を含めご紹介いたします。

2.規制当局および関連法令

 オーストラリアにおける金融分野の規制当局は、主にオーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commission)とオーストラリア健全性規制庁(APRA:Australian Prudential Regulation Authority)ですが、その他にも、e-Walletなどの保存型決済(PPF:Purchased Payment Facility)を含む決済システムはオーストラリア準備銀行(RBA:Reserve Bank of Australia)が、KYCなどのマネロン関連規制(AML/CTF:Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing)はオーストラリア金融取引報告・分析センター(AUSTRAC:Australian Transaction Reports and Analysis Centre)がそれぞれ管轄しています。そのため、許認可や登録は各方面から複数の取得が必要となる場合が多いのが特徴です。

 この他にも、消費者向けサービスを提供する場合は消費者保護法、そうでなくとも消費者の個人情報を(一時的にでも)取り扱う場合は個人情報保護法の適用を受ける可能性があります。

 以下に、規制当局別に適用法をまとめます。

ASIC×金融サービス・信用貸付法

 オーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commission)は、主に会社法(Corporations Act 2001)に基づく金融サービス、および消費者信用保護法(National Consumer Credit Protection Act 2009)およびその下位規則に基づく消費者への信用貸付を規制しています。後記3にて記述するAFSLライセンス、ACLライセンス等を管轄します。

 これらのライセンスに関する義務は多岐に渡るため、ASICは様々なガイドラインを発行しています。例えば、一定の基準を満たす有価証券の販売には投資家への情報開示義務[1]が課されますが、ASICからそのガイドライン[2]が発行されています。ASICはこの他にも、ライセンス保有者が遵守すべき一般行動規範などのガイドラインを発行しています[3]

APRAx銀行法

 オーストラリア健全性規制庁(APRA:Australian Prudential Regulation Authority)は、銀行、信用組合、住宅金融組合、保険会社、および年金基金を監督する機関です。主な管轄法令は銀行法(Banking Act 1959)、各種金融分野法(Financial Sector (Shareholdings) Act 1998など)、保険法(Insurance Act 1973、Life Insurance Act 1995, Private Health Insurance Actなど)、年金基金業界法(Superannuation industry (Supervision) Act 1993)およびその下位規則です。後記3にて記述するADIライセンスを管轄します。

RBAx決済システム法

 オーストラリア準備銀行(RBA:Reserve Bank of Australia)は、いわゆる中央銀行であり、国内の決済システムの効率化とリスクマネジメントを図る役割を担います。Non-Cash決済については、決済システム規制法(Payment Systems (Regulation) Act 1998)に基づき、公共の利益とみなされる場合に特定の決済システム(例えば、「クレジットカード決済システム」など)を指定し、当該決済システムの参入事業者に対し行動規制を課す権限をもちます[4]

AUSTRACxAML/CTF法

 オーストラリア金融取引報告・分析センター(AUSTRAC:Australian Transaction Reports and Analysis Centre)は、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CTF)の規制を管轄しています。

 オーストラリアのAML/CTF関連規制は、Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006、およびAnti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Rules Instrument 2007 (No.1)に規定されています。銀行、貸付業者、ファクタリング事業者、カード発行会社などの金融事業者、金地金取扱い業者、賭博事業者、仮想通貨取引所など幅広く規制対象となり[5]、規制対象の事業者は、KYC手続きの実施[6]、取引に関する各種報告・記録保持[7]、およびAML/CTFポリシーの策定[8]が義務付けられます。また、仮想通貨取引所および一定の送金サービスはAUSTRACへの登録が義務付けられています[9]。急速なデジタル化に伴い今後も規制強化が見込まれます。

OAICxプライバシー法

 オーストラリア情報委員会(OAIC:Office of the Australian Information Commissioner)はオーストラリアの個人情報保護法であるプライバシー法(Privacy Act 1988)に基づき、個人情報の取扱いに関する調査、政府機関への報告、苦情対応、事業者向けガイドラインの発行などを行う機関です。  

 プライバシー法は、国内外の事業者に拘わらず、オーストラリアにて事業を営むとみなされる事業者に適用され、適用を受ける場合は13のプライバシー原則(Australian Privacy Principles)[10]に則った個人情報の取扱いが求められます。プライバシー法はGDPRに類似する部分が多々あり、例えば、深刻な被害をもたらす個人情報の漏洩については当局への報告義務があります。プライバシー法における義務の概要は、こちらのニュースレター(https://oneasia.legal/6341)をご参照ください。

 一般的に、売上が300万豪ドルを超えない事業者はプライバシー法の適用免除を受けますが、個人情報を売買する事業体、興信所、AML/CTFの報告が義務付けられている事業体、プライバシー法の適用を受ける事業体の関連会社などは、その売上規模に拘わらず適用対象となります。また、信用情報を取り扱う事業者においては、異なる基準の義務が課されます[11]

ACCCx消費者保護法・データポータビリティ

 オーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)は、事業体による独禁法および消費者保護法の遵守を監督する機関です。主な管轄法令は競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010)です。

 ACCCは、Open Banking[12]の一環として大手金融機関にて昨年から導入が始まったデータポータビリティ制度(CDR:Consumer Data Right)も仕切っています。FinTech事業者においては、現在コスト面でのハードルはあるものの、認定データ受領者(Accredited Data Recipient)となることで、CDRが導入されている銀行の保有する消費者データを受領し活用することが可能となるため、CDR制度利用検討の余地があると言えます。

 消費者保護法(Australian Consumer Law)の適用範囲は広く、個人だけではなく、事業者であっても消費者とみなされる可能性があります。具体的には、1万豪ドル未満の商品またはサービス、または一般的に家庭内または個人での使用のために購入される類の商品またはサービスの購入等については、顧客が事業者であっても(転売や加工など事業に使用される在庫として購入された場合を除き)「消費者」とみなされ、消費者保護法の対象となります[13]。FinTechの場合は、一般的に、Australian Consumer Lawではなく、金融商品・サービスの提供に関し別途ASICが管轄する消費者保護規制[14]の対象となる可能性が高いですが、その内容はAustralian Consumer Lawと類似します。主に、誤解を招く欺瞞的な行為(Misleading and Deceptive Conduct)、虚偽又は誤解を招くような表示(False or Misleading Representations)、不当な行為(Unconscionable Conduct)、および不公正な契約条件(Unfair Contract Terms)が禁止されます。

