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2022年08月09日(火)9:51 AM

オーストラリア外資規制法:FIRB承認申請費用の増額についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア外資規制法:FIRB承認申請費用の増額

 

オーストラリア外資規制法:FIRB承認申請費用の増額

2022年8月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

 オーストラリアの外資規制法において当局である外国投資審査委員会(FIRB:Foreign Investment Review Board)からの承認取得が要求または推奨される投資の要件の概要については、前回のニュースレター(https://oneasia.legal/6062)にてご紹介しましたが、2022年7月29日より、当該承認取得の申請費用が増額されています[1]。申請費用の計算方法や例外規定等は複雑な規則が存在しますが、基本的に従来と比較し2倍に増額されています。その概要を以下の通りまとめましたので参照いただければ幸いです。なお、申請費用の詳細についてはFIRBが以下のガイドラインを発行しており、今回の変更が反映されています。

https://firb.gov.au/sites/firb.gov.au/files/2022-07/G10_Fees_210722.pdf

 

投資対象

2022年7月28日まで

2022年7月29日以降

居住地

・  A$1m以下の投資:申請費用A$6,600

・  対価がA$1m豪ドル増えるごとに申請費用A$13,200 増加

・  申請費用最高額:A$522,500(投資がA$40を超える場合)

・   A$1m以下の投資:申請費用A$13,200

・   対価がA$1m豪ドル増えるごとに申請費用A$26,400 増加

・   申請費用最高額:A$1,045,000(投資がA$40を超える場合)

農地

・  A$2m以下の投資:申請費用A$6,600

・  対価がA$2m豪ドル増えるごとに申請費用A$13,200 増加

・  申請費用最高額:A$522,500(投資がA$80を超える場合)

・   A$2m以下の投資:申請費用A$13,200

・   対価がA$2m豪ドル増えるごとに申請費用A$26,400 増加

・   申請費用最高額:A$1,045,000(投資がA$80を超える場合)

商業用地

・   A$50m以下の投資:申請費用A$6,600

・   対価がA$50m豪ドル増えるごとに申請費用A$13,200 増加

・   申請費用最高額:A$522,500(投資がA$2bを超える場合)

・   A$50m以下の投資:申請費用A$13,200

・   対価がA$50m豪ドル増えるごとに申請費用A$26,400 増加

・   申請費用最高額:A$1,045,000(投資がA$2bを超える場合)

事業・事業体

事業の開始

申請費用:$2,000 固定

 申請費用:$4,000 固定

契約の締結または改定

申請費用:$13,200 固定

 申請費用:$26,400 固定

組織再編

申請費用:$13,200 固定

申請費用:$26,400 固定

 

以 上

 

[1] Foreign Acquisitions and Takeovers Fees Imposition Amendment (Fee Doubling) Regulations 2022 (Cth)

2022年07月08日(金)9:27 AM

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要

 

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要

2022年7月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.競争法の概要

 ニュージーランドの競争関連規制は、Commerce Act 1986(以下「本法令」という)に規定されています。本法令の規制当局は、商務委員会(Commerce Commission)です。本法令の競争法に関連する規制事項は、大別して以下の通りです。

・カルテル
 ➣価格カルテル(Price Fixing)
 ➣生産調整(Output Restriction)
 ➣市場分割(Market Sharing)
・市場支配力の濫用(Misuse of Market Power)
・再販価格調整(Resale Price Maintenance)
・競争を実質的に減少させる合意(Substantially Lessening Competition)
・企業結合(Mergers)

 ニュージーランドにて上記違反行為を行った場合は、企業の場合に最高で、①10M豪ドル、②行為によって得た利益の3倍、または③年間売上の10%のいずれか最も大きい額の民事制裁金が課されます。その他、被害者への損害賠償、取締役の解任、企業結合に関しては実行後の取引の解除(資産の売却等含む)の命令等が下される可能性があります。

 本稿では、日系企業がニュージーランドの企業・事業が絡む買収を実行する際に特に留意されたい、ニュージーランドの企業結合に関する規制の概要についてご紹介いたします。

2.企業結合に関する規制

 競争法上の企業結合に関する規制は、Commerce Act 1986の第47条に規定されており、具体的には、競争を実質的に減少させる(Substantially Lessening Competition)効果を有する、またはその可能性のある企業結合が禁止されます。競争を実質的に減少させる効果を有する、またはその可能性があるか否かは、以下を含む様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されます[1]

・競争的制限を提供していた競合他社が排除され、その結果として価格または利益率を引き上げることができる可能性
・結合後の企業と残りの競業他社とが協力して市場の生産調整または価格調整をすることができる可能性
・市場シェアおよび市場集中の程度
・市場への参入障壁
・市場における対抗力の程度
・顧客が結合後の企業に対し価格、質、その他供給条件に重大な影響を与えられるか否か
・企業結合が顧客に転嫁される効率性を生み出すか否か
・市場においてどの程度代替品が入手可能であるか、または入手可能となる可能性    など

 Commerce Commissionは、上記事項の定量的分析のためのガイドラインを発行しています:https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0010/111520/How-to-use-quantitative-analysis-in-your-merger-analysis-Advisory-note-December-2018.pdf

 企業結合が第47条に該当するか否かは、以上のような様々な事情を考慮して総合的に判断されるため、企業結合後の市場シェアや対象会社に対する支配権が比較的少ないにも関わらず、規制の対象となる場合も考えられます。当局は、一般的な基準として、企業結合後に、①市場の三大企業が合計70%未満の市場シェアを有し、結合後の企業の市場シェアが40%未満の場合、または②市場の三大企業が合計70%以上の市場シェアを有し、結合後の企業の市場シェアが20%未満の場合に、競争を実質的に減少させる可能性は高くないとしています。ただし、これはあくまで一般的な見解であり、当該基準を下回る場合も、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、事前に当局の審査を受けることが推奨されます。

 なお、2017年の法改正により、本法令には域外適用の規制(第47A条)が盛り込まれました。具体的には、企業がニュージーランド国外での買収を通じてニュージーランドでの競争を実質的に減少させる「Controlling Interest」を取得する場合に、当局Commerce Commissionは、裁判所に対し事業の停止、関連株式・資産の売却、その他適切な措置の命令を求め申立てを行う権限を有します。外国企業がControlling Interestを取得する場合とは、ニュージーランドの会社に関して、①その取締役会の構成をコントロールする権利、②20%を超える議決権を行使またはコントロールする権限、③20%の株式、④親会社の立場、または⑤実質的に会社をコントロールする効果をもつ資産を取得する場合を意味します。

 当局は、Controlling Interestが外国企業により取得される場合は、ニュージーランドでの競争を実質的に減少させると考えると公表しているため、ニュージーランドに事業や株式を保有する企業を買収する際には、ニュージーランドでの届出の要否を検討することが推奨されます。

3.当局による審査

 ニュージーランドの競争法には、当局への事前の届出義務は存在しません。一方で、当局が競争を実質的に減少させる効果をもつと判断した場合に、当事者は当局から指摘を受け、企業結合の取引自体を解消すること(資産売却など)が命じられる可能性があります。そのため、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、任意に届出を行うことが推奨されます。

 当局のスタンスとしては非公式な審査(Informal Clearance)は行わず、原則として公式な審査(Merger Clearance)の届出のみが可能とされています。ただし、届出を行う前に当局に非公式にアプローチして協議を行うことは可能です。公式な審査後、Commerce Commissionの承認が下り、12か月以内に企業結合を実行した場合にのみ、第47条に基づく責任追及から保護されます。

