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2023年08月14日(月)12:00 PM

インドの「2023年デジタル個人情報保護法」の成立についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

インド「2023年デジタル個人情報保護法」がついに成立

 

インド「2023年デジタル個人情報保護法」がついに成立

 2023年8月11日
One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム 

インドの個人情報保護に関する法規制に、大きな動きがありました。

2018年の最初の草案発表から約5年、「2023年デジタル個人情報保護法(Digital Personal Data Protection Act, 2023)[1](以下、「2023年デジタルPDPA」)が、2023年8月7日にインド国会下院(Lok Sabha)を通過、8月9日に上院(Rajya Sabha)でも可決され、同月11日に大統領の承認を得たことで、法律として成立しました[2]

本ニューズレターでは、成立されたばかりの2023年デジタルPDPAについて、過去の法案からの大きな変更点も含めて、その内容を紹介いたします。

インドにはこれまで個人情報保護に関する包括的な法律がなく、2018年に最初の草案が起草されて依頼、長らく動向が注視されていました。

GDPRをモデルとし、現行規制よりも大幅な厳格化を目指した「2019年個人情報保護法案」[3](以下、「2019年法案」)は、2022年に廃案となっています。その後、2022年11月に「2022年デジタル個人情報保護法案(the Digital Personal Data Protection Bill, 2022)[4]の草案(以下、「2022年草案」)が発表され、今季夏季国会(7月20日~8月11日)会期中の提出が期待されていたところでした。

なお、2019年法案の取り下げについてはこちら(2022年8月16日付ニューズレター)で解説しております。また、同法案については、過去2回取り上げてきましたので併せてご参照ください。

2021年4月9日付ニューズレター(2019年法案の概要や審議状況、可決された際のインパクトを解説)

2021年8月13日付ニューズレター(2019年法案とGDPRの相違点、企業に求められる対応を解説)

1.2023年デジタルPDPAの主な規定

2023年デジタルPDPAの特徴として簡素さ、短さが挙げられます。2019年法案が14章98条で構成されていたのに対し、新法は9章44条と、絞られた内容となっています。

また、法律名で「デジタル個人情報」と冠しているとおり、インド国内のデジタル形式の個人情報または非デジタル形式の情報をデジタル化した個人情報のみを対象としている点で、2019年法案に比して限定されたと言えます[5]

2023年デジタルPDPAの適用範囲(第3条)

(1)以下の場合の、インドの領域内におけるデジタル個人情報の処理
 (i) 個人情報がデジタル形式で取得された場合
 (ii) 非デジタル形式で取得され、その後デジタル化された場合

(2)インド国外のデジタル個人情報の処理が、インド国内のデータ主体に対する商品・サービスの提供活動に関連して行われる場合

個人的・家庭内目的、公開情報は本法案の適用対象外です。

なお、2023年デジタルPDPA上の「個人情報」は広く定義され、そのデータによって、またはそのデータに関連して識別可能な個人に関するあらゆるデータを指します[6]

さらに特筆すべきは、個人情報の分類がない、という点です。2019年法案では、情報の秘匿性等に応じて「個人情報」、「機密性の高い個人情報」、「重要個人情報」の3つに分類され、分類に基づいた規制の強弱がありました。また、「機密性の高い個人情報」は、現行のIT法の下位規則でも規定されています。

しかしながら、新法ではこれら分類が廃止されており、これまで機密性の高い個人情報を取扱う場合に適用されていた、IT法に基づく規則[7]は、2023年デジタルPDPA施行により廃止となります(同法第44条第2項)。

個人情報を扱う企業にとっての懸念事項である通知や同意取得については、GDPR同等の義務が規定されています。現行法では機密性の高い個人情報に該当しない限り、合意取得は明文上の義務がなかったため、規制の強化となります。さらに、同法施行前に本人が同意した個人情報の処理にも遡及適用されるため、速やかに同法案に準拠した通知を行う義務が生じます。

2023年法案の通知・同意取得義務(第4条、5条)

(1)本人の同意を得た上で、合法的な目的(lawful purpose)のためにのみ処理することができる。

(2)同意の要求時または要求前に、(i) 個人情報およびそれが処理された目的、(ii) 同意撤回の権利行使方法、(iii)当局への苦情申立て方法を明記した通知(Notice)を行うものとする。

(3)データ主体がこの法律の開始日前にその個人情報の処理について同意した場合、合理的に実行可能な限り早急に(as soon as it is reasonably practicable)、データ主体に対して、前項(i)~(iii)を通知する。

日本企業を含む外国企業にとって重要な問題となる越境移転規制については、中央政府が何等かの制限を設けることができる規定となっています。つまり、特別に通達がなければ通常の個人情報の処理(移転を含む)と同じプロセスで国外移転ができるものの、例えば国別や業界別、または企業の規模などに応じて国外移転の可否や義務を規定する通達が追加される可能性があり、政府の裁量が大きい設計となっています。

また、2023年デジタルPDPA、データローカライゼーションについての規定はないものの、現行IT法に基づく通達[8]が存在しており、新法上で同通達を廃止する規定はないことから、現時点では同通達による180日間の国内保管義務[9]は併存するものと見られます。ただし今後、下位法令等で国内保管義務が規定される(引き継がれる)、または規制内容が見直される可能性も残るため、引き続き注視は必要となります。

2023年デジタルPDPAの越境移転・データローカライゼーション(第16条、規則)
中央政府は、通達により、個人情報のインド国外への移転を制限することができる。
なお、より高度な保護/制限を規定するインド現行法の適用を制限するものではない。

データ漏洩時の報告について、2023年デジタルPDPAでは、規制当局[10]およびデータが漏洩したすべての人に対し、通知をしなければならないとされています。他方、現行IT法に基づく前述の通達では、データ漏洩を含むインシデントの覚知後、6時間以内に当局[11]へ所定の書式にて報告するものと規定されています。前述のとおり、新法で同通達の効力について言及がないため、6時間報告義務も併存すると見られます。

2023年デジタルPDPAのデータ漏洩報告(第8条第6項)
個人情報の漏洩が発生した場合、データ管理者(企業等)は、規制当局および影響を受ける各データ主体に対し、規定される書式および方法で当該漏洩の通知を行うものとする。

違反時の罰金額も大きく注目されています。現行法上の罰金は数十万ルピー程度であるため、大幅な厳格化となります。ただし、2019年法案で規定されていた禁固刑は、新法では規定されていません。「また、1.5億ルピーまたは前会計年度の全世界売上高の4%のいずれか高い方」といった売上高に応じた罰金額の設定はされていません。

2023年デジタルPDPAの罰則(第33条、別表)
データ漏洩防止のためのセキュリティ対策不履行に対しては最大25億ルピー(約45億円)
データ漏洩時の通知義務の遵守違反に対しては最大20億ルピー 等

 

2023年デジタルPDPAの主な規定をまとめると以下のとおりです。

適用範囲 「デジタル形式の個人情報」、「非デジタル形式で収集され、それがデジタル化された個人情報」のみが対象
域外適用あり
個人情報の分類 「Personal Data」以外の分類なし
規制当局 Data Protection Board(DPB)
中央政府が設立、委員の要件を規定、委員を任命、機能を規定。
通知・同意取得 GDPR同等の義務あり
施行前に同意取得した個人情報にも速やかに通知を行う義務あり
越境移転・データローカライゼーション 中央政府が移転にかかる制限を通達する権限あり
(=原則、追加通達がなければ、同法規定遵守を前提に移転は可能)
国内保管の義務に関する規定なし
データ漏洩時の対応 当局および影響を与える各データ主体に対し、通知義務あり
企業の主な義務 セキュリティ措置具備、漏洩時の報告、保持制限、情報の削除、担当者の設置、等
(GDPRベースの2019年法案と同等の義務が維持されつつも、詳細を省き記載を収斂)
罰則 規程違反に対し、最大25億ルピーまでの罰金の規定あり
禁固刑の規定なし

2.今後の見通し

今回、同法はインド下院のLok Sabha、上院であるRajya Sabhaの両院で可決され、その二日後に大統領の承認を得ており、法律として成立しています。

ただし、前述のとおり2023年デジタルPDPAは、特に2019年法案と比べると簡素な内容であることもあり、下位規則や通達でさらに具体的な規定が盛り込まれることも予想されます

いずれにしても、2023年デジタルPDPAはインドでビジネスを行う企業の実務に影響が及ぶため、同法の規定遵守を想定した社内体制の迅速な構築が求められます。

 

個人情報保護法制をめぐる動向や更新情報は、One Asia Lawyersのウェブサイト内「ニューズレター」をご確認ください。

https://oneasia.legal/category/letter

 

[1] https://www.meity.gov.in/writereaddata/files/Digital%20Personal%20Data%20Protection%20Act%202023.pdf
[2] https://mpa.gov.in/bills-list
[3] http://164.100.47.4/BillsTexts/LSBillTexts/Asintroduced/373_2019_LS_Eng.pdf
[4] https://www.meity.gov.in/content/digital-personal-data-protection-bill-2022
[5] 2019年法案上の個人情報の定義は次のとおり:「オンラインかオフラインかを問わず、当該自然人のアイデンティティの特性、特徴、属性、または当該特徴とその他の情報との組み合わせに基づき、直接的または間接的に識別可能な当該自然人に関するデータまたは当該自然人に関するデータをいい、プロファイリングの目的で当該データから導き出される推論も含まれるもの」
[6] 同法第2条(t) “personal data” means any data about an individual who is identifiable by or in relation to such data
[7] 2011年情報技術(安全措置及び手続き並びに機密個人データ・情報)規則(Information Technology (Reasonable Security Practices and Procedures and Sensitive Personal Data or Information) Rules), 2011)
[8] Directions under sub-section (6) of section 70B of the Information Technology Act, 2000 relating to information security practices, procedure, prevention, response and reporting of cyber incidents for Safe & Trusted Internet (安全で信頼できるインターネットのための情報セキュリティの実践、手続、予防、対応、サイバーインシデントの報告に関連する2000年IT法第70B条(6)項に基づく通達)https://www.cert-in.org.in/PDF/CERT-In_Directions_70B_28.04.2022.pdf
[9] 同通達に基づき、企業が使用するすべてのシステムのログは、180日間インド国内に保管される必要がある。
[10] 同法に基づき設置される「Data Protection Board(データ保護委員会)」を指します。
[11] 電子情報技術省傘下機関である「Indian Computer Emergency Response Team (CERT-In)(インドコンピューター緊急対応チーム)」を指します。

2023年05月12日(金)3:38 PM

インドにおける労働者の最低賃金についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

インド 労働者の最低賃金

 

インド 労働者の最低賃金

2023年5月12日
One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム

 今般、デリーの最低賃金改定が発表されました。本ニューズレターでは、インドの最低賃金に関する留意点や、日系企業の拠点数の多いインド主要都市における最新の最低賃金を紹介いたします。

 インドでは州ごとに最低賃金が異なります。インドは連邦制国家であり、中央政府は一部の産業について最低賃金を定めていますが、その他の多くの業種では各州が経済状況に応じて最低賃金を設定しています。職種や労働者のスキルレベルによっても異なる最低賃金が定められており、州ごとに分類の仕方も違い、数十種類にわたるカテゴリーに分かれている州もあります。

 また、最低賃金は定期的に見直されますが、その見直しのタイミングは州によって異なります。インフレーション率や生活費の上昇、労働市場の状況を踏まえて年次ベースで見直しが行われる場合もあれば(毎年4月に改定されることが多い)、特定の需要が生じたときや労働者団体からの要求があったときなどにのみ最低賃金が調整される場合もあります。さらに、例えばムンバイは半年で20%ほど最低賃金が引き上がったこともあり(2020年1月と7月の比較)、変化も激しいため注意を要します。

 日系企業拠点数の多いインド各都市が所在する州における、非熟練労働者と高技能労働者のカテゴリーに相当する最新の最低月給は、以下のようにまとめられます。

単位:ルピー(小数点以下切り捨て)

州(主要都市)

非熟練労働者等の最低月給(※)

高技能労働者等の最低月給(※)

マハラシュトラ州

(ムンバイ)

11,272 – 12,465

12,884 – 14,076

ハリヤナ州

(グルガオン)

10,098

11,133

タミルナドゥ州

(チェンナイ)

10,305 – 10483

10,905 – 11,047

カルナータカ州

(ベンガルール)

12,846 – 14,424

17,159 – 19,259

グジャラート州

(アーメダバード)

11,466 – 11,752

12,012 – 12,324

デリー準州

(デリー)

17,234

22,744

ウッタル・プラデシュ州

(ノイダ)

