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2021年07月13日(火)1:24 PM

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

 

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

2021年7月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.適用法令

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 4.9AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、2019年に大幅な改正[1]が行われ、民間企業の不正行為の通報を促すためのより強固な公益通報者保護体制が導入されました。更に、2021年2月24日には、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が金融サービスに関する通報者の免責方針を発表[2]し、不正が発覚した場合の告発を推奨しています。

 本ニュースレターにおいては、オーストラリアの公益通報者保護制度をご紹介する前編として、本法令の適用対象となる通報とは何かを、主要なコンセプトの解説を交えご紹介いたします。

2.保護の対象となる通報(Qualifying Disclosure)

 本法令において公益通報者保護の対象となる通報は、適格通報者(Eligible Whistleblower)が、規制対象事業体(Regulated Entities)の不正行為に関する情報を、①オーストラリア証券投資委員会(ASIC)、オーストラリア健全性規制庁(APRA)、その他指定された連邦政府機関へ開示する場合、②適格受領者(Eligible Recipient)へ開示する場合、または③本法令に関するアドバイスを受けるために弁護士へ開示する場合を指します。

 通報の対象となる不正行為は、明らかな違法行為(Misconduct)の他に、不適切な実情(Improper State of Affairs or Circumstances)を含みます。本法令には不適切な実情の定義はされていないため、極めて広範囲な行為・事情が対象となる可能性があります。不正行為の例として、事業体(およびその役員・従業員もしくは関連会社)が、本法令または金融関連の法令違反、12か月以上の禁固刑に処される違法行為、その他公共制度または金融制度に対するリスクとみなされる行為に関与した場合を含むとされていますが、これらに限られません。

 2019年の改正法前は、通報の誠実性(Good Faith)が要件となっていたため、通報者の過去の行為や動機などから誠実性が欠けることを証明することで本法令の適用を受けないということもありましたが、改正後はこの主観的要素がなくなり、代わりに、対象情報が事業体の不正行為に関する情報であると疑うに合理的な根拠があったことが要件となっています。

 この「合理的な根拠」の有無に関し、最近の判例[3]では、通報の時点で通報者が実際に知っていた事項が判断要素であり、通報者が通報の時点で知らなかった事項または通報の対象となった行為の意図・効果に関する主張は、通報者保護が適用されるか否かの判断には関係しないとされています。企業としては、通報があった場合に、その時点で通報者が知る事実をできるだけ詳細に聞き取り、通報者保護規制の適用対象となるか否かの客観的な判断を行うことが求められます。

3.適格通報者(Eligible Whistleblower)

 本法令上の保護の対象となる適格通報者(Eligible Whistleblower)とは、①規制対象事業体(Regulated Entities)の役員・従業員に限らず、②規制対象事業体へ物品や役務を供給する者およびその従業員、③規制対象事業体の関連会社の取締役・秘書役、ならびに④上記①~③の親族(配偶者、親、子供など)を含みます。

 4.規制対象事業体(Regulated Entities)

 規制対象事業体(Regulated Entities)とは、主にオーストラリアで設立または登録された会社、銀行、保険会社、退職年金基金を幅広く指します。当該事業体の役員、従業員、および関連会社の不正行為に関する通報も、保護規制の対象に含まれることになります[4]

5.適格受領者(Eligible Recipients)

 適格受領者(Eligible Recipients)も広義に定義されており、事業体により公益通報を受け付ける役割を任命された人物(社内外を問わない)の他に、事業体の取締役・秘書役(オーストラリアでは、登記上の取締役や秘書役の他に、取締役の行為を行う事実上の取締役(De Facto Director)も該当するため注意が必要です)、その他オフィサー(会社の決定の過程に参加する者や会社の決定に影響力をもつ者、管財人、清算人など)、シニアマネジャー(事業の全部または重大な部分に影響する決定に参加する者)、および社内外の監査人を含みます。なお、従業員や下位のマネジャーは適格受領者には含まれません。従って、通報受付窓口となる方以外の取締役や経営管理層が通報を受け付けた場合にも、守秘義務等、本法令上の通報者保護義務を負う可能性がありますので、日ごろから通報を受けた場合の対応方法について周知しておくことが重要です。

 なお、具体的な通報者保護義務の内容については、後編にて詳述いたします。

 以上、オーストラリアの公益通報者保護法の適用対象についてご紹介しましたが、次回の後編では、保護対象となった通報者に関し、実際にどのような保護義務が課されるのか、企業の注意すべき点や例外規定等を踏まえ解説する予定です。

以 上

[1] Treasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019

<参照: https://www.legislation.gov.au/Details/C2019A00010>

[2] ASICは、他者と共謀し金融サービスに関する不正行為に関わった者が、ASICへ通報し調査に協力するなどの要件を満たした場合に、その者に対し民事または刑事免責を与える方針を発表しました。詳しくは、下記ASICのHPに記載されています。

<参照:https://asic.gov.au/about-asic/dealing-with-asic/asic-immunity-policy/

[3] Quinlan v ERM Power Ltd & Ors [2021] QSC 35

[4] Corporations Act 2001 第1317AA条(4)(b)および(5)(b)

2021年06月15日(火)11:34 AM

ニュージーランドの外資規制法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドの外資規制法について

 

ニュージーランドの外資規制法

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド担当
加藤 美紀

1.はじめに 

 ニュージーランドの主要な外資規制法は、Overseas Investment Act 2005およびその下位規則であるOverseas Investment Regulations 2005です(以下、「海外投資法」という)。海外投資法は2018年に法改正が始動し、当初は2つのフェーズに分けた法改正が予定されていましたが、第1フェーズが完了した後、コロナの影響を受け昨年に暫定改正法(Overseas Investment (Urgent Measures) Amendment Act)が発令され、急遽政府への通知が必要となる投資基準額が0ドルとなる等の措置(Emergency Notification Regime)が取られました。

 2021年5月に第2フェーズを完了させる改正法案(Overseas Investment Amendment Bill (No.3))が可決され、大部分の改正が来月5日(2021年7月5日)より発効されます。また、それに先立ち、今月7日(2021年6月7日)にはEmergency Notification Regimeが終了し、新基準を設けたNational Security and Public Order Notification Regimeへと移行しています。

 本ニュースレターでは、改正法を踏まえた海外投資法の概要をご紹介します。

2.海外投資法の適用対象

 ニュージーランド政府は、自国の保護が必要なセンシティブな資産の所有・支配を維持しながら、ニュージーランドに高い利益をもたらす外国投資を受け入れることポリシーとし、海外投資法において、(1)保護が必要なセンシティブな土地(Sensitive Land)、(2)重要な事業資産(Significant Business Assets)、漁業・林業等への投資を規制しています。これらの投資を行う場合、海外投資家(Overseas Person)は、管轄当局であるOverseas Investment Officeへ申請を行い、その所属政府機関であるLand Information New Zealandおよびその他関連する政府機関からの承認を得る必要があります。

 (1)まず、センシティブな土地(Sensitive Land)とは、居住用地、5ヘクタールを超える非都市地域の土地(農地など)、および国立公園、遺産、浜辺など所定の土地[1]に隣接する土地を指します。海外投資家が所有権または一定期間以上の賃貸権を獲得する場合に、政府機関からの承認が必要です。現行では承認取得が必要となる賃貸権の期間が3年となっているところ、改正法施行後は10年(ただし、過去および更新後のリース期間を含む)に延長されます。なおこの規制は間接的な投資が行われる場合も適用対象となるため、例えば、上記の権益を保有する事業体の25%を超える証券の取得(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合)についても、当局への申請が必要です。

 (2)次に、重要な事業資産(Significant Business Assets)への投資とは、①ニュージーランドの事業体の25%を超える所有権もしくは支配権を取得し(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[2])、かつ、対価または事業体の資産価値(のれんや知財などの無形資産の価値を含む)が基準額を超える場合②ニュージーランドにおいて所定の基準額を超える資本投資をして新事業を設立する場合③ニュージーランドにおける事業に使用される資産を所定の基準額を超える対価にて取得する場合、のいずれかを指します。なお、所定の基準額とは、一般的に1憶NZドルですが、日本を含む自由貿易協定国の投資家の場合、優遇措置として2億NZドルが適用されます。

 コロナの影響を受け発令されたEmergency Notification Regimeにおいては、主に、事業体またはその資産の25%を超える所有権または支配権を取得する場合(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[3])に、事業分野や資産の性質にかかわらず、一律0ドル以上の投資について事前承認の取得が必要でした。2021年6月7日をもって当該暫定措置は終了しましたが、それ以前に締結した契約に基づく投資については、投資実行前にEmergency Notification Regimeに基づく承認の取得が必要となるため、留意が必要です。なお、Emergency Notification Regimeは担当大臣の判断により復活させることが可能であり、今後のコロナの影響を含む経済情勢によっては、0ドルの基準額が再度発令される可能性もあります。