 Commerce Commissionによる審査が実施される場合は、一般的に、、競争を減少させる効果がないことを証明するため、市場の確定と競争への影響に関する過去の記録および将来のプロジェクション等の提出が求められます。なお、申請者は、提出する情報の機密保持を当局にリクエストすることが可能ですが、企業結合が交渉されている事実および提出される資料の機密を保持したまま審査を行うか否かは当局次第です。その場合、機密情報の部分が明確にわかるようにする作業が必要となり、提出を受けた当局は当該情報が機密であるか否かの判断を行います。

 以上の通り、企業結合に関する規制は法令に詳細には規定されておらず、当局に大きな審査権限が付与されていると言えます。審査手続きの詳細は、Commerce Commissionの発行するガイドライン[2]にて公表されています。

以 上

[1]Mergers and acquisitions Guidelines, 2022年5月Commerce Commission https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0020/91019/Mergers-and-acquisitions-Guidelines-May-2022.pdf

[2] https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0015/65202/Process-Guidelines-2008.pdf

 

 

2022年04月13日(水)12:52 PM

オーストラリアにおけるフランチャイズ法改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:フランチャイズ法改正(登記義務および罰則の強化)

 

オーストラリア:フランチャイズ法改正(登記義務および罰則の強化)

2022年4月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアでフランチャイズ事業を行う場合、または車両の販売代理店契約を締結する場合は、Franchising Code of Conduct[1](以下「Code」という)を遵守しなければなりません。Codeの概要については、前回のニューズレター(https://oneasia.legal/7559)をご参照ください。

 2022年4月には2つの大きな改正法が発効し、①オンラインにて公表されるフランチャイズ開示登記制度(Franchise Disclosure Register)の導入に関する決定、および、②Code違反の最大罰則の強化が行われました。本ニューズレターでは、当該法改正の概要を解説いたします。

2.登記制度

 フランチャイザーは、新たなフランチャイズ開示登記制度(Franchise Disclosure Register)に基づき、2022年11月14日までに、所定の開示情報を政府へ提出する必要があります。提出された情報は、2022年11月15日からオンラインにて公表されます(プラットフォーム(現在開設中):https://franchisedisclosure.gov.au/)。

 なお、最終改正法案においては、昨年の公開草案にて要求されていた開示書類(Disclosure Documents)、フランチャイズ契約等の登記要件は削除されており、これらの書類の提出は任意です。政府へ提出が求められる情報は、主に、以下の最低限の事項です。

 ・オーストラリアでフランチャイズに関連する事業を行う際に使うフランチャイザーの名称
 ・フランチャイザーのABS(Australian Business Number)
 ・オーストラリアでの登録住所または事業所の住所
 ・電話番号およびメールアドレス
 ・統計庁(Australian Bureau of Statistics)発行の事業分類番号

 フランチャイザーは、毎年、フランチャイザーの会計年度末から4か月以内に、政府に対してこれらの情報に変更がないことの通知、または変更点の通知を行わなければなりません。

3.罰則の強化

 前回のニューズレターでお伝えした通り、2021年9月に施行された法改正により、競争消費者法における最高額と同等(1000万豪ドル、違反から得た利益の3倍、または年間連結売上の10%)の罰則設定が可能となっています。また、当該設定がなされない場合は、最高600ペナルティ・ユニット(およそ13万豪ドル)まで科料が可能とされています。当該法改正に基づき、政府は、2022年4月15日より、以下の最高罰則の適用を開始します。

・主に以下の違反行為・・・1000万豪ドル、違反から得た利益の3倍、または年間売上の10%:
 -フランチャイズ契約締結前の事前開示義務の重大な違反(重大情報の非開示)
 -フランチャイジーによる連合の自由の制限
 -新車販売代理店契約に関する一定の要件の違反
・主に以下の違反行為・・・600ペナルティ・ユニット(133,200豪ドル):
 -誠実義務(obligation to act in good faith)の違反
 -事前開示義務の違反
 -契約更新の意思に関する通知義務の違反
 -契約終了に関する義務の違反
 -法務費用の負担強制
 -マーケティング・ファンドに関する義務の違反
 -法定の紛争解決プロセスへの不参加
 -重大な設備投資(Significant Capital Expenditure)の強制

4.おわりに

 フランチャイズ法には上述の他にも細かな規定が存在するため、フランチャイズ候補または販売代理店候補との交渉の段階から、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

以 上

[1] Competition and Consumer (Industry Codes – Franchising) Regulation 2014, Schedule 1

2022年04月13日(水)12:47 PM

オーストラリアにおける現代奴隷法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)

 

オーストラリア:現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)

2022年4月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 2015年に、英国にて、現代奴隷(Modern Slavery)を防止する法令である2015年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015、以下「英国法」という)が制定されました。現代奴隷には、脅迫、暴力、強制、権力の濫用または詐欺的行為等によって、労働者が仕事を拒否または辞めることのできない状況を含みます。英国法は、事業者とそのサプライチェーンにおいて、かような現代の奴隷行為を特定し根絶するため、一定以上の収益をもつ企業に対し、会計年度ごとに、現代奴隷のリスクとその防止策についての報告を義務付けるものです。

 これに続く形で、オーストラリアでは、2019年1月1日に、2018年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018 (Cth))(以下「現代奴隷法」という)が施行されました。

 本ニューズレターでは、オーストラリアの現代奴隷法の概要をご紹介します。

2.適用範囲

 現代奴隷法においては、年間の連結収益が1億豪ドル以上のすべてのオーストラリアの企業およびオーストラリアで事業を営む企業が報告義務を負います。例えば、オーストラリア子会社の収益が20億円であり基準額以下であったとしても、日本の親会社との連結収益が基準額を超える場合は、報告義務が発生します。また、オーストラリアで事業を営む(Carry On Business)とみなされる海外企業の場合は、オーストラリアに子会社を保有していなくとも、適用を受ける可能性があります。

3.報告義務

 企業の会計年度末から6ヶ月以内に、現代奴隷法第16条の規定に則った内容の報告書を作成し、政府へ提出することが求められます。なお、グループ会社が共同で報告書を作成することも可能です。

 報告書の内容は、大別して主に以下の通りです。

 ・事業者の全世界のオペレーションまたはサプライチェーンにおいて現代奴隷(強制労働、劣悪な労働環境、債務束縛、人身売買、最も悪質な児童労働等)が行われているリスク
 ・事業者の管理する事業体における同様のリスク
 ・当該リスクの評価と対応のために事業者がとった措置(例えば、デューデリジェンス、ポリシー・対処手順の策定、内部通報ホットラインの構築、従業員トレーニング、サプライヤーとの契約・監査モニタリング等を通じた管理体制の構築等)
 ・当該措置の効果の評価方法、事業者の管理する事業体・サプライヤーとの協議プロセス
 ・その他の関連事項

 各企業の報告書は公表されており、政府HP(https://modernslaveryregister.gov.au/)にて閲覧することが可能です。

4.罰則

 所定の内容にそぐわない場合は、当局(移民・国境管理を行うAustralian Border Force)から指示を受けて28日以内に修正報告書を提出することが求められます。報告を怠ったとしても罰則や逮捕に至ることはありませんが、政府は報告義務を遵守しない企業を公表することができます。投資や消費者センチメントにおいてESGが重要視される中、企業にとって風評リスク・経済的損失につながる可能性が高いといえます。