10,089

12,432

出典:各州政府ウェブサイト等

※ 同じ職種でも州内のエリアごとに最低賃金が異なる州もあるため、数値に幅があります。

 チェンナイのようにスキルによりほとんど最低賃金に差を設けていないエリアがあれば、デリーのように大きな差を設けているエリアもあります。マハラシュトラ州は、ムンバイやプネといった大都市での警備員など特定の業種については、最低賃金の水準を高く設定していますが、その他の多くの職種については一律の水準です。

 比較した州の中では、デリーの最低賃金水準の高さは突出しており、州境を超えて通勤する労働者も多いグルガオンやノイダの賃金と対照的であるといえます。また、ムンバイはデリーよりも物価が高く、平均賃金も高い傾向にあるにもかかわらず、最低賃金にはその傾向が十分に反映されていない点にも留意が必要です。

 最低賃金は労働者が生計を立てるための最低限の保証として、州全体の指標として定められています。しかし、ムンバイやグルガオンの例のように、最低賃金が必ずしも労働者の経済圏における生活費をカバーする十分な額であるとは限らないケースもありえます。

 インドでインド人を雇用する日本企業においては、このような観点も考慮した上で、事業所の所在する各州(本社だけでなく、拠点ごと)の労働省や関連政府機関のウェブサイトを定期的にチェックする、現地の労働法専門家と連携する(州レベルの通知は、英語版がないケースも多く見られます。)、などの対策により最新の最低賃金の情報を確認し、労働者への公正な賃金を定期的に見直すことが求められます。

以上

2022年11月24日(木)9:00 AM

ネパールにおける法人設立に必要な最低投資額の大幅引き下げについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ネパール 法人設立に必要な最低投資額が大幅に引き下げ

 

ネパール 法人設立に必要な最低投資額が大幅に引き下げ

2022年11月22日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

ネパールでは、海外企業が現地法人を設立するにあたり、非公開会社であれば最低資本金は定められていません(公開会社は1,000万NPRの規定あり)。他方、最低投資額として、従来は5,000万NPR(約5,500万円)が求められていました。今般、この法人設立に必要な最低投資額が、5,000万NPRから2,000万NPR(約2,200万円)に引き下げられることとなりました

本ニューズレターでは、今回の改正の内容とその背景を紹介いたします。

なお、ネパールの投資環境や進出形態については、以下のニューズレターも併せてご参照ください。

2020年12月18日付ニューズレター「ネパールの投資環境と2020年産業企業法について」(ネパールの概況と外資規制等を解説)

2021年3月31日付ニューズレター「ネパールの会社法について」(進出形態や設立手続き、会社の運営と機関等を解説)

1.ネパールへの進出形態と主な要件の比較

日系企業がネパールに進出する際は、現地法人、外国法人の支店(Branch Office)、連絡事務所/駐在員事務所(Liaison Office)のいずれかを設置することが一般的です。

その際、計画する分野が産業法[1]上の「ポジティブリスト」に該当する「産業」である必要があります。産業は、①固定資産額および取引額によって零細産業から大規模産業に分類され(産業法第17条第1項)、さらに、②商品・サービスの性質により産業別に分類(同条第2項)されます。外国投資の目的は1つしか認められないため、もう一方の事業活動については、別の会社または支店を設立する必要があります、なお、この分類により税率等が決定される重要なものですが、産業法上の「産業」は、非常に細分化された分類であるものの、網羅的とは言い難いため、計画する事業内容の実態に近い産業を選択することとなります。

さらに、前述の3形態のうち、現地法人として会社を設立する場合には、産業法上のポジティブリストに加え、「外国投資技術移転法」(以下、「FITTA」)[2]上の「ネガティブリスト」(外国企業の参入が制限または禁止されている分野)に該当しないことが条件となります。

外国企業の参入制限(FITTA 附属書)は以下のとおりです。この中で、計画する事業内容そのものは制限を受けない場合においても、その規模が「家内産業、零細産業」とみなされないよう、留意が必要です。具体的には、土地と家屋を除く固定資産(ネパール法人設立完了までに発生した、資産計上される技術・検査・環境調査・研究等の費用も含む)の総額が200万NPR超であり、10人以上を雇用し、年間1,000万NPR以上の取引を見込む、等の条件が揃った場合に、法人を設立することができることとなります。

1)      養鶏、漁業、養蜂、野菜その他の第一次農業生産物(生産量の75%以上を輸出する大規模性産業は除く)
2)      家内産業、零細産業(Cottage and micro industries)※いずれの用語もFIITA上の定義はなし
3)      個人サービス業(Personal service business:理髪、仕立て、運転等)
4)      武器、弾薬等の製造、原子力エネルギー事業、放射線を利用する事業
5)      不動産業(建設業を除く)、小売業、国内運送業、国内ケータリングサービス業、両替商、決済サービス
6)      旅行代理店、トレッキング等のガイド
7)      マスコミ(新聞、ラジオ、テレビ、オンラインニュース)、ネパール語の映画産業
8)      経営、会計、エンジニアリング、法律相談のコンサルタント業、語学・音楽・コンピュータトレーニング事業
9)      外国投資が51%を超えるコンサルティングサービス業

以上も踏まえた3形態の主な要件は以下のとおりです。

 

現地法人

支店

駐在員事務所

法人格・

責任範囲

内国法人(親会社と別人格)

親会社は有限責任

外国法人(親会社と同人格)

親会社は無限責任

活動範囲

外国規制の範囲内で原則制限なし

親会社の事業と類似した内容かつ許可された範囲内での事業・取引

連絡拠点としての機能に限定。収入が生じる活動は不可

手続申請先

産業省の投資承認(60億NPR超の投資は投資庁承認)取得、産業省の産業登録、中銀への通知

登録事務所に登録

最低資本金

定めなし(ただし、公開会社は1,000万NPR)

定めなし

最低投資額

2,000万NPR

※2019年4月に、従来の500万NPRから10倍の引上げ。今般、5,000万NPRから2,000万NPRに引下げ。

うち70%を操業開始前に送金する必要あり。

規定なし(外国投資とみなされない)

産業規模の下限

家内産業・零細産業の定義を上回る規模

家内産業:伝統的技術を使用、国内原料や技術、芸術、文化に基づく労働集約型の手芸品等。機械利用は消費エネルギー50kw未満

零細産業:固定資産(家屋と土地は除く)が200万NPR以下、事業主自ら経営に関与、労働者数(事業主含む)が9人以下、年間取引額が1,000万NPR以下、消費する電気エネルギー・燃料等は20KW以下

定めなし

雇用比率

技術職・管理職における外国人雇用比率は15%まで(ネパール人の人数を85%以上とする必要あり)

法人税

25%

※一定条件を満たした企業に対する減税や税還付措置規定あり(例:製造業は法人税率20%、通年で100人以上のネパール人を雇用し一定の条件をいたす場合は20⁻30%の減免措置、等)

25%

営業活動なく課税なし

2.最低投資額要件の緩和

前述のとおり、法人設立に際しては、最低投資額が5,000万円を要すると規定されていました。最低投資額は、2019年4月に、従来の500万NPRから10倍の額に引上げられましたが、それに対する反感が大きかったことを受け、2022年5月に、ネパール政府は年間計画の中でこの額を2,000万NPRに引き下げることを宣言しています。10月に入り、政府は、最低限度額を正式に引き下げることを決定したと現地で報じられていましたが、この度、官報(Nepal Gazette)に掲載され、この改正が正式に実施されることとなりました

ネパールにおける日系企業の進出には規制や手続上の課題は少なくないものの、特に中小企業による進出や、当初は限定的な規模で展開することを検討する企業にとっては、ハードルが少し下がる改正といえます。

以上

[1] Industrial Enterprises Act, 2020 https://moics.gov.np/uploads/shares/laws/Industrial%20Enterprises%20Act%20%202020.pdf

[2] Foreign Investment and Technology Transfer Act, 2019 https://www.lawcommission.gov.np/en/wp-content/uploads/2019/09/The-Foreign-Investment-and-Technology-Transfer-Act-2019-2075.pdf

2022年10月13日(木)1:13 PM

バングラデシュにおける労働規則改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

バングラデシュ労働規則改正:180日以上の雇用は無期限の「正社員」に

 

バングラデシュ労働規則改正:180日以上の雇用は無期限の「正社員」に

2022年10月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

バングラデシュでは労働法に基づき6つの雇用形態がありますが、日本の正社員にあたる「常勤(permanent)」雇用と、日本の契約社員にあたる「有期(temporary)」雇用について、区別の仕方や時間枠がこれまで法的に明確ではありませんでした。にもかかわらず、この雇用形態の違いにより、特に解雇時の扱いが異なるため、日系企業の方々からのご相談も少なくありません。

この度、2015年労働規則が改正され、2022年9月1日に施行されました。改正規則では101の規則に変更(2つの規則の廃止を含む)が加えられていますが、中でも注視すべきは、雇用形態に関する長年にわたる混乱に終止符を打つ規定、すなわち常勤雇用(いわゆる正社員)の定義が追加されている点です。これにより、180日以上継続して組織内で必要とされる地位・業務・仕事は、「permanent employment」とみなされると明確化されました。

本ニューズレターでは、今回の改正の中でも、とりわけ組織へ大きな影響をもたらす雇用形態の明確化について解説いたします。なお、本ニューズレター内においては、permanent workerを「正社員」と表現し、正社員に該当しない雇用形態は、便宜上「契約社員」と表現しております。

また、その他の重要な規則改正についても一部紹介いたします。

1.労働法上の正社員の定義

労働雇用省(Ministry of Labour and Employment)により発表された改正労働規則は、9月1日に発効となっています。

バングラデシュ労働法(Bangladesh Labour Act)上、労働者には以下の7つの区分があり、使用者が労働者を雇用する際は、労働区分を明記する必要があります。

 (a)apprentice実習生:研修見習いとして雇用されたもの

 (b)badli (substitute)代替要員:常勤者等が一時的に不在の際に当該ポストを埋める要員

 (c)casual臨時雇い:一時的に発生する業務のために一時的に雇用されたもの

 (d)temporary有期労働者:一定期間の業務のために有期で雇用されたもの

 (e)probationer試用労働者:常勤労働者として雇用され、試用期間を満了していないもの

 (f)permanent正社員:常勤で雇用され、試用期間を満了したもの

 (g)seasonal:季節労働者:季節的に発生する業務のために当該シーズンの実雇用されたもの

今回問題となる(d) temporary workerと(f) permanent workerについて、労働法ではそれぞれ以下のとおり説明されるのみであり、正社員としてみなされる具体的な期間は明文化されていませんでした。

本質的に一時的な性質(essentially of temporary nature)を有し、かつ、限られた期間内に終了する可能性のある仕事のために事業所に使用される場合には、有期労働者という(同法第4条第5項)。

事業所に恒常的に(on a permanent basis)雇用される場合、正社員という(同条第7項)。

改正労働規則では、第18条(労働者の分類と組織図の作成)において、特定の事業所の仕事の種類と性質に応じ、180日以上継続する仕事はpermanent workとみなされると新たに規定されています。

つまり、その地位、業務、職種が、180日以上継続して組織内で必要とされるものであれば、そのポストで労働者を雇用する限り不可欠なものとして判断されるため、当該地位、業務、職種での契約形態は、常勤雇用でなければならないこととなります。

2.“180日ルール“の影響

バングラデシュでは、1年間などの期間を区切った雇用契約を更新する運用が多く見受けられます。これは、会社が労働者を解雇する際、有期契約の労働者であれば契約期間満了に伴い更新を行わないことで雇用を終了させることができるのに対し、正社員の場合は労働裁判所に持ち込まれる等の訴訟リスクがより高いことや、退職給付金の支払い義務[1]が発生することが背景として挙げられます。

企業側は、雇用の初期段階から正社員として起用せず、試用期間を設けたり、雇用を有期にしたりすることで対策を講じているのが実情といえます。

今回の労働規則18条の新規定導入により、これまでの契約社員から正社員に切り替えなければならないポストも多く発生することが予想されます。

改正規則は公布から1週間で施行していることから、現時点で一定期間での雇用契約に基づき雇用している従業員をただちに正社員に切り替えることまでは求められないと考えられるものの、期間満了をもって契約関係を終了させるのが困難であると(終了させようとすると訴訟等で会社側に不利な判断が下るリスクがあると)と認識しておく必要があります。したがって、無用な訴訟等に巻き込まれないよう、当該契約社員との有期雇用契約を更新するタイミングで、無期契約での正社員としての雇用に切り替えることが無難と思われます。