 その他の留意点として、上述の取得率(主に25%)以下の金額における取得についても、不均衡に多大な権利(議決権など)が付随するとみなされる場合は規制の対象となるため、基準額・率を下回る投資の場合でも、契約内容に基づく専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

 また、海外投資家(Overseas Person)とは広範に定義されており、ニュージーランドの市民権をもたない個人・ニュージーランド国外で設立された法人等の他に、ニュージーランド法人であっても海外投資家が25%を超える所有権または支配力を有する場合はこれに該当します[4]。さらに、海外投資家の関連者(Associates)が投資する場合も、一体の投資家とみなされ、投資額・率が合計で所定の基準値に達する場合に規制の対象となります。Associatesとは広範に定義されており、直接的または間接的に協調して行動することが合意されている場合なども含むため、留意が必要です。

3.国益および国家安全に関わる審査

 第2フェーズの改正において、新たに(1)「National Interest Test」および(2)「National Security and Public Order Call-In Power」が導入されました。これらは、オーストラリアおよび諸外国の近年の国益・国家安全を保護する外資規制改正の動きに従う法改正といえます。

 (1)National Interest Testは、政府がニュージーランドの国益(National Interest)[5]に基づき外国投資を審査する制度であり、既存制度において承認の取得が必要である投資案件のうち、外国政府投資家(Non-New Zealand Government Investor)[6]またはその関連者(Associates)がセンシティブな土地もしくはニュージーランド事業の10%以上の権利を取得する場合、および戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)が関連する投資の場合に、既存の審査制度に上乗せして適用されます。それ以外の投資についても、国益へのリスクが懸念される場合や、市場の支配に繋がる場合等においても、例外的に政府当局の判断で適用される可能性があります。National Interest Testの対象となる戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)には、港湾・空港、電気・水、電気通信、メディア、軍用または軍民両用技術、その他軍、国家諜報機関または国家安全機関への供給、金融など多岐に渡る重要インフラ事業およびその関連物品・サービス供給事業が含まれます。これに加え、一定の機微な情報を扱う事業体への投資も審査対象となります。

 (2)一方、National Security and Public Order Call-In Powerとは、既存の承認制度の対象とならない案件について、国家安全(National Security)または公の秩序(Public Order)に対するリスクを審査する制度であり、上述の戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)に関連する投資は、原則として、投資の結果取得する所有権の割合および金額に拘わらず[7]、全てが適用対象となります。昨年発令されたEmergency Notification Regimeに取って代わる制度で、2021年6月7日以降に合意される案件に適用されます。軍用または軍民両用技術、およびStrategically Important Business の重要直接供給者(Critical Direct Suppliers)に関連する投資は当局への事前通知が義務となっていますが、その他の事業に関する投資行為について通知義務はありません。ただし、適用対象となる案件は当局からの審査要請(Call-In)を受ける可能性がり、審査の結果、重大なリスクがあると判断された場合、取得した事業の売却などの対応を命令される可能性があります。国家安全・公の秩序に対するリスクを根拠とした投資の中止・売却命令等の発令は、それ以外に是正手段がない場合に行使することが可能であり、実務上限定的であることが予想されますが、リスクが疑われる場合は、投資実行前に、自主的に当局へ通知して承認を受けておくことが推奨されます。

4.その他の改正(現行の審査制度、罰則)

 上述の新制度導入の他に、改正前より存在した(1)Investor Test、および保護が必要なセンシティブな土地の取得の審査の適用される(2)Benefits Test等の審査基準が改正されます。

 (1)Investor Testとは、投資家の個人およびビジネス上の適格性を審査する制度で、承認申請にあたり全ての海外投資家(法人の場合は、その支配権を持つ代表者)が対象となるものです。改正前は良い人格を持つこと(Good Character)、商才など多岐に渡り不確実な事項を証明する必要がありますが、改正後は過去の犯罪歴、民事制裁、脱税行為など不正行為の有無に限定されます。

 (2)一方でBenefits Testについては現行法上、センシティブな土地の取得に際し、当該投資が海外投資法に定められた経済、文化、環境など多岐に渡る事項についてニュージーランドへ恩恵をもたらすことを証明する必要があり、一定以上の広さの土地についてはより厳格な基準が設けられていますが、改正後は、これらの基準を限定または撤廃することで、よりフレキシブルに、土地および投資の性質に見合った審査することが可能となります。特に、「ニュージーランドへの恩恵」を図るに、現行法では「(仮想的な)現地投資家が取得する場合」との比較証明が必要ですが、改正後は単純に、投資がされた場合とされない場合との比較となるため、投資家にとっては確実性が上がると想定されます。

 罰則も大幅な改定があり、現行では300,000NZドルの科料上限が規定されていますが、改正法施行後は、最高罰則が、個人の場合は12か月以下の禁固刑または500,000NZドルの罰金、法人の場合は1000万NZドルの罰金に上昇します。

5.おわりに

 ニュージーランドの外資規制は、上記以外にも複雑な規定が存在し、今後も零細規則(例外規定、申請費用など)の改定審議が続きます。また、承認が必要となる案件については、当局の判断で他の関連する政府機関(財務省、遺産・環境の専門機関等)へ審査にまわされることがあり、複雑な案件の場合、各分野の政府機関の判断に数か月以上を要する場合もあります。ニュージーランドへの進出を検討されている企業は今後の動向を注視するとともに、早い段階から専門家のアドバイスを求めることが推奨されます。

以 上

[1] 今回の改正により当該対象地域が限定され、さらに土地の登記簿などで確認が可能となるため、投資家にとって不確定要素が減った形となります。 [2] 改正前は承認の再取得を不要とする所有率の増加は極めて限定的でしたが、第2フェーズの改正にて大幅に規制が緩められ、当該各基準を超えない限り、承認の再取得は不要となっています。 [3] 上記注釈2と同様。 [4] 法改正により、ニュージーランド証券取引所(NZX)に上場するニュージーランド企業、およびニュージーランドのファンド(Managed Investment Scheme)の場合は、別途の優遇基準が適用されます。 [5] 国益(National Interest)はオーストラリアの外資規制と同様に法令上の定義はなく、個々の事情に応じて判断されます。 [6] 外国政府、その下位機関、および1国の外国政府関連投資家が合計で25%を超える所有権または支配権を有する事業体を指します。なお、オーストラリアと同様に、受動的投資ファンドについては、政府系であっても適用が免除される制度の施行が予定されています。 [7] ただし、一部の事業資産、ニュージーランドの上場企業、メディア部門など一部の事業の取得については、優遇基準値が設けられています。また、既に保有する権利の追加取得の場合は、25%、50%、75%といった一定の基準値を超える場合にのみ審査対象となります。

 

2021年05月17日(月)10:31 AM

ニュージーランドにおける個人情報保護法の概要についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドにおける個人情報保護法の概要について

 

ニュージーランドの個人情報保護法の概要

2021年5月14日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.適用法令および適用対象

 ニュージーランドにおける個人情報の保護に関する主要な規制は、Privacy Act 2020(以下、「プライバシー法」)に定められています。プライバシー法は2020年12月1日に施行された改正法であり、データ侵害発生時の通知義務(Notifiable Privacy Breaches)、域外適用などが新たに盛り込まれ、オーストラリアの連邦プライバシー法と類似する点が多くありますが[1]、機微な情報の扱いや海外移転の規制といった日本企業にとって留意が必要となる点に違いがみられます。

 プライバシー法において「個人情報(Personal Information)」とは、特定可能な個人に関する情報と定義されており、個人を識別する情報(例えば、氏名など)の他に、単に特定可能な個人に関する情報(例えば、肌の色など)も含みます

 ニュージーランドにはオーストラリアとは異なり、機微な情報(Sensitive Information)の概念は存在しません。ただし、ニュージーランドのプライバシー法上、個人情報を保護するために合理的に必要な保護措置を取ることが義務付けられているため、例えば生体情報や健康情報、宗教上の信念といった一般的にセンシティブと考えられる情報は、その情報の性質に適したより高度な保護措置をとることが求められています。

 プライバシー法の規制対象となる事業者(プライバシー法では「Agency」と表現されるが、政府機関だけでなく一般企業もこれに該当する。)は、ニュージーランド国内で登記された法人であるか否かを問わず、ニュージーランドで事業を行っている(Carry On Business in New Zealand)事業体が、当該事業を行う上で、個人情報に関し実施する行為は適用の対象となります。従って、例えば、ニュージーランドに子会社・支店などを有していなかったとしても、日本企業が遠隔でニュージーランドにいる個人を対象としたサービスを提供する場合などにおいても、プライバシー法が適用される可能性があります。

