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2023年10月03日(火)1:00 PM

オーストラリアの不公正契約条項規制の改正についてニュースレターを発行いたしました。 こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

オーストラリア:不公正契約条項規制の改正

オーストラリア:不公正契約条項規制の改正

2023年10月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 2023年11月9日より、競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))における不公正契約条項(Unfair Contract Terms)に関する規制の改正が施行されます。この日付以降は、従前の当該規制の適用範囲が拡大され、かつ違反行為に対する罰則が導入されます。オーストラリアの不公正契約条項規制は、BtoCの契約のみでなく、BtoBの契約にも適用されるため、オーストラリアで事業を行うすべての企業は本規制および本法改正に留意する必要があります。

 本稿では、オーストラリアの不公正契約条項規制の概要および法改正の留意点について概説します。

2.不公正契約条項規制とは

 オーストラリアにおいて不公正契約条項規制とは、不公正とみなされる条項を含む標準型契約(Standard Form Contract)を規制する法令です。標準型契約とは、一般に、一当事者により作成され、締結前に他方当事者が交渉を行う機会を付与されることなく締結された契約を指します。そのため、いわゆる利用規約等の標準約款だけでなく、通常の契約書であっても、交渉力の違い、相手方に対し締結前に条項の交渉を行う機会が与えられたか否か等の事情を考慮し、これに該当すると判断される可能性があります。当事者の一方の主張により標準型契約であることの推定がなされ、他方当事者が反証の証明責任を負います。

 条項が不公正か否かは、契約内容を包括的に鑑みて、以下の要件を基にに判断されます。

  • 当事者間の権利義務に重大な不均衡を生じさせるか
  • 一当事者の公正な利益を保護するために合理的に必要か
  • 一当事者に対し(金銭面に限らない)不利益を生じさせるか


 不公正契約条項の例として、以下のような条項が挙げられます。

  • 当事者の一方にのみ、契約の履行を回避または制限する権利を与える規定
  • 当事者の一方にのみ、契約を終了する権利を与える規定
  • 当事者の一方にのみ、契約違反または終了について他方当事者を罰する権利を与える規定
  • 当事者の一方にのみ、契約条項や条件を変更する権利を与える規定
  • 当事者の一方にのみ、契約更新の可否の決定権を与える規定
  • 当事者の一方が、独断で、契約違反の有無、契約の解釈等を決定することができるとする規定
  • 当事者の一方に、他方当事者の承諾なしに契約を譲渡する権利を付与する規定
  • 当事者の一方に対して、その提訴権を制限したり、立証責任を課したりする規定

3.留意すべき改正点

 2023年11月9日以降に締結、更新または延長が行われる契約は、法改正の影響を受けるため、特に以下の点に留意する必要があります。

  • 適用対象の拡大:契約金額の最低基準が撤廃され、契約金額に拘わらず、すべての標準型契約が適用対象となります。また、適用対象となる事業者の規模が拡大され、一当事者の従業員数が100名未満または年間売上が1000万豪ドル未満の場合に規制対象となります。
  • 標準型契約の判断基準の明確化:一定のオプションの中から条件を選択できる場合や、重要でないマイナーな点の交渉を行う機会があった場合でも、標準型契約に該当する可能性があることが明確にされました。
  • 罰則の導入:違反行為について罰則が導入されます。不公正契約条項の入った標準型契約を締結することと、不公正契約条項に依拠することが、それぞれ別の違反行為に指定されるため、複数の契約相手が存在し、複数の不公正契約条項に依拠し、または各不公正契約条項を複数回にわたり依拠する場合などにおいて、罰金が高額となる可能性があります。罰則の最高額は、2022年11月10日に大幅に増額されており、5000万豪ドル、違反行為により得た利益の3倍、または違反行為の期間中の売上高の30%のいずれか最も高い額です。
  • 裁判所の命令権の拡大:既存契約に類似の不公正契約条項が含まれる場合は、当該契約の使用禁止等が命じられる可能性があります。

4.おわりに

 本法改正は、2023年11月9日以降に新たに締結する契約だけでなく、既存契約を今後更新または延長する場合にも適用されます。また、事業者同士の契約であっても、一当事者の規模が所定基準未満の場合に規制対象となります。高額の罰金および契約の無効化という、経営への大きな支障となり得る事態を避けるため、オーストラリアで事業を行うすべての企業は、今一度、既存契約および新たに締結する契約が不公正契約条項規制に違反しないことの確認を実施することが推奨されます。

2023年07月14日(金)5:23 PM

オーストラリア労働法アップデート:第2弾フェアワーク法改正についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

オーストラリア労働法アップデート:第2弾フェアワーク法改正

オーストラリア労働法アップデート:第2弾フェアワーク法改正

2023年7月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 2023年6月22日に、昨年の改正(the Fair Work Legislation Amendment (Secure Jobs, Better Pay) Act)に続き第2弾となる、フェアワーク法(Fair Work Act 2009 (Cth))の改正法案(Fair Work Legislation Amendment (Protecting Worker Entitlements) Bill 2023)が可決され、同月30日に勅許を受け施行されました。本改正法により、無給育児休暇の取得柔軟化、スーパーアニュエーションの全国雇用基準化、外国人労働者の雇用法における権利の明確化等、従業員の権利保護を更に強化する規定がフェアワーク法に盛り込まれています。
 本稿では、本改正法の重要ポイントについてご紹介します。

2.無給の育児休暇

 弊所のニューズレター(https://oneasia.legal/9758)にてご紹介した、2023年有給育児休暇改正法(Paid Parental Leave Amendment (Improvements for Families and Gender Equality) Act 2023 (Cth))による有給育児休暇制度(政府による育児休暇の補助金支給制度)の改正に平仄を合わせるため、無給育児休暇についても以下のような改正が行われました。

• 無給育児休暇は子の出生から24か月の間にいつでも取得が可能
• 原則として連続で取得しなければならない12か月間の無給育児休暇のうち、100日間を日単位でより柔軟に取得することが可能
• パートナーが同時に取得できる日数の限定を排除
• パートナーの取得した日数にかかわらず、無給育児休暇を合計24か月となるまで延長可能