3.その他の主な重要改正

1)女性に対する行動とセクシャルハラスメント防止委員会

バングラデシュにはこれまでセクハラを犯罪として取り締まる法律がなく、職場でのハラスメントや暴力を禁じる法律の早期制定が指摘されていました。今回、労働法第332条(職場での女性に対する下品または礼儀に反する行動の禁止)を補完するものとして、初めてセクシャルハラスメントが規則361A条において定義され、女性従業員に対する性的嫌がらせ等を禁止する規程が導入されました。

さらに、女性を雇用するすべての職場にセクハラの苦情に対応する専門の委員会を設置することが義務付けられました。委員会の過半数は女性で構成し、メンバーは5名以上、委員長は女性が務めるものとされています。

2)出産手当の計算

出産手当に関する規定を明確化する改正です。労働法上はすべての女性労働者に対する出産手当の給付対象期間として産前産後で8週間ずつと規定されていますが、出産予定日の前8週間の予定時期を過ぎて出産した場合、出産後の8週間の休暇は全休暇と調整されることと新たに規定されました。これにより、合計16週間の出産休暇のうち、出産が予定より遅れた場合は、それに比例して産後8週間の休暇が減ることとなります。また、出産手当金の計算方法が規定され、労働者の最後の月に受け取った賃金の合計を26で割り、1日の平均賃金を決定するものとされました。

3)女性労働者の夜間労働

女性労働者に午後10時から午前6時まで勤務させる場合、すべての雇用者は当該女性労働者の書面同意が必要とされていました。今回の改正により、夜間勤務に関する同意取得の際、雇用主は女性労働者のために安全確保を含む必要な交通手段を確保することが新たに義務付けられました。また、従来は、当該同意書は12ヶ月間有効でしたが、改正後は1ヶ月間に短縮されました。そのため、女性労働者の同意は毎月末書面でとって管理するなどの運用が必要になります。

4.未消化分の年次休暇買取り規定にかかる計算方法

年休取得額の計算には、最後に支払われた給与総額(時間外手当やボーナスを除く)を30で割り、未消化の年休数を乗じるものと新たに規定されました。これまで、休取得額の計算に総支給額と基本給のどちらを用いるかが不明瞭だったこともあり、今回の規定で明確になったといえます。

以 上

 

[1] 常勤雇用者には「勤続年数×30日分」または一時給付金いずれか高い方を補償金として支払わなければならなりません(労働法第26条第4項)。

2022年08月16日(火)2:11 PM

インドにおける「個人情報保護法案」の取り下げと今後の見通しについてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

インド「個人情報保護法案」の取り下げと今後の見通し

 

インド「個人情報保護法案」の取り下げと今後の見通し

2022年8月16日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム

インドの個人情報保護法案は、2019年に国会に提出されてから今日まで、その厳格な規制内容が議論となってきました。直近では、2021年冬季国会において、法案の内容を審議する合同委員会による報告書が提出され、抜本的な見直しとも言える修正案および提言が多数なされていました。

これにより、法案の成立時期について不透明な状況が続いていましたが、この度、インド政府は2022年8月3日、会期中の雨季国会(Monsoon Session)において、この「2019年個人情報保護法案」を取り下げたと、同月4日に報道がなされました。

インド政府は今後、合同委員会による提言を踏まえた上で、オンライン空間を規制する包括的な法的枠組みを検討し、2023年初頭までの新法案承認を目指しているとされます。

本ニューズレターでは、同法案取り下げまでの経緯および合同委員会による提言・修正案を解説し、今後の見通しについて紹介いたします。

なお、同法案については、過去2回取り上げてきましたので併せてご参照ください。

2021年4月9日付ニューズレター(同法案の概要や審議状況、可決された際のインパクトを解説)

2021年8月13日付ニューズレター(同法案とGDPRの相違点、企業に求められる対応を解説)

1.「2019年個人情報保護法案」廃案までの経緯

2018年に最初の草案が起草された個人情報保護法案は、2019年12月に「2019年個人情報保護法案」として国会に提出されています。

その後、この法案を審査するための合同委員会に付託されたものの、審議の複数回にわたる延期などにより、約2年を経て2021年冬季国会(2021年11月29日~12月23日)において、ようやく報告書が提出されました。この542ページにわたる「2019年個人情報保護法案に関する報告書」[1]では、81の修正案の提案と12の提言を行っており、中には法律自体の抜本的な見直しも含まれています。

合同委員会による主な提言には以下が含まれます。

・Non-personal data(「非個人」情報)を適用対象に

大量のデータが個人・非個人という区別なく処理されている現代において、匿名化された個人情報を対象外とすると、匿名化や再識別化(re-identification)に関するグレーゾーンが生じる懸念があるとして、データ主体に由来するデータ、およびデータ管理者が保管するすべてのデータを監督できるよう、法案の適用対象をPersonal data(「個人」情報)に限定せず、「匿名化された個人情報を含む、非個人情報」をすべて保護の対象として追加すること(提言2、16)

・法案名称の変更

(前項を前提として)法案の名称からPersonalを削除し、“Data Protection Bill, 2021”と変更すること(提言2、13)

・越境移転規制に関する、国外の既存データの扱いの明確化

外国企業等がすでに保有している機密・重要個人情報のミラーコピーを一定期間内にインドへ持ち込むことを義務付けること(法案では、機密性の高い個人情報は一定の条件を満たす場合を除き越境移転は原則禁止、重要個人情報は越境移転禁止)(提言11)

・越境移転を認める権限に関する、中央政府の監督強化と目的の厳格化

特定のグループ内スキームに基づく越境移転を認める権限を、当局単独でなく「当局が中央政府と協議の上」とし、さらに、移転目的が公共政策や国の政策に反している場合は認められない点を追記すること(法案では、機密性の高い個人情報は原則国内保管だが、当局が承認した契約・グループ内スキームに基づく移転等は移転が認められる)(提言52)

・情報流出・侵害の報告基準の厳格化

当局に対し情報侵害を通知する基準となる“likely to cause harm”(損害を与える可能性がある場合)を削除し、報告の要否に関するデータ管理者の裁量をなくすこと、また、DPAへの通知期限をGDPR同等の「当該侵害を認知してから72時間以内」と規定すること(提言46)。※ただし、データ主体に対し侵害を通知するかどうかの判断は、依然として当局による(法案では、発生し、その侵害がデータ主体に損害を与える可能性がある(likely to cause harm)場合は、データ管理者は所定の期間内に、以下の情報を含めDPAに通知する義務を負う)

・政府機関の権限濫用防止

政府機関が法の適用免除を受けることによる悪用が懸念されるため、条件として「公平、公正、合理的、かつ比例的」な手続きに従うべきであることを明記すること(提言56)

・猶予期間の設定

法律公布後、施行開始まで24か月間の段階的な猶予期間を設けること(提言3)

そのため、同報告書を受け、法案の内容がどの程度修正されるのか、改正後の法案が提出され、成立する時期はいつなのか等、同国会後の動向が注目されていました。

このような状況下、報告書提出から8か月後の雨季国会において、同法案の取り下げが発表されました。

2.法案取り下げの背景と今後の見通し

法案の取り下げ理由について、国会資料によると、合同委員会の報告書において多数の修正案およびデジタル・エコシステムに関する「包括的な法的枠組み”comprehensive legal framework”」を含めた提言が提出されたとし、これらを考慮した上で、同法案は取り下げたものとされています。

報告書では、データ保護やデータ・プライバシーを含むデジタル・エコシステムに関する多くの問題や課題が特定されています。政府は審議と検証の結果、合同委員会による提言の一部を踏まえ、また現在の課題と将来の機会を考慮し、法律と規則を包括的に再作成する必要があると説明しています。

具体的には、政府は今後これらIT分野の問題に対処するため、2000年IT法[2]の改正、データ保護、国家によるデータガバナンスの枠組み、サイバーセキュリティ、イノベーション促進など、オンライン空間を規制する包括的な法的枠組みが検討されることが予想されます。

政府は、通常1~2月に行われる来年の予算審議国会までに新法案を承認し、法制化することを目指していると報道されています。前述の分野を扱う複数の法案が提出されるのか、一部のみとなるのかなど、どのような形で包括的な法的枠組みに適合する新たな法案が発表されるのか、より一層注視されることとなります。

 

新法案をめぐる動向や更新情報は、One Asia Lawyersのウェブサイト内「ニューズレター」をご確認ください。

https://oneasia.legal/category/letter

以上

[1] http://164.100.47.193/lsscommittee/Joint%20Committee%20on%20the%20Personal%20Data%20Protection%20Bill,%202019/17_Joint_Committee_on_the_Personal_Data_Protection_Bill_2019_1.pdf

[2] Information Technology Act, 2000

2022年07月13日(水)5:59 PM

モロッコの投資規制と法制度についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

モロッコの投資規制と法制度

モロッコの投資規制と法制度

2022年7月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム[1]
インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

2022年8月27日、28日のチュニジアでの開催がせまる第8回アフリカ開発会議「TICAD8」を前に、今回はアフリカ情報発信の第5弾として、同じ北アフリカ地域から、モロッコの各種投資規制と法制度を紹介して参ります。

ナイジェリアhttps://oneasia.legal/7141)、南アフリカhttps://oneasia.legal/7734)、エチオピアhttps://oneasia.legal/7938)、チュニジアhttps://oneasia.legal/8594)も公開しています。

【モロッコの概要】

国名

モロッコ王国

首都

ラバト

ISO国名コード

MAR、MA

面積

44.6万平方キロメートル(西サハラを除く)

人口

3,691万人(2020年)[2]

言語

アラビア語(公用語)、ベルベル語(公用語)、フランス語

民族

アラブ人(65%)、ベルベル人(30%)

宗教

イスラム教(国教)スンニ派等

政治体制

政体:立憲君主制

元首:モハメッド6世国王(1999年7月即位)

議会:二院制

政府

首相 サアディ・ディン・エル・オトマニ(2017年4月~)

外相 ナッセール・ブリタ(2017年4月~)

通貨

モロッコ・ディルハム(MAD)

会計年度

1月1日~12月31日

 

1.     地理[3]

モロッコは北アフリカに位置し、西は大西洋、北は地中海に面し、東はアルジェリアと国境を接している。海岸沿いは地中海性気候、内陸部は乾燥気候に属する。

モロッコの南に位置する旧スペイン領である西サハラ地域は、その主要部分を含む大部分が現在はモロッコの実効支配下にあるが、対抗するポリサリオ戦線が「サハラ・アラブ民主共和国(SADR)」樹立を宣言しており、これまで同地域の帰属を問う住民投票は度重なる延期の末に現時点まで実現しておらず、長年にわたり領土紛争が続いている。

なお、SADRは国連には未加盟であるもののアフリカ連合の正式加盟国であり、過去に約80ヶ国がその独立を承認しているが、承認取下げや停止を宣言する国もあり、現在は約40ヶ国が国家として承認している。他方、米国政府は2020年に旧西サハラの全領土に対するモロッコの主権を承認している。日本はSADRを国家と承認はしていないが、モロッコの西サハラ領有権も認めていない立場をとっている。国境・領土問題は依然としてモロッコの大きな外交課題であり国際問題でもあるため、企業においては事業計画等を地図上で示した資料を、外部、特に国外の関係者と共有する場合は、可能であればモロッコ全体の地図ではなく西サハラ地域との境はトリミングする、機微な名称は削除する、などの調整をしておくと無難と言える。

 

2.     人口

人口は3,691万人、生産年齢人口(15~64歳)は全人口の65.6%、失業率はコロナ禍前の9%台から11.5%(2021年)に悪化している[4]

 

【人口動態(1,000人)】[5]

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

2,481

2,699

2,879

3,046

3,234

3,466

3,691

 

3.     国家・政治体制[6]

国家元首である国王が、首相および閣僚の任命権を有する(憲法47、48条)。また、軍の最高司令官であり、宗教上の最高指導者でもある(憲法53条、41条)。

チュニジアに端を発したアラブの春(チュニジアNL参照)の影響はモロッコにも及んだ。モロッコにおいては王政の転覆にはいたらず、政権崩壊となった北アフリカ諸国と比較すると、その影響は限定的ではあったものの、2011年2月から民主化を求める抗議運動は全国に拡大した。これを受け国王は、最初の大規模デモからわずか18日後に、憲法改正の意向を表明している。改正案では国王自身の権限縮小と首相の権限強化、権力分立の強化(立法権強化、司法の独立強化)等が提案され、国民投票では98%超の賛成を得て可決、2011年7月に新憲法が発布されている。

 

4.     法制度[7]