 なお、消費者保護法の概要は、次回のニュースレターでご紹介します。

3.ライセンス

 FinTechに関連する主要なライセンスとしては、①金融サービスを行うライセンス(AFSL)、②消費者信用貸付および関連サービスを行うライセンス(ACL)、③預金取扱い事業(ADI)としてのライセンスが挙げられます。ただし、この他にも許認可(例えば、金融市場ライセンスなど)が存在しますし、前記2にてご紹介した通り、許認可の取得を伴わない規制の適用にも留意が必要です。

①AFSLライセンス

 金融サービス(Financial Service)を提供する事業者は、オーストラリア金融サービスライセンス(AFSL:Australian Financial Services Licence)を保有していなければなりません[15]。金融サービスとは幅広く定義されており、金融商品の発行・引受といった取引きだけでなく、金融商品に関する助言、金融商品の市場の創出、ASICへの登録義務の対象となる集団投資スキーム(MIS:Managed Investment Scheme)[16]、保管・預託サービス、クラウドファンディング運営、年金基金運用など様々な行為を含みます。

 なお、海外の業者であっても、オーストラリアにおいて金融サービスを提供している(または勧誘する)とみなされる行為を行うと、免除規定が適用されない限り、AFSLの取得が必要となります。外国事業者によるAFSLの取得については(特に外国にて既に同様の許認可を取得していることを理由にAFLSの取得が免除されていた事業者に関し)、昨年から免除規定の変更がされています[17]

(1)Non-Cash決済サービス:

 基本的にAFSLライセンスの取得が求められますが、付随的なサービスである場合や、ポイントプログラム(Loyalty Scheme)、ギフトカード、少額決済(1個人につき1,000豪ドル以下、かつ合計で1,000万豪ドル未満の場合)などはライセンス取得が免除されます[18]

(2)FX、送金サービス:

 外国為替取引については、為替予約が直ちに決済される場合を除き、AFSLライセンスの対象となります。送金サービスについては、銀行などのADIライセンス保有者が2日間(または取引完了に必要最低限の期間)で電子決済を完了し、顧客と電子決済での自動振替の取決めがされていない場合を除き[19]、AFSLライセンスの対象となります。

(3)マーケットプレイス貸付(P2Pレンディング):

 オンラインプラットフォーム上で、個人または事業者投資家からの投資資金を基に、他の個人または事業者へ貸付を行うサービスを運営する場合は、集団投資スキーム(MIS)とみなされAFLSライセンスの取得、および消費者向け貸付の場合は以下に記述するACLライセンスを取得しなければなりません[20]。さらに、マーケットプレイスの運営方法によっては金融市場ライセンス(Financial Market Licence)の取得も必要です[21]。ASIC発行の勧誘・販促に関するガイドライン[22]も遵守する必要があります。

 (4)クラウドファンディング:

 個人投資家からのクラウドファンディングは会社法(Corporations Act 2001)にて、一定の制限の基に許可されています。まず、資金調達をする事業者は非公開会社でその資産および年間売上がいずれも2500万豪ドル未満でなければなりません[23]。クラウドファンディングにて調達できるのは12か月間に500万豪ドルが限度となります[24]。また、会社法第6D章に基づき、投資家に対し一定の開示義務があります。オーストラリアにおいて(またはオーストラリアの顧客向けに)クラウドファンディングを運営する場合はAFLSライセンス(および必要に応じて金融市場ライセンス)の取得が必要ですので、資金調達を目指す事業者はライセンスを保有するプラットフォームを介して実施することになります。

②ACLライセンス

 主に、①信用貸付契約に基づく貸付、②信用貸付に関する仲介サービス、③消費者とのリース契約、または④信用貸付契約に関する担保権から利益を得る行為を行う場合には、National Consumer Credit Protection Act 2009およびNational Consumer Credit Protection Regulation 2010に基づき、信用貸付ライセンス(ACL:Australian Credit Licence)を取得しなければなりません[25]。あくまで消費者保護を目的とするため、事業者向けの貸付には適用されません。

 National Consumer Credit Protection Act 2009の別紙1に規定のNational Credit Codeは、利息に関する制限、契約前の消費者への開示事項、定期的なステートメントの提供などの義務を規定する法的拘束力のある行動指針で、信用貸付を業とする事業者が、個人またはStrata Corporation(物件の分離所有における管理会社)に対し、個人的な使用の目的で、または住宅用不動産への投資目的で信用貸付けを行う場合に遵守が求められます[26]。なお、少額・短期間(62日以内)の契約、保険料の割賦払いなど一定の適用除外規定があります[27]。この他に、ASICからは責任ある信用貸付行為についてガイドライン[28]が発行されています。

 なお、ACLライセンスを取得する場合は、オーストラリア金融苦情機関(AFCA:Australian Financial Complaints Authority)に加盟することが条件の一つであり、それを怠った場合はライセンスがはく奪される可能性があります[29]

③ADIライセンス

 Payment Systems(Regulation)Act 1998において保存型決済(PPF)とみなされるサービスを提供する場合は、Banking Act 1959に基づき銀行事業(Banking Business)を行っているとみなされる可能性があり、その場合にAPRAから預金取扱機関(ADI:Authorised Deposit-taking Institutions)としてのライセンスを取得する必要があります[30]。また、ADIライセンスを受けていない場合は、原則としてPPFサービスを提供することは禁止されます[31]

 ただし、RBAの発行する免除規定に該当すれば、ADIの取得は不要です[32]。現時点で、支払い義務の総額が1,000万豪ドルを超えない場合、またはPPFの利用者が50人を超えない場合は、Payment Systems(Regulation)Act 1998の規制対象外とされています[33]

なおPPFとは、①ユーザーにより購入され、②特定の条件の下で一定額を上限とした支払い手段として使用可能であり、かつ③決済がユーザーではなく当該決済手段の提供者(またはそのサービスプロバイダー)により行われる場合を決済手段のことを指します[34]。一般的に、e-Walletなどはこれに該当すると言えます。

4.規制免除(サンドボックス、新規参入ADIライセンス)

新規参入事業者のためのADIライセンス

 APRAは、2018年から制限付きのADIライセンスを導入しています。制限付きのADIライセンスは、資本金および資本流動性が一定以上保たれているなどの条件付き(一般的に資本金400万豪ドル以上)で、通常のライセンスよりも多少緩やかな条件の下に銀行事業を行う事が許可されます。制限付きADIライセンス保有者は、合計200万豪ドル(1個人合計25万豪ドル)までの預託を受けることができます。ライセンス期間は2年間で、2年経過後は通常のADIライセンスを取得する必要があります[35]。2019年1月にはオーストラリア初のneobank(完全なデジタル型銀行)が登場し、通常のADIライセンスが付与されています。