5.おわりに

 現代奴隷法に基づく報告義務を負う企業は、報告書作成のための準備として、全世界の関連事業者について現代奴隷リスクの洗い出し、是正措置およびモニタリングを行うことが求められます。このためには、各事業者と協議、現地視察、現代奴隷リスクを加味した契約の締結、ホットラインの設置、ポリシーの策定・トレーニング、報告手順の確立等に代表される、一定の時間を要する複数の手立てを取ることが必要といえます。特に、過去に報告を実施していない企業、または今期同法の適用を受けることとなった企業は、専門家と協議の上、早急に対応を開始することが推奨されます。

以 上

2022年03月14日(月)9:22 AM

オーストラリアにおける労働者の分類に関する最近の判例と改正法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア雇用法:労働者の分類に関する最近の判例と改正法

 

オーストラリア雇用法:労働者の分類に関する最近の判例と改正法

2022年3月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの高等裁判所は、昨年から今年にかけて労働者の分類に関連した重要な判決を下しています。オーストラリアの雇用法上、労働者が正規の従業員(フルタイムまたはパートタイムのEmployee)か、臨時労働者(Casual Employee)か、または請負人(Independent Contractor)かによって、その権利および雇用主の義務に大きな違いがあり、労働者が雇用法上の権利を主張する際にその分類に関して度々問題となってきました。オーストラリアはコモン・ローの法域であるため、裁判所による法令に記載のこれらの定義(または定義のない事項)の解釈が重視されます。

 本稿では、オーストラリアの労働者の分類について最近の判例を基に解説いたします。

2.臨時労働者(Casual Employee)

 2021年8月4日、Workpac v Rossato事件[1]において、連邦最高裁判所(High Court of Australia)は、臨時労働者(Casual Employee)の分類に関するWorkPacの上訴に対し判決を下しました。この事件は、オーストラリアの主要な雇用法であるフェアワーク法(Fair Work Act 2009)における臨時労働者(Casual Employee)の定義について2021年3月に施行された改正前後を跨ぐ判決として注目が集まりました。事件の背景は、WorkPacの顧客に派遣され製造業務を行うためにWorkPacと複数の臨時労働契約を締結し従事したRossato氏が、年休や祝日等の正規社員(Permanent Employee)としての権利を主張したというものです。連邦最高裁判所は、Rossato氏は契約に合意された内容に基づいて臨時労働者であるとし、(契約内容のみでなく)全ての状況を総合的に勘案して判断しなければならないという最高裁の従来の見解を覆しました。この判決により、従業員が臨時労働者か否かの判断は、(1)無期限労働を継続するという確固たる事前の約束(a firm advance commitment to continuing an indefinite work)があるか否かが基準となり、(2)契約締結時に合意された契約条件が焦点であって、その後の当事者間の行為は焦点ではないことが明確にされました。

 2021年3月27日に施行されたフェアワーク法の新条項第15A条は、「合意された業務パターンにて継続的な仕事をするという確固たる事前のコミットメントがないこと(no firm advance commitment to ongoing work with an agreed pattern of work)を知りながら仕事のオファーを受け入れた者は臨時労働者である。」と規定しており、その判断には以下の4つの要素のみを考慮することが許可されます

・雇用主が仕事を提供することを選択でき、労働者が仕事を受け入れるか拒否するかを選択できるか否か。
・当該労働者が、雇用主のニーズに従って求められる仕事をするか否か。
・雇用が臨時労働として記述されているか否か。
・募集条件またはフェアワーク規制に基づき、臨時労働手当または臨時労働者向けの特定の賃金率の適用を受ける権利を有するか否か。

 以上から、現時点では、臨時労働が長期的かつ定期的なものであったとしても、契約締結時に当事者間で合意された契約条件に基づいて継続的に働くことを事前にコミットしない限り、必ずしも正規雇用であると解される可能性は高くないと言えます。

 他方、同改正法により、正規雇用に転換する臨時労働者の権利が追加されました。具体的には、雇用主のもとで少なくとも12ヶ月間働き、そのうちの最後の6ヶ月間は継続的に規則的な時間パターンで働いていた臨時労働者は、正規雇用(フルタイム雇用またはパートタイム雇用)への転換を申し受ける権利を有します。雇用主は、当該要件を満たす従業員が12か月間勤務した後21日以内に、雇用形態転換を申し出る義務を負います(ただし、オファーをしない合理的な事業上の理由がある場合はその旨を書面にて伝えることで拒否することができます)。従業員数15人未満の企業は、雇用形態転換の要件が免除される場合があります。更に雇用主は、臨時労働者の雇用時に、上記の雇用形態転換要件を含む臨時雇用情報説明書(Casual Employment Information Statement)を労働者へ提供しなければなりません。

3.独立請負人(Independent Contractor)

 2022年2月に、Personnel Contracting事件およびJamsek事件という2件について連邦最高裁判所の判決が下され、労働者が従業員(Employee)か独立した請負人(Independent Contractor)かを判断する上で、契約条件が主要な要素の一つであるという豪州裁判所の明確な見解が示されました。

 なお、オーストラリアでは、従業員に対しフェアワーク法に基づく様々な保護と権利が与えられているのに対し、独立請負人には与えられていません。

 まず、Personnel Contracting事件では、原告は雇用主との契約において独立した請負人と明記され、雇用主の顧客のために働いていました。連邦最高裁は、雇用主が原告の報酬を決定する権限を有しており、原告が雇用主の指示に従わない場合は雇用を終了させ、請求者が誰のために働くか、およびどのように仕事を行うかについて支配する権利を有する等の契約条件を総合的に鑑みて、雇用関係があったと判断しました。特筆すべきは、上述のWorkPac v Rossato事件と同様に、連邦最高裁は、その後の当事者の行為は重要でないとし、契約内容そのものに焦点を当てたことです。ここで注意したいのは、単に独立した請負人と表示するだけではその関係性を構成せず、契約条件の全体が独立した請負人としての関係であること(つまり、通常雇用者に与えられるような支配・管理権を伴うなどの雇用の関係が暗示されていないこと)が重要です。

 Jemasek事件は、それぞれの配偶者との事業パートナーシップ制度を利用して雇用主のトラック運転手として働いていた2人の原告が雇用関係の存在を主張し、雇用主に対し雇用法上の権利を主張した事件です。連邦最高裁は、雇用主のブランドを着用することが期待されていたことや雇用主との経済的依存関係等があったにも関わらず、これらの事実は、書面による契約を締結した後に生じた事実、あるいは契約外の事実であり、契約上の権利や義務を変更するものではないとして、雇用関係はなかったという判決を下しました。

4.おわりに

 雇用主としては、後に想定外の雇用法上の権利が主張されることを防ぐため、労働関係の明確な分類(従業員、臨時労働者、独立請負人)を含む雇用/請負契約条件を書面で記録しておくことが推奨されます。臨時労働者または請負人を雇う場合には、その分類名を記載するだけでなく、契約内容が実際に当該関係を反映するものであることが重要となります。一方で、契約外の事実は焦点とならないという上記の判決にもかかわらず、契約外で契約内容とは異なる意図を反映する表現をする場合に契約の変更があったとみなされるリスクもゼロではありませんので、あくまで契約の合意内容に則った雇用/契約関係を維持するよう注意が必要です。

 なお、雇用主は別途、フェアワーク法に基づく偽装請負(Sham Contracting)の規定にも留意する必要があります。この規定は、実際には雇用関係に通常与えられるような支配力、権利および義務を伴うにもかかわらず、労働者を独立請負人として偽装することを禁じる法令です。

以 上

[1] Workpac v Rossato & Ors [2021] HCA 23

2022年03月10日(木)10:16 AM

オーストラリアにおける個人情報保護法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:個人情報保護法の改正