 本改正事項は、2023年7月1日より発効されています。

3.スーパーアニュエーション

 スーパーアニュエーションの支払義務が全国雇用基準(NES:National Employment Standards)の第12項としてに盛り込まれます。これにより、スーパーアニュエーションの支払義務を怠った雇用主に対し、フェアワーク法における罰則が適用されるようになります。

 本改正事項は、2024年1月1日に発効されます。

 なお、スーパーアニュエーションの支払義務については、フェアワーク法における従業員とみなされない場合であっても、より広範な従業員の定義を設けているスーパーアニュエーション法(Superannuation Guarantee (Administration) Act 1992 (Cth))に基づき従業員とみなされる者を雇用する場合は、支払義務が発生するため注意が必要です。

4.外国人労働者の権利

 オーストラリアで就労する外国人労働者のフェアワーク法における権利は、労働者の移民法におけるステータスにかかわらず保護されることが明確にされました。これにより、外国人労働者が移民法において就労する権利を保有していない場合または移民法に違反する場合であっても、フェアワーク法に基づく保護規制の対象となるため、企業は、雇用するすべての外国人労働者に対し、そのビザのステータス等にかかわらず、雇用法上の手当の支給、合法な解雇手続き等の雇用法上の対応を取ることが求められます。

5.おわりに

 本改正法では、上記の他に、従業員による給与控除の承認手続きの簡易化、労使協定(Enterprise Agreement)に関する当局Fair Work Ombudsmanの決定の効力の明確化、カジュアル雇用の炭鉱労働者へのLong Service Leaveの支給義務の明確化といった細則の改定が行われました。

 コンプライアンスの観点から、企業は、今回の法改正を踏まえた社内手続きや就労規則の見直しを早急に行うことが重要となります。また、今後もオーストラリアでは雇用法改正の動きが予想されるため、今後の動向に注視する必要があります。

2023年06月13日(火)10:27 AM

オーストラリア労働法アップデート:最低賃金の引上げおよび直近の法改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア労働法アップデート:最低賃金の引上げおよび直近の法改正

 

オーストラリア労働法アップデート:最低賃金の引上げおよび直近の法改正

2023年6 月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.最低賃金の上昇

 2023年7月1日より、オーストラリア全域において最低賃金(National Minimum Wage)が23. 23豪ドル/時間に引き上げられることが決定されました。これは前年から2.10豪ドル(または8.6%)の大幅な引き上げとなります。また、労使裁定(Modern Award)の最低賃金は5.75%の引き上げとなります。

 最低賃金通りの給与を支払う事業者においては、今年の最低賃金の引き上げに合わせた給与の増額を行うことが求められます。また、最低賃金を超える報酬を設定している事業者においても、適用される各労使裁定に則った最低報酬額(手当等を含む)を上回る報酬額となっているか、今一度確認を行うことが推奨されます。

2.その他の主要な法改正

 弊所のニューズレター(https://oneasia.legal/9259https://oneasia.legal/9758)にて概要をお伝えしてきたオーストラリアの雇用法改正ですが、2023年6月~7月において、以下を含む雇用法(the Fair Work Act 2009 (Cth))の改正法が発効されます。

 ・柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangements):介護や家庭内暴力の状況にいる従業員等への適用の拡大、育児休暇期間の延長の要請権、雇用主の協議・通知義務の追加など。2023年6月6日に発効されます。

 ・有給育児休暇(Paid Parental Leave)の増加:オーストラリア政府の拠出する有給育児休暇制度(Paid Parental Leave)が改定され、2023年7月1日より、支給期間が18週間から20週間に増加となります。また、休暇の使用制限が一部除外され、従業員はより柔軟に当該休暇を使用することが可能となります。

 また、昨年末2022年12月に、従業員に対し給与・待遇の機密保持を義務付ける契約条項(Pay Secrecy Clause)を雇用契約に盛り込むことが禁止される改正法が施行されましたが、そのような条項が盛り込まれた雇用契約は、2023年6月7日までに当該条項を削除することが求められます。

 上記以外にも今年中に発効される雇用法改正事項が複数存在するため、企業は、自社に関連する改正内容の確認、およびタイムリーな雇用契約、就業規則、その他各種社内手順等の見直しを行うことが推奨されます。

2023年06月13日(火)10:24 AM

オーストラリア外資規制アップデート:外国人保有資産に関する新登記制度の導入についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア外資規制アップデート:外国人保有資産に関する新登記制度の導入

 

オーストラリア外資規制アップデート:外国人保有資産に関する新登記制度の導入

2023年6 月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアでは、2023年7月1日より、外国投資家の保有する資産の登記制度(Register of Foreign Ownership of Australian Assets)が導入されます。これは、オーストラリアの外資規制Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975(Cth)(以下「本法令」)の下位規則の改正法であるTreasury Laws Amendment (Measures for Future Instruments) Instrument 2023により新たに導入される登記制度です。

 本稿では、この新たな外国人保有資産登記制度の概要および留意点についてご紹介します。

2.改正後の登記制度

 新登記制度において、Register of Foreign Ownership of Australian Assets(以下「登記簿」)には、住宅用地、商業用地、農地、企業・団体関連権益、鉱業・生産・探査用地など、オーストラリアの資産に対する外国人の所有権に関する詳細が記録されます。登記簿の導入後、本法令において外国人(Foreign Person)とみなされる個人・法人は、そのような資産の所有権について届け出ることが求められます。登記簿は、2023年6月26日から開設予定のオーストラリア税務局(ATO:Australian Taxation Office)の管理するオンライン・サービスにより手続きが可能となります。

 また、同登記簿は、ATOの既存の外国投資登記簿(水、商業用地、農業用地および住宅用地の登記簿)に取って代わることになります。

3.登記義務の概要

 登記簿の導入後、外国人(Foreign Person)は、本法令に規定のいずれかの事象が発生した場合に、ATOに対し登記通知(Register Notice)を提出することが求められます。登記通知の提出が求められる事象には、オーストラリアの土地に対する権利(衡平法上の権利を除く)の取得、外国人(Foreign Person)への譲渡、 土地に対する権利の性質の変更などを含みます。

 なお、本法令における外国人(Foreign Person)の定義は広義に設定されており、非居住者である個人、外国人が20%以上保有する法人、複数の外国人が合計40%を保有する法人等にも適用されます。また、外国人のAssociate(関連者)の定義に該当する者にも適用されます。