モロッコの法体系は、歴史的経緯からフランスの影響を非常に強く受けており、基本的には大陸法であるが、家族法や相続等に関してはイスラム法(シャーリア)が適用される。

ビジネスに関する主な法律には以下がある。

・1995年投資憲章

・会社法(「7.(2)進出形態」参照)

・労働法典に関する法律第 65-99号

 

5.     通貨・経済状況[8]

通貨は、1USドル=10.10MAD(2022年6月現在)。世界銀行の低中所得国(Lower middle income countries)に分類される。

主な経済指標と推移は以下のとおり。

 

 

 

 

指標

2017

2018

2019

2020

2021

名目GDP(10億USドル)[9]

109.7

118.1

119.9

114.7

132.7

1人当たり名目GDP(USドル)[10]

3,036

3,227

3,235

3,059

3,497

GDP成長率[11]

4.3%

3.1%

2.6%

▲6.3%

7.4%

 

2020年に6.3%GDP成長率は6.3%縮小したものの、2021年には7.4%に回復した。これは、世銀のレポートによると、2年連続した干ばつ後の穀物収穫により農業付加価値が増加したことや、マクロ経済政策、堅調な製造業輸出、送金の急増、COVID-19ワクチン接種の進捗などによるものとされている。

 

6.     産業

モロッコの主要産業は農業、水産業、鉱業(リン鉱石)工業、観光業である。麦、ジャガイモ、トマト、オリーブ等の農産物の生産に適した国土を有する農業国であり、重要な輸出品であるが、近年は工業化を図る政策やFDI誘致が推進されており、現在の輸出品は自動車、自動車部品(ワイヤーハーネスを含む)等が上位を占める。FDIの対象として、再生可能エネルギー、インフラ、自動車産業などが多く、産業の活性化が見られる。

主要な貿易相手国は、輸出入ともにスペイン、フランスである(2019年)[12]

産業ごとのGDP寄与率[13]は、農業が14%、工業が29.5%、サービス業が56.5%(2017年)と、同じマグリブのチュニジアと類似した産業構成となっている。

 

7.     外国投資

モロッコはヨーロッパに近く、労働コストが比較的低いこともあり、2020年時点で70社の日本企業が拠点を設けており、南アフリカ(268社)、ケニア(89社)に次いでアフリカでは第3位の進出先となっている[14]

世界銀行の「Doing Business 2020」[15]では世界190カ国中53位であり、2019年からは7位、過去10年間では75位順位を上げている。会社形態のうち最も多い有限会社(S.A.R.L)の最低資本金要件の撤廃(2011年以降)、ワンストップ窓口での事業登録の簡素化など、投資促進策が奏功してきていると言える。Doing Business 2020の国別レポート[16]によると、起業までの手続き所要日数は9日間(チュニジアと同日数)と、中東・北アフリカ地域平均の19.7日間を大きく下回り、起業における手続数は4と、OECD高所得国平均の4.9をも下回る。

モロッコは、EU・モロッコ連合協定を締結しており(2000年発効)、日本企業がモロッコで製造し、EUに輸出する際には非課税・低課税の恩恵を受けうる。

また、モロッコはアフリカで唯一、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでおり(2006年発効)、工業製品等の95%以上について関税が撤廃されている。

なお、日本とモロッコ間においては、租税条約と投資協定が、2022年4月23日に発効している[17]

モロッコにおける投資促進機関はモロッコ投資開発庁[18]であり、2020年にはJapan Desk[19]が設置された。

会社設立手続きは、全国12カ所に設置されている地方投資管理センター[20](CRI)がワンストップ窓口として機能している。

 

  • 投資規制

投資に関わる主要な法律である「1995年制定投資憲章」[21]上、農業やリン鉱石関連分野を除き、自由に外国投資が認められている。外国投資における出資比率も規制はなく、100%出資が可能である。

 

利益送還

投資憲章16条において非居住者の利益と資本の自由な本国送還が規定されており、外国人・外国企業は、モロッコに投資を行って得た利益を、自由に外国に送金することができる。譲渡や清算による資金や、キャピタルゲインも含まれる。

 

  • 進出形態

モロッコの会社法[22]では以下のような会社形態が規定される。

  • 有限責任会社(société à responsabilité limitée: S.A.R.L.
  • 株式会社(société anonyme:A.)
  • 簡素型株式会社(Société par Actions Simplifiée:A.S.)
  • 合資会社(société en commandite simple)
  • 株式合資会社(société en commandite par actions)
  • 持株会社(société en participation)
  • ジェネラル・パートナーシップ(société en nom collectif)

外国企業がモロッコに進出する際には一般的に有限会社、株式会社、簡素型株式会社の形態がとられている。

 

有限責任会社

株式会社

簡素型株式会社

最低払込資本金額

設定なし

30万ディルハム(約400万円)※公開会社は300万ディルハム

30万ディルハム

出資者

1人以上50人以内※50名超は公開有限会社への変更が必要

5人以上

200万ディルハム(外貨可能)以上を所有する法人2社以上

経営

代表1名を任命。経営形態は定款の定めによる

代表(社長)が率いる経営陣(執行役会)、または取締役会による経営。取締役会を設置する場合は3~12人

代表(社長)1名を任命。経営形態は定款の定めによる

 

  • 土地に関する規制

外国人による土地の所有は認められている。農地に関しては外国人による所有は禁じられているが、最長99年間までのリースは可能である。農業分野への事業投資に際しては、長期リース契約を行うなどして農地を使用することとなる。

 

  • 労働関連法規

民間部門における労働関連の主な法律には「労働法典に関する法律第 65-99号(王令No. 1-03-194 of 14 rejeb(2003年9月11日))[23](以下「労働法典」)があり、主な規定は以下のとおりである。

【雇用比率】

外国人と現地人の雇用比率や雇用義務について法律上の規定はない。

 

【雇用形態】

雇用契約には、無期(durée indéterminée)、有期(durée déterminée)、特定職務を行うための雇用契約(accomplir un travail déterminé)の3形態がある。

このうち、有期雇用契約は、以下の場合に認められる。

ア)従業員の雇用契約が停止された場合の代替要員(ストライキによる場合を除く)

イ)企業活動の一時的な増加

ウ)季節労働の場合

雇用契約の書面による締結は必須ではないが、書面で締結した場合は、管轄当局の認証を受ける必要がある(同法第15条)。

【労働時間・時間外労働等】

労働時間は週44時間、時間外労働手当は給料の25%(21時から6時の間の時間外労働は50%)が支払われる。時間外労働が週休日(週休二日制)であった場合は、それぞれ50%、100%の手当支払いが必要となる。

 

【契約解除・解雇】

無期契約の従業員を解雇する場合、正当な理由とその根拠があり、所定の解雇手続きを踏む必要がある。同法上に規定される解雇の種類は以下の2とおりのみであり、また、いずれの場合も不当解雇であるとして訴訟に持ち込まれた際の立証責任は使用者側にある。

1)従業員本人を原因とする解雇(同一年内の4回超の懲戒処分、および、重大な不正行為のみが該当)

2)会社の経済的理由による解雇(人員整理)

期間に加え、被雇用者は以下の補償金を受け取る権利を有する

以上

[1] インド等経由でのアフリカ進出のご相談や、海外インフラプロジェクトに関する相談が増えてきているため、南西アジアプラクティスチームおよびインフラ輸出リーガルプラクティスチームが共同して、アフリカに関する情報発信を行っています。

[2] 国連世界人口推計 2019年 https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/

[3] 外務省、在モロッコ日本大使館、国連広報センター、米国政府報道資料、アフリカ連合

[4] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.TOTL.ZS?locations=MA

[5] 国連世界人口推計 2019年

[6] モロッコ憲法、外務省、在モロッコ日本大使館、CIAファクトブック、報道記事等

[7] モロッコ憲法、CIAワールドファクトブック、外務省等

[8] 世界銀行、外務省、JICA、JETRO、報道記事等

[9] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=MA

[10] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=MA

[11] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=MA

[12] CIAワールドファクトブック

[13] CIAワールドファクトブック

[14] 外務省 海外進出日系企業拠点数調(2020年調査結果) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html

[15] 世界銀行 https://www.doingbusiness.org/en/reports/global-reports/doing-business-2020

[16] 世界銀行 Economy Profile Tunisia Doing Business 2020:

https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/country/m/morocco/MAR.pdf

[17] 外務省2022年3月25日付報道発表https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000775.html

外務省2022年3月25日付報道発表https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000776.html

[18] 仏Agence Marocaine de Développement des Investissements et des Exportation: AMDIE|英Moroccan Investment and Export Development Agency

[19] Japan Desk E-mail:japandesk@amdie.gov.ma

[20] 仏Centres régionaux d’investissement:CRI|英Regional Investment Center

[21] Loi-cadre n°18-95 Charte des investissements

[22] Loi n° 17-95 relative aux Sociétés anonymes

Loi n° 5-96 sur la société en nom collectif, la société en commandite simple, la société en commandite par actions, la société à responsabilité limitée et la société en participation

[23] Dahir n° 1-03-194 du 14 rejeb (11 septembre 2003) portant promulgation de la loi n° 65-99 relative au Code du Travail

2022年06月13日(月)2:35 PM

チュニジアの投資規制と法制度についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

チュニジアの投資規制と法制度

 

チュニジアの投資規制と法制度

2022年6月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム[1]
インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

2022年8月に控える第8回アフリカ開発会議「TICAD8」は、2016年のケニア以来2回目のアフリカ開催となる、チュニジアでの開催が決定しています[1]。前回2019年のTICAD7では、政府や民間企業から1万人以上が参加する中、特に「ビジネス促進」が議論の中心となり、対アフリカ民間投資を日本政府として全力で後押しすることを表明していることから、民間企業のアフリカ進出がますます期待されています。

今回は第4弾として、チュニジアの各種投資規制と法制度を紹介して参ります。

なお、南西アジアプラクティスチーム代表の志村弁護士は、チュニジアに3ヶ月間駐在経験があり、現地法律事務所とのコネクションや法事情に通じています。

ナイジェリアhttps://oneasia.legal/7141)、南アフリカhttps://oneasia.legal/7734)、エチオピアhttps://oneasia.legal/7938)も公開しています。

 

【チュニジアの概要】

国名

チュニジア共和国

首都

チュニス

ISO国名コード

TN、TUN

面積

16万3,610平方キロメートル

人口

1,182万人(2020年)[2]

言語

アラビア語(公用語)、フランス語

民族

アラブ人(98%)、その他(2%)

宗教

イスラム教スンニ派(その他ユダヤ教、イスラム教シーア派、キリスト教が少数)

政治体制

政体:共和制

元首:カイス・サイード大統領(2019年10月就任)

議会:国民代表議会

政府

首相 ナジュラ・ブーデン=ラマダーン(同国初の女性首相、2021年9月就任)

外相 オスマン・ジェランディ

通貨

チュニジア・ディナール(TND)

会計年度

1月1日~12月31日

1.地理

チュニジアは、北アフリカに位置し、西はアルジェリアと、東はリビアと国境を接している。国土の北部と東部の海岸線は地中海に面した地理的条件から、歴史上重要な土地とみなされてきた。

北部や沿岸部は観光開発が進んでおり、南部や内陸部との、地位間経済格差が課題である。

2.人口

人口は1,182万、生産年齢人口(15~64歳)は全人口の66.8%。北アフリカ諸国に比べて人口増加率は1.1%(2020年)[3]と低く、平均寿命も77歳とアフリカで最も高い国の1つである。

失業率の高さが大きな課題であり、後述するように、革命当時2011年の失業率[4]は18.3%、なかでも高学歴層の失業率[5]は年々悪化しており、2005年の14%から、2011年には29%にまでのぼっていた。革命後も現在に至るまで失業率は高止まりしており、2021年は16.8%(高学歴者は最新2017年の統計で29%)である。

【人口動態(1,000人)】

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

8,243

9,125

9,708

10,107

10,635

11,180

11,819

3.国家・政治体制[6]

国家元首である大統領の任期は5年、再選は一度まで(憲法75条)。首相は大統領により任命され、任期の定めはないが、アラブの春以降の2011年から現在までの10年間に9人の首相が就いている。

特に近年は、2020年2月にファフファーフ新首相率いる新内閣が発足するも5カ月弱で同氏が辞任、同年9月に発足したムシーシー新政権では、新型コロナ感染拡大に伴う経済悪化に対する政府の対応への不満から反政府抗議デモが続く中、2021年7月にサイード大統領が首相解任と議会の停止(憲法第80条に基づく緊急事態における大統領特別措置[7])を発表し、大統領が行政権も掌握する措置をとるなど政治的混乱が続いている。同年10月にブーデン現首相による新内閣が誕生しているが、先の特別措置は再延長されるだけでなく大統領の権力集中を強化する追加措置が大統領令により発表されている。