 

オーストラリア:個人情報保護法の改正

2022年3月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

 オーストラリアの個人情報保護法(Privacy Act 1998 (Cth)、以下「プライバシー法」という)は、オンラインユーザーやデータ主体の保護を強化し、現代のデジタル時代に適合させることを目的として、現在、2段階にわたる改正の可能性が検討されています。なお、現行のプライバシー法の概要は以前のニューズレターに解説しています(https://oneasia.legal/6341)。

 本稿では、①改正第1段階として近い将来議会への提出が見込まれるオンライン・プライバシー法案(Online Privacy Bill)、および②改正第2段階起草のために一般からの意見公募をするディスカッション・ペーパー(Discussion Paper)について、その概要をご紹介します。

1.オンライン・プライバシー法案(Online Privacy Bill)

 2021年10月25日に、プライバシー法改正(オンライン・プライバシー等の強化)法案(Privacy Legislation Amendment (Enhancing Online Privacy and Other Measures) Bill 2021、以下「オンライン・プライバシー法案」という)の公開草案が発表されました。本法案は、オーストラリア政府による個人情報保護の強化政策始動の一要因となった2018年3月Facebook・Cambridge Analyticaのデータ不正収集事件に対応するものです[1]。 本法案は、下記に詳述する通り、罰則および執行手段を強化し、ソーシャルメディアやその他のオンライン・プラットフォームに対して拘束力のある実践規範(Code of Practice)を導入することを提案しています。政府は2021年12月6日まで実施した公開草案への意見公募を基に、議会に提出される最終法案を策定する予定です。本法案が可決された後12か月以内に、実践規範であるオンライン・プライバシーコード(Online Privacy Code)が策定・発効されます。

 まず、オンライン・プライバシー法案には、プライバシーに対する重大または反復的な妨害に対する民事上の最高刑を、個人の場合、現行の2,000から2,400ペナルティ・ユニット(現在約532,800豪ドル)に引き上げることが提案されています。さらに、法人に対する最高刑は、次のいずれか最も高い額を超えない金額に引き上げられます:①1000万豪ドル、②違法行為により企業が得た利益の3倍、③または違法行為発生直前の12カ月間の売上高の10%。これら罰則の引き上げは、最近のオーストラリア消費者法(Australian Consumer Law)における罰則の引き上げと同様のものです。

 また、オンライン・プライバシー法案には、プライバシー法を所管するオーストラリア情報コミッショナー(Australian Information Commissioner、以下「コミッショナー」という)の執行権限の強化も提案されています。例えば、調査の一環としてコミッショナーにより要求されたときに、情報を提供せず、質問に答えず、または文書や記録を提出しない者に対して、コミッショナーは違反通知(Infringement Notice)を発行する権限が付与されます[2]。さらに、コミッショナーが調査終了時の決定において宣告できる事項を拡大することも提案されています[3]

 公開草案には、コミッショナーまたは関連業界によるオンライン・プライバシーコード(Online Privacy Code、以下「OP コード」という)の策定を可能とする新たな規約制定権が盛り込まれています[4]。OPコードはコミッショナーにより発行され、ソーシャルメディアサービス、データ仲介サービス、および大規模オンライン・プラットフォーム[5](以下「OP団体」という)に適用される予定です。この他に公開草案には、通知や同意の要件、プライバシーポリシーの内容要件等、OPコードに含まれるべき要件のリストが規定されています。また、OPコードには、子供や弱者に対する保護を強化することを盛り込まれる予定です。例えば、OP団体は、顧客に対し、子供・弱者に関する個人情報の収集、使用および開示に同意する方法を明確に示すことが求められます。

2.ディスカッション・ペーパー(Discussion Paper)

 オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)の「デジタル・プラットフォームサービスに係る調査の最終報告書」(Digital Platforms Inquiry Final Report)が2019年に発表されて以降、プライバシー法に関する大幅な改正が検討されてきました。オーストラリア政府は、2021年10月25日に、一般からの意見募集を求めるプライバシー法改正に関するディスカッション・ペーパー(Privacy Act Review Discussion Paper)を発表しました。ディスカッション・ペーパーは200ページ超にわたり個人情報保護の強化に関する67の提案をしていますが、以下に、その中から主要な提案を概説します。

・「個人情報」(Personal Information)の定義を改定し、プライバシー法の適用範囲を拡大するとともに、EU 一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)等の国際的な法律と平仄を合わせる。
・「収集」(Collection)の定義を改定し、既に事業者が保持する情報から推測や創生された情報を含め、あらゆる情報源・手段から取得することが、個人情報の収集行為に関する義務の対象となることを明確にする。
・個人情報の収集の通知に関する新たな要件を導入する。例えば、プライバシー通知(Privacy Notice)は明確、最新かつ理解しやすいものでなければならないという明確な要件を導入する。
・個人情報の収集、使用および開示に関する追加的な保護規制を導入する。例えば、同意(Consent)に関する新しい定義を追加し、収集・使用・開示が状況に応じて公正かつ合理的であることを要件とする。
・16歳未満の未成年者の場合には、親または保護者による同意を必要とする。
・個人情報の収集、使用、および開示に対して、個人がいつでも異議を唱え、または同意を撤回することができる新しい権利(Right to Object)を導入する。
・一定の例外を除き、個人情報が機微な情報(Sensitive Information)である場合等の特定の理由に基づき、個人情報の消去を要求する権利(Right to Erasure)を導入する。
・ダイレクトマーケティング、ターゲティング広告、およびプロファイリングに関する新たな保護規制を導入する。例えば、ダイレクトマーケティングを目的とする事業者による個人情報の収集・使用・開示に対して、無条件で反対する権利を個人に付与する。
・個人情報へのアクセス権を拡大するため、個人からの開示請求に応じて、第三者から間接的に収集した個人情報の出所を特定することを各事業者に義務付ける(ただし実行不可能な場合、または不均衡な影響を伴う場合は免除される)。
・海外へのデータ移転に関する新たなルール・仕組みを導入する(認定国、認証制度、標準契約条項(SCC)の導入等)。
・プライバシーの侵害を受けた個人が違反事業者に対し直接的に求償できる権利を設定する。
・プライバシーの侵害に対する法定不法行為(Statutory Tort)を導入する。

 ディスカッション・ペーパーに関する意見公募は2022年1月10日に締め切られました。寄せられた意見はプライバシー法改正の最終報告書に反映されることが予定されています。今後の動向については、弊所のニューズレター等で随時アップデートして参ります。

以 上

 

[1]オンライン・プライバシー法案の説明資料(Online Privacy Bill Explanatory Paper)4頁

[2]オンライン・プライバシー法案公開草案第21条(プライバシー法に第80UB条を追加する提案)

[3]オンライン・プライバシー法案公開草案第9条および第10条(プライバシー法第52条の改正提案)

[4] 現行のプライバシー法においては、コミッショナーは、公共の利益であると考える場合にのみAPPコード(個人情報の取扱いに関する文書による実践規範)を発行することができます。発行手順としては、コミッショナーは、まず関連業界の専門家にAPPコードの作成を依頼しなければならず、当該業界がその依頼に応じない場合、または業界が作成したAPPコードをコミッショナーが発行しないと決定した場合にのみ、コミッショナーは自らAPPコードを作成し発行することができます。これに対し、後述するディスカッション・ペーパーでは、司法長官の指示または承認によりコミッショナーがAPPコードを作成できるよう、より柔軟な対応が提案されています。

[5] 大規模オンライン・プラットフォームとは、オーストラリアにおいて1年に少なくとも250万人のエンドユーザーを有するプラットフォームを指すと定義されています。