サンドボックス

 オーストラリアでは、2016年より、新技術・商品の提供を検討するFinTechに対しAFSLライセンスおよびACLライセンスの取得が免除されるサンドボックス制度が導入されていましたが、2020年に強化版サンドボックス(ERS:Enhanced Regulatory Sandbox)が導入され、より広範な金融サービスおよび信用貸付活動が対象となり、最高2年間の規制免除を受けられるようになっています。このサンドボックスを利用するには、公共の利益であることおよび革新的な技術であることを証明する必要があり、取引上限が合計500万豪ドル(一個人につき合計1万豪ドル)であることなどの条件が課されます。その他に、PI保険への加入、AFCAへの加盟、情報開示義務等の行動指針などを遵守しなければなりません[36]

5.おわりに

 以上FinTechに焦点を当て、規制枠組みを簡易化してご紹介しましたが、オーストラリアの金融取引に関する規制は複雑であり、この他にも詳細な規則が存在し、また各規制当局の発行する様々なガイドラインに則った対応が求められます。このため、国内・国外からの提供を問わず、オーストラリアの顧客をターゲットとして金融関連の商品・サービスを提供する場合には、ケースバイケースでの慎重な判断が求められます。

以 上

 

[1] Corporations Act 2001 Chapter 6D

[2] https://asic.gov.au/media/uyrlkchj/rg254-published-27-august-2020-20210426.pdf

[3] https://asic.gov.au/media/e4lj2eez/rg104-published-20-july-2021.pdfなど

[4] Division 3 of Part 3, Payment Systems (Regulation) Act 1998

[5] Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 第6条designated service定義

[6] Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 第32条

[7] Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 第41条(1)、第43条、第46条

[8] Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 第81条

[9] Part 6、Part 6A Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006

[10] Privacy Act 1988, Schedule 1

[11] Privacy Act 1988, Part IIIA

[12] https://www.ausbanking.org.au/priorities/open-banking/

[13] Australian Consumer Law第3条

[14] Part 2, Australian Securities and Investments Commission Act 2001

[15] Corporations Act 2001第911A条

[16] 出資者が20名を超える場合、販促を業とする者によって販促される場合などは、投資スキームをASICへ登録しなければならない(Corporations Act 2001第601ED条)。

[17] https://asic.gov.au/for-finance-professionals/afs-licensees/applying-for-and-managing-an-afs-licence/licensing-certain-service-providers/foreign-financial-services-providers-practical-guidance-on-transitional-arrangements/

[18] https://asic.gov.au/media/5702401/rg185-published-15-november-2005-20200727.pdf

[19] Corporations Regulations第7.1.07G条

[20] ライセンス取得およびライセンス保有者の義務の詳細はASICがガイドラインを発行している <https://asic.gov.au/regulatory-resources/financial-services/marketplace-lending/marketplace-lending-peer-to-peer-lending-products/>

[21] Corporations Act 2001第791A条(Financial Marketの定義は、第767Aに規定。)

[22] https://asic.gov.au/media/5673238/rg234-published-15-november-2012-20200713.pdf

[23] Corporations Act 第738H条

[24] Corporations Act 第738G条

[25] National Consumer Credit Protection Act 2009第6条、第29条

[26] National Credit Code第5条

[27] National Credit Code第6条

[28] https://asic.gov.au/media/5403117/rg209-published-9-december-2019.pdf

[29] 実際に、最近のライセンスはく奪事例が複数存在する。<https://download.asic.gov.au/about-asic/news-centre/find-a-media-release/2021-releases/21-210mr-asic-cancels-or-suspends-twenty-four-australian-credit-licences/>

[30] Banking Act 1959第9条(3)

[31] Payment Systems (Regulation) Act 1998第22条(1)(c)、第23条

[32] Payment Systems (Regulation) Act 1998第9条(3)、第25条

[33] Declaration No.2 2006 <https://www.rba.gov.au/media-releases/2006/pdf/mr-06-02-purchased-payment-facilities-dec-2.pdf>

[34] Payment Systems (Regulation) Act 1998第9条

[35] https://www.apra.gov.au/sites/default/files/information-paper-adi-licensing-restricted-adi-framework-20180504.pdf

[36] https://asic.gov.au/for-business/innovation-hub/enhanced-regulatory-sandbox/info-248-enhanced-regulatory-sandbox/

2021年07月13日(火)1:24 PM

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

 

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

2021年7月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.適用法令

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 4.9AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、2019年に大幅な改正[1]が行われ、民間企業の不正行為の通報を促すためのより強固な公益通報者保護体制が導入されました。更に、2021年2月24日には、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が金融サービスに関する通報者の免責方針を発表[2]し、不正が発覚した場合の告発を推奨しています。

 本ニュースレターにおいては、オーストラリアの公益通報者保護制度をご紹介する前編として、本法令の適用対象となる通報とは何かを、主要なコンセプトの解説を交えご紹介いたします。

2.保護の対象となる通報(Qualifying Disclosure)

 本法令において公益通報者保護の対象となる通報は、適格通報者(Eligible Whistleblower)が、規制対象事業体(Regulated Entities)の不正行為に関する情報を、①オーストラリア証券投資委員会(ASIC)、オーストラリア健全性規制庁(APRA)、その他指定された連邦政府機関へ開示する場合、②適格受領者(Eligible Recipient)へ開示する場合、または③本法令に関するアドバイスを受けるために弁護士へ開示する場合を指します。

 通報の対象となる不正行為は、明らかな違法行為(Misconduct)の他に、不適切な実情(Improper State of Affairs or Circumstances)を含みます。本法令には不適切な実情の定義はされていないため、極めて広範囲な行為・事情が対象となる可能性があります。不正行為の例として、事業体(およびその役員・従業員もしくは関連会社)が、本法令または金融関連の法令違反、12か月以上の禁固刑に処される違法行為、その他公共制度または金融制度に対するリスクとみなされる行為に関与した場合を含むとされていますが、これらに限られません。

