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2023年11月06日(月)5:30 PM

インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方及び注意事例に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

日本:インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方及び注意事例

 

日本:インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方及び注意事例

2023年11月6日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 黒 﨑  裕 樹

1. はじめに

 2023年10月4日、公正取引委員会事務総長による定例会見が開催されるとともに、「インボイス制度の実施に関連した公正取引委員会の取組」が公正取引委員会より公表されました[1][2](以下、会見について「2023年10月4日付け定例会見」といい、配布資料について「2023年10月4日付け配布資料」といいます)。

 そこで、本ニューズレターにおいて、インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方や注意事例について、解説いたします。

2.背景

 公正取引委員会は、従来、中小企業に不当に不利益を与える行為が独占禁止法や下請法に抵触し得ることを前提に、そういった行為を未然に防ぐために、毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と設定するなどして、下請法の普及・啓発に関わる取組を集中的に行っているところです。

 また、2023年10月1日には、従前、公正取引委員会が下請法等との関係で啓蒙してきた、インボイス制度が開始されました。

 2023年10月4日付け定例会見が行われて同日付け配布資料が配布された背景には、こういった、インボイス制度の動きや下請法の啓蒙活動が背景にあるものと思われます。

3.経緯

 インボイス制度における下請法等の考え方に関する公正取引委員会の公表資料を遡ると、主として、以下の資料が挙げられます。

・「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」[3]
 (2022年1月19日公表、同年3月8日改正)

・2023年5月17日付け公正取引委員会事務総長による定例会見記録[4]

・「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」[5]
 (2023年5月17日公表)

 以下、概要をご説明いたします。

⑴「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

 公正取引委員会は、2022年1月19日付けで公表し、同年3月8日付けで改正した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます)において、インボイス制度の概要を説明するとともに、仕入れ等の取引において、取引条件を見直す際には独占禁止法や下請法上の問題が生じうることを注意喚起しています。

 具体的には、以下のとおり述べた上、いくつかのパターンに分けて、独占禁止法や下請法上の問題が生じうる場合を説明しています。


Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。

A 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。

 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。


⑵ 2023年5月17日付け定例会見記録及び同日付配布資料

 また、公正取引委員会は、前掲Q&Aの公表後、インボイス制度の実施に関連して、独占禁止法違反のおそれのある複数の事例が確認されたことを受けて、違反行為を未然に防止する趣旨で、2023年5月17日付け定例会見において、当該事例について言及するとともに、「インボイス制度の実施に関連した注意事例」を公表しました。

 かかる定例会見及び配布資料は、インボイス制度と下請法等との関係性に関する公正取引委員会による啓蒙活動の一環であると思われます。

 かかる定例会見及び配布資料の内容は、基本的に、前掲Q&Aを踏襲するものであり、2023年10月1日のインボイス制度開始に向けて、各事業者に対してインボイス制度への対応の準備を求めるとともに、その際に、独占禁止法や下請法等に違反する行為を行わないよう、注意事例を提示したうえで改めて注意喚起していたものと思われます。

4.現状と課題

 このようにして、公正取引委員会はこれまでインボイス制度と下請法等との関係性について周知し、違反行為を未然に防止するための啓蒙活動を行ってまいりました。

 それでも、インボイス制度が開始される2023年10月1日までの間に、独占禁止法や下請法等の違反事例や相談事例の件数が増加していたことから、改めて、2023年10月4日付け定例会見及び同日付け配布資料を公表するに至ったものと思われます。

 この点、2023年10月4日付け定例会見及び同日付け配布資料の内容も、基本的に前掲Q&Aを踏襲するものですが、前掲Q&Aや2023年5月17日付け定例会見及び同日付配布資料には無かった情報として、以下のような内容が整理して掲載されています。

●公表済みの相談事例として以下の3例を再掲しています。

 ①協同組合が、組合委員と免税取引先との取引において、組合員が消費税相当額を負担しないことを決定すること。

 ②協同組合の行うチケット事業において、免税組合員に対して従来のチケット換金手数料に加え消費税相当額として仕入れ税額控除に係る経過措置を考慮しない金額を徴収すること。

 ③協同組合が委託を受けた運送業務を消費税の免税事業者である組合員に再委託を行う場合に、当該再委託の代金について消費税相当額を差し引いて支払うこと。

●実施済みの書面調査を周知するとともに今後も同様の調査を行う旨を宣言しています。

 ・独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査について
  →令和5年5月に11万名の発注者及び受注者に対し、調査票を発送済み。
  →令和5年8月に上記受注者からの回答結果を踏まえ、上記以外で調査すべき発注者に対し、追加で調査票を発送済み。