2022年02月12日(土)12:38 PM

オーストラリアにおける会社登録の手続きについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアにおける会社登録の手続き

 

オーストラリアにおける会社登録の手続き

2022年2月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.外国企業の登録要件

 外国企業がオーストラリアにおいて事業を行う場合は、オーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities Investments Commission)への登録が求められます。オーストラリアにて事業を行う(Carrying On Business)か否かは、会社法に明確な定義は存せず、多くの判例法にてその定義が発達しており、外国企業のオーストラリアでの活動その他様々な事情を勘案して判断されます。一般的には、オーストラリアに何かしらの拠点をもち営業活動を行い、例外規定[1]に該当しない場合にはこれに該当する可能性が高いと言えます。

 登録方法は、外国企業の支店(法人格は外国企業本社と同一)としての登録、または現地オーストラリアにて子会社を設立しての登録のいずれかの方法が可能です。

2.各種申請および事業者番号の取得

 外国企業の支店(Branch Office)として登録する場合は、まず企業名がオーストラリアにおいて既に存在しないことを確認のうえ、申請書(Form 402)を作成・署名し、外国での企業登記証明・定款とその英訳その他必要書類および費用と共にASICへ提出します。また登録には、オーストラリア居住者である現地代理人(Local Agent)を任命することが求められます。申請後のASICによる審査期間は、書類の不備等の特別な事情が存在しない限り、平均で1~2週間ほどで完了します。登録が完了すると、登録事業体番号(ARBN:Australian Registered Body Number)が発行されます。

 現地オーストラリアにて子会社を設立する場合は、取締役(必ず1名はオーストラリア居住者)を選任し、登録住所に事業所を開設し、株主登記簿を作成して、資本を投入するという一連の作業を行います。子会社の登録申請は、所管事務局である事業登記サービス(Business Registration Service)に対して、必要書類および費用と併せてオンラインで行い、登録されると、企業番号(ACN:Australian Company Number)が発行されます。なお、非公開会社の場合は定款(Constitution)の作成は任意ですが、定款がない場合に会社の運営は自動的に会社法上のReplaceable Rulesという任意規定に拘束されるため、会社設立時に、このReplaceable Rulesの規定を排除または変更するために定款を作成する会社が多いです。

 上述の通りARBNまたはACNを取得した後は、事業番号(ABN:Australian Business Number)を申請します。ABNは、GST登録、源泉徴収システム(Pay As You Go (PAYG) Withholding)等の税務目的で必要となります。オンラインで全ての情報を入力し申請すれば、直後に自動的にABNを取得することが可能ですが、書類に不備があった場合は、職員の審査を要するため28日程度要する可能性があります。

3.税務関連の登録

 税務に関しては、主に以下の登録が求められます。

 ・GST(Goods and Services Tax):一般的に年間売り上げが75,000豪ドルを以上の場合
 ・源泉徴収システム(Pay As You Go (PAYG) Withholding):主に給与支払い時の源泉徴収目的
 ・付加給付税(Fringe Benefits Tax):従業員やその関係者に提供される特定の追加給付に対して支払われる税金(所得税とは別)
 ・燃料税の控除(Fuel Tax Credits):事業活動で使用する燃料の価格に含まれる一定の燃料税(物品税または関税)の控除を申請する場合
 ・税務局(ATO:Australian Tax Office)より納税者番号(TFN:Tax File Number)の発行
※GST、PAYG、およびTFNの登録は、ABNの登録時に同時に申請が可能でです。また、上記の税務登録はすべてBusiness Registration Service で行うことができます。

4.取締役身元証明番号(DIN)の取得

 従来、オーストラリアでは、取締役が支払不能に陥った会社の債務を残して資産を新会社に譲渡し、その後新会社の取締役として再任するフェニックス行為(Phoenix Activity)の横行が問題視されていました。これに関連して、今年2月には、反フェニックス法[2]が施行され、取締役の辞任時の当局への通知の義務化、および当局による取締役の個人的な責任追及の権限が強化されました。

 このような背景から、2011年11月より、支店登録か子会社設立かを問わず、取締役身元証明番号(DIN:Director Identification Number)の取得が必須となりました。DINはフェニックス行為等の不正行為に関与した取締役の個人的責任の追及を容易にすることが目的とされています。DINは一度取得すると、生涯当該個人に紐づきます。そのため、個人が別会社の取締役となった場合でもDINに変更はなく、個人による不正行為等があった場合のトレーシングが可能となります。

 DIN取得の申請に必要な書類は、取締役がオーストラリア居住者か否かにより異なりますが、非居住者の場合は、出生証明またはパスポート、および政府機関発行のその他の身元証明(運転免許証等)の認証コピー(Certified True Copy)をその英訳、申請書 と共にABRS(Australian Business Registry Services)へ提出することが求められます。支店登録の場合は、原則として本社(外国企業)の全ての取締役についてDINの取得が求められるため、支店登録のための書類の収集および申請手続きに従前の登録作業よりも時間を要することが想定されます。

 2021年10月31日までに選任された取締役は、2022年11月30日までDIN取得申請の猶予期間が設けられています。2021年11月1日~2022年4月4日(両日含む)の間に取締役に選任された場合は、選任後28日間以内に取得することが求められます。一方で、2022年4月5日以降に選任予定の取締役は、選任前にDINを申請しなければなりません。

以 上

 

[1] 株主総会の開催、銀行口座の開設、資産の保有、担保の設定行使、31日以内に完結する単発の取引等一定の行為については、その行為のみ行う場合にCarry On Businessに該当はしない(会社法21条)。

[2] The Treasury Laws Amendment (Combating Illegal Phoenixing) Bill 2019

2022年01月11日(火)5:36 PM

オーストラリアにおける重要インフラ安全保障法の改正と外資規制への影響についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:重要インフラ安全保障法の改正と外資規制への影響

 

オーストラリア:重要インフラ安全保障法の改正と外資規制への影響

2022年1月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.重要インフラ安全保障法

 重要インフラ安全保障法(Security of Critical Infrastructure Act 2018)(以下「SOCI法」という)は、オーストラリアの重要インフラへの国家安全保障のリスクを管理するために2018年に施行されました。SOCI法において対象企業に課される主な義務は、重要インフラ資産の登記、サイバー・インシデントの報告、政府による情報収集・インシデント発生時の介入に対する対応等が挙げられます。

 近年の国際的なインフラに対するサイバー攻撃件数の増加を背景に、最近の法改正によりオーストラリア政府はSOCI法の適用対象となる業界を大幅に拡大し、更に対象企業の義務および政府の権限の強化を図っています。また当該改正は、オーストラリアの外資規制において当局の事前承認を必要とする国家安全保障に関わる事業(National Security Business)の定義を直接に拡大する効果があるため、該当分野においてオーストラリア進出を検討する日本企業、または既に進出している企業にとっても重要な改正と言えます。

 本ニューズレターでは、SOCI法に関する最近の改正法、および現在パブリックコメントを受付けている公開草案について解説いたします。

2.改正法①(施行済み)

 今回の改正法は2段階に分けて行われましたが、その1段階目として、2021年12月2日に、主にサイバーセキュリティに関する義務を重要インフラの責任事業体(Responsible Entities)[1]に対し課すSecurity Legislation Amendment (Critical Infrastructure) Bill 2021が施行されました。当改正前は、ガス、電気、水および港の分野にのみSOCI法が適用されていましたが、現在は、以下の各分野における責任事業体は、新たに追加されたサイバー・インシデント報告義務、既存の重要インフラ登記義務、および有事の際の政府の拡大された権限[2]について適用対象となります。