 2019年の改正法前は、通報の誠実性(Good Faith)が要件となっていたため、通報者の過去の行為や動機などから誠実性が欠けることを証明することで本法令の適用を受けないということもありましたが、改正後はこの主観的要素がなくなり、代わりに、対象情報が事業体の不正行為に関する情報であると疑うに合理的な根拠があったことが要件となっています。

 この「合理的な根拠」の有無に関し、最近の判例[3]では、通報の時点で通報者が実際に知っていた事項が判断要素であり、通報者が通報の時点で知らなかった事項または通報の対象となった行為の意図・効果に関する主張は、通報者保護が適用されるか否かの判断には関係しないとされています。企業としては、通報があった場合に、その時点で通報者が知る事実をできるだけ詳細に聞き取り、通報者保護規制の適用対象となるか否かの客観的な判断を行うことが求められます。

3.適格通報者(Eligible Whistleblower)

 本法令上の保護の対象となる適格通報者(Eligible Whistleblower)とは、①規制対象事業体(Regulated Entities)の役員・従業員に限らず、②規制対象事業体へ物品や役務を供給する者およびその従業員、③規制対象事業体の関連会社の取締役・秘書役、ならびに④上記①~③の親族(配偶者、親、子供など)を含みます。

 4.規制対象事業体(Regulated Entities)

 規制対象事業体(Regulated Entities)とは、主にオーストラリアで設立または登録された会社、銀行、保険会社、退職年金基金を幅広く指します。当該事業体の役員、従業員、および関連会社の不正行為に関する通報も、保護規制の対象に含まれることになります[4]

5.適格受領者(Eligible Recipients)

 適格受領者(Eligible Recipients)も広義に定義されており、事業体により公益通報を受け付ける役割を任命された人物(社内外を問わない)の他に、事業体の取締役・秘書役(オーストラリアでは、登記上の取締役や秘書役の他に、取締役の行為を行う事実上の取締役(De Facto Director)も該当するため注意が必要です)、その他オフィサー(会社の決定の過程に参加する者や会社の決定に影響力をもつ者、管財人、清算人など)、シニアマネジャー(事業の全部または重大な部分に影響する決定に参加する者)、および社内外の監査人を含みます。なお、従業員や下位のマネジャーは適格受領者には含まれません。従って、通報受付窓口となる方以外の取締役や経営管理層が通報を受け付けた場合にも、守秘義務等、本法令上の通報者保護義務を負う可能性がありますので、日ごろから通報を受けた場合の対応方法について周知しておくことが重要です。

 なお、具体的な通報者保護義務の内容については、後編にて詳述いたします。

 以上、オーストラリアの公益通報者保護法の適用対象についてご紹介しましたが、次回の後編では、保護対象となった通報者に関し、実際にどのような保護義務が課されるのか、企業の注意すべき点や例外規定等を踏まえ解説する予定です。

以 上

[1] Treasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019

<参照: https://www.legislation.gov.au/Details/C2019A00010>

[2] ASICは、他者と共謀し金融サービスに関する不正行為に関わった者が、ASICへ通報し調査に協力するなどの要件を満たした場合に、その者に対し民事または刑事免責を与える方針を発表しました。詳しくは、下記ASICのHPに記載されています。

<参照:https://asic.gov.au/about-asic/dealing-with-asic/asic-immunity-policy/

[3] Quinlan v ERM Power Ltd & Ors [2021] QSC 35

[4] Corporations Act 2001 第1317AA条(4)(b)および(5)(b)

2021年06月15日(火)11:34 AM

ニュージーランドの外資規制法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドの外資規制法について

 

ニュージーランドの外資規制法

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド担当
加藤 美紀

1.はじめに 

 ニュージーランドの主要な外資規制法は、Overseas Investment Act 2005およびその下位規則であるOverseas Investment Regulations 2005です(以下、「海外投資法」という)。海外投資法は2018年に法改正が始動し、当初は2つのフェーズに分けた法改正が予定されていましたが、第1フェーズが完了した後、コロナの影響を受け昨年に暫定改正法(Overseas Investment (Urgent Measures) Amendment Act)が発令され、急遽政府への通知が必要となる投資基準額が0ドルとなる等の措置(Emergency Notification Regime)が取られました。

 2021年5月に第2フェーズを完了させる改正法案(Overseas Investment Amendment Bill (No.3))が可決され、大部分の改正が来月5日(2021年7月5日)より発効されます。また、それに先立ち、今月7日(2021年6月7日)にはEmergency Notification Regimeが終了し、新基準を設けたNational Security and Public Order Notification Regimeへと移行しています。

 本ニュースレターでは、改正法を踏まえた海外投資法の概要をご紹介します。

2.海外投資法の適用対象

 ニュージーランド政府は、自国の保護が必要なセンシティブな資産の所有・支配を維持しながら、ニュージーランドに高い利益をもたらす外国投資を受け入れることポリシーとし、海外投資法において、(1)保護が必要なセンシティブな土地(Sensitive Land)、(2)重要な事業資産(Significant Business Assets)、漁業・林業等への投資を規制しています。これらの投資を行う場合、海外投資家(Overseas Person)は、管轄当局であるOverseas Investment Officeへ申請を行い、その所属政府機関であるLand Information New Zealandおよびその他関連する政府機関からの承認を得る必要があります。

 (1)まず、センシティブな土地(Sensitive Land)とは、居住用地、5ヘクタールを超える非都市地域の土地(農地など)、および国立公園、遺産、浜辺など所定の土地[1]に隣接する土地を指します。海外投資家が所有権または一定期間以上の賃貸権を獲得する場合に、政府機関からの承認が必要です。現行では承認取得が必要となる賃貸権の期間が3年となっているところ、改正法施行後は10年(ただし、過去および更新後のリース期間を含む)に延長されます。なおこの規制は間接的な投資が行われる場合も適用対象となるため、例えば、上記の権益を保有する事業体の25%を超える証券の取得(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合)についても、当局への申請が必要です。

 (2)次に、重要な事業資産(Significant Business Assets)への投資とは、①ニュージーランドの事業体の25%を超える所有権もしくは支配権を取得し(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[2])、かつ、対価または事業体の資産価値(のれんや知財などの無形資産の価値を含む)が基準額を超える場合②ニュージーランドにおいて所定の基準額を超える資本投資をして新事業を設立する場合③ニュージーランドにおける事業に使用される資産を所定の基準額を超える対価にて取得する場合、のいずれかを指します。なお、所定の基準額とは、一般的に1憶NZドルですが、日本を含む自由貿易協定国の投資家の場合、優遇措置として2億NZドルが適用されます。