 ・下請法の定期書面調査
  →令和5年6月、8万名の親事業者に対し、調査票を発送済み。
  →令和5年11月、30万名以上の下請事業者に対し、調査票を発送予定

 ・荷主と物流事業者との取引に関する調査
  →令和5年9月、3万名の荷主に対し、調査票を発送済み。
  →今冬、4万名の物流事業者に対し、調査票を発送予定。

 このように、公正取引委員会は、各種調査や啓もう活動を通じて、インボイス制度の実施に伴う取引見直しに際して独占禁止法や下請法違反が無いか、注意して観察しているところです。

 発注者や親事業者、荷主としては、インボイス制度をよく理解した上で、取引見直しを行う際には、独占禁止法や下請法に違反することのないよう、慎重な対応が求められています。

 

[1] 令和5年10月4日付 事務総長定例会見記録 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[2] invoice_souchouteirei_231004.pdf (jftc.go.jp)
[3] 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[4] 令和5年5月17日付 事務総長定例会見記録 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[5] invoice_chuijirei.pdf (jftc.go.jp)

2023年04月11日(火)3:51 PM

日本における工事現場の事故に対する業者間の責任割合についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認下さい。

日本:工事現場の事故に対する業者間の責任割合

 

日本:工事現場の事故に対する業者間の責任割合

2023年4月11日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

第1 はじめに

 インフラ建設工事から民間の建築工事まで、どの工事現場でも事故のリスクは付きものであり、事故防止のために工事現場では種々の対策が講じられているところです。もっとも、不幸にも事故をゼロにすることはできず、そのため建設業者は万が一に備えて、工事保険に加入してリスクヘッジをしているというのが実情です。また、事故による損害を保険で補填できたとしても、業者間の求償問題が残ります。そこで、本稿では、工事現場の事故によって生じた損害に対して各業者がどのような割合で責任を負担するのかについて解説いたします。

第2 責任割合の基本的な考え方

 まず工事現場での事故の傾向としては、作業員が事故の直接的な原因となるミスをしている場合が多いですが、だからといって、すべての責任をその作業員を雇用(使用)している下請や孫請が負うのではなく、元請も現場を統括して安全管理を行うべき立場として一定の責任を負うことになります。この点、最高裁平成3年10月25日判決では、各業者間の責任割合について、被用者である加害者の加害行為の態様及びそれと各使用者の事業の執行との関連性の程度、加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきとしていますが、各使用者の具体的な責任割合は、これらの考慮要素を念頭に置きながら、結局は、裁判所が公平の観点から裁量によって定めることとなります。

 この点、工事現場での事故等においては、元請と下請の両者が責任を負う場合、実際に作業ミスをした下請の責任の方が大きくなる傾向にあり、このことは下請が請け負った工事内容の専門性が高い場合にはより顕著になります。つまり、責任割合の問題は、「誰が損害の発生を回避することができたか」という観点から判断されることになるため、特殊工事など施工上の専門性が高い工事については下請の責任が大きくなり、他方で工事内容について工事全体の総合的判断が求められるような工事については元請の責任が大きくなるという傾向となります。

第3 元請と下請の責任割合に関する裁判例

 工事現場でよく用いられているクレーンの関する事故の裁判例として、東京地裁昭和62年11月24日判決(上記最高裁平成3年10月25日判決の第一審判決)が挙げられます。事故の概要は、被告元請Xが請け負い、被告第3次下請Yが一部の工事を施工し、原告Aが被告元請Xに運転手を付けてクレーン車を貸与していた工事において、その運転手が被告第3次下請Yの代表者とともに鋼管の移動作業中、鋼管を落として付近で作業をしていた被害者に激突させたというものです。同判決では、被害者に損害賠償をした原告Aが、被告らに対し、求償を求めた事案において、事故はY代表者と運転手の共同過失によるものであること、被告元請Xは工事の作業全般を管理し、Y代表者及び運転手を指揮監督していたことなどから、これらの賠償債務負担者間の終局的負担割合は、原告A3割、運転手1割、被告元請X3割、被告第3次下請Y3割と認定されています。

【裁判所の判断内容】

■各業者の関係

 元請X→1次下請→2次下請→3次下請Y

  ↑クレーン車貸与:運転手(直接の加害者)付き

 原告A

■判決の概要

 元請X(被告元請)、クレーン車を貸与した業者A(原告)と運転手A’、事故の起こった工事を下請けしていた被告3次下請Yに過失があるとして、各者の責任割合について、「X:(A+A’):Y=3:4:3」と判断されています。

 この割合から、元請に下請と同程度の責任割合が認められたようにも見えますが、元請Xが3次下請Yと原告の二者を監督する立場にあったことから、元請と下請という二者に分けるとそれぞれ、「X:(A+A’+Y)=3:7」と評価できます。