 登記通知を行う必要がある場合、事象の発生日(Registrable Event Day)から 30 日以内に登記通知を提出する必要があります。Registrable Event Dayのタイミングは、通知が必要とされる事象によって異なります。例えば、オーストラリアの土地の権利を取得するために通知が必要な場合、Registrable Event Dayは、当該権利を取得した日となります。対象資産の保有者が本法令上の外国人になったために登記通知の提出が必要な場合のRegistrable Event Dayは、当該保有者が外国人になった日です。土地に対する権利の性質の変更の場合のRegistrable Event Dayは、当事者が変更を知った日または知るべきであった日であるとされています。

4.罰則

 登記通知を行う必要があるにもかかわらず、Registrable Event Dayから30日以内に登記通知を行わなかった場合は、250ペナルティユニット(68,750豪ドル)の民事罰が課されます。

5.おわりに

 本新登記制度の開始により、外資規制において外国人とみなされる者がオーストラリアで新たに資産を保有する場合、またはオーストラリアで資産を保有する企業へ投資または買収する場合に、新たな報告・登録要件が課されることになります。オーストラリアへの投資を計画している、または既にオーストラリアに対象資産を保有する日本企業は、従来の外資規制と併せて当該新登記制度の対応について留意する必要があります。

2023年05月12日(金)8:52 AM

オーストラリアにおけるAML/CTF規制の留意点と規制改正の動向についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:AML/CTF規制の留意点と規制改正の動向

 

オーストラリア:AML/CTF規制の留意点と規制改正の動向

2023年5月吉日 One Asia Lawyers オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアにおける反資金洗浄・テロ資金供与に関する主な法令は、Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 (Cth)およびその下位規則であるAnti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Rules Instrument 2007 (No. 1) (Cth)(以下、「本法令」)に定められています。

 本法令は、幅広く定義される指定役務(Designated Services)をオーストラリアにて提供する事業者に対し適用され、指定役務が資金洗浄・テロ資金供与へ利用されることの防止、およびそれらの目的での利用が疑われるトランザクションの特定のために、適用対象の事業者に対し様々な義務を課す内容となっています。

 2023年4月20日に、オーストラリア政府は、本法令の適用範囲の大幅な拡大を示唆する諮問書を発表しました(https://www.austrac.gov.au/consultation-commences-amlctf-reforms)。本諮問書への回答は、2023年6月16日まで受け付けられています。

 本稿では、現行の本法令において企業が特に留意すべき事項、および現在公表中の諮問書から示唆される今後の法改正の動向について紹介します。

2.適用対象

 本法令における義務は、本法令に定義される指定サービス(Designated Services)を提供し、オーストラリアと地理的つながりのある事業体(Reporting Entity)に適用されます。指定サービスの詳細については、包括的かつ複雑な定義が本法令の第6条にリストアップされています。指定サービスの大まかな分類は以下の通りです。

 ・金融サービス:銀行、保険、投資銀行、プライベートエクイティ、ファンドマネジメント、スーパーアニュエーション等の分野のサービスプロバイダー、国内またはオフショアの電子送金に参加する者等(通常はAFSLの保有者がこれに該当します)  ・金銭または財産の移転を手配する事業を行うNon-Financierに該当する者、および他者が上記サービスを提供するためにプラットフォームを提供するNon-Financierに該当する者  ・カストディアンまたはデポジトリーサービスの提供  ・デジタル通貨交換業  ・ギャンブルサービス  ・その他AML/CTF規則に規定されるサービスの提供

 上記は一例であり網羅的なリストではありません。本法令における義務の適用有無の判断には、ケースバイケースで本法令に基づく定義や例外規定を分析する必要があります。

3.義務の概要

 本法令の適用を受ける企業は、主に以下の対応をとることが求められます。

AUSTRACへの登録

 指定サービスの提供または提供開始後28日以内にAustralian Transaction Reports and Analysis Centre(AUSTRAC)に登録することが求められます。また、登録内容に変更があった場合は、変更が生じた日から14日以内にAUSTRACに通知しなければなりません。

KYC

 本法令には、以下のような顧客の形態別に、企業が遵守しなければならない認証要件の詳細が定められています。

 ・個人  ・企業  ・信託  ・パートナーシップ  ・協会  ・登録協同組合  ・政府機関

 また、継続的に顧客のデューディリジェンスを実施する義務も存在します。なお企業は、後記に解説するAML/CTF プログラムに、取引監視プログラムおよび顧客デューデリジェンスの強化プログラムを盛り込むことが求められます。

報告義務

 本法令には様々な報告義務が定められています。

 まず、疑わしい取引があった場合に、社内での報告、および所定期間内にAUSTRACに対し報告を行うことが求められます。

 10,000豪ドル以上の送金を伴う取引については、取引実施前にAUSTRACに対し報告を行うことが求められます。

 また、国際的な資金移動指示(最低金額基準なし)、本法令のコンプライアンス状況、および金銭または物品の国境を越えた移動に関する報告義務があります。

AML/CTFプログラム

 本法令の適用を受けるすべての企業は、取締役会の承認したAML/CTFプログラムを採用し、維持することが求められます。AML/CTFプログラムには以下の3つの種類が存在します。

 ・標準的なプログラム  ・共同プログラム  ・特別プログラム(事業者が特定の指定サービスのみを提供する場合に適用)

 AML/CTFプログラムは、パートAとパートBから構成されます。

AML/CTFプログラムのパートAは、とくに以下の規定を含むことが求められます。

 ・リスクを特定し、軽減し、管理するためのシステム  ・AML/CTFリスクの認識トレーニングプログラム  ・従業員のデューディリジェンス・プログラム  ・コンプライアンス・オフィサーの指名  ・独立したレビュー機関の設置  ・AUSTRACからの フィードバックを実施するための規定  ・取引監視プログラム

 AML/CTFプログラムのパートBは、顧客の識別および確認手続きを詳述する内容です。

 AML/CTF プログラムは取締役会の承認を受けなければならず、取締役会は AML/CTF プログラムの監督責任を負います。

記録の保持

 関連する記録は7年間保存することが義務付けられています。

4.罰則

 本法令に違反した場合、企業に対して最高275万豪ドル、個人の場合は最高550万豪ドルの民事罰が科される可能性があります。また、刑事罰として、最高で10年の禁固刑または275万豪ドル、またはその両方が科される可能性があります。