2.プライバシー原則

 プライバシー法の規制対象となる事業者は、情報プライバシー原則(Information Privacy Principles)を遵守する必要があります。情報プライバシー原則は13条存在し、その概略は以下の通りです。

1. 個人情報の収集が、事業者の活動に関連した合法な目的のためであり、かつ当該目的に必要であること。
2. 本人の同意がある場合など例外適用時を除き、対象個人から直接収集すること。
3. 個人情報の収集時に、収集の目的、情報の受領者、情報が提供されなかった場合の制限といった所定の事項を対象個人が理解するために合理的な方法を取ること。
4. 合法かつ公平で個人の私事を不合理に侵害しない方法にて収集すること。特に未成年からの個人情報の収集には、通常よりも注意を払うこと。
5. 情報の紛失、不正開示・不正利用等を防ぐために、情報の性質、使用目的などの事情に応じて適切なセキュリティ対策を取ること。
6. 本人へのアクセスを許可すること。
7. 情報の修正の要求に応じること。
8. 個人情報の使用または開示時に当該情報が正確、最新、完全、関連性があり、かつ誤解を招くものではないこと。
9. 合法的に許可される使用目的のために必要な期間を超えて個人情報を保持しないこと。
10. 原則として、収集の目的以外に個人情報を使用しないこと。
11. 原則として、収集の目的以外に個人情報を開示しないこと。
12. 個人情報の海外移転には、移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課される場合を除き、本人の同意を取得すること。
13. 事業体の機能に必要不可欠な場合を除き、個人へ識別符号を割り当てないこと。他の組織の発行する識別符号の使用は、原則禁止される。

 上記第3条について補足すると、オーストラリアではプライバシーポリシー(個人情報保護方針)と情報通知(個人情報収集時の所定事項の通知)について別々の規定があるものの、ニュージーランドの法令上はその区別はありません。ただしニュージーランドの当局(Privacy Commissioner)のガイドラインによると、プライバシーポリシー(ニュージーランドではPrivacy Statementと呼称。)を企業のウェブサイトで公開することが、第3条を遵守するうえで重要とされています。なお、ウェブサイトの利用時に限らず個人情報を収集する場合は、収集時点で情報通知をすることが求められます。

 また、上記第10条、第11条について、個人情報の使用・開示は、法の執行や生命の危機など緊急事態に必要な場合を除き、原則として、当該個人情報の収集時に通知した収集の目的に限定されます。ただし、収集の目的とは異なる二次的目的のための使用・開示も例外として認められることがあります。例えば、個人情報の使用目的が収集の目的に直接関連する場合や、二次的目的のための使用・開示を対象個人が別途に同意した場合です。この他にも、個人が特定されない形で使用される場合や、個人の特定される方法で公表されない統計または研究目的での使用も例外として認められています。

 個人情報のニュージーランド国外への移転には、上述第12条の通り一定の制限がかかります。本人の同意を取得して移転する場合は、移転先が対象個人に対しプライバシー法と同等の保護措置を提供しない可能性があること等を対象個人が容易に理解できる方法で十分に通知した上で同意取得をしなければなりません。同意取得方法についてのご相談をよく受けますが、規約に当該通知内容を追加し、単に「規約に同意します」というチェックボックスを設けることでは不十分であり、海外移転に特化した説明および同意の取得が必要となります。

 同意を取得せずに海外移転するには、以下のいずれかに該当する必要があります。

 ・移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課される場合
 ・データの保管または処理を行う第三者へ送信される場合
 ・ニュージーランド政府が自国と同等の保護措置(法令)をもつと認めた国の移転先への開示(現時点でこの認定を受けた国はない。)、または
 ・その他、移転先がプライバシー法の適用対象である場合、本人(または本人の代理人)へ送付される場合、公の情報である場合など

 海外移転を合法に行うに最も一般的な方法としては、プライバシー法の要件を満たす契約を移転先と締結することです。これにより、移転先にプライバシー法における情報保護措置と同等の義務が課されるとみなされるため、同意取得は不要となります。

 プライバシー法には、GDPRの管理者(Controller)・処理者(Processor)と類似する区別があります。情報の処理を委託した事業体(管理者)は、受託者(処理者)が受託した範囲内で個人情報を処理し自己またはその他の目的のために使用しない限り、情報の移転後も当該情報を保有しているとみなされます。したがって、海外のクラウドプロバイダー等の処理者にデータの保管または処理を委託する場合は、プライバシー法の海外移転に関する制限を受けることなく(つまり、同意取得等の必要なく)移転が可能です。ただし、委託者は、受託者が付与された権限を超えない範囲で行った行為について責任を負います。委託者においては、移転先とデータ処理契約を締結し、データの取扱いの範囲や補償責任などについて明確に取り決めておくことが推奨されます。

 なお、特定の類の情報については、情報プライバシー原則とは別途に、管轄当局であるプライバシー委員会(Office of the Privacy Commissioner)が細則(Code)を設けることができるとされており、現時点で以下の細則が発行されているため、対象情報を扱う事業者は留意が必要です。

・Health Information Privacy Code
・Credit Reporting Privacy Code
・Telecommunications Information Privacy Code
・Civil Defence National Emergencies (Information Sharing) Code
・Justice Sector Unique Identifier Code
・Superannuation Schemes Unique Identifier Code

3.プライバシーオフィサー

 ニュージーランドでは、プライバシー法適用事業者に対しプライバシーオフィサー1名の任命が義務付けられています。

 実務上は、事業者の規模および取り扱う情報の性質・量などに応じて、プライバシーオフィサーの人数を適切に設定することが推奨されます。当局のガイドラインによると、プライバシーオフィサーは、マネージャー以上の上級役職が務め、組織全体への啓蒙活動・監査、顧客からの問い合わせ対応、侵害事件発生時の対応等の役割を担うとされています。

 4.データ侵害の通知義務

 2020年の法改正により、データ侵害発生時に、管轄当局であるプライバシー委員会(Privacy Commissioner)および被害を受けた個人へ通知することが義務付けられました。当該通知義務の対象となるのは、データ侵害が重大な害を引き起こし、またはその可能性のあることが合理的に認められる場合です。

 5.罰則

 データ侵害の報告を怠った場合、個人へのアクセスの許可を怠った場合、および合理的な理由なくして当局の指示に従わず、または虚偽の報告をするなど当局の権限行使に協力的でない場合は、最高NZ$10,000の罰金が課せれます。また、個人からの苦情を受けて、当局が必要と判断した場合に、人権審理裁定所(Human Rights Review Tribunal)で審議され、被害者への損害賠償が命じられる可能性があります。この他に、プライバシー法違反の企業名を公表するなどの措置が取られることが多く、企業としては、レピュテーション低下を避けるために慎重な行動を取ることが求められるため、ニュージーランドで事業を行う日本企業は留意が必要です。

以 上

[1] オーストラリアの連邦プライバシー法については、下記リンクより、前回のニュースレターをご参照ください。

https://oneasia.legal/6341

2021年03月15日(月)12:40 PM

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態について

 

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態

2021年3月12日

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所
加藤 美紀

1.はじめに

 オーストラリア・ニュージーランドでの事業展開を検討する多くの企業にとって、法務・税務およびコストの面で一番効率の良い進出形態を選定することが課題の一つとなる。進出形態は事業内容や規模により様々であり、オフショアから現地企業への業務委託が可能な場合もあれば、直接現地にて各種ライセンス取得や拠点設立が必要となる場合もある。本ニュースレターでは、特に直接現地で事業を行うにあたり一般的に採用されている進出形態を、そのメリット・デメリットと共に解説する。

2.駐在員事務所とCarry On Businessの問題

 オーストラリアまたはニュージーランドにて事業を行う(以下、「Carry On Business」)外国企業は、各国の会社法上、当局(オーストラリアでは証券投資委員会(ASIC)、ニュージーランドでは会社局(NZCO))への登録が必要と規定されており、かかる登録には外国企業の支店(Branch Office)または子会社を設立し行うこととなる。

 Carry On Businessの明確な法定定義はないが、会社法上、非営利活動も含み、拠点をもつ場合や、他者を代理して現地での資産を扱う場合も該当するとされている。他方で、株主総会の開催、銀行口座の開設、資産の保有、担保の設定行使、31日以内に完結する単発の取引など一定の行為については、その行為のみ行う場合はCarry On Businessに該当はしないとされている。利益を上げる目的で組織的かつ定期的に何かしらの商業を行う場合(conducting some form of commercial enterprise, systematically and regularly with a view to profit)は、Carry On Businessであるとする判例も存在する[1]。一般的に、継続する事業活動であるか否か、営利目的であるか、繰り返し行われる活動か、帳簿の記録があるか否か、などの事情が勘案される。