 この他に、クレーン事故に関連する事案として、玉掛け作業者とクレーンオペレーターの責任割合に関する裁判例も2つ挙げさせていただきます。

 名古屋地裁平成14年6月14日判決では、コンクリート擁壁を搬入したXが、無資格であるにもかかわらず玉掛け作業を行ったことで、コンクリート擁壁が不安定な状態で吊り上げられたところ、その後落下したことで、作業員が下敷きとなり死亡した事案について、クレーンオペレーターであるYは有資格者として、荷下ろし作業につき、安全なクレーン操作方法を決定し実行すべき立場にあったにもかかわらず、これを怠った過失の程度は相当大きいものとしつつ、無資格にもかかわらず玉掛け作業を行い、危険な荷下ろし方法を決定実行させたXの過失も重大であるとし、XとYの過失割合が6:4とされました(玉掛け作業者:クレーンオペ=6:4)。

 京都地裁平成24年9月5日判決では、クレーン車を用いて行われた樹木伐採作業において、クレーン車の操作担当者Xと樹木切断の担当者Yが共同して作業していたところ、切断した樹木の重みに耐えきれずにクレーン車が倒れて建物の塀屋根を損壊した事案について、クレーン車により重量物を支える作業をする場合、その作業条件において、限界となる荷重以内に収まっているかどうかを確認すべき第一の責任は玉掛けを担当するYにあり、それを怠ったYに過失が認められる一方、他方Xにも、伐採作業時における作業条件の元での限界重量がどの程度であるかにつき、Yに具体的に伝えるなど十分しておらず、また、Yが行おうとしている切断方法によりクレーンの能力の限界を超えてしまわないかについて確認をした形跡もないことから過失が認められるとし、事故の主原因となる過失はYにあり、従たる過失のあるXとの過失割合は8:2とされました(玉掛け作業者:クレーンオペ=8:2)

第4 検討事例

 以上の裁判例を踏まえて、次の事故事例に対する責任割合を検討してみましょう。

 建設工事現場において、型枠用合板数十枚を玉掛けしてクレーンにて吊り上げて旋回していたところ、合板の玉掛けが半掛けでスリングベルトが効いていない状態であり、また現場では小雨が降っておりスリングベルトが濡れている状態でもあったことから、ブームを延ばして水平に旋回している最中に合板のバランスが崩れ、隣地建物の上に落下し屋根を損傷させました。なお、本件工事現場周辺は、空中に電線が多数ある状況でした。作業は、元請Xが玉掛け作業をYに、クレーン作業をZに請け負わせて、行われていました。

1 Yの過失

 事故の直接の原因は、玉掛けが半掛けで、スリングベルトが効いていなかったことにあるため、その状態を作出したYには過失が認められます。事故当時、小雨が降っていたという事情があったにしても、降雨下においてはスリングベルトが滑りやすくなるためこれを防止する対策を講じるべきであったといえ、Yの責任を否定するあるいは軽減することにはなりません。

2 Zの過失

 降雨下において玉掛けが半掛け状態である状態で、ブームを水平に伸ばして旋回していたという状況では、クレーンのオペレーターとして、半掛け状態であることを認識していなかったとしても、スリングベルトが濡れている状態であることは認識できた以上、クレーンで吊っている部材が落ちやすい状態であることを前提に旋回すべきであったといえ、結果として吊荷が落下していることから、過失が認められる可能性があります。もっとも、クレーンオペレーターが、玉掛けが半掛けであることを認識しておらず、空中の電線を引っかけないように慎重に旋回していたのであれば、玉掛け状態に不備がなければ吊荷が落下しなかった可能性もあり、その場合は過失が否定される可能性もあり、旋回作業の状態によって評価が変わってきます。

3 Xの責任

 元請は、本件作業に対して工事の元請として現場を監督していたことから、下請業者の過失について監督義務違反を理由に一定の法的責任を負うことになります。

4 事故に対する責任割合

 事故の原因となった本件作業の内容については、特段、元請が工事全体の総合的判断をした上で下請に指示する必要があるとされるものではなく、玉掛けとクレーンでの吊荷という通常の現場でよく行われている作業であることから、一次的には下請が本件作業について十分な管理を行うべきものであり、元請は本件作業に対して下請の作業及び管理に不備等がないか監督するという立場にあったといえます。そのため、本件事故について、元請と下請の責任割合は下請の方が大きくなります。

 上記の名古屋地裁や京都地裁の裁判例から、玉掛け作業を行ったYの方がZよりも責任割合が大きくなるケース(6:4~8:2程度)であると考えられます。もっとも、本件事故では、上記裁判例のようにクレーンオペレーターに過失があることが明らかではなく、Zの過失が否定される可能性のある事情もあることを考慮すれば、YとZの責任割合は8:2よりもZの割合が小さくなると評価すべきです。そうすると、Zの責任割合は1割であると評価できます。なお、上記最高裁判決を参考にすると、3次下請がY、原告AがZに該当しますが、Zが1割負担であるとして、XとYの責任割合について、残りの9割を3:7(=2.7:6.3)で負担すると考え、また玉掛け作業に大きな落ち度があったことを考慮すれば、結論として、X:Y:Z=2:7:1と考えるのが妥当です。