 そのほか、AUSTRAC は、本法令に基づく広範な監視権限および執行措置の権限を有しています。正式な執行措置は公に記録されるため、企業のレピュテーションダメージは金銭的な罰則を上回る可能性があります。

5.法改正の動向

 冒頭で言及した通り、今後の法改正の動向として、2023年4月20日に、オーストラリア政府は、本法令の適用範囲の大幅な拡大を示唆する諮問書を発行しており、現在注目が高まっています。諮問書から示唆される今後の法改正は以下を含みます。

 ・AML/CTFプログラムのPart AおよびPart Bの一本化  ・リスクの高いと判断させる顧客に対するKYC要件の強化  ・暗号資産関連サービスへの適用の拡大:

 現在、本法令は、デジタル通貨交換業者がデジタル通貨と一般通貨(Fiat)の交換またはその逆を行う場合に規制しています。今後の法改正案では、デジタル通貨・暗号資産関連サービスの規制を拡大し、デジタル通貨間の交換、デジタル通貨の代理譲渡、保管または管理、デジタル通貨の提供および販売に関連する金融サービスの提供などを本法令の適用対象とする可能性があります。

 ・弁護士、会計士、不動産業、信託・会社関連サービス等への適用の拡大:

不動産の売買、顧客の金銭・証券・その他の資産の管理、口座の管理、会社の設立・運営・管理のための出資の組織化、法人または法的組織(信託など)の設立・運営・管理、事業体の売買に関する取引をクライアントのために準備または実施する場合に、弁護士や会計士に同法の適用が拡大される可能性があります。

 また、信託および会社管理に関するサービスプロバイダー(カンパニーセクレタリー、トラストまたはノミニーサービスなど)が含まれる可能性があります。

そのほか、不動産売買に関わる不動産業者や不動産開発業者も本法令の適用対象となる可能性があります。

6.おわりに

 オーストラリアのAML/CTF規制の適用範囲は幅広く、今後の法改正により更に適用範囲が拡大されるこよが予想されます。オーストラリアで事業を行う企業は、自社へのAML/CTF規制の適用の有無について把握し、適用を受ける場合に規制上の義務の履行について迅速に対応を進めることが重要といえます。 Continue Reading »

2023年04月10日(月)8:36 AM

オーストラリアにおける通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築

 

オーストラリア:通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築

2023年4月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 9.4AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令の適用要件等については、弊所ニューズレターにてご紹介しています(https://oneasia.legal/7138、https://oneasia.legal/7258)。

 2023年3月2日に、管轄当局であるオーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities &Investments Commission)は、オーストラリア企業による本法令の遵守状況を調査し、内部通報を管理するための手本ととなるガバナンス体制の事例についてまとめた報告書を発表しました(https://download.asic.gov.au/media/wsjegua5/rep758-published-2-march-2023.pdf)。

本稿では、ASICの報告書において推奨される各企業が本法令を遵守するために構築すべきガバナンス体制について解説します。

2.推奨されるガバナンス体制

 オーストラリア企業が実際に取り入れているガバナンス体制の事例として、具体的には、以下のような対策が取られています。

 ①責任者の任命

 公益通報者保護の社内通報窓口および責任者を設置することは多くの企業で取り入れられている対策の一つです。通報者保護制度の総責任者のほかに、通報者の身元等の保護対象となる機密情報の取り扱いの責任者、報復行為とみなされる行為が行われないように監督する責任者といった役割ごとの任命も見受けられます。また、利益相反の疑いのある場合の代替の責任者・窓口を設けている企業も見受けられます。

 ②社内規則・手順の策定

 通報者とのコミュニケーション、事実調査および決定判断の方法について詳細に規定したワークフローを作成し、有事の際の社内手順をストリームライン化することは、通報の処理、調査および評価について、人的ミスを低減し、個人のスキルや経験に依拠することなく一貫性のある対応をとるために重要といえます。

 具体的には、以下を含む規則・雛形の作成が挙げられます。

 ・社内ポリシーの作成(対象となる通報の範囲、通報を受けた場合の対応、社内での報告手順、その他本法令の特にポイントとなる情報を記載)

 ・理解しやすい図を使った通報受信から解決までのフローチャート
 ・機密情報の取り扱いに関するガイドライン
 ・報復行為とみなされるリスクのある行為の事例一覧
 ・報告書テンプレート
 ・同意書
 ・通報を受けた場合の受け答えの雛形

 ③外部サービスプロバイダーの活用

 大多数の企業において、社内窓口の設置のみでなく、外部窓口が設置されています。一般的に、法律事務所等の本法令に精通した専門家をが外部窓口として利用する企業が多く見受けられます。また、保護の対象となる機密情報の管理について、第三者サービスプロバイダーの提供するソフトウェアを利用した管理システムを使用している場合も少なくありません。

 ④社内での窓口の周知

 社内・社外窓口の存在を社内のすべての従業員に対して周知することは、適切な人物へ通報がなされ、本法令に則った情報の取り扱い、調査・評価といった対応をとるために必要不可欠といえます。社内での周知は、すべての従業員に対して、メール、イントラネット、社内ポスター、Eラーニング、セミナー等のあらゆる手段を用いて、定期的に行うことが推奨されます。また、質問票を使い定期的な周知度調査を行うことも、コンプライアンスリスクを低減するうえで役立つツールの一つとして用いられています。

 ⑤通報を受ける立場の役職へのトレーニング

社内窓口として決められた者以外にも、本法令において適格受領者(Eligible Recipients)に該当する人物が通報を受けた場合には、本法令に基づく通報があったとみなされ、本法令に基づく各種義務の適用対象となります。具体的には、取締役・秘書役・その他オフィサー(会社の決定の過程に参加する者や会社の決定に影響力を持つ者)、上級管理職(事業の全部または重大な部分に影響する決定に参加する者)を含みます。そのため、取締役や経営管理層が、本法令における義務および通報を受けた場合の対応方法について理解しておくことは非常に重要といえます。

 ⑥通報について調査する立場のスタッフへのトレーニング

 上記⑤い記述する役職の他に、会社が受領した通報に関する調査、情報管理およびその他社内ワークフローの実務を行うスタッフに対し、情報管理、法令上の義務等のトレーニングを行うことも重要といえます。