 進出に際し駐在員事務所(Representative Office)を構えることを検討している日系企業も多いと思われるが、何かしらの拠点を構えて営利活動を行う事はCarry On Businessとみなされる可能性が高く、仮に駐在員事務所の活動がCarry On Businessとみなされた場合、支店または子会社として会社法上の登録が必要となる(登録していない場合は、会社法違反となる)。なお、会社法上はCarry On Businessとみなされず登記要件等の規制を受けない活動についても、会社法以外の法令(例えば、税法、金融サービス業の規制、個人情報保護法など)の適用を受ける可能性があるため、留意が必要となる。

3.会社の種類

 オーストラリアで投資に一般的に利用される会社は、資金の調達がしやすく株主の責任が限定されるCompanies Limited by Sharesであり、非公開会社(Proprietary Company、「Pty Ltd」と略される。)と公開会社(Public Company、「Ltd」と略される。)に分けられる。

 非公開会社は株主が50名を超えてはならず資金調達の公募ができない一方、会社法上の縛りが公開会社よりも緩いため運営コストを低く抑えることができる。資産・従業員数等に応じて小規模非公開会社・大規模非公開会社に分けられ、特に財務報告義務に差があるが、小規模非公開会社であっても外国企業に支配される場合は原則として財務報告義務が課せられ、更に2019年7月からは、海外親会社の連結売上が10億豪ドル以上など一定の要件を満たす企業[2]は追加の報告義務が課されている。 

 一方、公開会社は、株主の人数の制限がなく、主に資金調達を公募する場合(公開市場含む)に利用されるが、株主総会の開催義務、情報開示義務などが課され、ガバナンスコストの負担が大きい。なお、現地子会社ではなく外国企業の支店(Branch Office)として登録し活動を行う場合は、会社法上の義務は現地子会社の場合と大差はないものの、支店閉鎖後などに日本本社が債権回収の督促を受けるリスクがある。以上の他に、有限責任保証会社(Companies Limited by Guarantee)、無限責任会社(Limited Companies)などが存在するが、一般的な投資には利用されない。

 ニュージーランドでは、有限責任会社(Limited Companies)、協同組合会社(Co-Operative Companies)、無限責任会社(Unlimited Companies)の3つの会社形態が存在するが、このうちLimited Companiesが最も一般的である。オーストラリアとは異なり、非公開・公開といった表現による区別はない(全て「Limited」または「Ltd」と表記される)が、規模等により会社法上の義務に違いがある。 なお、外国企業の支店および現地子会社は、外国企業の連結資産が2000万NZドルを上回る場合、または連結売上が1000万NZドルを上回る場合に財務報告が必要となる。

4.Joint Venture

 Joint Venture(以下、「JV」)の方法は大きく分けて、JVパートナー間で出資して法人を設立するIncorporated JVと、法人を設立しないUnincorporated JVの方法が存在する。

 Incorporated JVの場合、出資者間で株主間契約を締結し、各JVパートナーの権利義務を規定する。法人格を有するため、JV事業の負債に関する各JVパートナーの責任は、その出資額に限定される。税はJV会社の所得に直接課され、課税後の利益から払われる配当はTax Offsetが可能となる(オーストラリアでは「Franking Credit」、ニュージーランドでは「Imputation Credit」と呼ばれる税額控除が給付される)。外国投資家への配当はFranking Credit/Imputation Creditは付与されないものの、課税後の利益から支払われる場合は、一定の例外を除き、オーストラリア/ニュージーランドの所得税および源泉徴収の対象とはならない。

 一方、Unincorporated JVの場合、法人格を有さないためJV事業の負債は各JVパートナーが無制限に負担するというデメリットはあるが、各JVパートナーが直接課税対象となるため、損失を自身の他の事業からの所得と損益通算することができるという税務上のメリットがある。JV自体は会社法の適用を受けず自由度は増すが、その分、JV契約に権利義務関係、意思決定方法などが詳細に規定されることが一般的である。

 なお出口戦略の観点では、個々の資産を譲渡する必要があるUnincorporated JVと比べ、株式売却で完結するIncorporated JVの方が一般的に容易である。

5.ユニットトラスト(Unit Trust)

 ユニットトラスト(Unit Trust)とは投資信託の一種であり、オーストラリアにおいて事業投資に頻繁に利用される形態である。ユニットトラスト自体に法人格はないものの、出資者間でTrustee(受託者)であるシェルカンパニーを設立し、信託財産(出資額)の運用(信託財産を使った事業運営)を委託するという形をとる。信託の受益者(Unit単位の持分を保有するため「Unit Holders」と呼ばれる。)とTrusteeは、Trust Deed(信託証書)を締結し、持分、事業運営方法などの詳細を取り決める。負債や法令上の責任は全てTrusteeが負担するが、信託の資産に対し求償することが可能である。

 税務面では、信託の利益は信託レベルでは課税されず、各受益者に直接自己の税率にて課せられる一方、損失については各受益者に分配されないため他の事業の所得との収益通算はできない。

 日本やその他のASEAN諸国ではめったに用いられることのない進出形態であるが、オーストラリア・ニュージーランドでは頻繁にみられる進出形態であり、日本企業は注意が必要であるといえよう。

6.パートナーシップ

 パートナーシップとは、複数の個人または法人が契約に基づき共通の事業目的のもと事業を行う形態である。原則としてパートナーシップはパートナー間の契約により成立する関係であり法人格がなく、パートナー個人(または法人)が事業の全債務の責任を負う。パートナー契約において各パートナーの責任を限定することが可能(この場合、「リミティッド・パートナーシップ」という。)だが、このうち一当事者はジェネラルパートナーとして無限に責任を負う必要がある。リミティッド・パートナーシップは、法務と税務においてその扱いが異なり、複雑なルールが存在する。オーストラリアでは、一部のベンチャーキャピタル用に設立されるIncorporated Limited Partnership(ILP)を除きリミティッド・パートナーシップに法人格があることの明確な規定はないが[3]、ニュージーランドでは、リミティッド・パートナーシップは法人格をもつと規定される[4]。いずれの法域(オーストラリアでは州・準州ごと)においても、リミティッド・パートナーシップは登録が必要である。

 税務面では、原則として、パートナーシップ自体には所得税はかからず、各パートナーの取り分につき当該パートナーの個人税率が適用され、パートナーシップの損失も各パートナーの他の所得と損益通算が可能である。ただし、オーストラリアではリミティッド・パートナーシップの場合、税法上、法人と同様の扱いを受ける可能性があるため注意が必要である[5]。なお前述のベンチャーキャピタルILPの場合、法人税は課されず、優遇税制が適用される。

7.おわりに

 以上オーストラリア・ニュージーランドにおいて最も一般的な進出形態の基礎を記述したが、最適な投資ビークルの選定は多角面からの評価が必要となる。本稿で紹介した他にも複雑なルール・税務上のメリット・デメリットなどがあるため、個々の事業に応じて専門家のアドバイスを受けることが推奨される。

以 上

[1] Gebo Investments (Labuan) Limited & 2 Ors v Signatory Investments Pty Limited & 2 Ors; Application of John Campbell & 3 Ors [2005] NSWSC 544

[2] Significant Global Entitiesと呼ばれる。

https://www.ato.gov.au/Business/Public-business-and-international/Significant-global-entities/

[3] オーストラリアでは、パートナーシップは州・準州の法令に規制される。

[4] Limited Partnership Act 2008

[5] Division 5A, Part III, the Income Tax Assessment Act 1936 (Cth)

2021年01月13日(水)8:58 PM

コロナ禍におけるオーストラリア会社法改正- 簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて - ニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

オーストラリアの簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて

 

 

コロナ禍におけるオーストラリア会社法改正

– 簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて –

2021年1月13日

One Asia Lawyers オーストラリア・ニュージーランド事務所

  • 1.小規模事業者の臨時救済措置

オーストラリアでは、昨年3月より、コロナ禍において企業の倒産を防ぐための臨時救済措置(Temporary Restructuring Relief)が施行されています[1]。これにより、負債額が100万豪ドル以下であり一定の要件[2]を満たす会社の場合に、法定請求(Statutory Demand)の発行対象となる債務の基準額が、通常の2000豪ドルから20000豪ドルに増額され、法定請求に回答する期限が通常の21日から6か月に延長されています。また、オーストラリアでは、破産取引阻止の義務が取締役に課され、違反行為について取締役が個人的に責任を負う法制度となっていますが[3]、救済措置の発効期間中につき、通常の業務過程で発生した債務については、取締役に対し個人的な責任を追及しないというセーフハーバーが適用されます[4]。なお、これらの救済措置を利用するためには、2021年3月31日までに、当局ASICに対し、救済措置の適用資格があることの宣誓書を提出し、ASICのウェブサイトで広告する必要があります。救済措置の適用は、かかる宣誓書の提出日から、事情の変更がない限り3か月間受けることができます。