第5 まとめ

 以上のようなクレーン事故だけでなく、工事現場での事故全般について一般的な法的評価として、元請と下請(1次以下含む)の責任割合は概ね2:8~3:7とされる傾向にあります。

 

 

2023年03月10日(金)3:56 PM

日本における宅地造成及び特定盛土等規制法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:宅地造成及び特定盛土等規制法について

 

日本:宅地造成及び特定盛土等規制法について

2023年3月10日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人 One Asia
弁護士 江 副 哲
弁護士 川 島 明 紘

1. はじめに
一昨年(2021年)発生した静岡県熱海市における大規模土石流災害を受け、昨年5月に公布された宅地造成等規制法の一部を改正する法律(以下、「盛土規制法」といいます。)が、本年5月26日に施行されます。盛土規制法では、その規制区域・規制対象を拡大していることから、多くの建設事業に影響が出る改正ですので、関連事業者様におかれてはご注意いただきたく、本ニューズレターにて、同法の概要・留意点について解説いたします。

2.盛土規制法の概要

⑴ 従前の制度上の課題
従前の制度においては、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律(森林法、農地法、廃棄物処理法等)により、開発を規制していました。しかしながら、個々の法令においては、その目的の範囲内で規律されるにとどまることから、盛土等が行われる区域や規模等によって、規制対象とならないものが存在していました。そのため、今般、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制するため、盛土規制法が制定されるに至りました。

⑵ 「スキマのない規制」|規制区域・規制対象の拡大
盛土規制法では、従前、宅地を造成するための盛土・切土を規制対象として、宅地造成工事区域、造成宅地防災区域を指定していましたが、土砂流出等により人家等に被害を及ぼし得る土地を広く指定するため、都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼし得る区域を新たに「特定盛土等規制区域」として指定することができるようにしました。
そのため、盛土規制法では、特定盛土等規制区域を含め、以下の3つの区域を指定できるようにすることで、それぞれに適切な規制を行うことができるようにしました。

① 宅地造成等工事規制区域(盛土規制法第10条)
基本方針に基づき、かつ、基礎調査の結果を踏まえ、宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴い災害が生ずるおそれが大きい市街地若しくは市街地となろうとする土地の区域又は集落の区域であって、宅地造成等に関する工事について規制を行う必要がある区域
※同区域での規制が同法第11条~第25条で規定

② 特定盛土等規制区域(同法第26条)
宅地造成等工事規制区域以外の土地の区域であって、土地の傾斜度、渓流の位置その他の自然的条件及び周辺地域における土地利用の状況その他の社会的条件からみて、当該区域内の土地において特定盛土等又は土石の堆積が行われた場合には、これに伴う災害により市街地等区域その他の区域の居住者その他の者の生命または身体に危害を生ずる恐れが特に大きいと認められる地域
※同区域での規制が同法第27条~44条で規定

③ 造成宅地防災区域(同法第45条)
基本方針に基づき、かつ、基礎調査の結果を踏まえ、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、宅地造成又は特定盛土等(宅地において行うものに限る)に伴う災害で相当数の居住者等に危害を生ずるもので発生のおそれが大きい一団の造成宅地の区域であって政令で定める基準に該当する区域

※同区域での規制が同法第46条~第48条で規定
また、規制対象(都道府県知事等の許可の対象)に農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含めることで、宅地造成等の際の盛土のみならず、土捨て行為や一時的な堆積についても規制が及ぶようになりました。
もっとも、いずれの区域についても、どのように指定、施行、解除されるのかという点は明らかになっておらず、注視する必要があります。

⑶ 盛土等の安全性の確保
そして、盛土等を行う区域の地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定したうえ、許可に当たっては土地所有者等の合意、そして周辺住民への事前周知(説明会の開催等)を要件化しました。また、このような許可基準に沿った安全対策が行われているか確認するため、施工状況の定期報告、施工中の中間検査、そして工事完了時の完了検査を実施するものとしました。
国土交通省「盛土規制法の概要」参照
これらによって、許可時点できめ細やかな審査を行うのみならず、実際の施工に際しても、その安全性を確保できるように整備されました。もっとも、個別の事案において当該許可基準を満たしているか否かの判断は、技術的基準としては不十分な点もあり、現時点においても問い合わせをいただいているところで、今後の課題になろうと感じております。

⑷ 責任の所在の明確化・実効性のある罰則・措置
施工後においても土地の適正な管理が行われるよう、以下のように、管理責任の明確化・機動的な是正命令・実効性のある罰則を定めました。

ア 管理責任の明確化
盛土等が行われた土地について、土地所有者等(管理者、占有者を含む)が常時安全な状態に維持する責務を有することを明確化しました。

イ 機動的な是正命令
災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても是正措置等を命令できるようにしました。これにより、当該盛土等をおこなった造成主や工事施工者、過去の土地所有者等も、原因行為者として是正命令の対象になりうることになります。

ウ 実効性のある罰則
罰則が抑止力として十分に機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する懲役刑及び罰金刑について、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化しました。
国土交通省「盛土規制法の概要」参照