 ⑦定期的な手順の見直し

 上記の通り策定した社内手順が効率的かつ効果的に運用されているか否かをモニタリングし、必要に応じて定期的に見直しを行うことは、本法令の違反リスクを低減するうえで重要です。また、従業員の通報者保護制度に対する満足度を調査し、その結果に基づいた改善策を講じて窓口の利用を促すことで、あらゆる法令のコンプライアンス違反の摘発を未然に防ぎ、または重度な違反となる前に対処することが可能となります。

 ⑧取締役会での情報共有

 通報された情報、解決までの期間、頻度、質等の傾向を匿名化した情報として集計し、会社のガバナンス体制を強化するためのツールとして取締役会や委員会等で利用する企業が多く見受けられます。

3.おわりに

 公益通報者保護のためのガバナンス体制を構築することは、本法令の遵守のみでなく、社内で顕在化していないあらゆる法令の違反行為を未然に防ぎ、または重度な違反となる前に是正措置を行うために効果的といえます。オーストラリアの通報者保護法制はすべてのオーストラリア法人が対象となるため、未実施の企業は、早急に対応を進めることが推奨されます。

2023年01月05日(木)9:00 AM

オーストラリアにおける最新の雇用法改正の留意点についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:最新の雇用法改正の留意点

 

オーストラリア:最新の雇用法改正の留意点

2023年1月吉日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>オーストラリア・ニュージーランドチーム

 

1.はじめに

 2022年12月2日、オーストラリアの主要な雇用法であるFair Work Act 2009 (Cth)(以下「フェア・ワーク法」)の新改正法案Fair Work Legislation Amendment (Secure Jobs, Better Pay) Bill 2022(以下「Secure Jobs, Better Pay改正法案」)が議会で可決され、フェア・ワーク法の多角面からの改正が行われました。

 本稿では、オーストラリアにて事業を行う日系企業が特に留意すべき改正点を概説します。

2.有期雇用契約(Fixed Term Contract)

 2年間を超える有期雇用契約、または雇用期間が合計2年間を超える契約更新を許容する有期雇用契約は、一定の例外に該当しない限り禁止されます。また、実質的に類似する業務に関する契約を複数回連続して同じ従業員と締結することは禁止されます。当該禁止条項は無効となり、対象者は正規従業員としてみなされ、フェア・ワーク法に基づく各種手当・不当解雇の保護の対象となる可能性があります。例外の対象としては、高所得基準を満たす従業員、上記有期雇用契約の締結が許可されてるModern Award(労使裁定)の適用を受ける従業員、経営管理をする立場の従業員、特別な職能を必要とする役職、一時的な代替要員、養成訓練のための有期雇用契約を締結する従業員等を含みます。

 更に、雇用主は、有期雇用契約の従業員に対し、有期雇用契約情報ステートメント(Fixed Term Contract Information Statement)を提供することが求められます。

本改正点は、2023年12月6日に発効される予定です。

3.柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangements)

 従来のフェア・ワーク法に規定の従業員の柔軟な勤務形態を求める権利が強化され、55歳を超える家族を介護する従業員および家庭内暴力の状況にいる従業員へも当該権利の適用が拡大されます。また、雇用主は、柔軟な勤務形態の要求を拒否する場合、従業員と誠意をもって協議し、その正当な理由を従業員に対して提示するなどの所定の手続きを踏まなければなりません。また、要求の拒否に関して紛争が生じた場合の紛争解決メカニズムに関し、当局フェア・ワーク委員会が裁定を行う権力が強化されました。

 更に、育児休暇を取得する従業員について、無休の育児休暇期間の延長を要求する権利が強化され、要求を受けた雇用主は、所定の理由がない場合に当該要求を拒否することが禁止されます。

 本改正点は、2023年6月6日に発効される予定です。

4.給与・待遇の機密保持を義務付ける契約条項(Pay Secrecy Clauses)

 差別・偏見による給与格差のリスクを低減するため、従業員に対して給与・待遇の機密保持を義務付ける契約条項(Pay Secrecy Clause)を雇用契約に規定することが禁止されます。更に、従業員同士で報酬および雇用条件に関して開示・協議する権利が明記されました。

 本改正点は、2022年12月7日に発効されています。

5.職場セクシュアル・ハラスメントの禁止法令の強化

 セクシュアル・ハラスメントが明確に禁止され、また、ジェンダー・アイデンティティ等を含む新たな属性が保護規制の対象となります。本改正点は、2023年3月6日に発効されます。

 また、これに関連して、2022年11月28日に可決されたAnti-Discrimination and Human Rights Legislation Amendment (Respect at Work) Bill 2022 (Cth)(以下「Respect@Work改正法」)では、正社員、臨時雇用、無休人員、および顧客等の第三者を含む広範囲の対象者に対する職場でのセクシュアル・ハラスメントを防止する積極的な義務が雇用主に課され、合理的な防止策を取らなかった雇用主は、従業員の行為について責任を負います。フェア・ワーク委員会には、紛争において「Stop Sexual Harassment Order」の命令および調停を指示する権限が付与されます。また、オーストラリア人権委員会は、雇用主の当該義務の遵守状況について監査し、情報提供を要求する権限を有します。Respect@Work改正法は、この他にも、Sex Discrimination Act 1984 (Cth)を改正し、他者を、性別を理由とした敵対的な職場環境に置く行為が明示的に禁止されます。

6.集団交渉(Collective Bargaining)

 フェア・ワーク法の集団交渉および労使協約(Enterprise Agreement)の締結要件が緩和され、所定の条件を満たす場合に複数の雇用主を一つのMulti-Enterprise Agreementに参加させることが可能となりました。また、労使協約の締結には当局フェア・ワーク委員会の承認が必要ですが、当該承認手続きおよび審査要件であるBetter Off Overall Testが緩和され、一定の柔軟性が確保されました。更に、従業員の集団交渉を開始する権利が強化され、従来のように雇用主の集団交渉の開始決定に伴う通知を受ける必要がなくなり、従業員からの書面による通知により開始するできようになりました。

 この点に関してもフェア・ワーク委員会の権限が拡大され、集団交渉に関する紛争が発生した場合に介入・裁定する権限が付与されました。一方で、フェア・ワーク委員会の労使協定を終了する権限に関しては、限定的な状況下においてのみ権限行使が許可されます。