救済措置の適用期間経過後は倒産件数の増加が予測されていますが、従前の事業再生・清算等の外部管理(External Administration)制度は、経営難に陥った中小企業にとって利用コストが企業の資産価値を上回ることが多く、その結果事業再生できないまま清算に入り、また、清算時の債権者への分配が見込めないといった懸念があります。これに対応するため、柔軟かつ費用対効果の高い制度を設け中小企業の事業再生を図ることを目的として、債務が100万豪ドル以下の場合に簡易再生手続き及び簡易清算手続きの利用が可能となる法改正がなされました。改正法[5]は今月1日より施行されており、その内容は会社法(Corporations Act 2001 (Cth))に反映されています。以下に、新たに導入された簡易破産制度についてご紹介いたします。

  • 2.簡易再生手続き

オーストラリアの会社が支払い不能となった場合、事業の再生が可能であるかを調査する目的で、管財人(Administrator)が選任され、会社の事業の管理が行われることがあります(これを「任意管理」と言います。)。任意管理においては、会社の経営は経営陣に代わって管理人が掌握することとなります。管理人は、会社の活動や取締役を調査し、債権者が(i)任意管理を終了すべきか、(ii)会社調整契約(DOCA)という債権者との和解合意を締結すべきか、(iii)会社を清算すべきか、についての決議を下すサポートをするため、会社の活動や取締役を調査する役割を持ちます。

これに対し、今回に改正法によって、会社の負債総額(偶発債務を除く。)が100万豪ドルを超えていない場合に[6]、会社は、管財人ではなく小規模事業再生人(Small Business Restructuring Practitioner。以下、「再生人」という。)を選任し、任意管理に比べてより簡易な手続きをとることが可能となります。具体的には、会社は、再生人を選任後、20日以内に事業再編計画(Debt Restructuring Plan)を作成し、再生人の認定を得て最終的に債権者の承認を得ることとなります[7]。この場合、再生人は債権者集会を開催する必要はなく[8]、オンラインによる決議が可能です。その間、任意清算と大きく異なる点として、経営陣が一定の業務を続けることが可能となり、いわゆる、Debtor in Possessionの形が採用されます。原則会社の資産に影響する取引を開始することは禁止されていますが、その例外として、既存の負債額の支払い、事業売却、株式に関する変更、配当といった事項を除く、会社の通常の業務の範囲内であれば実行可能であり[9]、その場合は破産取引阻止義務の違反とはなりません[10]。また、事業再生計画の承認後は、再生人の監督の下、計画に従って経営陣が会社を運営することとなります。

簡易再生手続きは、清算人や管財人が既に選任されている場合など、何かしらの外部管理が開始されいる場合は使用することができませんが、債権者等により裁判所へ提出された清算申請については、債権者の利益となると裁判所が判断した場合、清算申請手続きは一時停止され、簡易再生手続きが優先して実行されることとなります[11]

簡易再生手続き開始後の債権者の権利行使については、担保権の実行、訴訟提起、会社の取締役やその親族に対する保証の執行を含め、再生人の同意又は裁判所の許可がない限り、禁止されます[12]。ただし、担保権については、会社の全て又は大部分の資産に担保権を有する者はかかる担保権を行使することができ、また、占有による担保権の実行、銀行先取特権、保存のきかない物品(Perishable Products)の担保権についても行使が可能です。これらは、任意管理に類似した規定となります。

  • 3.簡易清算手続き

簡易清算手続きは、負債額(偶発債務を除く。)が100万豪ドル以下の破産会社の債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Winding Up)であり、手続きを簡素化することで費用を抑え、債権者が良い配当を得られるようにすることを目的として新たに導入されました。ただし、株主による任意清算(Members’ Voluntary Winding Up)や裁判所の命令による清算には適用されません。

通常、債権者による任意清算は、支払い不能に陥った会社の株主が会社を清算することを決議したとき、又は任意管理の最後に債権者が清算の決議を行ったとき(以下、「発動事由」という。)に開始されますが、この時に選任された清算人の判断で、債権者による任意清算中の会社が上述の負債額及び一定の要件を満たす場合に、簡易清算手続きを採用することができます[13]。まず、債権者の決議による清算の場合等を除き、取締役は、発動事由が発生した5日以内に、簡易清算の利用資格があることの宣誓書を清算人に提出しなければなりません。この時、宣誓書には、無効となるような不当取引等がなされていないことも宣誓する必要があります[14]。また、簡易再生手続きと同様、過去7年間の簡易制度を利用していないこと[15]や、税務申告等も実施済みであることなども要件となります。簡易清算手続きは、発動事由が発生してから20日以内に開始されなければならず、債権者に対しては、簡易清算手続き開始の10営業日前に通知する必要があり、25%以上の債権者が反対する場合は簡易清算手続きを開始することはできません。なお、会社が簡易制度の利用資格がなくなった場合や、不正行為等が発覚した場合は、簡易制度は終了し、通常の任意清算に移行されます[16]

簡易清算手続きにおいては、通常の清算手続きに比べ、清算人による経営陣の不正行為等の調査及びASICへの報告、債権者会議の招集、清算人の行為を監督する審査委員会の設置、債権債務の証明手続きのといった、清算人の役割が簡易化又は免除されます[17]。また、通常、任意管理/清算が開始された日(リレーションバック日)より6か月前までに行われた不当取引等は無効となるところ、簡易清算の場合は、かかる取引が簡易清算手続きを有効とするために行われ、債権者が関係会社ではなく、かつ①リレーションバック日より3か月前までに行われたか、又は②それ以降に行われたが債権者の受領額の合計が3万ドルを超えない場合は、無効とされません[18]

 

  • 4.おわりに

新たに導入される簡易再生手続き及び簡易清算手続きは、導入後もコロナ禍における不安定な経済情勢などから、要件や基準額等が変更となる可能性があるため、留意が必要となります。また、簡易制度の対象となる企業のみならず、債権者側の企業としても、新制度における債権者としての権利義務を正しく把握することが必要となります。

[1] Coronavirus Economic Response Package Omnibus Act 2020 (No. 22, 2020) Schedule 2

[2] 後述する簡易再生手続きの利用が可能であるにもかかわらず、再生人が見つからない場合を指す。詳細は、ASICのウェブサイトにて随時発表・更新されている。https://asic.gov.au/regulatory-resources/insolvency/insolvency-for-directors/temporary-restructuring-relief/

[3] s.588G Corporations Act 2001

[4] 従前よりセーフハーバー規定は存在するが、かかる規定による保護の対象となる破産取引は、取締役が会社の支払不能の疑いをもった時点で、任意管理や清算よりも会社にとってよい結果を合理的にもたらす措置である必要があるなど、現行の救済措置と比べて、より厳格な基準が設けられている。

[5] Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020、Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020、及びInsolvency Practice Rules (Corporations) Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Rules 2020

[6] この他、いずれの取締役(過去12か月以内に退任した元取締役を含む。)も他事業において過去7年間に簡易再生手続き・簡易清算手続きを利用しておらず、会社自体も過去7年間に利用していないこと等が条件となります(s.453C Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020、r.5.3B.03 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020)。

[7] 事業再編計画の詳細は、会社法規則(Corporate Regulations 2001)5.3B条に規定される。

[8] s.75-21 Schedule 2 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[9] ss.453K, 453L Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

r.5.3B.04 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

[10] s.588GAAB Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[11] s.453Q Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[12] ss.453R, 453S, 453T, 453W Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[13] ss.500A 500AA 500AB 500AD Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[14] r.5.5.02 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

[15] 債務再編手続き終了後20日以内に簡易清算手続きを利用した場合、又は関連会社が同時に簡易手続きを利用した場合は例外となる(r.5.5.03(4)(5))。

[16] s.500AC Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[17] s.500AE Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[18] r.5.5.04 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

 

 

以 上

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miki.kato@oneasia.legal

2020年12月11日(金)9:55 PM

 海外インフラプロジェクトの法的留意点ーオーストラリアのPPP制度ーについてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

オーストラリアのPPP制度について

 