 コロナの影響を受け発令されたEmergency Notification Regimeにおいては、主に、事業体またはその資産の25%を超える所有権または支配権を取得する場合(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[3])に、事業分野や資産の性質にかかわらず、一律0ドル以上の投資について事前承認の取得が必要でした。2021年6月7日をもって当該暫定措置は終了しましたが、それ以前に締結した契約に基づく投資については、投資実行前にEmergency Notification Regimeに基づく承認の取得が必要となるため、留意が必要です。なお、Emergency Notification Regimeは担当大臣の判断により復活させることが可能であり、今後のコロナの影響を含む経済情勢によっては、0ドルの基準額が再度発令される可能性もあります。

 その他の留意点として、上述の取得率(主に25%)以下の金額における取得についても、不均衡に多大な権利(議決権など)が付随するとみなされる場合は規制の対象となるため、基準額・率を下回る投資の場合でも、契約内容に基づく専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

 また、海外投資家(Overseas Person)とは広範に定義されており、ニュージーランドの市民権をもたない個人・ニュージーランド国外で設立された法人等の他に、ニュージーランド法人であっても海外投資家が25%を超える所有権または支配力を有する場合はこれに該当します[4]。さらに、海外投資家の関連者(Associates)が投資する場合も、一体の投資家とみなされ、投資額・率が合計で所定の基準値に達する場合に規制の対象となります。Associatesとは広範に定義されており、直接的または間接的に協調して行動することが合意されている場合なども含むため、留意が必要です。

3.国益および国家安全に関わる審査

 第2フェーズの改正において、新たに(1)「National Interest Test」および(2)「National Security and Public Order Call-In Power」が導入されました。これらは、オーストラリアおよび諸外国の近年の国益・国家安全を保護する外資規制改正の動きに従う法改正といえます。

 (1)National Interest Testは、政府がニュージーランドの国益(National Interest)[5]に基づき外国投資を審査する制度であり、既存制度において承認の取得が必要である投資案件のうち、外国政府投資家(Non-New Zealand Government Investor)[6]またはその関連者(Associates)がセンシティブな土地もしくはニュージーランド事業の10%以上の権利を取得する場合、および戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)が関連する投資の場合に、既存の審査制度に上乗せして適用されます。それ以外の投資についても、国益へのリスクが懸念される場合や、市場の支配に繋がる場合等においても、例外的に政府当局の判断で適用される可能性があります。National Interest Testの対象となる戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)には、港湾・空港、電気・水、電気通信、メディア、軍用または軍民両用技術、その他軍、国家諜報機関または国家安全機関への供給、金融など多岐に渡る重要インフラ事業およびその関連物品・サービス供給事業が含まれます。これに加え、一定の機微な情報を扱う事業体への投資も審査対象となります。

 (2)一方、National Security and Public Order Call-In Powerとは、既存の承認制度の対象とならない案件について、国家安全(National Security)または公の秩序(Public Order)に対するリスクを審査する制度であり、上述の戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)に関連する投資は、原則として、投資の結果取得する所有権の割合および金額に拘わらず[7]、全てが適用対象となります。昨年発令されたEmergency Notification Regimeに取って代わる制度で、2021年6月7日以降に合意される案件に適用されます。軍用または軍民両用技術、およびStrategically Important Business の重要直接供給者(Critical Direct Suppliers)に関連する投資は当局への事前通知が義務となっていますが、その他の事業に関する投資行為について通知義務はありません。ただし、適用対象となる案件は当局からの審査要請(Call-In)を受ける可能性がり、審査の結果、重大なリスクがあると判断された場合、取得した事業の売却などの対応を命令される可能性があります。国家安全・公の秩序に対するリスクを根拠とした投資の中止・売却命令等の発令は、それ以外に是正手段がない場合に行使することが可能であり、実務上限定的であることが予想されますが、リスクが疑われる場合は、投資実行前に、自主的に当局へ通知して承認を受けておくことが推奨されます。

4.その他の改正(現行の審査制度、罰則)

 上述の新制度導入の他に、改正前より存在した(1)Investor Test、および保護が必要なセンシティブな土地の取得の審査の適用される(2)Benefits Test等の審査基準が改正されます。

 (1)Investor Testとは、投資家の個人およびビジネス上の適格性を審査する制度で、承認申請にあたり全ての海外投資家(法人の場合は、その支配権を持つ代表者)が対象となるものです。改正前は良い人格を持つこと(Good Character)、商才など多岐に渡り不確実な事項を証明する必要がありますが、改正後は過去の犯罪歴、民事制裁、脱税行為など不正行為の有無に限定されます。

 (2)一方でBenefits Testについては現行法上、センシティブな土地の取得に際し、当該投資が海外投資法に定められた経済、文化、環境など多岐に渡る事項についてニュージーランドへ恩恵をもたらすことを証明する必要があり、一定以上の広さの土地についてはより厳格な基準が設けられていますが、改正後は、これらの基準を限定または撤廃することで、よりフレキシブルに、土地および投資の性質に見合った審査することが可能となります。特に、「ニュージーランドへの恩恵」を図るに、現行法では「(仮想的な)現地投資家が取得する場合」との比較証明が必要ですが、改正後は単純に、投資がされた場合とされない場合との比較となるため、投資家にとっては確実性が上がると想定されます。

 罰則も大幅な改定があり、現行では300,000NZドルの科料上限が規定されていますが、改正法施行後は、最高罰則が、個人の場合は12か月以下の禁固刑または500,000NZドルの罰金、法人の場合は1000万NZドルの罰金に上昇します。

5.おわりに

 ニュージーランドの外資規制は、上記以外にも複雑な規定が存在し、今後も零細規則(例外規定、申請費用など)の改定審議が続きます。また、承認が必要となる案件については、当局の判断で他の関連する政府機関(財務省、遺産・環境の専門機関等)へ審査にまわされることがあり、複雑な案件の場合、各分野の政府機関の判断に数か月以上を要する場合もあります。ニュージーランドへの進出を検討されている企業は今後の動向を注視するとともに、早い段階から専門家のアドバイスを求めることが推奨されます。