 本改正点は、一部を除き、2022年12月7日に発効されています。労使協定の承認に関しては、2023年6月6日に発効される予定です。

7.おわりに

 オーストラリアでは、Secure Jobs, Better Pay改正法案以外にも、新政権による雇用法改正が相次いで行われています。上述のRespect@Work改正法の他、2022年10月27日に可決されたFair Work Amendment (Paid Family and Domestic Violence Leave) Act 20022により、2023年2月1日から、家庭内暴力状況にある従業員の特別有給休暇が現行の5日間から10日間に変更され、Pay Slipに記載する情報の規制等、当該状況下にある従業員を保護するための規定が整備されました。

 オーストラリアで事業を行う企業は、以上のような一連の法改正に伴い、現行の雇用契約、性差別やセクシュアル・ハラスメントに関する社内ポリシーのレビュー、および従業員からの勤務形態・休暇取得に関する対応手順の見直しを行うことが推奨されます。

以 上

2022年11月14日(月)9:08 AM

オーストラリアの個人情報保護法改正案(罰則および執行権限の強化)についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの個人情報保護法改正案(罰則および執行権限の強化)

 

オーストラリアの個人情報保護法改正案(罰則および執行権限の強化)

2022年11月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 2022年10月26日、オーストラリアの個人情報保護法であるPrivacy Act 1988 (Cth)(以下「プライバシー法」)の新改正法案[1]が議会に提出されました。本改正法案が議会で可決されれば、個人のプライバシーを侵害する行為に対する罰則が大幅に増額されます。また、域外適用やデータ侵害発生時の通知義務等に関する規制が強化されます。

 本稿では、オーストラリアにて事業を行う日系企業が特に留意すべき改正点を解説いたします。

2.罰則

 プライバシー法の適用を受ける事業者が重大または繰り返しプライバシーの侵害を行った場合は、プライバシー法13G条に基づき民事罰の対象となりますが、本改正により、当該民事罰が以下の通り大幅に引き上げられます。これにより、前回ご紹介した消費者保護法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))の改正案と同様の基準となります(https://oneasia.legal/8979)。

現行法における最高罰則

改正法案における最高罰則

1.企業:10,000P.U.[2](2.2m豪ドル)

 

2.個人:2,000P.U.(440,000豪ドル)

 

1.企業

いずれかのうち最も高い金額:

・   A$50m

・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できる場合は、当該利益の3倍

・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できない場合は、対象企業の違反行為があった期間の年間連結売上の30%(ただし違反行為があった期間が12か月間未満の場合は、最低期間として12か月間の金額に調整される)

 

2.個人:A$2.5m

  上記の通り、最高罰則は、違反期間中(ただし少なくとも12か月間)の企業の行為による経済的影響に連動して決定され、莫大な額になる可能性があります。オーストラリア政府は、特に大規模なデジタル・プラットフォームによるプライバシー侵害を十分に抑止するためにこのような引き上げが必要であり、企業がより慎重にプライバシーの保護およびセキュリティ対策に取り組むことを期待すると説明しています[3]

3.域外適用要件の見直し

 外国企業は、オーストラリアとの繋がり(Australian Link)がある場合に、プライバシー法の適用を受けます。Australian Linkは、現行法の要件では、①事業者がオーストラリアで業を営み(Carry On Business)、②オーストラリア国内の情報源から情報を収集または保有している場合に有すると規定されています。しかし、オーストラリアの情報源から個人情報を取得することを証明するのが困難な場合があるという懸念から、本改正では上記要件の②が削除されています。つまり、オーストラリアで業を営むとみなされる海外の事業者は、オーストラリアから直接に収集していない場合(例えば、サーバーがオーストラリアに置かれていないデジタル・プラットフォームからの収集など)であっても、プライバシー法の域外適用を受けることになります。

4.データ侵害発生時の通知義務に関する追加規制

 本改正には、データ侵害発生時の個人への被害リスクの評価を目的として、プライバシー法を所管するプライバシーコミッショナー(Privacy Commissioner、以下「コミッショナー」)の情報要請権限の強化が提案されています。具体的には、プライバシー法26WK条および26WR条が改正され、コミッショナーへ通知すべき情報の種類が具体化されます。更に、新たに26WU条が追加され、実際に発生した、または発生が疑われるデータ侵害について、それが通知義務の対象である適格データ侵害(Eligible Data Breach)であると判断される前であったとしても、コミッショナーが当該データ侵害に関する情報を関係者から収集することが可能となります。

 また、コミッショナーには、通知義務の対象となる事業者が、通知義務を十分に遵守する能力を有するか否かを評価する権限が付与されます。評価の内容としては、適格データ侵害(Eligible Data Breach)であるか否かを判断し、当局および影響を受ける個人に対して通知を行うことができる手順・体制がどの程度備わっているか等が含まれます。つまり、コミッショナーは、プライバシー法を違反していない事業体に対しても、実質的なコンプライアンス能力の評価を行うことができるということになります。

5.プライバシーコミッショナーの権限強化

 上記の他に、コミッショナーには主に以下の権限が新たに付与されます。

 ・コミッショナーが発令できる宣言(Declaration)の種類の拡大(違反事業者に対し、違反行為に関する声明の作成・公表を命じる宣言など)(52条)
 ・コンプライアンス評価等を実施する権限、および評価実施のための情報提出要請権
 ・他の政府当局や機関、外国政府機関との情報共有権
 ・OAICのウェブサイトにコミッショナーの決定や評価を公開する権限、およびコミッショナーの機能・義務の遂行の過程で取得したその他すべての情報を開示する権限(33B条)。重要なことに、コミッショナーは、本法改正の施行前に取得した情報についても開示することができるようになります。
 ・違反通知書(Infringement Notice)の発行権限。コミッショナーには、情報提供等を怠った事業者に対して、訴訟を提起することなく、U.(13,200豪ドル)までの罰則の支払いを求める違反通知書を発行する権限が付与されます(66条(1))。なお、法人の組織的な行為または行動パターンに対する刑事罰が新設され、これにより、刑事犯罪としてコミッショナーから連邦検察庁長官(Commonwealth Director of Public Prosecutions)に事件を移送することができるようになります(66 条(1AA))。