・データ保管・処理
・通信
・防衛
・エネルギー
・金融サービス・市場
・食品・食料品
・ヘルスケア・医療
・高等教育・研究
・宇宙技術
・輸送
・水・下水処理

サイバー・インシデント報告義務とは

 責任事業体が、重要インフラの利用可能性に重大な影響を与えるサイバー攻撃等を受けたまたは受けることを認識した場合に、その時点から12時間、または当該影響が重大でない場合は72時間以内に、政府の発行する規則に指定される関連当局へ通知することが求められる義務を指します。

重要インフラ資産登記簿(Register of Critical Infrastructure Assets)

 責任事業体は、自己の重要インフラ資産について重要インフラ資産登記簿に対し、資産の場所、利用地域、責任事業体の詳細、運営業者(Operators)の詳細等、所定の情報提供をしなければなりません。Direct Interest保持者についても、自己の保持する権益、当該資産に関し保持する支配力等の情報を提供することが求められます。これらの義務は改正前に既に存在した義務ですが、上述の通り、SOCI法の適用対象となる分野が拡大したことから、新たに追加された分野にて重要インフラ資産を管理する事業者は登記手続きを進める必要があります。

政府の権限強化

 重要インフラの利用可能性に重大な影響を与えるサイバー攻撃等の事態が発生し、社会的・経済的な安定、防衛、または国家安全に深刻な悪影響をあたるリスクが存在すると認められる場合は、一定の制限の下に、各分野の関連大臣は、情報提供命令、差し止め命令、介入命令等を発令する権限が付与されます。

 ただし、当改正によるサイバーセキュリティに関する義務は、今後政府により発行される規則により発効されるため、全ての分野・資産に対して自動的に適用されるものではありません。現在草案が公開されている規則については、下記3でご紹介します。

3.改正法②

 2021年12月に、上述の改正法を実質的に発効させる規則としてSecurity of Critical Infrastructure (Definitions) Rules 2021 (Cth)(以下「定義規則」という)の登録、およびSecurity of Critical Infrastructure (Application) Rules 2021(以下「適用規則」という)の公開草案発表がありました。

 定義規則(https://www.legislation.gov.au/Details/F2021L01769)は2022年12月14日付で発効されており、SOCI法の適用を受ける各分野の重要インフラ資産を具体的に定義づけるものです。以下の重要インフラ資産が定義づけられています。

・Critical Electricity Asset
・Critical Gas Asset
・Critical Liquid Fuel Asset
・Critical Freight Infrastructure Asset
・Critical Freight Services Asset
・Critical Financial Market Infrastructure Asset
・Critical Broadcasting Asset
・Critical Banking Asset
・Critical Insurance Asset
・Critical Superannuation Asset
・Critical Food and Grocery Asset
・Critical Domain Name System

 適用規則については、公開草案の段階であり、2022年2月1日までパブリックコメントが受付けられています。現段階では、主に以下の各分野に関し、前記2の主要義務が発効されることが予定されています。

サイバー・インシデント報告義務

・エネルギー(電気、ガス、液体)
・運輸
・メディア
・銀行
・保険
・食品・食料品
・ドメインネーム
・教育
・水
・データ保管・処理
・病院
・港
・航空
・公共交通機関
・金融

重要インフラ資産登記簿(Register of Critical Infrastructure Assets)

・エネルギー(電気、ガス、液体)
・運輸
・メディア
・食品・食料品
・ドメインネーム
・水
・データ保管・処理
・病院
・港
・公共交通機関
・支払いシステム

 電気通信(Telecommunication)および防衛については、今回の適用規則において義務の発効が予定されていません。なお電気通信については、別途関連法の改正を行うことが示唆されています。

 また、改正法第2弾として、Security Legislation Amendment (Critical Infrastructure Protection) Bill 2022、およびTransport Security Amendment (Critical Infrastructure) Bill 2022の公開草案が公開されています。いずれも、重要インフラを管理する責任者に対して更なるサイバーセキュリティ対策・報告義務を課す内容です。

4.外資規制への影響

 オーストラリアでは、国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)に該当する外国投資家の行為は、外国投資審査委員会(FIRB:Foreign Investment Review Board)からの事前承認の取得が必要です。国家安全に関わる通知行為とは、主に、国家安全事業(National Security Business)を開始する、または国家安全事業の10%以上の権益を取得する(もしくは一定の支配権を取得する)場合を指します。

 外資規制法(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)には、国家安全事業の一つとして、SOCI法に規定される責任事業体(Responsible Entity)がオーストラリアで営む事業であり、当該事業が重要インフラ資産に関して10%以上の権益(または一定の支配権)を保持する場合と定義されています。従って、今後前記2にて記述した各分野の重要インフラ資産を保持する事業へ投資を行う海外投資家は、投資額に限らず、外資規制当局の承認を取得することが求められます。実務上は、投資契約に外資規制の承認を取得することを前提条件とすること、当該承認取得までの期間(複雑な案件でない場合は一般的に2~4か月)を考慮した投資計画とすること、および投資前のデューデリジェンスにおいて上述のSOCI法の義務が遵守されていることを確認する等の配慮が必要となります。

 

以 上

[1] 責任事業体(Responsible Entities)とは、主に需要インフラ資産を運営することをライセンスされている事業体であり、分野ごとに特定の意味が与えられている(SOCI法第5条、第12L条他)。

[2] 政府の権限については、責任事業体のみでなく、Direct Interest(主に10%以上の権利)保持者、運営者(Operators)、運用管理代行業者に対しても行使されます。

2021年12月14日(火)4:17 PM

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組みについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組み

 

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組み

2021年12月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.不動産法の基礎概念

 オーストラリアの土地を所有する権利は、Freeholdと呼称されます。概念上は、君主(Crown)が土地の絶対的な所有権を有するものとされていますが、実質的には、国が一定の権限を行使する場合を除きFreeholdの権者(一般個人・法人等)は、無期限に土地を自由に処分することが可能です。国や州が民間に対し一定期間の土地の使用を許可するLeaseholdという所有形態も存在します。区分所有物件(Strata Title)という概念も存在します。なお、オーストラリアでは、建物は土地の付随物(Fixtures)と考えられているため、一般的には土地と建物は別々に譲渡されません。

 オーストラリアは不動産登記制度Torrens Systemを採用しており、不動産の権利は、登記されることで発効されて第三者への対抗要件となります(Title by Registration)。登記制度は州・準州の各法令に基づいて規制されています。この他にも不動産および建設に関する法令は、州・準州により異なります。

2.不動産投資に関わる外資規制

 外国企業がオーストラリアへ不動産投資をする場合は、外資規制法であるForeign Acquisitions and Takeovers Act 1975およびその下位規則(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulation 2015)の適用を受けます。外資規制法については前回のニューズレター(https://oneasia.legal/6062)にて紹介した通り、「外国人」が一定の権益を取得する場合に、外国投資審査機関(FIRB:Foreign Investment Review Board)の承認を取得することが求められます。「外国人」とは、非居住者、外国人が単独で20%以上を保有する法人・信託、または複数の外国人が合計40%以上を保有する法人・信託、およびそれらの関連会社等の関連者(Associate)を含みます。

 特に不動産投資については、主に以下の権益を取得する場合にFIRBの承認が必要となります。

 ・所有権
 ・更新期間を含み合理的に5年を超える賃借権(Lease)
 ・使用権(License)
 ・採取権(Profit a Prendre)
 ・抵当権
 ・全資産の50%超が豪州不動産である会社の株式(オプションを含む)、信託の受益権または信託会社(Trustee)の株式