以 上

[1] 今回の改正により当該対象地域が限定され、さらに土地の登記簿などで確認が可能となるため、投資家にとって不確定要素が減った形となります。 [2] 改正前は承認の再取得を不要とする所有率の増加は極めて限定的でしたが、第2フェーズの改正にて大幅に規制が緩められ、当該各基準を超えない限り、承認の再取得は不要となっています。 [3] 上記注釈2と同様。 [4] 法改正により、ニュージーランド証券取引所(NZX)に上場するニュージーランド企業、およびニュージーランドのファンド(Managed Investment Scheme)の場合は、別途の優遇基準が適用されます。 [5] 国益(National Interest)はオーストラリアの外資規制と同様に法令上の定義はなく、個々の事情に応じて判断されます。 [6] 外国政府、その下位機関、および1国の外国政府関連投資家が合計で25%を超える所有権または支配権を有する事業体を指します。なお、オーストラリアと同様に、受動的投資ファンドについては、政府系であっても適用が免除される制度の施行が予定されています。 [7] ただし、一部の事業資産、ニュージーランドの上場企業、メディア部門など一部の事業の取得については、優遇基準値が設けられています。また、既に保有する権利の追加取得の場合は、25%、50%、75%といった一定の基準値を超える場合にのみ審査対象となります。

 

2021年05月17日(月)10:31 AM

ニュージーランドにおける個人情報保護法の概要についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドにおける個人情報保護法の概要について

 

ニュージーランドの個人情報保護法の概要

2021年5月14日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.適用法令および適用対象

 ニュージーランドにおける個人情報の保護に関する主要な規制は、Privacy Act 2020(以下、「プライバシー法」)に定められています。プライバシー法は2020年12月1日に施行された改正法であり、データ侵害発生時の通知義務(Notifiable Privacy Breaches)、域外適用などが新たに盛り込まれ、オーストラリアの連邦プライバシー法と類似する点が多くありますが[1]、機微な情報の扱いや海外移転の規制といった日本企業にとって留意が必要となる点に違いがみられます。

 プライバシー法において「個人情報(Personal Information)」とは、特定可能な個人に関する情報と定義されており、個人を識別する情報(例えば、氏名など)の他に、単に特定可能な個人に関する情報(例えば、肌の色など)も含みます

 ニュージーランドにはオーストラリアとは異なり、機微な情報(Sensitive Information)の概念は存在しません。ただし、ニュージーランドのプライバシー法上、個人情報を保護するために合理的に必要な保護措置を取ることが義務付けられているため、例えば生体情報や健康情報、宗教上の信念といった一般的にセンシティブと考えられる情報は、その情報の性質に適したより高度な保護措置をとることが求められています。

 プライバシー法の規制対象となる事業者(プライバシー法では「Agency」と表現されるが、政府機関だけでなく一般企業もこれに該当する。)は、ニュージーランド国内で登記された法人であるか否かを問わず、ニュージーランドで事業を行っている(Carry On Business in New Zealand)事業体が、当該事業を行う上で、個人情報に関し実施する行為は適用の対象となります。従って、例えば、ニュージーランドに子会社・支店などを有していなかったとしても、日本企業が遠隔でニュージーランドにいる個人を対象としたサービスを提供する場合などにおいても、プライバシー法が適用される可能性があります。

2.プライバシー原則

 プライバシー法の規制対象となる事業者は、情報プライバシー原則(Information Privacy Principles)を遵守する必要があります。情報プライバシー原則は13条存在し、その概略は以下の通りです。

1. 個人情報の収集が、事業者の活動に関連した合法な目的のためであり、かつ当該目的に必要であること。
2. 本人の同意がある場合など例外適用時を除き、対象個人から直接収集すること。
3. 個人情報の収集時に、収集の目的、情報の受領者、情報が提供されなかった場合の制限といった所定の事項を対象個人が理解するために合理的な方法を取ること。
4. 合法かつ公平で個人の私事を不合理に侵害しない方法にて収集すること。特に未成年からの個人情報の収集には、通常よりも注意を払うこと。
5. 情報の紛失、不正開示・不正利用等を防ぐために、情報の性質、使用目的などの事情に応じて適切なセキュリティ対策を取ること。
6. 本人へのアクセスを許可すること。
7. 情報の修正の要求に応じること。
8. 個人情報の使用または開示時に当該情報が正確、最新、完全、関連性があり、かつ誤解を招くものではないこと。
9. 合法的に許可される使用目的のために必要な期間を超えて個人情報を保持しないこと。
10. 原則として、収集の目的以外に個人情報を使用しないこと。
11. 原則として、収集の目的以外に個人情報を開示しないこと。
12. 個人情報の海外移転には、移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課される場合を除き、本人の同意を取得すること。
13. 事業体の機能に必要不可欠な場合を除き、個人へ識別符号を割り当てないこと。他の組織の発行する識別符号の使用は、原則禁止される。

 上記第3条について補足すると、オーストラリアではプライバシーポリシー(個人情報保護方針)と情報通知(個人情報収集時の所定事項の通知)について別々の規定があるものの、ニュージーランドの法令上はその区別はありません。ただしニュージーランドの当局(Privacy Commissioner)のガイドラインによると、プライバシーポリシー(ニュージーランドではPrivacy Statementと呼称。)を企業のウェブサイトで公開することが、第3条を遵守するうえで重要とされています。なお、ウェブサイトの利用時に限らず個人情報を収集する場合は、収集時点で情報通知をすることが求められます。

 また、上記第10条、第11条について、個人情報の使用・開示は、法の執行や生命の危機など緊急事態に必要な場合を除き、原則として、当該個人情報の収集時に通知した収集の目的に限定されます。ただし、収集の目的とは異なる二次的目的のための使用・開示も例外として認められることがあります。例えば、個人情報の使用目的が収集の目的に直接関連する場合や、二次的目的のための使用・開示を対象個人が別途に同意した場合です。この他にも、個人が特定されない形で使用される場合や、個人の特定される方法で公表されない統計または研究目的での使用も例外として認められています。

 個人情報のニュージーランド国外への移転には、上述第12条の通り一定の制限がかかります。本人の同意を取得して移転する場合は、移転先が対象個人に対しプライバシー法と同等の保護措置を提供しない可能性があること等を対象個人が容易に理解できる方法で十分に通知した上で同意取得をしなければなりません。同意取得方法についてのご相談をよく受けますが、規約に当該通知内容を追加し、単に「規約に同意します」というチェックボックスを設けることでは不十分であり、海外移転に特化した説明および同意の取得が必要となります。