6.おわりに

 本改正は現在議会にて協議が進んでおり、法案が可決されれば、勅許を受けた翌日から施行される予定です。オーストラリアで事業を行う企業は、今後のプライバシー法の執行強化に伴い、自社で実施されている個人情報保護の実務とガバナンスシステムについて今一度見直しを行うことが推奨されます。

以 上

[1] Privacy Legislation Amendment (Enforcement and Other Measures) Bill 2022

[2] P.U.(=Penalty Unit)は罰則の単位に使用される。2022年11月現在、1P.U.=220豪ドル。

[3] Explanatory Memorandum, Privacy Legislation Amendment (Enforcement and Other Measures) Bill 2022

2022年10月13日(木)11:22 AM

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向

 

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向

2022年10月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアでは、当局オーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)により消費者保護法(ACL:The Australian Consumer Law[1])違反の摘発が活発に行われており、また、罰則の大幅増額および不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)に関する改正法案が議論されるなど、消費者保護に関する規制強化の傾向にあります。

 本稿では、オーストラリアで事業を行う企業が注視すべき消費者保護規制の最近の動向について、特にFujifilmの使用していた標準型契約(Standard Form Contract)の無効性に関する最近の連邦裁判所の判決、ACCCの予告するオンラインでのグリーンウォッシング表明の摘発、および現在議会にて議論されている改正法案に焦点を絞り概説します。

2.不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)

 オーストラリアの消費者保護法は、以前ニューズレター(https://oneasia.legal/7352)にてご紹介した通り、消費者に対する幅広い行為が規制されており、また消費者のみでなく小規模事業者に対する行為に関しても適用される可能性があります。その中でも、不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)は昨年から法改正が議会で議論されており注目されています。

 法改正の議論に先立ち、2020年10月、ACCCはFujifilmに対して、Fujifilmの締結したオフィス機器の販売・リース契約に不公正な契約条項が含まれていたとして訴訟を起こし、今年8月に当該契約はACLに基づき無効であるとする連邦裁判所の判決が下されました[2]。Fujifilmは、2016年11月から2021年12月の間に、不公正な契約条項を含み違法と判決の下された契約をおよそ34,000回にわたり締結または更新しており、それらが小規模事業者と締結されていた場合は無効ということになります。

 不公正な契約条項は、ACLの23~28条に規定されています。金融サービスの提供および消費者信用貸付については、オーストラリア証券投資委員会法(ASIC Act:Australian Securities and Investments Commission Act 2001)に規定の消費者保護規定が別途適用されますが、その内容の多くはACLと類似する規定となっています。

 本規制の対象となる契約は、標準型契約(Standard Form Contract)に分類される契約ですが、これはいわゆる標準約款だけでなく、通常の契約であっても、交渉力の違いや、相手方が文言の変更を要請できるか否か等の様々な事情を考慮して、これに該当すると判断される可能性があります。そして、標準型契約の契約内容全体を鑑みて、当事者間に重大な不均衡をもたらす、適正な利益の保護に合理的に必要ではない、または当該条項が適用もしくは依拠することで一当事者に不利益を生じさせる(金銭的な不利益か否かを問わない)条項が含まれていた場合には、この契約は無効とみなされます。なお、Fujifilm事件において無効するとみなされた契約条項は、以下を含みます。

 ・Fujifilmの過度な責任限定
 ・顧客よりも広範なFujifilmの契約終了権および契約終了に伴う過度な違約金請求権
 ・顧客との間で合意した価格または顧客の契約上の権利義務をFujifilmが単独で変更できる権利
 ・契約外の多量の文書が契約の一部を成すとし、当該文書をFujifilmが単独で変更できる権利
 ・Fujifilmが契約に基づく救済手続きまたは権利行使をする場合の費用の顧客による全額負担(顧客には同様の権利は存在しない)
 ・顧客の過度な賠償責任負担

 また、契約相手が一般消費者ではなく小規模事業者である場合も規制対象となります。現行法においては、従業員数が20人未満の場合が小規模事業者に該当します(ただし、契約の対価が30万豪ドル(契約期間が12か月を超える場合は100万豪ドル)を超える場合を除く)。改正法案では、この基準が、従業員数100名未満、または年間売上高1000万豪ドル未満に拡大され、更に、契約の対価の上限が廃止されることが提案されています。

 現行法では、不公正な契約条項とみなされる条項を含む契約は無効とみなされるのみであり、罰則の対象となる違法行為ではありませんが、昨年提案された改正法案およびその後2022年9月28日に新たに議会に提出された改正法案[3]によると、不公正な契約条項を使用することまたはそれに依拠することが法令上の禁止事項となり、罰則の対象となることが提案されています。ACLを違反する行為に対する罰則は後記4に記述する通り、莫大な金額になる可能性があり、また、当該法改正に遡及効がない(改正法施行前に締結された契約の不公正な契約条項については罰則が科されない)場合も、無効とみなされた契約に関する対応およびレピュテーション・ダメージは避けられませんので、未対策の企業においては、速やかに現行の契約の確認を行うことが推奨されます。

 3.環境配慮に関する欺瞞的表明(グリーンウォッシング)の摘発

 2022年10月4日、ACCCは環境への配慮および持続性に関する欺瞞的表明(グリーンウォッシング)の摘発調査を開始した旨を発表しました[4]

 ACLは、誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)、不当表示(False or Misleading Representation)、および不当行為(Unconscionable Conduct)を禁止していますが、企業が自社製品やサービスについて、「カーボンゼロ」、「ネットゼロ」、「エコ」、「グリーン」、「オーガニック」、「持続的(Sustainable)」、その他環境に配慮している旨を客観的な根拠なく表示することは、これらの消費者保護法の違反行為に該当する可能性があります。

 ACCCは、計200の企業のウェブサイトにおける表示について調査を行うと発表しています。また、グリーンウォッシングの摘発調査と併せて、100社を対象に、オンラインでの欺瞞的な評価・レビュー、および著名人やインフルエンサー等による好評価レビュー(Testimonial)の真意性の調査を行うことを発表しています。

4.ACL違反行為の罰則増額の見込み

 上述の2022年9月28日に議会に提案された改正法案では、以下の通り、ACLを含む競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))における最高罰則の増額が提案されています。また、電気通信事業者に関しては、違法行為の期間に応じた特別な罰則規定が提案されています[5]