3.今後の事業活動における留意点
盛土規制法については、上記のとおり、全国一律での包括的な規制が及ぶよう規定する一方で、その具合的な判断基準等は政令・主務省令に委ねる等していることから、今後その内容を注視する必要がありますし、その内容によっては実際の判断に悩むケースが出てくることも想定されますので、適宜ご相談いただければと存じます。

2023年01月17日(火)11:31 AM

大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針

 

日本:大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス

1. 大阪オフィスにおける今後の方針(弁護士江副 哲)

  大阪オフィスは2020年4月に代表の弁護士江副哲が開設いたしましたが、おかげさまで開設から2年半で所属弁護士が5名まで増え(江副哲、難波泰明、古田雄哉、渡邉貴士、川島明紘)、クライアント様により充実したリーガルサービスを提供させていただく体制を構築することができました。今後より一層クライアント様に満足していただけるように、大阪オフィス所属弁護士だけでなく、One Asia Lawyersのアジア・オセアニアの各オフィスや弁護士法人One Asiaの東京オフィス、福岡オフィス、そして2022年10月に開設した京都オフィスとも連携を深めてより幅広い分野、エリアも含め対応をさせていただく方針であります。

  なお、京都オフィスにつきましては、弁護士渡邉貴士が代表に就き、大阪オフィスメンバーと連携しながら、主に京都・滋賀方面で活躍されている企業様に向けて案件の対応や、セミナー等の開催によって企業様の関心の高いトピックスに関する法的知見等の情報を積極的に発信することによって手厚いリーガルサービスを提供すべく、各オフィスと協働して対応させていただきます。

2.2022年における大阪オフィス案件実績のご紹介

  以下では、大阪オフィス所属の各弁護士が対応した案件実績の概要を紹介いたします。

  紹介する案件は、弁護士江副哲が専門的に対応している建設案件、賃貸借や区分所有権に係る法的論点が問題となる不動産案件、商標権に関する知財案件、行政法規違反の請負契約の有効性が法的論点となる運輸案件というように、大阪オフィスとして多岐にわたる分野の案件を取り扱っております。

  各案件の詳細につきましては別途、各弁護士のニュースレターの方で解説しておりますので、そちらをご参照いただければと思います。

  RC造建物の外壁タイルの浮きが建物の基本的安全性を損なう瑕疵であることを理由とする施工者に対する不法行為責任に基づく損害賠償請求の可否(弁護士江副 哲)

  【概要】

築約14年の6階建て建物(RC造)の外壁タイルのうち少なくとも20%の浮きが生じていた事象について、建物の建築工事の発注者かつ所有者(建築・不動産関連企業)が施工者に対して広範囲においてタイルが浮いているという現象が建物の基本的安全性を損なう瑕疵に該当し、それが施工者の過失を原因として生じているとして、タイルの補修ないし張替えに要した費用等について不法行為責任に基づく損害賠償を請求した事案に係る調停手続において、裁判所選任の専門家調停委員(一級建築士)を介して当事者間で協議を進めた結果、生じているタイルの浮きは施工者の過失による建物の基本的安全性を損なう瑕疵であるという前提で、補修内容について一部グレードアップと評価されるものが含まれていることも考慮して、約6000万円の請求に対して施工者が2500万円を支払う内容での和解により解決した(発注者・所有者代理人として調停対応)。

別稿「外壁タイルの浮きに対する施工者の不法行為責任」では、築10年以上が経過した建物の外壁タイルの浮き等について裁判所ではどのように判断される傾向にあるのか、当事者としてどのような主張立証活動をするべきかについて、最高裁判例を踏まえて解説する。

 ⑵ 登録商標「ヒルドイド」と「ヒルドプレミアム」の類似性及び出所の混同が否定された事例 ―審決取消請求事件・知財高裁令和3年10月6日判決(弁護士難波 泰明)

  【概要】

   医薬部外品に対して用いられている登録商標「ヒルドプレミアム」について、医療用医薬品に対して用いられている登録商標「ヒルドイド」との類似性(商標法4条1項11号該当性)及び出所の混同を生ずるおそれの有無(同項15号)の該当性が争われた事案において、そのいずれもが否定された事案(請求棄却・確定)。本件は、原告が、その主力商品である「ヒルドイド」につき、「ヒルドマイルド」及び「ヒルドソフト」に対して商標登録無効審判請求、「ヒルマイルド」について販売差止めの仮処分を請求するなど、訴訟が乱立していた一連の事件の一つであり、唯一「ヒルドマイルド」についてのみ商標の類似性を認めていた。

  居住用不動産の賃貸借契約における中途解約時の違約金請求の可否(弁護士古田 雄哉)