サイード大統領による強権的な手段に対し、2022年3月には、停止措置の中で議会が強行開催され、先の大統領令の無効化が可決。これを受け大統領は議会を解散し、憲法および選挙法改正の是非を問う国民投票を7月25日に実施する方針を示しており、また重要な国政選挙も2022年内に予定されることから、今後の国の在り方が注目される。

チュニジアは、2010年12月に失業中の青年が警察に抗議して焼身自殺を図ったことで、民主化を求める反政府デモが全土に広がり、翌11年1月14日にベン・アリ大統領はサウジアラビアに亡命、23年間続いた独裁政権が崩壊した。

このアラブの春(「自由と尊厳の革命」)を機に2014年に改正された憲法では、大統領は外交や安全保障を、首相は内政を担うことで権力の分散が図られ、民主化を実現した成功例として見なされてきたが、サイード大統領が「大統領制」へ移行させようとしていると危惧する声が上がっている。

4.法制度[8]

チュニジアの法制度は、フランスの保護領時代(1881年~1956年)の影響を受けたフランス民法に基づく大陸法(Civil Law)と、イスラム法(シャリーア)の混合法体系である。最高法規となる憲法は、2010年のアラブの春をきっかけに改正され、2014年に新憲法が制定されている。なお、この新憲法制定にあたっては、「チュニジア・ナショナル・ダイアログ・カルテット[9]」と称される団体が与野党間協議を仲介し世論をまとめ、民主化移行に寄与した功績により、2015年にノーベル平和賞を受賞している。

民主的プロセスで制定された憲法は、人権尊重、男女平等、信教の自由などが定められ、民主的な内容となったことから、革命後に台頭したイスラム勢力と非宗教の世俗派が、平和的に妥協してまとめた点からも「アラブ革命後の政権移行のモデル」と評価されている。

イスラム教を国教とするものの、イスラム法には言及しないことでイスラム政党アンナハダが譲歩した形となっている。

しかしながら、首相が主な行政権を握り、大統領が国防・外交政策などの方針を決めることで権力を分散させた政治体制は、前項のとおり混乱をきたしていると言える。

司法は、大審院/最高裁(Cour de Cassation)、控訴院(appellate courts)、第一審裁判所(courts of first instance)から構成される。

※大審院(Court of Cassation、「大審院」、「破棄院」)は、フランスにおいて刑事および民事控訴の最高裁判所(highest court)であり、下級裁判所の決定を破棄する(casser)権限を持つ。高等裁判所は、下級裁判所が法律を正しく適用したかどうかという観点からのみ判決を検討し、事件の事実関係を扱うことはなく、再審も行わない。大審院の目的は、すべての裁判所の間で法の解釈の統一を図ることにある。米国や日本の最高裁判所、ドイツの憲法裁判所のように、特定の法律そのものが合憲かどうかを判断することはない。

5.通貨・経済状況[10]

通貨は、1USドル=3.05TND(2022年5月現在)。世界銀行の低中所得国(Lower middle income countries)に分類される。

主な経済指標と推移は以下のとおり。1990年代からアラブの春までのチュニジア経済は、年率平均4.5%と比較的安定した成長を遂げていた。

指標

2016

2017

2018

2019

2020

名目GDP(10億USドル)[11]

44.4

42.2

42.6

41.8

41.6

1人当たり名目GDP(USドル)[12]

3,924

3,688

3,681

3,575

3,522

GDP成長率[13]

1.1%

2.2%

2.5%

1.4%

▲9.2%

1987年の大統領就任から2011年の国外退去まで23年間続いたベン・アリ政権(2014年の改憲により現在の大統領は任期5年、再選1回まで)は、高い教育水準や経済成長を実現したものの、ベン・アリ一族の利権支配や汚職、若年層の高い失業率、地域間の経済格差、政府による自由や人権の抑圧といった強権支配に対し、民衆の不満は高まっていた。

ベン・アリ大統領が国外亡命した2011年1月14日の革命以降、下図のとおり、2011年の経済成長率はマイナス1.7%にまで激減している。これは、失業問題をめぐる労働争議や抗議活動、サラフィスト(シャリーア(イスラム法)の実現を求めるイスラム急進派勢力)による暴力活動等により経済活動が大きく影響を受けた他、世界中に政変が報道されたことによる外国人観光客の激減、新規投資の減少等による一時的なもので、翌2012年には一旦回復している。

しかしながら、革命後も政権が繰り返し交代するなど政治的な不安定が続き、地域間の経済格差や雇用問題が改善されたとは言えず、依然として課題である。また、前述のとおりコロナ禍による経済悪化が深刻化しており、今後の経済回復が期待される。

6.産業

チュニジアの主要産業は観光・ICT等のサービス業、繊維・電気部品等の製造業、鉱工業、小麦・大麦・柑橘類・オリーブ・なつめやし等の農業等である。

主要な貿易相手国は、輸出入ともにフランス、イタリア、ドイツ等の欧州である。

産業ごとのGDP寄与率[15]は、農業が10.1%、工業が26.2%、サービス業が63.8%(2017年)と、同じマグリブのモロッコと類似した産業構成となっている。

7.外国投資

チュニジアには、2021年時点で3,650社以上の外国企業が活動している[16]。外国投資は首都チュニスとその近郊(46%)、北部沿岸地方(23%)、北西部(14.4%)、東部沿岸部(12%%)に集中している。

日本企業については、2020年時点で24社が拠点を設けている[17]

世界銀行の「Doing Business 2020」[18]では世界190カ国中78位であり、課題は多いものの、起業のしやすさ(Starting a Business)ではスコア100中94.6で世界19位である。Doing Business 2020の国別レポート[19]によると、起業までの手続き所要日数は9日間と、中東・北アフリカ地域平均の19.7日間を大きく下回る。

外国企業がチュニジアで事業を行う際の投資促進機関として、チュニジア外国投資促進機関(FIPA)[20]が、開発・投資・国際協力省[21]の管轄下に設置されている。

また、外国投資の受入れ窓口として産業・技術革新促進庁(APII)[22]があり、株式会社設立にかかる申請はオンラインで手続きが可能。事務所はチュニス、スース、スファックスの3か所にある。

株式会社の設立手続きは、24~72 時間で行われる。オンラインの申請が可能。

【入国1ヶ月以内の携帯端末登録義務:Sajalniサービス[23]

2021年2月1日以降、チュニジア国外から持ち込んだスマートフォンなどの情報端末は、入国後1ヶ月以内に登録をすることが義務化されている。これを怠ると、1ヶ月経過時にSIMカードに紐づく端末がブロックされ、国内通信ネットワークが使用できなくなる可能性がある

運用開始までに移行期間が設けられてはいたものの、当該義務に関する情報の周知がなされておらず、SIMを販売する通信会社側も購入者に対し特段の説明をしないことも多く、入国1カ月後に携帯電話が突如使用できなくなるケースが多発している。

このSajalniの目的は、海外からの違法または偽造ルートで輸入される携帯端末で国内市場が混乱することを防止することにある。そのため、現地でSIMカードを購入した場合、最大30日間ネットワークへの一時アクセスが提供される「サービス」制度とされる。

ただし、1)登録サイト(https://sajalni.tn)は、端末の設定やセキュリティソフトの違い等により、アクセス自体ができないこともある、2)登録サイトで登録をしても手続きが完了したのか不明で進捗もフォローできない、3)SIMカード発行会社の対応にも差異があり、1ヶ月経過後に未登録の場合に音声通話はできなくなってもネット通信はできるというケースも多い、等の混乱も多く、手続等詳細について今後改善される可能性はあるものの、長期滞在を計画する場合には事前の準備が必須となる。

(1)投資規制

投資に関わる主要な法律である「投資法」[24]は、2016年に大きな改定がなされ、2017年4月に発効している。同法では、チュニジアへの自由な投資という原則が改めて示された他、外国人投資家による資金の海外送金の自由化(同法9条)や、非農業用不動産の所有、賃貸、利用(5条)が認められるなど、チュニジアへの投資自由化の促進がはかられている。

【ネガティブリスト】

投資自体は認められるものの、投資にあたり規制当局による事前承認が必要となる分野が規定されている。これはいわゆる「ネガティブリスト」と呼ばれ、投資法第4条では、国家安全保障や環境保全等の観点から、許認可の対象となる分野のリストやその手続き、条件等は、政令により定めるものとしている。

同法に基づき2018年に制定された政令(Governmental Decree No. 2018-417)では、許認可が必要となる100の分野が列挙され、天然資源、建設資材、陸上・海上・航空輸送、銀行・金融・保険、危険・汚染産業、健康、教育、通信等が該当する。また、プロジェクトの実施に必要な許認可143件の一覧も示されている。

ただし、同政令はアラビア語およびフランス語によるもののみであり、特に日本等のアラビア語やフランス語圏外の国からの投資家には障壁となり得る。

【投資許可】

さらに、手続きに関し、規制当局による投資の承認期限は原則60日以内と規定され、この期間内に回答がない場合、当該投資申請は承認されたものとみなされ、投資許可が交付されることと定められている(投資法4条)。

【最低資本金】

非公開有限責任会社であれば1,000TND(約4万3千円)、公開有限責任会社は5,000TND(約21万円)の最低資本金が必要(会社の形態は後述)。

【利益の本国送還】[25]

外国貿易および外国為替規制は、以下の外国為替・貿易法典、外国貿易法、およびその施行規則に基づく。

1976年1月21日制定法律N° 76-18(Code des changes et du commerce extérieur)

1994年3月7日制定法律N° 94-41(Loi n° 94-41, relative au Commerce Extérieur)

外為規制に基づく居住者・非居住者は以下のとおり分類され、非居住者として扱われる場合は、規制の適用対象外となり、投資による利益や株式売却益を自由に国外送金ができる(法律N° 76-18第1条)。

輸出専門の在外企業、チュニジア国内の輸出企業、経済活動地区(フリーゾーン)入居企業を除き、輸出または外国で受けた収益は、チュニジア通貨で銀行口座に納める必要がある。

居住者

Ÿ   チュニジアに2年以上居住し、チュニジアで活動する外国籍の個人

Ÿ   チュニジア国内で活動する法人(外国法人含む)

Ÿ   チュニジア居住のチュニジア国籍の個人、在外勤務のチュニジア人公務員

非居住者

Ÿ   非居住者である個人(国籍問わず)が資本金の66%以上を兌換通貨の輸入により保有する企業

Ÿ   投資促進制度内で設立された輸出専門企業

Ÿ   ビゼルタ(Bizerte)およびザルジス(Zarzis)のフリーゾーンに設立された企業

Ÿ   非居住者銀行(非居住者を主に顧客とし、チュニジア法に基づき設立された金融機関・銀行で、本社が海外にある法人)

Ÿ   海外で活動するチュニジア人または外国法人

Ÿ   チュニジアに居住していない外国籍の個人、2年以上海外で居住・活動するチュニジア国籍の個人、チュニジア勤務の外国人公務員

【貿易協定】

チュニジアは、その地理的な優位性のみならず、EUやアフリカ各国と貿易協定などを締結していることから、進出する外国企業はチュニジアを拠点として、100ヶ国以上の市場へのアクセスを享受することができる。

主な貿易協定等は以下のとおり[26]

EU

自由貿易協定(FTA)を含む連合協定(Association Agreement)(1995年締結、1998年発効)

ü  工業製品の双方向貿易は関税完全撤廃済み

ü  農業農業食品水産品サービス分野に関しては、特定の製品について段階的な貿易関税引下げに合意済み

非関税障壁の撤廃、農業分野の関税撤廃、サービス業や公共調達の自由化等を目指すALECA(またはDCFTA、高度かつ包括的な自由貿易協定)[27](2015年交渉開始)

ü  チュニジア経済のEU単一市場への統合強化、チュニジアの経済改革支援、貿易関連分野におけるチュニジアの法律をEUの法律に近づけること、工業製品に限定された関税撤廃に関する連合協定の分野拡大等を目的とした協定

ü  第4回交渉(2019年4月-5月)では、農業、サービス、持続可能な開発等が議論されたものの、現時点での成果は限定的

アラブ諸国

大アラブ自由貿易地域(GAFTA)[28](1998年発効)

ü  MENA(中東・北アフリカ)地域18カ国間での、農業・工業製品等、ネガティブ品目を除くすべての製品が自由化、関税撤廃済み

ü  加盟18ヶ国:アラブ首長国連邦、アルジェリア、イエメン、イラク、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、スーダン、チュニジア、バーレーン、パレスチナ、モロッコ、リビア、レバノン、ヨルダン