海外インフラプロジェクトの法的留意点について
-オーストラリアのPPP制度-
                                                                                                                                   2020 年12月12日
                                                                                                                                One Asia Lawyers
                                                                                                                          オーストラリア事務所
                                                                                           インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

 

1 オーストラリアのインフラ需要

オーストラリア政府は 、1980 年代からPublic Private Partnership (以下、「 PPP」)を活用し、主に道路、鉄道等のインフラ整備を進めてきたが、過去 10 年間で、道路、鉄道、エネルギーといった経済的インフラ(Economic Infrastructure)のみならず、病院、刑務所、水処理設備、その他の社会的インフラ(Social Infrastructure)を対象とした PPP プロジェクトの投資額が急増している[1]。オーストラリアにおいて、PPPは、全インフラ事業の約10-15%にとどまる[2]が、これは、厳格な審査に基づき、政府出資の場合に比べより良い費用対効果(Value for Money)が得られるとみなされた場合にのみPPPを利用する仕組みとなっているからである。オーストラリア政府の信用格付けは高く、また、安定した政治、堅調な経済を背景に、外国投資家によるPPPプロジェクトへの出資や参加意欲は高いと言える。COVID-19 の影響で経済が落ち込んでいるにもかかわらず、2021 年以降も多くのプロジェクトが計画されているが、中でも注目すべきプロジェクトの一つが、現在進行中のシドニー西部インフラ計画(Western Sydney Infrastructure Plan)[3]であり、日系企業のオーストラリアのインフラ需要の獲得に関する相談も増えている。

2 オーストラリアのPPP法制の概要

オーストラリアのPPPプロジェクトに適用される規制は、従来の調達方法にも適用される調達関連法令[4]がある。他のコモン・ロー系の国々と同様に、PPPにかかる法制度や規制は限定的であり、原則として当事者間の契約に基づき実行される。ただし、PPPの契約及び実施は、連邦政府の諮問機関であるInfrastructure Australiaの発行するNational Public Private Partnership Policy Framework[5]に定めるガイドライン(以下、「National PPP Policy」という。)に従うこととなる。National PPP Policyは、各州・準州が別途定めるガイドラインと矛盾する場合を除き、オーストラリア全土のプロジェクトに適用されるが、各州・準州のガイドラインも、基本的にはNational PPP Policyに倣うものである。

なお、National PPP Policyの他、外資規制法(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)に基づき、一定の基準値を満たすプロジェクト、及び、国家安全保障上のリスク又は国益上の懸念がある場合には、外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)の承認が必要となっている。また、競争法(Competition and Consumer Act 2020)に基づき、競争上の懸念がある場合には、公正取引員会(Australian Competition and Consumer Commission)の承認を得る必要があるので、留意が必要である。オーストラリアのインフラ投資を計画する際には、これら各種承認を取得するための期間を考慮する必要がある。

National PPP Policyにおいては、プロジェクトの価値が5,000万豪ドルを超える場合、政府はPPPモデルの利用を検討することとなっている。PPPを採用するか否かの政府の意思決定においては、国民の最善の利益、及び、定量的・定性的評価を踏まえた費用対効果(Value for Money)が重要な判断基準となる。大規模なプロジェクトにおいては、政府資金の不足もPPPの利用を検討する要因の一つとなる場合もあるが、近年では、財政能力を十分に確保するために、資本コストが予算化された後にプロジェクトにコミットする傾向がみられている。

PPP のストラクチャーについては、他国と同様に、一般的にはコンソーシアムが結成される。SPV(Special Purpose Vehicle)が設立され政府との間でプロジェクト契約を締結し、専門事業者がD&C(設計・建築) や M&O(維持/管理・運営) の業務を下請けする一方、金融機関や投資家によってプロジェクト資金が提供されるのが一般的である。対価の支払い方法には、コンソーシアムがインフラのエンドユーザーから使用料を徴収する権利を持つユーザー・チャージ方式、運営段階で政府より定期的なサービス料の支払いを受けるサービス・ペイメント方式、及びそれを組み合わせたハイブリッド方式が採用されている。

National PPP Policyは、オーストラリアの過去の成功事例などを基に策定されているが、 成功事例の一つとして、当時オーストラリア最大の都市道路プロジェクトの一つであったM7自動車道があげられる。M7自動車道は、もともと交通量の多い既存の自動車道を接続する重要なプロジェクトであったが、予測を上回る環境効果と交通量の増加に加え、地域社会への大きな利益(モビリティー、貨物輸送の時間短縮、雇用と経済成長、住宅地の大気質改善など)をもたらした。このプロジェクトの成功は、以下の要因によるものであると解析されている[6]

政府間の連携

連邦政府・州政府間の協力により、円滑なプロジェクト実行と資金調達が可能であった。

評価プロセス

需要、リスク、収益予測等について、詳細かつ正確な評価が実施された。

商業性

シドニー西部の成長が見込まれたため、商業的事業としてプロジェクトを維持でき、長期的にみて道路使用料による収益実現が可能であった。

適切なPPPモデルの採用とリスク配分

プロジェクトに適切なPPPモデル[7]を採用し、民間からの資金調達及びリスク配分を可能にすると同時に、運営コストを最小限に抑えるための設計と品質を促し、費用対効果(Value for Money)を実現した。

D&C段階の遅れをなくし、収益を生み出す運営段階を早期に開始するために、早期完了に伴うパフォーマンスボーナスが約束されていた。

プロジェクト契約

当事者の役割と義務を明確にする詳細なプロジェクト契約が締結された。

公益の実現

グループ会議体・説明会などを通じた地域住民との連携による市民のニーズのくみ取り、ユーザー志向のサービスの導入[8]など。

3 手続き

個々のプロジェクトは、プロジェクトを管轄する権限を与えられた各政府機関によって入札が実施され、選定される。例えば、WestConnex自動車道はTfNSW(ニューサウスウェールズ州交通局)が管轄しており、CBDとメルボルン空港とを結ぶトンネルプロジェクトはMelbourne Metro Rail Authorityが管轄して対応している。

入札プロセスは、National PPP Policyにおいて、透明性を高めるためのガイドラインが規定されており、各州/準州は基本的にそれを遵守することとなっている。入札プロセスは、まずExpression of Interest(EOI)の公募から始まる[9]。入札に参加するためには、事前資格審査[10]に合格し、関連する州/準州の機関に登録しなければならない。EOIの段階で選定された入札者は政府機関から通知をうけ、政府の技術的要件、商業的要件、法的要件、契約書類、提案書の評価基準などの詳細な情報が提供された上で、それに基づき提案書の提出が依頼される(Request for Proposal)。次に、データルームが設置され、政府機関と1対1で議論するワークショップを含む、対話方式での選定が実施される。落札前の段階で、政府側の意向により、各入札者との契約条件及び提案内容について明確にしておく傾向があるため、オーストラリアの入札コストは、他国と比較して高いと言われている。なお、入札プロセス開始から契約締結までの期間は、一般的に、12ヶ月~18ヶ月とされている。

4 リスクマネジメント

PPPの成功は、政府による積極的な評価・審査プロセスだけでなく、適切なリスク配分によるところも大きいと言える。National PPP Policyは、潜在的なリスクの特定及びリスク配分の指針を示しているが[11]、実務上では個々の案件に応じた詳細のリスク評価が実施され、リスク配分について当事者間で調整されることとなる。プロジェクト契約を締結する前に、当事者が適切なリスク評価、デューデリジェンス、及びリスクの移転を達成できるようにすることが重要となる。

加えて、オーストラリアのPPP契約には、予想される不測の事態が発生した場合に、期間の延長、コスト、影響等を評価し、調整するための詳細な調整条項が設けられることが多い。これにより、不測の事態でもプロジェクト契約の変更を必要としないため、スムーズなプロジェクトの推進が実現できる。大規模な鉄道プロジェクトの延長は、このような制度を利用したものである。

この他、コンソーシアムによる債務不履行に対応するため、サービスが一定の水準で提供されなかった場合に、政府が事前に取り決めた金額で支払いを減額できる規定(Abatement Clause)を契約に盛り込むことが多い。また、債務不履行によるプロジェクト契約の終了を避けるために、融資機関が、政府と直接契約を結び、他の当事者よりもより広範の治癒権をもつことが一般的である。

 

[1] https://infrastructure.org.au/chart-group/public-private-partnerships/

[2] http://infrastructure.org.au/wp-content/uploads/2016/12/IPA_PPP_FINAL.pdf

各州/準州の年別インフラ事業出資額:https://infrastructure.org.au/chart-group/government-infrastructure-investment/

各州/準州の年別PPPプロジェクト総額:https://infrastructure.org.au/chart-group/public-private-partnerships/