  【概要】

   居住用不動産の賃貸借契約において、賃貸借契約書に「2年以内に途中解約をする場合は、賃貸人の承諾が必要であり、賃借人はその承諾を得ようとするときは3カ月前までに賃貸人に申し入れをし、賃貸人は賃借人が違約金を支払うことと引き換えに承諾をすることができる。違約金の額は、残存期間の賃料の範囲内で賃貸人が決定する」旨の定めがされていたことを根拠に、契約後約半年で賃貸借契約を解約した賃借人に対し、賃貸人が残存期間すべての賃料を支払わないと解約を認めないとして残存期間の賃料の請求を求めた事案で、裁判所が、本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項が有効であることを前提に、2か月分の賃料相当額を超える請求は権利の濫用であるとして賃貸人の請求を一部棄却した。

 ⑷ 特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性(弁護士渡邉 貴士)

  【概要】

   無認証事業者による車検の不正受検などが社会的に問題視されるなか、クラシックカーのキャブレターやブレーキまわりの修理を委託した事業者が、修理後に無認証だと発覚したため、その整備費用の返還を求めた事案において、「顧客に対し認証工場であるかのような説明をした場合」、「整備後に実際に不具合を生じている場合」には整備に係る請負契約は無効であると、裁判所が行政法規違反の私法上の効力について、具体的に判断した。

 ⑸ 訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否(弁護士川島 明紘)

   債務者が区分所有建物(以下、「本件マンション」といいます。)の管理組合法人(以下、「債権者」といいます。)との間で、本件マンションの規約共用部分を収去する旨の訴訟上の和解をしたものの、当該収去に当たっては区分所有者全員の承諾が必要であるとして、当該承諾を得ていないことを理由として収去義務の履行に応じなかったところ、債権者が収去義務の間接強制を申し立てた事案(債務者代理人。申立て却下、執行抗告却下、執行抗告却下決定に対する執行抗告棄却)。

以上

 

2023年01月17日(火)11:05 AM

日本における外壁タイルの浮きに対する施工者の不法行為責任についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:外壁タイルの浮きに対する施工者の不法行為責任

 

日本:外壁タイルの浮きに対する施工者の不法行為責任

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia 大阪オフィス
弁護士 江 副    哲

1. はじめに

 昨今、分譲マンションやテナントビル等のRC造の建物において、築10年以上経った後に外壁タイルに広範囲で浮きが生じる、あるいは剥落する(以下、タイルの浮きや剥落を合わせて「タイルの浮き等」という。)といった事例が散見され、いくつもの物件が裁判での解決に委ねられています(筆者も現在進行中の訴訟案件を対応している)。

 このような場合、当該建物は引渡しから10年以上が経過しているため、瑕疵担保期間の経過によって施工者の瑕疵担保責任を問うことができません(ただし、施工者が当該期間経過前に責任を認めていた場合は責任を問い得る)。そのため、築10年以上経過した建物の外壁タイルの浮き等について施工者に法的責任を追及する場合は、基本的には不法行為責任に基づく損害賠償請求の可否を検討することになります。

2.不法行為責任の要件

⑴ 最高裁判例の考え方

 建築瑕疵に関する不法行為責任について、最高裁平成23年7月21日判決は、「基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合にも認められるものと判示した上で、「建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は、これに該当しないものというべきである」という基準を提示しました。

 このように、建築瑕疵に関する不法行為責任についてはその要件が最高裁判例により確立したため、建築瑕疵に関わる不法行為損害賠償請求訴訟においては、①客観的要件として、基本的な安全性を損なう瑕疵該当性、②主観的要件として、基本的な安全性を損なう瑕疵を回避すべき注意義務違反の有無(故意又は過失の有無)という2つの要件をクリアすれば、不法行為責任が認められることになります。

⑵ 客観的要件:タイルの浮き等の「基本的な安全性を損なう瑕疵」該当性

 前記⑴の最高裁判例における「外壁が剥落して通行人の上に落下」という人身被害の危険性に関し、建築分野の実務家としては、外装材であるタイルの「剥落」もこれに含まれると理解することが一般的であり、「浮き」という現象は、放置した場合に将来それが剥落する危険性があると認識される。

 そのため、客観的な評価として、タイルの浮き等の問題は、最高裁判例における「基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するものと判断される傾向にあります。

⑶ 主観的要件:注意義務違反の認定

 不法行為責任は故意又は過失という要件が認められて初めて成立する責任であり、無過失責任である瑕疵担保責任よりも立証のハードルが高くなります。そのため、客観的評価として、基本的な安全性を損なう瑕疵が肯定される場合であっても、さらに主観的要件である、基本的な安全性を損なう瑕疵を回避すべき注意義務の有無が責任成立には求められます。この注意義務の有無については、建築当時の一般的技術水準を基に判断されることになります。