東南部アフリカ

東南部アフリカ共同市場(COMESA)[29](1994年発足)

ü  加盟国間の関税や非関税障壁を削減し、地域統合による経済的繁栄を目的とした地域機関であり、自由貿易地域(FTA、現在16ヶ国が加盟)、関税同盟、インフラ開発等を促進

ü  チュニジアは2018年にCOMESA加盟、2020年にCOMESAのFTA加盟

ü  COMESA市場に輸出される工業製品、農産物、水産品、手工芸品は、関税やその他費用・税金は免除

ü  現在以下のアフリカ21カ国が加盟:

ブルンジ、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、リビア、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、ルワンダ、 セーシェル、スーダン、エスワティニ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、チュニジア、ソマリア

エジプト、モロッコ、ヨルダン

アガディール協定(2004年調印、2006年発効)

ü  チュニジア、エジプト、モロッコ、ヨルダンの4ヶ国の締約国における農業・工業製品の関税や輸入割当枠撤廃済み

ü  レバノン、パレスチナが2020年に協定に加盟

アフリカ

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)[30](2019年発効、2021年運用開始)

ü  アフリカ連合(AU)が発足した機関

ü  AU加盟55ヶ国中、43ヶ国が批准(2022年5月時点)

ü  財とサービスの単一大陸市場の創設、人と投資の自由な移動促進、大陸関税同盟確立等、アフリカ域内での貿易活性化を目的とした、世界最大の自由貿易圏

ü  5年以内にタリフラインベースで90%の関税撤廃、残り7%はセンシティブ品目として10年以内に撤廃、3%は撤廃の対象外とすると合意されている。

ü  アフリカ進出済みの日系企業のAfCFTAへの期待も高く[31]、直近では2022年3月に、英国がAfCFTA交渉と実施を支援するために最大3,500万ポンドを投じる支援プログラムの立ち上げを発表するなど、AfCFTA加盟国との貿易の将来的な拡大が期待される。

2国間FTA

モロッコ、エジプト、ヨルダン、リビア、シリア、トルコ、英国とはそれぞれ2国間FTAを締結、発行済み

(2)進出形態[32]

外国企業がチュニジアに進出する際は、以下の事業形態があり、非公開有限責任会社の形態が一般的にとられている。

形態

最低資本金

株主数

公開有限責任会社

Société anonyme (SA)

Public Limited Company

5,000TND

最低7人

合資会社

Société en commandite par actions (SCA)

Share-limited Partnership

5,000TND

1社以上のスポンサーとゼネラルパートナー

非公開有限責任会社

Société à responsabilité limitée (SARL)

Limited Liability Company

1,000TND

2人以上50人以下

一人有限責任会社

Société unipersonnelle à responsabilité limitée (SUARL)

Sole ownership with limited liability

1,000TND

1人

投資は3つのカテゴリーに分類され、各形態に応じた優遇措置が設けられている。

完全輸出企業Régime totalement exportateur

・完全に輸出を目的とした生産を行っている企業

・海外またはチュニジア国内で、海外での利用を目的としたサービスを提供する企業

・経済活動パーク内に設立され、完全輸出を行う企業とのみ事業を行う企業

オフショア企業Régime des entreprises offshores

完全輸出企業のうち、兌換通貨の輸入により、非チュニジア人または外国居住者が資本金の66%以上を保有している場合、非居住者(オフショア)とみなされる。また、貿易を行わない国に本社を置き、トップマネージャーが当該国に居住していない場合も、オフショア企業とみなされる。

非完全輸出企業・部分輸出企業Régime autre que totalement exportateur

完全輸出企業と同様の活動を行いながら、輸出による売上高が80%未満の企業

(3)土地に関する規制

外国人による土地の所有は、非農業用地であれば可能である。農業用地については、外国人による取得は禁止されているが、賃貸は認められる。

なお、チュニジア全国に現在157[33]の工業地帯があり、新規の建設も定期的に計画されている。また、経済活動地区(フリーゾーン)が、ビゼルタ(Bizerte)およびザルジス(Zarzis)に設置されており、輸出専門の産業、貿易、サービスを行う法人は利用が可能となる。土地の賃貸期間は12年間から30年間、設立にかかる手続きを一括で行う窓口が設置されているなど、メリットを享受できる。

その他、専門分野に特化したテクノパークやICT関連ビジネスのインキュベーターでもあるサイバーパークもある。

(4)労働関連法規

【雇用比率】

外国人の雇用には制限がある。法人設立から3年間は管理職の総数の30%を上限として外国人経営者の雇用が認められるが、4年目以降は10%(ただし上限人数は4人)に削減することが義務付けられ、当該割合または上限を超えて外国人管理職を雇用するには雇用当局の許可を得る必要がある(投資法6条)。

【雇用形態】

雇用は無期、有期いずれの形態でも契約が可能(労働基準法6-2条)。

・Contrat à Durée Indéterminée (無期契約:CDI)

・Contrat à Durée Déterminée (有期契約:CDD)

有期雇用については、以下の場合に契約される(同法6-4条1項)。

設立当初の業務または新規業務の遂行

・仕事量の異常な増加により必要とされる業務の遂行

・欠勤または雇用契約が停止された正社員に代わる一時的な業務

・救助活動、会社設備等の欠陥修繕のための緊急作業等の遂行

・季節労働や、慣習上またはその性質上、無期契約を利用することができない活動の遂行

ただし、前項以外の場合にも、双方の合意により、契約期間の更新を含め最長4年を限度に、有期での契約は可能とされる(同法6⁻4条2項)。この場合、期間満了後の当該労働者の採用は、試用期間を設けることなく無期雇用契約としなければならない。

有期雇用労働者であっても、同じ職務上の資格を持つ有期雇用労働者に支払われる給与を下回ってはならない(同法6⁻4条3項)。

試用期間は、労働法上は期間の定めは無いが、労働協約(Conventions Collectives ou Particulières)により以下のとおり規定される[34]

労働者 (agents d’exécution):6カ月間

監督者 (agents de maîtrise):9カ月間

経営幹部(executives):1年間

【労働時間・時間外労働[35]

原則週48時間まで。例外的な時間外労働であっても1日10時間、週60時間まで。

なお、労働時間の短縮は可能だが、週40時間を下回ることはできないと定められている(労働基準法79条)。

(ただし、農業企業の場合の法定労働時間は、有効労働日数300日、年間最大2,700時間。)

時間外労働に対する補償は、1時間あたりの基本賃金に以下の率を加算して支払うものと規定されている。

非農業(週48時間以上のフルタイム勤務)

75%

非農業(週48時間未満のフルタイム勤務)

48時間まで:25%

48時間超:50%

非農業(パートタイム)

50%

農業

25%

また、祝日の労働には200%の割増賃金の支払が必要となる(労働基準法109条)。

【週休日・祝祭日】

週休は1日(24時間)と規定されている。曜日は金土日のいずれでもよく、また、労使間の合意により他の曜日も認められている。

祝祭日は、政令または労働協約で定められる。

Jours fériés payés 有給祝日

Nouvel an 新年

1月1日

Jour anniversaire de la Révolution Tunisienne チュニジア革命記念日

1月14日

Fête de l’indépendance 独立記念日

3月20日

Jour des Martyrs 殉教者の日

4月9日

Fête de travail メーデー

5月1日

Congés Aid El Fitrイード・アル=フィトル休暇

2日間

Fête de la Réplique 共和国記念日  

6月25日

Fête de la femme 女性の日

8月13日

Congés Aid El Idhaイード・アル=アドハー休暇

2日間

Jour de l’An Hégire ヒジュラ暦(イスラム暦)新年

1日間

Fête de l’évacuation 仏軍撤退記念日

10月15日

Anniversaire du prophète Mohamed (Mouled) 預言者生誕祭

1日間

【年次有給休暇】

すべての労働者は1カ月に1日(18歳未満は月2日、18歳以上21歳未満は月1日半)の有給休暇を取得する権利を有する。勤続5年ごとに1労働日が増加されるが、年間18労働日と上限が定められている。

【契約終了】

無期雇用契約の終了には、少なくとも1ヶ月前に相手方に書面で通知することが義務付けられている(同法398条)。

【退職金】

無期雇用契約で試用期間満了後に解雇された従業員は、勤続1ヶ月ごとに1日分の給与を基に計算された退職金を受け取る権利を有する。ただし、勤続期間にかかわらず、退職金は給与の3カ月分が上限額となる(同法22条)。

以上

 

[1] インド等経由でのアフリカ進出のご相談や、海外インフラプロジェクトに関する相談が増えてきているため、南西アジアプラクティスチームおよびインフラ輸出リーガルプラクティスチームが共同して、アフリカに関する情報発信を行っています。

[1] 本ニューズレター発行時点で開催都市等の詳細は未発表

[2] 国連世界人口推計 2019 年 https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/

[3] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.GROW?locations=TN

[4] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.TOTL.ZS?locations=TN

[5] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.ADVN.ZS?locations=TN

[6] チュニジア憲法、外務省、JETRO、IDE JETRO、公安調査庁、報道記事等

[7] 2014年改定憲法80条「国家の危機に際しては、大統領が、首相や国会議長と協議の上、必要とされる措置をとることができる」が適用された。

[8] チュニジア憲法、CIAワールドファクトブック、外務省等

[9] 労働組合、工業・手工業連合会、人権団体、弁護士会の4団体からなる。

[10] 世界銀行、外務省、JICA、JETRO、IDE JETRO、公安調査庁、報道記事等

[11] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=TN

[12] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=TN

[13] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=TN

[14] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=TN

[15] CIAワールドファクトブック

[16] 米国国務省 2021年レポート https://www.state.gov/reports/2021-investment-climate-statements/tunisia/

[17] 外務省 海外進出日系企業拠点数調(2020年調査結果) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html

[18] 世界銀行 https://www.doingbusiness.org/en/reports/global-reports/doing-business-2020

[19] 世界銀行 Economy Profile Tunisia Doing Business 2020:https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/country/t/tunisia/TUN.pdf

[20] 仏:Agence de Promotion de l’Investissement Extérieur、英:Foreign Investment Promotion Agency

[21] Ministère du développement, de l’investissement et de la cooperation internationale

[22] Agency for the Promotion of Industry and Innovation

[23] https://www.tunisietelecom.tn/Fr/Particulier/Mobile/Services/servicesajalni

[24] Loi n° 2016-71 du 30 septembre 2016, portant loi de l’investissement

世界知的所有権機関(WIPO)による投資法の非公式英訳:https://wipolex-res.wipo.int/edocs/lexdocs/laws/en/tn/tn080en.html

[25] チュニジア中央銀行 https://www.bct.gov.tn/bct/siteprod/page.jsp?id=67&la=AN

[26] 各ウェブサイト:TIA(Tunisian Investment Authority)、European Commission、African Union、COMESA、African Development Bank、英国政府、外務省、JETRO

[27] 仏:Accord de Libre Échange Complet et Approfondi、英:Deep and Comprehensive Free Trade Areas

[28] Greater Arab Free Trade Area

[29] Common Market for Eastern and Southern Africa

[30] African Continental Free Trade Area

[31]アフリカに進出する日系企業を対象にJETROが2020年に実施したアンケート調査では、約4割の企業が今後、AfCFTAの利用を検討していると回答。https://www.jetro.go.jp/news/releases/2020/4a27660ec7fa4617.html

[32] 商事会社法(Code des Sociétés Commerciales)およびTIA(Tunisian Investment Authority)ウェブサイト:https://guide.tia.gov.tn/legal_forms_and_investment_regimes

[33] https://guide.tia.gov.tn/faq

[34] 労働基準法18条、労働協約10条

[35] 労働基準法(Code du travail: La loi no 66-27)79条~94条

2022年04月27日(水)2:44 PM

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存についてニュースレターを発行いたしました。  PDF版は以下からご確認ください。

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存

 

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存

2022年4月27日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

インドの会社法で定められている法定文書は、日本の法定文書よりも長い期間の保存が義務付けられている場合が多いため留意が必要です。

本ニューズレターでは、インドの会社法における法定文書の種類とそれぞれの保管期間、また電子保存の可否について、法規制と実務を解説いたします。

なお、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(https://oneasia.legal/7381)(中央経済社)では、インドやその他南アジア各国の会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

1.インドの法定文書と保存期間

インドにおける会社の法定文書の作成と保存期間については、インド会社法(Companies Act, 2013)およびその下位規則等に、具体的な規定が定められています。