現行法における最高罰則

改正法案における最高罰則

1.企業

いずれかのうち最も高い金額:

 ・   A$10m
 ・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できる場合は、当該利益の3倍
 ・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できない場合は、対象企業の年間連結売上の10%

2.個人:A$500,000

1.企業

いずれかのうち最も高い金額:

・   A$50m
・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できる場合は、当該利益の3倍
・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できない場合は、対象企業の違反行為があった期間の年間連結売上の30%(ただし違反行為があった期間が12か月間未満の場合は、最低期間として12か月間の金額に調整される)

2.個人:A$2.5m

 5.おわりに

 以上の通り、不公正な契約条項の法改正の動き、ACCCの不当表示に対する摘発調査の活発化、そして罰則の大幅な増額の見込みを鑑み、オーストラリアにおいて事業を行う企業、または海外からオーストラリアの顧客に商品やサービスを提供する企業は、今一度、自社の取引がオーストラリアの消費者保護法の適用を受けるか否か、適用を受ける場合の使用する契約雛形の見直し、および消費者に対する表示の見直しを実施することが推奨されます。

以 上

[1] Competition and Consumer Act 2010 (Cth), Schedule 2:

https://www.legislation.gov.au/Details/C2022C00212/Html/Volume_3#_Toc109308083

[2] Australian Competition and Consumer Commission v Fujifilm Business Innovation Australia Pty Ltd [2022] FCA 928 (https://www.judgments.fedcourt.gov.au/judgments/Judgments/fca/single/2022/2022fca0928)

[3] Treasury Laws Amendment (More Competition, Better Prices) Bill 2022

[4] https://www.accc.gov.au/media-release/accc-internet-sweeps-target-greenwashing-fake-online-reviews

[5] Part XIB, Treasury Laws Amendment (More Competition, Better Prices) Bill 2022

2022年10月11日(火)5:36 PM

オーストラリアにおけるOptus事件から学ぶ個人情報保護法の留意点についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:Optus事件から学ぶ個人情報保護法の留意点

 

オーストラリア:Optus事件から学ぶ個人情報保護法の留意点

2022年10月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 2022年9月22日、オーストラリアの大手電気通信会社Singtel Optus Pty Limited(以下「Optus」という)は、サイバー攻撃により凡そ980万人の個人情報の漏洩があった可能性があること、10月4日現在、このうち120万人に対し対応が必要であると発表しています[1]。Optusは、個人情報保護法の所管当局であるオーストラリア情報コミッショナー事務局(OAIC:Office of Australian Information Commissioner)を含む各関連当局と連携し独立機関による調査および被害を受けた顧客への連絡を含む真摯な対応を進めているようですが、信頼の低下および集団訴訟等のリスクが予想されます。

 本稿では、本事件から見えてくる、オーストラリアにおいて事業を営む企業が留意すべきオーストラリア個人情報保護法に基づく留意点について解説いたします。

2.本事件に関連するオーストラリアの個人情報保護法

 オーストラリアにおける個人情報保護に関する主要な法令は、Privacy Act 1988 (Cth)[2](以下「プライバシー法」という)であり、プライバシー法の適用を受ける事業者は、そのSchedule 1に記載される13のプライバシー原則(APP:Australian Privacy Principles)を遵守することが求められます。プライバシー法の概要は、以前ニューズレター(https://oneasia.legal/6341)にてご紹介していますが、本事件への関連が示唆される規制は、主に以下が考えられます。

APP 11

 個人情報を保持する事業者は、紛失、漏洩、不正アクセス等のデータ侵害から個人情報を保護するために、状況に応じて合理的な手段を講じなければなりません。合理的な手段とは、リスクや情報の性質、事業規模等によりケースバイケースで判断されますが、具体的には、技術的なセキュリティシステムの導入、社内でのアクセス制限、自己が管理する情報の定期的なモニタリング、第三者サービスプロバイダーに情報処理を委託する場合の当該第三者の情報セキュリティ体制の監査等、様々な対策の実施が検討されます。

 本事件においては、システムの脆弱性と人的ミスが関与していた可能性が示唆されており、国内シェアNo.2の電気通信事業者であり膨大な顧客情報を扱う企業として、十分な個人情報の保護措置が取られていたかが焦点となっています。

APP 3

 事業者が、その機能または活動に合理的に必要な場合を除き、個人情報を収集することは禁止されています。どのような場合に事業者の機能または活動に「合理的に必要」であるかは、ケースバイケースの判断が求められます。

 例えば、生年月日の等の特定の情報が確認できれば足りる場合に、免許証やパスポート等のコピーを取る行為は、写真、免許証/パスポート番号等のその他の不要な個人情報まで収集することになり、本原則の違反となる可能性が高いと考えられます。将来不特定な機能や活動において必要となる可能性があるという理由で個人情報を収集・保持することも、原則として禁止されます。

APP 9

 オーストラリアの政府機関の発行する識別符(Government Related Identifiers)を使用・開示することは、原則として禁止されています。事業の活動または機能を果たす目的で個人の身元を確認するために合理的に必要である場合は例外として認められますが、政府発行の識別符でない個人情報によって個人の身元の確認が可能である場合は、政府発行の識別符の使用・開示が合理的に必要であるとみなされないため、この例外規定に依拠することはできません。

 Optusはパスポートや政府関連識別符の情報を収集していたことが報道されていますが、本来これらの情報を収集する必要があったか否かという点が当局により問題視される可能性があります。

3.おわりに

 本事件をきっかけに、以前ニューズレター(https://oneasia.legal/8288)にてご紹介したプライバシー法改正の動きが加速することが予想されます。なお、Optusのような電気通信事業者、および他分野において重要インフラを所有または運営する事業者は、重要インフラ法に基づき重要インフラ資産の登録およびサイバー攻撃を受けた際の通知を求められる可能性があります(重要インフラ法およびその最近の改正法の概要は、こちらのニューズレターにてご紹介しています:https://oneasia.legal/8115)。

 オーストラリアで事業を営む企業は、現行の法令だけでなく、今後大きな動きが予想される個人情報に関する各種法改正についても注視する必要があるといえます。

以 上

 

[1] Optusウェブサイト:https://www.optus.com.au/support/cyberattack

[2] https://www.legislation.gov.au/Details/C2022C00199

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