 以上を踏まえて、最高裁判例が示した施工者との関係での注意義務違反の認定手法について整理すると以下のとおりになります。

 まず、不法行為責任に関する認定手法として原則的な考え方とは違って、いわゆるタイルの浮き率に着目して「事実上の推定」によって判断するという考え方があります(大阪地裁第10民事部(建築専門部)の裁判官が研究発表した内容)。その内容は、湿式工法による外壁タイルについて以下の目安をもとに施工不良(注意義務違反)の推認を行うというものですが、あくまでも「一つの考え方」という位置付けに過ぎません。

 ①施工後5年以内に外壁タイルの浮き・剥落が生じた場合は施工上の不良があったものと推認される。

 ②施工後5年超10年以内に発生した外壁タイルの浮き・剥落が全施工面積に対して3%以上である場合には施工上の不良があったものと推認される。

 ③施工後10年超15年以内に発生した外壁タイルの浮き・剥落等が全施工面積に対して5%以上である場合には、施工上の不良があったものと推認される。

 ④施工後15年超20年以内に発生した外壁タイルの浮き・剥落等が全施工面積に対して10%以上である場合には、施工上の不良があったものと推認される。

 なお、剥落については、浮きよりもより強く施工上の不良の存在を強く推認され、特定の部位に集中している事象については、別途考察を要するとされています。

 もっとも、本来、このような「事実上の推定」という手法を用いず、個別具体的に事実関係を特定することが求められるのが不法行為責任における原則的な考え方で、主張立証責任を果たすためには、故意又は過失を裏付ける事実を具体的に主張立証する必要があります。つまり、上記のような「事実上の推定」を用いて、安易に主張立証責任を実質的に転換することは認められません(ただし、この原則的な考え方が用いられる場合であっても、浮きの範囲や剥落の程度等によって裁判官が「施工に何らかの問題があるからこのような状態になっているのではないか」という心証を抱き、事実上、施工不良を推定して施工者側に反証を求める訴訟指揮がなされることが往々にしてありますので、留意する必要があります)。

 そこで、具体的に湿式工法による外壁タイルの浮き等が生じる施工上の要因を考えてみますと例えば、

 ①建物躯体コンクリートと下地モルタルの界面での剥離等(コンクリート表面の汚れ、型枠剥離剤の付着、平滑過ぎるコンクリート表面、吸水調整剤の材料及び使用方法の不適切、下地モルタルの塗付け時のコテ圧不足)

 ②下地モルタルと張付けモルタルの界面での剥離等(下地モルタルの表面の汚れ、ほこりなどの付着、平滑過ぎる下地面、吸水調整剤の材料及び使用方法の不適切、張付けモルタルのコテ圧不足)

 ③張付けモルタルとタイルの界面(張付けモルタルのオープンタイムの管理の不十分、張付けモルタルの塗厚不足、タイルのたたき押え不足)

等が挙げられます。

 他方で、これら以外にも施工外の要因として、ディファレンシャルムーブメント(温湿度膨脹)等によってタイルの浮き等が生じることも考えられます。これは経年劣化と言えるものですが、一般的に経年劣化と修繕との関係を見ますと、目安として浮き補修が12年で3%程度必要になると公表されているデータ(社団法人高層住宅管理業協会の「長期修繕計画作成の手引き」)等が参考になります。

 以上のような施工上の要因を個別具体的に主張立証することによって初めて注意義務違反が認定され、故意又は過失の要件を前提に不法行為責任が成立することになります。

3.法的判断の傾向

 以上のように、外壁タイルに係る不法行為責任の成否については、上記最高裁判例が一つの規範として存在し、これによれば、タイルが剥落等した場合には、基本的には歩行者や居住者の上に落下して人身被害が生じるおそれがあると認められ、基本的安全性を損なう瑕疵が認められやすいと考えられますが、一方で、剥落等は生じず、単にタイルにひび割れが生じているだけの場合には、これにより人身被害が生じるおそれがあるとはいえず建物の美観の範囲等に含められるものとして、基本的安全性を損なうものではないと判断される傾向にあります。

 また、基本的安全性が認められたとしても、上述のとおり不法行為責任が成立するためには、別途施工者の注意義務違反(故意又は過失)が要件として必要になります。つまり、タイルの浮き等が生じた場合であっても、それによって当然に施工者に不法行為責任が成立するものではなく、浮き等の原因が何なのか、施工当時、当該原因から浮き等の結果が生じるということを予見できたかという観点から注意義務違反の有無が判断されます。

4.主張立証方針

 もっとも、裁判官によっては、前記⑶の「事実上の推定」を用いてタイルの浮き率から安易に注意義務違反を認める方向に考えが流される可能性がありますので、上述のとおり、工事の発注者ないし建物の所有者側としては、浮き率が高い事実を指摘するだけでは足りず、浮き等の原因となる可能性のある施工不良の内容に着目して、この点を具体的に主張立証することが不可欠であると言えます。一方、施工者側としては、指摘された施工不良の事実に対して、施工時の付着力試験に問題がなかったことや、注意義務の一内容となる施工方法は施工当時一般的なものではなかった等の反証をしてく必要があります。