 同意を取得せずに海外移転するには、以下のいずれかに該当する必要があります。

 ・移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課される場合
 ・データの保管または処理を行う第三者へ送信される場合
 ・ニュージーランド政府が自国と同等の保護措置(法令)をもつと認めた国の移転先への開示(現時点でこの認定を受けた国はない。)、または
 ・その他、移転先がプライバシー法の適用対象である場合、本人(または本人の代理人)へ送付される場合、公の情報である場合など

 海外移転を合法に行うに最も一般的な方法としては、プライバシー法の要件を満たす契約を移転先と締結することです。これにより、移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課されるとみなされるため、同意取得は不要となります。

 プライバシー法には、GDPRの管理者(Controller)・処理者(Processor)と類似する区別があります。情報の処理を委託した事業体(管理者)は、受託者(処理者)が受託した範囲内で個人情報を処理し自己またはその他の目的のために使用しない限り、情報の移転後も当該情報を保有しているとみなされます。したがって、海外のクラウドプロバイダー等の処理者にデータの保管または処理を委託する場合は、プライバシー法の海外移転に関する制限を受けることなく(つまり、同意取得等の必要なく)移転が可能です。ただし、委託者は、受託者が付与された権限を超えない範囲で行った行為について責任を負います。委託者においては、移転先とデータ処理契約を締結し、データの取扱いの範囲や補償責任などについて明確に取り決めておくことが推奨されます。

 なお、特定の類の情報については、情報プライバシー原則とは別途に、管轄当局であるプライバシー委員会(Office of the Privacy Commissioner)が細則(Code)を設けることができるとされており、現時点で以下の細則が発行されているため、対象情報を扱う事業者は留意が必要です。

・Health Information Privacy Code
・Credit Reporting Privacy Code
・Telecommunications Information Privacy Code
・Civil Defence National Emergencies (Information Sharing) Code
・Justice Sector Unique Identifier Code
・Superannuation Schemes Unique Identifier Code

3.プライバシーオフィサー

 ニュージーランドでは、プライバシー法適用事業者に対しプライバシーオフィサー1名の任命が義務付けられています。

 実務上は、事業者の規模および取り扱う情報の性質・量などに応じて、プライバシーオフィサーの人数を適切に設定することが推奨されます。当局のガイドラインによると、プライバシーオフィサーは、マネージャー以上の上級役職が務め、組織全体への啓蒙活動・監査、顧客からの問い合わせ対応、侵害事件発生時の対応等の役割を担うとされています。

 4.データ侵害の通知義務

 2020年の法改正により、データ侵害発生時に、管轄当局であるプライバシー委員会(Privacy Commissioner)および被害を受けた個人へ通知することが義務付けられました。当該通知義務の対象となるのは、データ侵害が重大な害を引き起こし、またはその可能性のあることが合理的に認められる場合です。

 5.罰則

 データ侵害の報告を怠った場合、個人へのアクセスの許可を怠った場合、および合理的な理由なくして当局の指示に従わず、または虚偽の報告をするなど当局の権限行使に協力的でない場合は、最高NZ$10,000の罰金が課せれます。また、個人からの苦情を受けて、当局が必要と判断した場合に、人権審理裁定所(Human Rights Review Tribunal)で審議され、被害者への損害賠償が命じられる可能性があります。この他に、プライバシー法違反の企業名を公表するなどの措置が取られることが多く、企業としては、レピュテーション低下を避けるために慎重な行動を取ることが求められるため、ニュージーランドで事業を行う日本企業は留意が必要です。

以 上

[1] オーストラリアの連邦プライバシー法については、下記リンクより、前回のニュースレターをご参照ください。

https://oneasia.legal/6341

2021年03月15日(月)12:40 PM

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態について

 

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態

2021年3月12日

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所
加藤 美紀

1.はじめに

 オーストラリア・ニュージーランドでの事業展開を検討する多くの企業にとって、法務・税務およびコストの面で一番効率の良い進出形態を選定することが課題の一つとなる。進出形態は事業内容や規模により様々であり、オフショアから現地企業への業務委託が可能な場合もあれば、直接現地にて各種ライセンス取得や拠点設立が必要となる場合もある。本ニュースレターでは、特に直接現地で事業を行うにあたり一般的に採用されている進出形態を、そのメリット・デメリットと共に解説する。

2.駐在員事務所とCarry On Businessの問題

 オーストラリアまたはニュージーランドにて事業を行う(以下、「Carry On Business」)外国企業は、各国の会社法上、当局(オーストラリアでは証券投資委員会(ASIC)、ニュージーランドでは会社局(NZCO))への登録が必要と規定されており、かかる登録には外国企業の支店(Branch Office)または子会社を設立し行うこととなる。

 Carry On Businessの明確な法定定義はないが、会社法上、非営利活動も含み、拠点をもつ場合や、他者を代理して現地での資産を扱う場合も該当するとされている。他方で、株主総会の開催、銀行口座の開設、資産の保有、担保の設定行使、31日以内に完結する単発の取引など一定の行為については、その行為のみ行う場合はCarry On Businessに該当はしないとされている。利益を上げる目的で組織的かつ定期的に何かしらの商業を行う場合(conducting some form of commercial enterprise, systematically and regularly with a view to profit)は、Carry On Businessであるとする判例も存在する[1]。一般的に、継続する事業活動であるか否か、営利目的であるか、繰り返し行われる活動か、帳簿の記録があるか否か、などの事情が勘案される。

 進出に際し駐在員事務所(Representative Office)を構えることを検討している日系企業も多いと思われるが、何かしらの拠点を構えて営利活動を行う事はCarry On Businessとみなされる可能性が高く、仮に駐在員事務所の活動がCarry On Businessとみなされた場合、支店または子会社として会社法上の登録が必要となる(登録していない場合は、会社法違反となる)。なお、会社法上はCarry On Businessとみなされず登記要件等の規制を受けない活動についても、会社法以外の法令(例えば、税法、金融サービス業の規制、個人情報保護法など)の適用を受ける可能性があるため、留意が必要となる。

3.会社の種類

 オーストラリアで投資に一般的に利用される会社は、資金の調達がしやすく株主の責任が限定されるCompanies Limited by Sharesであり、非公開会社(Proprietary Company、「Pty Ltd」と略される。)と公開会社(Public Company、「Ltd」と略される。)に分けられる。