[3] 2026年に開港予定のシドニー西部空港(Western Sydney Airport)を繋ぐM12モーターウェイを含む道路開発・改修計画

https://investment.infrastructure.gov.au/key_projects/road_and_rail_delivery/western_sydney_infrastructure_plan.aspx

[4] Public Governance, Performance and Accountability Act 2013 (Cth) 及びそれに基づくRegulations、各州/準州の法令、

Black Economy Procurement Connected Policyなど。

[5] https://www.infrastructure.gov.au/infrastructure/ngpd/index.aspx

[6] https://www.infrastructure.gov.au/infrastructure/publications/files/Best_Practice_Guide.pdf

http://nswtreasury.prod.acquia-sites.com/sites/default/files/2017-02/Westlink_M7_contr.pdf

[7] 本プロジェクトでは、BOOT モデル(Build, Own, Operate, Transfer)が採用された。

[8] 最新の電子料金システム、及び、当時は珍しかった距離ベースの料金システムが導入された。

[9] EOI募集中のプロジェクトは各州/準州のウェブサイトで一般に公開されている。

[10] 事前資格審査の基準及びガイドラインは、各州・準州政府のウェブサイトにて公開されている。

[11] 需要リスク、土地取得、及び法改正などの不可抗力事象を除いて、主にコンソーシアム側の負担となっている。

 

 

 

以 上

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miki.kato@oneasia.legal

2020年11月16日(月)3:38 PM

 オーストラリアの外資規制の改正についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

オーストラリアの外資規制の改正について(日本語)

Major Reforms to Australia’s Foreign Investment Law(English)

 

 

オーストラリアの外資規制の改正について

                                    2020 年11月16日
                 One Asia Lawyersオーストラリア・ニュージーランド事務所


  • 1. はじめに
    近年、急速な技術変革や国際的な安全保障環境の変化に対応するため、日本、米国、中国、EUをはじめとする経済大国において、外国投資リスクに関する政策が改正されています 。このような背景から、2020年6月5日、オーストラリア政府は外資規制法であるForeign Acquisition Takeovers Act 1975(FATA)の大規模な改革を提案しました。この改正により、審査の対象となる買収案件の基準値が0ドルとなる「国家安全(National Security)」の観点での審査が導入され、外国投資に対する審査機関の権限が大幅に拡大されます。また、これに付随し、より広範な審査請求権限(Call-In Power)、過去の決定を覆す「最後の手段」としての審査権限(Last Resort Power)、及びより厳格なコンプライアンスと執行措置が導入されます。法案は既に2段階のパブリックコメントの手続きを経ており、2021年1月1日に施行が予定されています。本ニュースレターでは、改正法の概要をご紹介します。

    2. 現行の外資規制
    オーストラリアの外資審査制度は、FATAに基づいて定められています。本制度の下では、民間の外国人投資家は、一定の価値を持つオーストラリアの事業の権益を取得する前に、政府の承認を求める必要があります。また、すべての外国政府とその関連事業体は、取得する資産の価値に関わらず、承認を求めなければなりません。財務長官(Treasurer)は、外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)の助言の基、外国投資に関するすべての決定を下します。現行の法令において、財務長官の決定に対し不服を申し立てることはできません 。
    (1) FATAの適用対象

    FATAは、非居住者である個人、外国人が単独で実質的な持分(20%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップ、又は複数の外国人が実質的な持分(40%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップに適用されます 。また、外国政府機関、又は単独の外国政府機関が実質的な権益(20%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップ、若しくは複数の外国政府機関が実質的な権益(40%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップといった外国政府投資家にも適用されます 。特筆すべきは、外国人のAssociate(持株会社、役員、外国人が20%以上を保有する会社、又は外国人の指示の下にある会社 )は、自己が外国人でなくても、外国人とみなされる場合があるということです 。

    (2) 適用対象となる行為

    現行制度においては、重大行為(Significant Action)と通知行為(Notifiable Action)の2つの行為が規制対象とされています。基本的には重大行為の範疇に通知行為が含まれ、通知行為につい


    ては、開始前に財務長官に通知することが義務付けられています 。ただし、財務長官には重大行為に対しても審査し命令を下す権限が付与されていることから、重大行為に該当する投資についても、ビジネスの確実性を高めるために、自発的に財務長官に通知することが推奨されます。

    (a) 重大行為(Significant Actions)

    事業の持分取得だけでなく、外国人投資家がオーストラリアの事業に対して支配的な影響力を与える効果がある場合は、契約を締結したり、定款を変更したりする行為も重大行為となります。関連条文であるFATA第40条にはこの他に、下表の基準値を満たし、かつ、支配権の変更があった場合(外国人が単独で20%以上を保有し始めた場合、他の外国人/Associateと共同で40%以上を保有し始めた場合、又は事業の方針を決定する権力を得た場合 )などの要件が規定されています。特筆すべきは、オーストラリアの企業を支配する外国持株企業の買収も適用対象となることです。

    基準値
    2020年3月29日以降に行われた承認申請については、コロナ禍における投資規制強化の一環として、基準値が一時的に0ドルに引き下げられています 。以下の基準値は、今年末に予定される当該時限的措置の解除後に復活するとされています。

 

投資家

買収対象

基準額 (豪ドル)

民間外国人投資家

(以下に該当しない)事業

$1,192m (FTA加盟国[1]

$275m(その他の国)

センシティブ事業[2]

$275m

メディア事業

$0

農業関連事業

$60m (買収分+買収対象事業について自己が既に保有する分)[3]

農地

(土地を所有する法人/信託を取得する場合を含む)

$15m (買収分+買収対象事業について自己が既に保有する分)[4]

商業用地

–        空地: $0

–        開発済みの土地: $1,192m(FTA加盟国)、 $275m(その他の国)

–        鉱業その他重要なインフラ[5]: $60m

居住用地

$0

鉱業ライセンス等

$0[6]

外国政府投資家

全て

$0


土地の権益取得には、5年を超える可能性のある賃貸借契約等が含まれます 。

 

(b) 通知行為(Notifiable Action)

一般的に、通知行為は、農業関連事業における直接的な権益(Direct Interest)の取得(主に、10%以上の取得、又は経営へ影響を与えることができるようになること)、事業持分の20%以上の取得、又は土地の権益の取得のうち、上記基準値を満たすもの限定されます 。重大行為とは異なり、通知行為には支配権の変更は必要ありません。外国政府系投資家の場合、上記の表に記載されている行為はすべて通知行動となります 。

(3) 国益(National Interest)に反するか否かの審査

財務長官は、重大行為が国益に反すると判断する場合、かかる行為を禁止し、条件を課し、又は過去の重大行為によって取得した資産や権益を処分させる権限を持ちます 。「国益」は法令には定義されておらず、財務長官の裁量に基づき案件ごとに判断されます。関連する要因としては、国家安全、競争、他のオーストラリア政府機関の政策、経済や地域社会への影響、行為の透明性、コンプライアンスなどが挙げられます 。

(4) 通知行為の届出後の対応

重大行為の通知を受領してから(仮命令が下されない限り)30日以内に決定が下され、行為が国益に反しないと財務長官が判断した場合、異議がないことを示す通知(No Objection Notification)が発行されます 。No Objection Notificationには、財務長官が必要と認める条件が付される場合があります 。

3. 改正

(1) 国家安全(National Security)の観点での審査

改正法により、投資の価値に関係なく、また、重大行為であるか否かに関係なく、財務長官へ通知しなければならない「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」というコンセプトが導入されます 。国家安全に関わる通知行為とは、国家安全に関連する土地(国防施設、国家諜報に関連する土地、その他財務長官が定めた土地 )や国家安全に関連する事業(電気、ガス、水道、港湾などの重要インフラ、通信サービス、国防・諜報関連による使用を目的とした物品・サービス提供事業、及びそれらのサプライチェーンなど )の権益を取得することを意味します。かかる通知義務の適用は、国家諜報に関連する土地に関しては合理的に国家諜報との関係が認識できる場合に限定されてはいるものの、一般的に国家安全に関わる情報は機密であることから、通常のデューデリジェンスでは土地や事業に対する国防や諜報機関の関与が明らかにならない場合もあり、投資家にビジネス上の不確実性をもたらす可能性があります。

(2) Call-In Power

財務長官は、その行動が国家安全上のリスクをもたらす可能性があると判断した場合に、行為の実行前後を問わず、関連する外国人投資家を呼び出して当該行為を審査する権限(Call-In Power)を持つことになります。重大行為の基準を満たさない行為もかかる審査の対象となります 。

 