会社の文書管理を含む法令遵守等は、会社に会社秘書役(Company Secretary)の役職を置いている場合は、会社秘書役が担う役割とされています(同法205条)。常勤の会社秘書役は、①上場会社、および②払込資本1億ルピー以上の公開会社に任命が義務付けられる役職(同法203条)ですが、インドの会社法に基づくコンプライアンス上の実務や当局への報告は複雑であることもあり、特に外国企業においては、当該要件に該当しない会社においても会社秘書役を任命することが一般的です。

会社が作成し、保管が義務付けられる主な文書と、その保存期間は以下のとおりです。

インドの会社法および関連規則上、永久的(permanently)に保存が義務付けられる文書が多い点が特徴的といえます。日本においては、定款や株主名簿等、会社法等の法令による義務ではないものの、その性質から永久保存が望ましいとされている文書もありますが、インドにおいては永久保存が義務である点に留意した管理が必要です。

具体的な年限が定められている文書に関しては規定通りに履行することに加え、「永久保存」(規則ごとの表現は下表に併記)が必要な文書については、会社が存続する限りは無期限に保存する必要があります。

文書名

保存期間

法律名/条文番号

会社設立時に登記局(ROC)[1]に提出されたすべての書類と情報(基本定款(MOA)および附属定款(AOA)[2]を含む)

会社が存続する期間は永久保存(会社法に基づく解散まで(till its dissolution under this Act))

会社法7条4項等

株券発行に関するすべての帳簿および書類

30年間

会社(株式資本および債券)規則7条

第三者割当増資の記録

8年間(明文規定はないものの、一般的に8年間保存とされる)

会社法42条

会社(目論見書および有価証券の割当)規則[3]14条

株式名義変更証明(Renewed Share Certificate)および株券喪失証明(Duplicate Certificates)の登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法46条

会社(株式資本および債券)規則[4]6条3項(a), (b)

功労株式登録簿(Register of Sweat Equity Shares)
※スウェット・エクイティとは、会社がその取締役または従業員に対して、ノウハウの提供、知的財産権または付加価値のような権利の利用を可能にするために、割引または現金以外の対価で発行する株式を意味する(その名称は問わない)(会社法2条88項)

30年間

会社法54条

会社(株式資本および債券)規則7条、8条14項

株式/優先株式の譲渡・送信登録簿

30年間

会社法56条

有価証券償還届出書

8年間

(明文規定はないものの、一般的に8年間保存とされる)

会社法68条9項

会社(株式資本および債券)規則17条

担保(Charges)登録簿
※Chargeは、担保権の一種だが、担保権者へ目的物の所有権権が移転するmortgageほど強い権利ではない

担保登録簿は永久保存(shall be preserved permanently)

(担保設定証書またはその変更は、担保の充足日から8年間保存)

会社法85条

会社(担保の登録)規則[5]10条4項

株主名簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法88条

会社(経営・管理)規則[6]3条、15条1項

議事録(取締役会および株主総会)

永久保存(shall be preserved permanently)

会社(経営・管理)規則25条1項(e), (f)

会計帳簿

少なくとも8会計年度

会社法128条5項

取締役および主要経営責任者名簿

保管期間の規定なし

株主名簿同様に永久保存されることが一般的

会社法170条1項

会社(取締役の選任と資格)[7]規則17条

投融資保証登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法186条

会社(取締役会の開催とその権限)[8]規則12条

他人名義出資登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法187条

会社(取締役会の開催とその権限)規則14条

取締役が利害関係を有する契約または取り決めに関する登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法189条

会社(取締役会の開催とその権限)規則16条


2.法定文書の電子保存

前述の法定文書を含め、会社法上保存が求められる文書(登記簿、契約書、議事録等)は、電子形態での保存が認められています(2000年情報技術法(IT法)4条)。IT法の具体的な規定としては、当該情報または事項が以下の要件を満たすものであれば、その電子記録(electronic records)は法的に有効とみなされます。

a)電子的形態で提供され、又は利用可能であること(rendered or made available in an electronic form)、かつ

b)後日閲覧できる状態でアクセス可能であること(accessible so as to be usable for a subsequent reference)

したがって、必要に応じていつでも閲覧・参照できる状態であれば、PDF等の形式による保存も可能です。

ただし、議事録については、別途規定[9]が設けられており、タイムスタンプを付した上で永久保存する点に注意が必要です(shall be preserved permanently in physical or in electronic form with Timestamp)。また、議事録には議長、会社秘書役等の署名が必要ですが、議事録を電子保存する場合は、電子署名されることと規定されています(SS-1規則7.6、SS-2規則17.5)。

また、IT法上、以下の文書については物理的な紙媒体での保存が求められます。

a)インド国内の不動産に関する契約(売却、権利の譲渡等)

b)1882年委任状法(Powers-of-Attorney Act)に定義される委任状

c)1925年相続法(Indian Succession Act)に基づく遺言書

d)1881年譲渡性預金法(Negotiable Instruments Act)に基づく譲渡性金融商品(小切手を除く)

e)1882年信託法(Indian Trusts Act)に基づく信託

なお、上場会社または株主、社債権者、証券保有者が1,000人以上の会社は、会社法上求められる文書を電子形式で保管することが勧奨[10]されています(会社法120条、会社(経営・管理)規則27条1項)。

電子的な保存については所定の方法が規定されており、具体的には以下のとおりです(会社(経営・管理)規則27条2項)。

(a)法律または下位規則に規定された形式で、その他すべての要件に従って保管されること。

(b)法律または下位規則に基づき要求される情報は、将来の参照のために適切に記録されること。

(c)印刷物として読み取り、検索、複製が可能であること。

(d)法律または下位規則に基づき必要とされる場合には、デジタル方式で日付および署名を付すことができること。

(e)一旦デジタルで日付および署名をした記録は、編集または変更を行えないこと。

(f)法律または下位規則に基づき更新が可能であり、更新の都度、更新日を記録することが可能であること。

特に議事録等の保存期間について、日本の会社法上で定められている10年間と比して、インドにおいてはすべての取締役会や株主総会の議事録を無期限で(会社解散まで)保存する必要があります。タイムスタンプとともに管理する等の規定に則った形で保存された電子文書は、紙媒体の文書と同等の法的地位と重要性を有することとなるため、必要に応じ、電子保存を有効に活用することが推奨されます。

 

[1] Registrar of Companies

[2] Memorandum of Association、Articles of Association

[3] Companies Act (Prospectus and Allotment of Securities) Rules, 2014

[4] Companies (Share Capital and Debentures) Rules, 2014

[5] Company (Registration of Charges) Rules, 2014

[6] Companies (Management and Administration) Rules, 2014

[7] Companies (Appointment and Qualification of Directors) Rules, 2014

[8] Companies (Meeting of Board and its Powers) Rules, 2014

[9] Secretarial Standard on Meetings of the Board of Directors(取締役会に関する会社秘書役基準、通称「SS-1」)規則8.1および、Secretarial Standard on General Meetings(株主総会に関する会社秘書役基準、通称「SS-2」)規則18.1

[10] 2014年の規則制定当初における、27(1)“Every listed company … shall maintain its records … in electronic form.”は、その後、”shall”から”may”に修正されているものの、e-Governanceの流れによる各種政策もあり、大企業には電子保存が強制はされないものの強く推奨されているといえます。

以上

 

 

2022年04月13日(水)9:30 AM

スリランカ・南アジア初の個人情報保護法についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

スリランカ・南アジア初の個人情報保護法が成立

 

スリランカ・南アジア初の個人情報保護法が成立

2022年4月13日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

南アジア諸国では、これまで個人情報を保護する包括的な法律はありませんでした。インドおよびパキスタンが同様に法案を審議している状況でしたが、これらの大国に先行する形で、2022年3月19日にスリランカにおいて、「個人情報保護法(Personal Data Protection Act, No.9 of 2022)」[1]が成立しました。

本ニューズレターでは、新たに成立したスリランカの個人情報保護法について、主な規定と企業への影響を解説いたします。

なお、インドの個人情報保護法案については、2021年8月13日付けニューズレター(https://oneasia.legal/7274)および2021年4月9日付けニューズレター(https://oneasia.legal/6642)で解説しています。

また、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(https://oneasia.legal/7381)(中央経済社)では、インドやその他南アジア各国の会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

1.概要

スリランカ、2022年3月、南アジアで初となる個人情報保護法を制定しました。同法は、2022年3月9日に可決、同月19日に認可されて正式に成立し、同月22日に公布されています。内容はEU一般データ保護規則(GDPR)をベースとしており、具体的な規定についても、厳格なGDPRのものと類似しています。

同法制定前のスリランカにおいては、プライバシーやデータ保護を包括的に規制する法律はなく、「コンピュータ犯罪法(Computer Crime Act No 24 of 2007)」が、コンピュータおよびその情報への不正アクセス(コンピュータ犯罪法3条)や、情報の不正な開示(同法10条)等を規制するにとどまっていました。

新たに成立した個人情報保護法は、現行法よりも格段に厳しい規定が盛り込まれ、違反時には高額な罰則も科され得るものとなっています。また、南アジアにおいても、インドやパキスタンで類似の個人情報保護法案が審議されている点も念頭に、適用対象となる企業は、同法の施行開始(最短で2023年9月)までに、社内体制の整備や情報取扱の運用の見直しといった対応が求められます。

2.適用の対象

スリランカ国内に拠点を有しているかを問わず、スリランカで行われる個人情報の処理が、同法の適用対象として含まれます。そのため、現地の代理店を通してスリランカでビジネスを行う日系企業等においても、個人情報を扱う限りは同法の義務規定の遵守が必要となります。

また、同法には小規模会社等を免除する規定はなく、規模を問わずすべての企業に適用されるため、同法施行開始による企業への影響は大きいものとなり得ます。

具体的には、以下の個人情報の処理が同法の適用の対象として規定されています(同法2条1項)。

a)       個人情報の処理が、全部または一部がスリランカ国内で行われる場合 または b)      個人情報の処理が、以下のいずれかに該当する管理者または処理者によって実施される場合  i)              スリランカに居住または在住(is domiciled or ordinarily resident)している  ii)             スリランカの法律のもとで法人化または設立されている  iii)            スリランカのデータ主体に商品またはサービスを提供している(スリランカ国内のデータ主体を特定のターゲットとする商品またはサービスの提供を含む)  iv)            スリランカにおけるデータ主体の行動を特に監視し、当該データ主体の行動に関し意思決定を行うことを意図したプロファイリングを行っている

なお、「個人による純粋な個人的、家庭的、家計的な目的のため」に処理される個人情報には、同法は適用されません(同法2条3項)。

3.個人情報等の定義

同法上の「個人情報(personal data)」とは、直接的または間接的に個人を識別できる情報を意味し、具体的には以下を指します(同法56条)。

a)氏名、識別番号、財務情報、位置情報、オンライン識別子等の識別子、または b)個人または自然人の身体的、生理的、遺伝的、心理的、経済的、文化的または社会的アイデンティティに特有の1つまたは複数の要素

また、日本の「要配慮個人情報」と類似した概念として、「特殊な個人情報(special categories of personal data)」が規定されています(同法56条)。これは同法上、「人種または民族の出身、政治的意見、宗教的・哲学的信条、遺伝情報、生体情報、健康データ、性生活・性的指向に関するデータ、犯罪、刑事手続および有罪判決に関する情報、または子供(の有無や人数等)に関する個人情報」と定義されており、子供に関する情報が当該カテゴリーに分類される点が特徴的であるといえます。

 4.主な義務規定

企業が遵守すべき同法上の主な義務には、本人の同意取得義務、国外移転先の十分性認定確認、担当責任者の設置等が含まれ、これらはGDPR上の規定とも類似しています。個人情報保護法上の義務規定は本ニューズレターでは紙面の都合上網羅していないものの、実務上の影響が大きい義務については以下のとおり規定されます。ただし、施行規則やガイドラインは未発表であり、具体的な手法等は現時点では明らかではありません。

(1)通知および同意取得

個人情報を収集する際、管理者はデータ主体に対し所定の情報を含む通知を行い(同法11条、別紙V)、収集した個人情報の処理を行う際は本人の同意を得る必要があります(同法5条(a)、別紙I)。

(2)国外移転

個人情報の国外移転は、十分性認定(adequacy decision)に基づき定められた第三国であれば認められます(同法26条3項(a))。ただし、十分性認定国以外の第三国において、管理者または処理者が、同法に基づく義務を確実に遵守するとともに、データ主体の権利及び救済措置の確保のための、当局指定による拘束力および強制力のある保護措置を講じることを条件に、当該国への移転は認められます(同法26条3項(b)、4項)。当該措置を講じることができない場合は、個人情報の国外移転にあたり適切な保護措置がないために起こりうるリスクについて、本人の明示的な同意を取得するなどの一定の要件を満たさなければ、国外移転は認められません(同法26条5項)。