 非公開会社は株主が50名を超えてはならず資金調達の公募ができない一方、会社法上の縛りが公開会社よりも緩いため運営コストを低く抑えることができる。資産・従業員数等に応じて小規模非公開会社・大規模非公開会社に分けられ、特に財務報告義務に差があるが、小規模非公開会社であっても外国企業に支配される場合は原則として財務報告義務が課せられ、更に2019年7月からは、海外親会社の連結売上が10億豪ドル以上など一定の要件を満たす企業[2]は追加の報告義務が課されている。 

 一方、公開会社は、株主の人数の制限がなく、主に資金調達を公募する場合(公開市場含む)に利用されるが、株主総会の開催義務、情報開示義務などが課され、ガバナンスコストの負担が大きい。なお、現地子会社ではなく外国企業の支店(Branch Office)として登録し活動を行う場合は、会社法上の義務は現地子会社の場合と大差はないものの、支店閉鎖後などに日本本社が債権回収の督促を受けるリスクがある。以上の他に、有限責任保証会社(Companies Limited by Guarantee)、無限責任会社(Limited Companies)などが存在するが、一般的な投資には利用されない。

 ニュージーランドでは、有限責任会社(Limited Companies)、協同組合会社(Co-Operative Companies)、無限責任会社(Unlimited Companies)の3つの会社形態が存在するが、このうちLimited Companiesが最も一般的である。オーストラリアとは異なり、非公開・公開といった表現による区別はない(全て「Limited」または「Ltd」と表記される)が、規模等により会社法上の義務に違いがある。 なお、外国企業の支店および現地子会社は、外国企業の連結資産が2000万NZドルを上回る場合、または連結売上が1000万NZドルを上回る場合に財務報告が必要となる。

4.Joint Venture

 Joint Venture(以下、「JV」)の方法は大きく分けて、JVパートナー間で出資して法人を設立するIncorporated JVと、法人を設立しないUnincorporated JVの方法が存在する。

 Incorporated JVの場合、出資者間で株主間契約を締結し、各JVパートナーの権利義務を規定する。法人格を有するため、JV事業の負債に関する各JVパートナーの責任は、その出資額に限定される。税はJV会社の所得に直接課され、課税後の利益から払われる配当はTax Offsetが可能となる(オーストラリアでは「Franking Credit」、ニュージーランドでは「Imputation Credit」と呼ばれる税額控除が給付される)。外国投資家への配当はFranking Credit/Imputation Creditは付与されないものの、課税後の利益から支払われる場合は、一定の例外を除き、オーストラリア/ニュージーランドの所得税および源泉徴収の対象とはならない。

 一方、Unincorporated JVの場合、法人格を有さないためJV事業の負債は各JVパートナーが無制限に負担するというデメリットはあるが、各JVパートナーが直接課税対象となるため、損失を自身の他の事業からの所得と損益通算することができるという税務上のメリットがある。JV自体は会社法の適用を受けず自由度は増すが、その分、JV契約に権利義務関係、意思決定方法などが詳細に規定されることが一般的である。

 なお出口戦略の観点では、個々の資産を譲渡する必要があるUnincorporated JVと比べ、株式売却で完結するIncorporated JVの方が一般的に容易である。

5.ユニットトラスト(Unit Trust)

 ユニットトラスト(Unit Trust)とは投資信託の一種であり、オーストラリアにおいて事業投資に頻繁に利用される形態である。ユニットトラスト自体に法人格はないものの、出資者間でTrustee(受託者)であるシェルカンパニーを設立し、信託財産(出資額)の運用(信託財産を使った事業運営)を委託するという形をとる。信託の受益者(Unit単位の持分を保有するため「Unit Holders」と呼ばれる。)とTrusteeは、Trust Deed(信託証書)を締結し、持分、事業運営方法などの詳細を取り決める。負債や法令上の責任は全てTrusteeが負担するが、信託の資産に対し求償することが可能である。

 税務面では、信託の利益は信託レベルでは課税されず、各受益者に直接自己の税率にて課せられる一方、損失については各受益者に分配されないため他の事業の所得との収益通算はできない。

 日本やその他のASEAN諸国ではめったに用いられることのない進出形態であるが、オーストラリア・ニュージーランドでは頻繁にみられる進出形態であり、日本企業は注意が必要であるといえよう。

6.パートナーシップ

 パートナーシップとは、複数の個人または法人が契約に基づき共通の事業目的のもと事業を行う形態である。原則としてパートナーシップはパートナー間の契約により成立する関係であり法人格がなく、パートナー個人(または法人)が事業の全債務の責任を負う。パートナー契約において各パートナーの責任を限定することが可能(この場合、「リミティッド・パートナーシップ」という。)だが、このうち一当事者はジェネラルパートナーとして無限に責任を負う必要がある。リミティッド・パートナーシップは、法務と税務においてその扱いが異なり、複雑なルールが存在する。オーストラリアでは、一部のベンチャーキャピタル用に設立されるIncorporated Limited Partnership(ILP)を除きリミティッド・パートナーシップに法人格があることの明確な規定はないが[3]、ニュージーランドでは、リミティッド・パートナーシップは法人格をもつと規定される[4]。いずれの法域(オーストラリアでは州・準州ごと)においても、リミティッド・パートナーシップは登録が必要である。

 税務面では、原則として、パートナーシップ自体には所得税はかからず、各パートナーの取り分につき当該パートナーの個人税率が適用され、パートナーシップの損失も各パートナーの他の所得と損益通算が可能である。ただし、オーストラリアではリミティッド・パートナーシップの場合、税法上、法人と同様の扱いを受ける可能性があるため注意が必要である[5]。なお前述のベンチャーキャピタルILPの場合、法人税は課されず、優遇税制が適用される。

7.おわりに

 以上オーストラリア・ニュージーランドにおいて最も一般的な進出形態の基礎を記述したが、最適な投資ビークルの選定は多角面からの評価が必要となる。本稿で紹介した他にも複雑なルール・税務上のメリット・デメリットなどがあるため、個々の事業に応じて専門家のアドバイスを受けることが推奨される。

以 上

[1] Gebo Investments (Labuan) Limited & 2 Ors v Signatory Investments Pty Limited & 2 Ors; Application of John Campbell & 3 Ors [2005] NSWSC 544

[2] Significant Global Entitiesと呼ばれる。

https://www.ato.gov.au/Business/Public-business-and-international/Significant-global-entities/

[3] オーストラリアでは、パートナーシップは州・準州の法令に規制される。

[4] Limited Partnership Act 2008

[5] Division 5A, Part III, the Income Tax Assessment Act 1936 (Cth)

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