 基準額は、居住地、更地の商業地もしくは鉱業権の取得、または外国政府投資家による土地の取得の場合は、原則として0豪ドルのため、全ての取得行為についてFIRBの承認が求められます。一方で、開発がされた商業地の場合は、1,216M豪ドル(日本を含む貿易条約締結国の投資家の場合は281M豪ドル)、センシティブな土地の場合は61M豪ドル、農業用地は15Mドルといった異なる基準額が適用されます。なお、基準額は毎年変動されます。

 ただし、上記の規制には一定の例外が存在します。例えば、貸付事業の過程で担保目的のために不動産の抵当権を設定する場合は、FIRBの承認を取得する必要はありません。ただし、担保不動産が居住地の場合は、外国人投資家が、オーストラリアまたは海外にてライセンスを受けている金融機関であるか、または上場会社(上場信託)もしくは100名以上の株主(受益者)がいる会社(信託)でなければなりません。

 また、開発業者が外国人へ転売目的で建設した物件についてFIRBから免除証明(Exemption Certificate)を取得しており、当該免除証明の条件を満たす場合は、物件の買主はFIRBからの承認を得る必要はありません。

 この他に、外国政府投資家は基本的に全ての投資についてFIRBの承認が必要(つまり基準額が0豪ドル)であるところ、政府系の受動的投資ファンド(投資信託等)については、単独の政府系投資家の持分が20%未満の場合に、民間投資家と同様の基準額の適用を受けることができます。

 2021年1月に新たに導入された規制として、国家安全に関わる土地(National Security Land)を取得する場合は、投資額に関係なくFIRBへの通知が求められます。国家安全に関わる土地(National Security Land)とは、国防施設、国家諜報に関連する土地、およびその他財務長官が定めた土地のことを指します。投資家としては、合理的な範囲でのデューデリジェンスを行い、投資に関連する土地がNational Security Landでないことを確認することが重要です。

3.不動産投資方法

 オーストラリアにおける不動産投資方法は、不動産の所有権の取得、賃貸、売却目的の開発、プロジェクトファイナンス、および不動産ファンドへの投資等、多岐に渡ります。日本企業がオーストラリアで現地開発業者のJVプロジェクトに投資し、または自ら不動産の開発に関わる場合は、リスク分散や税務・会計の観点から現地でSPV(Special Purpose Vehicle)を設立することが一般的です。その場合は、上述の通り、出資比率や投資額によってはFIRBの承認が必要となります。オーストラリアへの進出形態については、こちらのニューズレター(https://oneasia.legal/6525)にて紹介しています。

 この他に、オーストラリアの会社法(Corporations Act 2001)において集団投資信託(MIT:Managed Investment Trust)として区分される、豪州の金融機関ライセンス(Financial Service Licence)を受けた者により運営されている不動産ファンドへ投資することで、外国人投資家は税務優遇措置を受けることができます(通常は30%の源泉徴収税が発生するところ、10%または15%にディスカウントされる)。

4.建設に関する法令

 オーストラリアで不動産を開発する場合は、上述の通り必要なFIRBの承認を得て土地を取得した後、管轄当局(州・Local Council)の都市計画に基づく開発許可(Development Approval)および州政府の建築安全基準に則った建設許可(Construction Permit)を取得して開発に着手し、開発後は占有許可(Occupation Certificate)の取得および各種登記を行います。

 建設下請に際しては、オーストラリアでは支払保証法(Security of Payment Act)に関する訴訟が多くみられます。支払保証法とは、建設工事や関連商品・役務を提供する事業者が、所定の手続きを踏むことで、作業進行に応じて部分払い(Progress Payment)を受領することができる権利を定めた法令です。ニューサウスウェールズ州裁判所は、TFM Epping Land Pty Ltd v Decon Australia Pty Ltd[1]において、特定の手続き手順および時間枠を厳密に遵守することの重要性を強調しました。オーストラリアにて開発を行う場合は、委託する側であるか下請業者かにかかわらず、関連する州・準州の支払保証法に基づく支払い請求の手続きおよび時間枠を確認しておくことが推奨されます。なお、ニューサウスウェールズ州の支払保証法であるBuilding and Construction Industry Security of Payment Act 1999(NSW)は、2019年10月21日に大幅な改正が行われ、主な改正点として、これまで紛争の主な原因となっていた支払請求権の基準日(Reference Date)という概念が削除され、基準日に依ることなく毎月支払請求を提出する権利に変更となっています。

 以上の通り、不動産投資および開発には外資規制、現地での不動産取得手続き、建設業法に至るまで、様々な法令を念頭に進める必要があります。日本企業としては、投資計画の初期段階から、現地の不動産・建設業界に精通した専門家のアドバイスを受けることが重要です。

以 上

 

[1] TFM Epping Land Pty Ltd v Decon Australia Pty Ltd [2020] NSWCA 118

2021年10月14日(木)10:56 AM

オーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要および改正点についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:フランチャイズ法の概要および改正点

 

オーストラリア:フランチャイズ法の概要および改正点

2021年10月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアでフランチャイズ事業を行う場合、または車両の販売代理店契約を締結する場合は、Franchising Code of Conduct[1](以下「Code」という)を遵守しなければなりません。

 Codeは競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))に基づいて規定される強制業界規則という位置づけであり、法律と同様の効果を有しています。フランチャイジーとフランチャイザーの両者の行動を規制することが目的とされているものの、主にフランチャイジー保護の内容であり、2021年7月1日に施行された改正法[2]によりフランチャイザーの義務が更に厳格化されています。また、2021年9月には罰則の強化を図る改正法[3]も施行されています。かようにオーストラリアは他の法域と比較しても、フランチャイジーの保護が求められており、フランチャイズ方式、代理店方式などで進出を検討している日本企業は特に注意が必要です。

 本ニュースレターでは、かようなオーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要およびその最近の法改正を踏まえたCodeの概要をご紹介します。

2.適用対象

 Codeは、「フランチャイズ契約」に関連する行為に適用されます。フランチャイズ契約とは、主に、①フランチャイザーのシステムやマーケティング計画に基づいて商品や役務を提供する事業の実施を許諾し、②事業の運営がフランチャイザーの指定する商標等と実質的に関連し、または③フランチャイジーに事業の初期費用・ロイヤリティ等の支払いを求める契約のことを指します。書面の契約だけでなく、口頭または暗示的な契約であっても、上記のいずれかに該当する場合はフランチャイズ契約とみなされます。そのため、仮に「Franchise Agreement」と題された契約が締結されていなくとも、実質的なフランチャイズ契約の関係にある場合は、Codeの適用を受けることに注意が必要です

 車両の販売店契約および代理店契約(Motor Vehicle Dealership)の関係もフランチャイズとしてCodeにより規制される可能性があります。これに加えて、新車の乗用車または軽貨物車が主要な取引対象である場合は、2020 年6月に導入された別途の規制(Code第5部)の適用を受ける可能性があります。

 ただし、他の強制業界規則が適用される場合、または、いわゆる”Fractional Franchise”の場合は、例外としてCodeの適用を受けません。”Fractional Franchise”とは、米国でも存在する免除規定ですが、フランチャイジーの売上全体に対してフランチャイズ契約の対象となる商品または役務の売上の占める割合が一定以下の場合に、規制適用が除外されるという概念です。