ただし、公的機関がデータ管理者または処理者の場合は、原則としてスリランカ国内でのみ処理されるものと規定し、第三国での処理は禁止されます(同法26条1項)。このため、サービス提供に際し公的機関と個人情報の共有等を含む事業者は、データをスリランカ国内でのみ処理すること(データローカライゼーション)となる点に留意を要します。

(3)データ保護責任者(Data privacy officer)の設置

「特殊な個人情報」を処理する等の一定の条件下では、所定の専門資格等を有するものをデータ保護責任者に任命し、その連絡先を公表しなければならないと規定されています(同法20条1項、2項、4項)。データ保護責任者は、データ処理の要件や同法の規定の遵守状況、個人情報保護影響評価等について、管理者または処理者に助言する責務を担う重要なポストと位置付けられます(同条5項)。

(4)罰則規定

同法に違反した場合は、最大1,000万ルピー(約400万円)罰金が科され得ることとなります(同法38条)。

同法はGDPRをモデルにはしているものの、GDPR自体や、同じくGDPRをモデルとしているインドの法案では、違反時の罰金をいずれも数億円または全世界売上高の数%としており、それらと比較すると罰金額は小さく定められたといえます。

5.施行時期・企業に求められる対応

同法は既に成立しているものの、施行までその適用は猶予されます。すなわち、前述の主な規定はすべて、2023年9月から2025年3月まで(認可日2022年3月19日から18ヶ月以上36ヶ月未満)の期間に施行されると規定されています(同法1条)。

施行開始後も、スリランカのような国で世界基準の個人情報保護規定を遵守することは実務面で大きな困難が伴うことが予想され、また、規定通りの厳格な運用がなされるか、違反とみなされた場合に罰則が実際に適用されるか、など、特に南アジアで初の個人情報保護法でもあり、未知数といえます。

また、施行開始まで少なくとも1年半の猶予期間があるため、適用を受ける企業には規定を遵守する体制を整える準備期間が十分に与えられているとみなされ、施行開始時点でのコンプライアンス違反に対する当局の柔軟性は期待できない可能性もあります。

具体的な施行規則や当局による通知は引き続き注視するとともに、インドやパキスタンが類似の法案を審議していることも念頭に、同地域でビジネスを展開する企業においては、南アジア域内での体制や運用を検討することが推奨されます。

以上

[1] https://www.parliament.lk/uploads/acts/gbills/english/6242.pdf

 

2022年01月13日(木)6:21 PM

インドにおける取締役会の運営FAQについてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

インドにおける取締役会の運営FAQ

 

インドにおける取締役会の運営FAQ

 

2022年1月13日

One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

インドでは2021年6月以降、年次財務報告書承認等の取締役会を、ビデオ会議で開催することが恒久的に可能とっています(当該規制緩和については、2021年6月17日付けニューズレターで解説しています。https://oneasia.legal/7038)。

本ニューズレターでは、インドにおける取締役会運営について多く寄せられるお問合せを紹介し、法規制と実務を解説いたします。

なお、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(https://oneasia.legal/7381)(中央経済社)では、インドやその他南アジア各国の会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

1.インドの取締役会の概要

インドにおける取締役会運営に関しては、「2013年会社法」(Companies Act, 2013)[1]および、その下位規則である「2014年会社(取締役会および権限)規則」(Companies (Meetings of Board and its Powers) Rules, 2014、以下「取締役会規則」)[2]に、具体的な規定が定められています。

日系企業のインド子会社等、インドの会社法に基づいて設立された会社は、当該規定に従い、取締役会を開催することとなります。

かかる規定の概要は下表のとおりです。

開催頻度

毎年少なくとも4回、開催間隔は120日未満

設立後最初の取締役会は設立日から30日以内(会社法173条1項)

なお、小規模企業スタートアップ企業[3]の一部の会社は、年2回の開催(開催間隔は90日以上)で足りるとする例外規定が適用されます(会社法173条5項)

定足数

最低2名(ただし、全取締役数の3分の1(端数切り上げ)を充足する必要あり)(同法174条1項)

開催方法

対面、ビデオ会議、一定の条件の下で書面決議が認められています。

【ビデオ会議】(会社法173条2項)

取締役の参加を記録・認識し、議事を日時とともに記録・保存できる場合、視聴覚手段を用いた取締役会の開催が認められます。

【書面決議(Resolution by Circulation)】(会社法175条1項)

決議の草案をすべての取締役に回覧(メール等電子的手段も可)し、決議された場合、取締役会の正式な決議とみなされます。議決要件は取締役の過半数の賛成。

ただし、借入・融資、財務諸表の承認等、一定の事項については書面決議が認められないため、対面またはビデオ会議の開催が必要です。また、取締役の1/3以上が求める場合にも、書面ではなく対面・テレビ形式での会議上で決議を行うこととなります。

開催地

会社の登記上の所在地や同じ州内でなければならないという規定はなく、日本等の国外で開催することも可能

決議要件

書面決議の決議要件は、議決権を有する全取締役の過半数以上(175条1項)。

取締役会での決議要件は、附属定款において、出席取締役の過半数と規定することが一般的。

 

2.ビデオ会議での取締役会はどのように行えばよいか?

ビデオ会議その他所定の視聴覚手段(video conferencing or other audio visual means)を利用した取締役会については、取締役の参加を記録認識recording and recognising the participation)し、当該会議の議事を日時とともに記録・保存(recording and storing)することが可能であることを前提に、認められています(会社法173条2項)。また、ビデオ会議等による出席であっても、出席者として定足数にカウントされます(同法174条1項)。

ただし、取締役会規則には、ビデオ会議等を用いた取締役会を招集して実施するための要件と手続きが定められており(同規則3条)、ビデオ会議用の機器・設備自体や接続障害回避手段不正アクセス対策電子記録の手段等を確保しておくことが前提条件となります。

同規則第3条におけるとりわけ重要な規定は以下のとおりです。

(1)     十分なセキュリティと本人確認手続きを確保し、会議の完全性を保護すること

(2)     議事を記録し、会議の議事録を作成(to record proceedings and prepare the minutes of the meeting)し、その草案は開催15日以内に全取締役に配布すること

(3)     遅くとも当該年度の監査が完了する前に、テープ記録またはその他電子記録機構を保管すること

(4)     開催通知は、(対面開催同様に)すべての取締役に送付すること

(5)     電子的方法での参加しようとする取締役は、暦年の初めにその旨を申告すること。当該申告の有効期間は1年間であるため、毎暦年の申告が必要となる。

(6)     取締役会の開始時に議長が点呼を行い、ビデオ会議参加のすべての取締役が、記録のために以下の事項を述べること:(a)氏名、(b)自分が参加している場所、(c)関連資料をすべて受領済みであること、(d)今いる場所で当該取締役以外の者が会議に出席していないこと、または会議の議事にアクセスできないこと

なお、以前は物理的な実地開催が必須であった項目(年次財務諸表の承認、取締役会の報告書の承認、目論見書の承認、財務諸表承認のための監査委員会、合併・統合・分割・買収)も、現在はテレビ方式での取締役会開催が認められています(2021年6月17日付けニューズレター参照)。

3.すべての取締役会は、ビデオ会議や書面決議で代替できるか?

ビデオ会議は、対面での取締役会と同等であり、すべての取締役会をビデオ会議で行うことも可能。

書面決議は、後述する規定の重要な決議事項を除く事項であれば、正式な取締役会決議とみなされますが、重要事項については、取締役会との代替はできません。また、書面決議は、次回の取締役会で追認しておくことが一般的です。

【ビデオ会議】

ビデオ会議による取締役会については、前項に示した環境整備や安全対策、会議の記録等の規定に則った開催であれば、法定4回のすべての取締役会をビデオ会議で行うことも可能です。

従前はビデオ会議で扱うことが認められていなかった、財務諸表の承認等の事項も現在はビデオ会議での決議が可能となっているため、コロナ禍により物理的な会合が困難となった多くの日系企業にとっては、コンプライアンス上の大きな懸念が一つ払拭されたと言えます。

なお、記録(record)の方法として、取締役の参加を認識できるものであれば、録画でなく音声録音で代替できると解釈する余地はあるものの、議事録だけでは足りないと解されています。

したがって、ビデオ会議での開催とすると、それを記録し保存する等の新たな負担が生じることとなりますが、録画と保存をしておくことが推奨されます。

【書面決議】

書面決議は、下表の事項以外の事項であれば、その決議案を全取締役に事前回付し、決議要件である取締役の過半数が賛成すれば、正式に取締役会の決議とみなすことができます(会社法175条1項)。回付は、メール等の電子的方法も可能です。当該決議は、次回の取締役会での議事録の一部として記録される必要があります(同条2項)。

以下の事項については、書面回付による決議は認められず、対面またはビデオ会議による取締役会の開催が義務付けられています(同法179条3項)。

また、1/3以上の取締役が求める場合も書面決議は行えず、会議の開催が必要となります。

取締役会の会合での決議が必要な事項

(1)    株式が未払となっている株主に対する払込請求

(2)    有価証券の買戻しの承認

(3)    社債を含む証券の発行

(4)   金銭の借入

(5)    会社資金の投資

(6)   融資、または融資に関する保証もしくは担保の提供

(7)   財務諸表および取締役会の報告書の承認

(8)    事業の多角化

(9)    合併、統合、再編の承認

(10) 他社の買収、または実質的な支配権の取得

(11) その他規定される事項

 

ただし、(4)から(6)の事項については、取締役会は、その権限をマネージングダイレクター(MD)、マネージャー、その他会社の主要な役員、または会社の支店の場合は支店の主な役員に委任することが認められています。そのため、借入のたびに取締役会の決議を経る必要はありません。例えば、あらかじめ100万ルピー相当の借入については、その承認をMDに委ねるという内容の包括決議を取締役会で行っておけば、MDは事後報告のみで足り、取締役会での個別の決議は不要となります。これは、MD等の権利の濫用にもつながるリスクも大きいため、無条件に権限を委任することは避けるべきであり、実務上もありません。

ただし、借入れの場合、金融機関によっては、当該取締役会議事録の提示を求めることもあるため、借入れをしようとする金融機関の条件を事前に確認しておく必要があります。

また、貸付先が取締役の親族などの場合は、関係者間取引(Related Party Transaction)として、金額が権限の範囲に収まっている場合でも、別途取締役会承認が必要となります(会社法188条)。

上記の事項であっても、迅速に行う必要がある等の時間的な制約がある場合は、書面決議で一旦承認した上で、次回開催の取締役会で追認するという方法も、実務の場面ではとられています。ただし、その場合でも、定期的な取締役会において追認しておくことが望まれます。

4.議事録の記録漏れ等の不備は、罰則の対象となるか?

ビデオ会議での記録の保管を含め、取締役会の議事録を記録していない場合、会社に対しては2万5千ルピー、不履行の各役員に対しては、5千ルピーの罰則が課されます(会社法118条11項)。

また、会社は、インド会社秘書協会が定めた取締役会に関する秘書基準(SS 1)を遵守することも求められているため、議事録作成・録画保管を怠ると、会社秘書役の資格に影響するリスクが生じます。

もっとも、議事録の改ざんや虚偽が発覚[4]したような場合でない限り、例えば機器上の不具合といった不測の事情によるものであった場合には、厳格に罰則が行われる可能性は小さいと言えます。

しかしながら、コンプライアンスの観点から、議事録の作成と保管は確実に行い、これらの義務を遵守することが求められます。

[1] https://www.mca.gov.in/content/mca/global/en/acts-rules/ebooks/acts.html?act=NTk2MQ==

[2] https://www.mca.gov.in/content/mca/global/en/acts-rules/ebooks/rules.html

[3] 具体的には、1人会社(One Person Company)、小規模会社(small company)、休眠会社、スタートアップの非公開会社(private company (if such private company is a start-up))が、当該例外規定の対象となります。

小規模会社とは、公開会社以外の会社で、i)払込済み株式資本が500万ルピー以下またはそれ以上の額で規定されている場合1億ルピー以下であり、ii)直近の会計年度の損益計算書上の売上高が2千万ルピー未満である会社を指しますが、持株会社または子会社は小規模会社として適用されません。

[4] 議事録の改ざんの場合は、会社法118条12項に基づき、2年以上の禁固刑および2万5千ルピー以上10万ルピー以下の罰金に処されます。

 

以上

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