ただし、10%未満の持分の取得であり、取得後に外国人投資家が事業の政策に影響を与えない場合は、対象となりません。さらに、財務長官は、既に通知されている行為、又は命令、No Objection Notification、若しくは免除証明発行の対象となった重大行為についてCall-In Powerを行使することはできません 。

財務長官は、審査に際し、現行法に基づき関係者に対し情報提供を要請することができますが、法改正後は、かかる要請への対応期間が数日間など非常に短く設定される可能性があり 、対応の遅延は制裁の対象となることから、投資家の実務に大きく影響が出ると予測されます。

Call-In Powerを行使する場合、前記2(4)のように、関係投資家への通知から30日間の決定期間が適用されます。特筆すべきは、財務長官に新たに、決定期間を最大90日間延長する権限が付与される ため、審査期間が最長で210日(30日+延長90日+現行法に規定の仮命令期間90日)となる可能性があります。外国投資家は、かかる決定期間の終了後10日が経過する(又はNo Objection Notificationを受領した日の早い方)までは、対象行為を実行することができません 。なお、前述の期間内に命令が下されなかった場合は、後述のLast Resort Powerを除き、財務長官の権限は消滅します 。また、実行後の対象行為については、実行後10年が経過した場合、Call-In Powerの行使ができなくなります 。

(3) Last Resort Power

現行制度においては、外国人投資家の同意なしに、財務長官が一方的にNo Objection Notificationを修正することはできませんが、改正後は、国家安全上の懸念が確認された場合、新たな条件を課し、既存の条件を変更し、又は実行後の投資の売却を強制する権限(Last Resort Power)が財務長官に付与されます。Last Resort Powerは、発行済みのNo Objection Notificationや免除証明(財務大臣が所定の期間内に決定を下さなかった場合を含む)を再審査する権限となります 。財務長官は、過去のLast Resort Power行使時の決定についても再審査することが可能とされています。

ただし、Last Resort Powerの行使は、投資家から届出のあった事項に誤解を招くような記述や申告漏れがあり、又は状況に重大な変化があった場合に限定されます 。さらに、他の法制度を全て検討したうえで、国家安全上のリスクを十分に排除できないと判断した場合にのみ行使できる ため、まさに「最後の手段」としての権限と言えます。なお注目すべきは、対象行為が国家安全上のリスクとなるという財務長官の決定に対して、外国投資家が行政不服審判所(Administrative Appeals Tribunal)に不服を申し立てることができるようになる点です 。

(4) 違反行為に対する罰則の厳格化

現行の制度では、刑事罰と民事罰の両方の罰則が設けられており、原則として法人の場合は個人の5倍の罰金が課せられます。また、FATAに違反することを許可した法人の役員も罰せられる可能性があります。改正により罰則が厳格化され、また、法人の罰金は原則として個人の10倍になります。以下の表は、一部の違反行為に対する罰則の上限を改正前後で比較したものです。

(1 Penalty Unit = 222豪ドル(2020年7月1日現在) )

 

刑事違反

現行

改正後

通知行為又は国家安全に関わる通知行為の未届け

懲役3年

750 penalty units

又はその両方

懲役10年

15,000 penalty units

又はその両方

所定の期間経過前に買収を実行

財務長官の命令の不遵守

民事違反

現行

改正後

通知行為又は国家安全に関わる通知行為の未届け

個人:

250 penalty units

法人;

1,250 penalty units

以下のうち少額の方:

(a) 2,500,000 penalty units

(b)5,000 (50,000) penalty units 又は対価or市場価値の75%

所定の期間経過前に買収を実行

財務長官の命令の不遵守

また、No Objection Notification又は免除証明に関連して実行した行為及び状況の変化について、その変化又は行為から30日以内に財務大臣に通知することが新たに義務付けられ、これに関する罰則が創設されました 。これは、本改正により新設される外国人投資家保有資産の登記制度(登記内容は非公開)の投資家による適時更新義務に則ったものです 。

(5) 申請費用体系の改訂

本改正により、買収行為の対価に基づいた新しい申請費用体系が導入されます。かかる費用は、投資家が自発的に承認申請した場合だけでなく、財務長官から審査実施の通知を受けた場合にも支払いが求められます 。

例:通知行為及び国家安全に関わる通知行為に関する申請費用 (AUD)

買収対象

定数

×(かける)

居住用地

$1m

対価/1m、小数点以下切り捨て

 

 

 

 

$13200

農業用地

$2m

対価/2m、小数点以下切り捨て

商業用地

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て

鉱業ライセンス等

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て

事業・法人

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て


(6) その他の改正

現行の制度では、通知義務について一定の例外が設けられていますが、本改正により一部改定され、また、新たな例外が追加されます。

受動的投資ファンドの投資合理化
前記2(2)の通り、複数の外国政府投資家が合計で40%以上の持分を保有する法人は、外国政府系投資家とみなされ、0ドルの基準値が適用され、全ての投資において承認の取得が必要となります。そのため、受動的投資ファンド(投資信託など)は政府系投資家の持分が40%以上の場合、
外国政府系投資家として扱われてきました。今回の改正では、このようなファンドによる投資案件の承認を合理化するため、FATAの適用除外となる要件であった外国政府機関による保有率の

 

上限(40%)を撤廃し、民間外国人投資家と同様の基準値が適用されるようになります 。この例外の適用を受けるためには、ファンドが受動的投資機関である(つまり、ファンドの各投資家が投資決定に影響を与える権限をもたないこと、投資に関する機密情報にアクセスすることができないこと、などの要件を満たす)必要があります。

国家安全に関わる行為のFATA適用免除証明

国家安全に関わる通知行為、及び前記のCall-In Powerの行使により審査対象となる国家安全に関わる行為(Reviewable National Security Action)について、新たに免除証明申請制度が導入されます 。複数の行為(すなわち、一連の投資)について一つの免除証明でカバーすることができるため、従来のように個別に行為を通知する必要がなくなります。ただし、かかる免除証明は国家安全上のリスクがないことを証明するものであり、国益に反する行為でないことを証明するものではないため、国益に反するか否かの審査を要する重大行為や通知行為に該当する可能性のある投資については、個別の承認申請をする必要があります。

貸金業のFATA適用除外の改定

現行の制度では、貸金業における行為のFATA適用除外が設けられており、貸金契約に基づき保有される権益(担保権など)についてFATAが適用されませんが、今回の改正により、かかる例外は、国家安全に関わる事業の資産や国家安全に関わる土地の権益が保有される場合には適用されないこととなります。従って、外国人投資家が国家安全に関わる事業資産や土地を担保とするような貸金契約を締結する際は、承認を得る必要があります 。

その他の改正内容として、以下を含む様々な点で、FATAに基づく外国投資管理が強化されます。

自社株買戻し・減資による外国人投資家の持分増加について

外国人投資家が、自社株買戻しや減資によって、(株式数に変化がなくとも)持分割合が増加した場合にもFATAが適用されることを明確にする改訂がされており 、このような行為や不作為(自社株買戻しに参加しない場合など)についても、承認の取得が必要となる可能性があります。

関連会社のトレーシング

現行の規定では非法人であるリミテッド・パートナーシップをトレーシングできないことから、効果的な法執行が阻害される可能性がありました。改正法では、非法人リミテッド・パートナーシップのトレーシングを可能にする ことで、企業団体の上位の法人まで受益者をトレーシングし、対象行為に関する措置が取られることとなります。

4. おわりに
オーストラリアは、安定した政治、透明性の高いガバナンス、豊富な天然資源、堅調な経済を背景に、現在の世界的な経済情勢にもかかわらず、投資機会は今後も増加し続けると考えられます。豪州政府は、その経済効果の高さから今後も外国投資を歓迎する姿勢を維持していますが、今回の改正法は、その厳格さから、自主的な通知を促して外国投資の管理を強化する意図を反映するものとなっています。今後オーストラリアへの投資を検討する企業のみならず、オーストラリアに既に進出している企業においても、過去及び将来の投資決定に対する改正法の影響について検討する必要あると言えます。

 ※脚注はPDFをご覧ください。

以 上

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2019年01月23日(水)1:02 PM

ASEAN各国の新法状況をご報告いたします。

 

【シンガポール】決算サービス法案
【タイ】労働者保護法・刑事手続法関連の改正及びIBC制度の創設
【マレーシア】外国人社会保険義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する改正法
【ベトナム】サイバーセキュリティー法の施行
【インドネシア】OSSシステムのBKPMへの移管
【フィリピン】外資規制緩和の最新動向
【ミャンマー】競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資撤廃
【カンボジア】労働法のアップデート
【ラオス】付加価値税法の改正
【日本】労働基準法の一部改正

 

2019新年版ニューズレター

2018年01月11日(木)4:44 PM

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