 オーストラリアでは、フランチャイズ契約を締結する前にフランチャイジーが2年間以上提供していた商品または役務と実質的に同じ商品または役務を提供するフランチャイズ契約を締結する場合であって、かつ、当該フランチャイズ契約に基づく初年度の売上が、フランチャイジーの提供する同類の商品または役務の売上全体に対して20%を超えない可能性が高い場合に、Codeの適用が免除されます。

 他方、当該免除規定の運用には不明確な点が多く、例えば、規模の大きいフランチャイジーはブランド毎に子会社を設立し、子会社が実質的なフランチャイジーとなることが一般的ですが、その場合に、仮に親会社がFractional Franchiseの要件を満たすとしても、新設された子会社が契約上のフランチャイジーであってFractional Franchiseの要件を満たさない場合は、免除規定の適用を受けずフランチャイザーはCodeを遵守しなければならないと解釈できます。また、何をもって「実質的に同じ」商品または役務と言えるかについても明確なガイドラインがなく、当該免除規定に判然に依拠できる場合は限定されるのが現状と言えます。

3.誠意を持って行動する義務(Obligation to Act in Good Faith)

 Codeの適用を受けるフランチャイズ関係においては、フランチャイザーおよびフランチャイジーの両者がお互いに対し誠意を持って行動する義務を負います。本義務は、フランチャイジー候補との契約交渉から始まり、契約の履行、紛争解決、契約終了、そして契約終了後の残存義務の履行に至るまでの全ての行為について包括的に適用されます。フランチャイザーに対し商業上の利権の放棄や契約更新等を強制するものではありませんが、フランチャイザーとしては、フランチャイジーによる権利行使に誠実に対応する、合理的な理由に基づいた決定を下す、といったような姿勢が求められます。一方で、虚偽の情報を提供する、根拠なく契約終了を強要する、エリア独占権の侵害行為を黙認する等の行為は、不誠実とみなされる可能性が高いと解釈されます。

4.事前開示義務

 Codeには、様々な資料をフランチャイジーへ事前に開示する義務が規定されています。まず、フランチャイザーは、フランチャイジー候補が正式にフランチャイズ権取得の意思を示した段階で速やかに、Information Statementをフランチャイジーへ提供しなければなりません。Information Statementはオーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)の発行するフランチャイズ権取得前の検討事項等の一般的な情報をまとめたパンフレットで、ACCCのウェブサイトからPDFの入手が可能です[4]

 次に、フランチャイザーは、フランチャイズ契約締結または返金不可の支払いを受ける14日前までに、開示書類(Disclosure Document)をフランチャイジーへ提供する必要があります。Disclosure DocumentはCodeの別紙1に記載の内容をカバーしなければならず、フォーマットについても細則が存在します。その内容は多岐に渡り、例えば、フランチャイザーの詳細(事業実績、財務情報、係属中の訴訟、過去の違反等)、フランチャイズの詳細(現行のフランチャイズ事業、過去のフランチャイズ終了の経緯等を含む)、知的財産権、サプライヤー関連情報(リベート情報を含む)、各種費用の詳細等が挙げられます。

 2021年11月1日からは、Disclosure Documentに記載が求められる内容に変更が加わります。例えば、フランチャイジーがサプライヤーから受領するリベート、物件賃貸、ADRによる紛争処理、設備投資(Capital Expenditure)等に関わる情報について、追加詳細の記載が求められます。この点に関連して、2021年7月1日以降に締結される契約においては、法令で求められる場合を除き、Disclosure Documentに記載がされていない重大な設備投資(Significant Capital Expenditure)をフランチャイジーへ強制することはできません。

 この他に、フランチャイザーは、以下の資料も事前開示しなければなりません。

 ・フランチャイズ契約  ・Key Facts Sheet[5]  ・Code  ・物件賃貸関連資料  ・その他フランチャイズに関し締結が予定される契約

 Disclosure Documentおよび上述の資料は、新たなフランチャイズ契約締結時のみでなく、フランチャイズ契約の更新時、および契約の重大な変更がある場合にも事前に開示する必要があります。開示後は、フランチャイジーより各種声明書を受領しなければなりません。

 なお、Disclosure DocumentおよびKey Facts Sheetは1年に1度、フランチャイザーの会計年度終了の4か月以内にアップデートすることが求められます。

5.フランチャイズ契約

 フランチャイズ契約の内容については、Codeにより各種制限が存在します。例えば、契約終了権、フランチャイジーによる契約譲渡権、販促費用の積立て、弁護士費用の負担、紛争解決方法、競業避止義務の効力、クーリングオフ期間等多岐に渡ります。

 2021年7月1日に施行された法改正により、主に以下の規制が変更となっており、今後締結されるフランチャイズ契約(契約の更新・重大な変更を含む)はこれらを反映することが求められます。

・フランチャイジーは契約期間中いつでも契約終了を提案することが可能となり、提案を受けたフランチャイザーは、28日以内に書面により実質的な回答をしなければなりません。 ・フランチャイザーは従前の通りフランチャイジーの倒産・違法行為など特別な事情がある場合に契約終了権を持ちますが、その場合も7日間の通知をし、フランチャイジーが異議を申立てた場合は当該期間が28日間延長されます。 ・クーリングオフ期間が、フランチャイズ契約締結日から起算して14日間に延長されます。更に、クーリングオフ期間は、物件賃貸に関する資料が提供されるまで開始しません。 ・紛争解決方法にConciliation(調停)が追加されます。なお当事者は紛争時にオーストラリアでのADR手続きを踏まなければならず、契約にも所定のADR手続きの記載が必要です。 ・フランチャイズ契約の準備にかかる弁護士費用について、一定の条件を満たさない限り、原則としてフランチャイジーに支払いを求めることはできません。 ・フランチャイザーが一方的に契約内容を修正することは明確に禁止されます。

6.罰則

 違反毎の罰金は、現行では最高300ペナルティ・ユニット(およそ6.7万豪ドル)ですが、2021年9月に施行された法改正により、競争消費者法における最高額と同等(1000万豪ドル、違反から得た利益の3倍、または年間連結売上の10%)の設定が可能となっています。ただし、当該設定がなされない場合は、最高600ペナルティ・ユニット(およそ13万豪ドル)まで科料が可能とされています。

7.おわりに

 フランチャイズ法には上述の他にも細かな規定が存在するため、フランチャイズ候補または販売代理店候補との交渉の段階から専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。また、フランチャイズ法は近年立て続けに改正がなされており、今後はフランチャイザーの開示登記制度(Franchise Disclosure Register)の制定の法改正[6]が見込まれていることから、フランチャイザーの立場の企業としては今後の動向が注目されます。

以 上

 

[1] Competition and Consumer (Industry Codes – Franchising) Regulation 2014, Schedule 1

[2] Competition and Consumer (Industry Codes–Franchising) Amendment (Fairness in Franchising) Regulations 2021

[3] Treasury Laws Amendment (2021 Measures No 6) Act 2021 (Cth), Schedule 2

[4] https://www.accc.gov.au/system/files/Information%20statement%20for%20prospective%20franchisees_0.pdf

[5]フランチャイズ事業の重要事項をまとめた書面を指す。以下ACCCの提供するSmartFormにて作成可能。

https://forms.business.gov.au/smartforms/servlet/SmartForm.html?formCode=franchisor-key-fact

[6] 新たにフランチャイズの登記制度を確立し、フランチャイザーにDisclosure Documentの内容(ただし個人情報やセンシティブな情報は除く)を登記させて一般に公開するという内容の改正法案が検討されている。政府は2021年10月29日まで、本法案のパブリックコメントを受付けている。https://treasury.gov.au/consultation/c2021-210402

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