以上

2022年10月11日(火)11:25 AM

日本における区分所有法制の見直しについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:区分所有法制の見直し~分譲マンション等の管理円滑化に向けて~

 

日本:区分所有法制の見直し~分譲マンション等の管理円滑化に向けて~

2022年10月11日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

  本年9月12日、老朽化した分譲マンション(区分所有建物)の建替えや修繕の促進、今後想定される大規模な災害への備えといった観点から、区分所有法制の見直しに向けた検討が法制審議会に諮問されました。

2 法制審議会における検討状況

 ⑴ 現在の課題

   区分所有法制の見直しが求められるに至った背景には、①老朽化した区分所有建物の急増、②区分所有者の高齢化に伴い、相続等によって所有者不明化、非居住化が進行することへの懸念があります。令和3年末時点で築40年を超える区分所有建物は116万戸、20年後には425万戸まで増加すると見込まれており、これらの建替えや修繕が必要となってきます。しかし他方で、建替え等における区分所有建物の意思決定は決議要件が厳格で、区分所有建物の管理不全や、老朽化した区分所有建物の再生が困難になると指摘されています。更に、所在不明な区分所有者がいる場合には、決議においてこれら区分所有者は反対者と扱われるため、決議に必要な賛成数を得るのがより困難となります。

   このような背景から、区分所有建物の管理・再生を円滑化に向けた区分所有法制の見直しが喫緊の課題として求められています。

⑵ 検討されている改正内容

  法制審議会では、大きく①区分所有建物の管理の円滑化を図る方策、②区分所有建物の再生の円滑化を図る方策、これらに加えて③被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策が検討されています[1]

 ア 区分所有建物の管理の円滑化を図る方策

   具体的には、以下のような方策が検討されています。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

   所在等不明の不在者所有の土地・建物(いわゆる所有者不明土地・建物)については、新たに財産管理制度が新設されておりますが(令和5年4月1日施行)、同制度は区分所有建物の専有部分及び共有部分には及ばないため、上記のような新たな制度設計が必要となります。もっとも、不在者所有不動産に関する規律として、両制度の整合性・調和の検討も必要となってくるところです。

 イ 区分所有建物の再生(建替え等)の円滑化を図る方策

   区分所有建物の再生(建替え等)についても、以下のような方策が検討されています。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

  建替え決議の多数決要件の緩和に当たって、耐震性不足等の一定の客観的要件を満たすことを条件とする場合、その客観的要件をどのように策定するかが課題となります。過去には、建替え要件として建物の老朽、費用の過分性といった点が考慮されていましたが、要件該当性判断が難しく、現在では多数決要件のみ定められるに至っており[2]、従前の改正経緯も踏まえた明確な要件策定が求められるところかと思われます[3]

ウ 被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策

  上記のとおり、今後老朽化する区分所有建物が増加することを踏まえれば、災害による被害も増加することが懸念されるため、被災区分所有建物の再生円滑化に向けた下記のような検討は、喫緊の課題といえます。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

3 まとめ

  区分所有建物を巡っては、上記のような区分所有建物の管理・再生についての課題解決に加えて、その処分の文脈においても、区分所有者に所在不明者が含まれる場合等に多数の問題が絡んでおり、権利関係が複雑化し、所有者が高齢化する日本の社会構造も踏まえた法令整備が求められています。

以上

 

[1] 被災した区分所有建物についても、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(被災区分所有法)に基づく決議の時的制限、厳格な建替え等の要件から円滑な復興を困難にしているとして、決議等の多数決要件の緩和、決議可能期間の延長が検討されています。

[2] 旧区分所有法(平成14年改正前)では、建替え決議について「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」との要件がありましたが、その要件該当性判断が難しく、現区分所有法では要件として廃止されています。

[3] 従前要件とされていた老朽化、費用の過分性については、それぞれ「建物としての物理的効用の減退」、「当該建物価格その他の事情に照らし、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるか否か」により判断する(大阪高裁平成12年9月28日判決)等とされておりました。

2022年09月15日(木)9:00 AM

日本における公共工事の請負契約締結を否定する議会決議の違法性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:公共工事の請負契約締結を否定する議会決議の違法性

 

日本:公共工事の請負契約締結を否定する議会決議の違法性

2022年9月14日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

 発注者が地方公共団体である公共工事では、入札手続きを経て落札した業者との請負契約締結について当該自治体の議会で可決されて請負契約が締結されることになります(地方自治法第234条、第237条)。本ニュースレターでは、議会で請負契約の締結が否決されたこと、また再入札時に指名されなかったことによって、落札業者が損害を被ったとして、発注者を相手に損害賠償請求の訴訟を提起した事案(控訴審|仙台高裁令和4年3月22日判決)をご紹介いたします。第一審の青森地方裁判所八戸支部令和3年3月24日判決では落札業者の請求が棄却されましたが、控訴審判決では請求が一部認容されたため、各裁判所で異なる認定がされた理由を説明しながら本件に対する客観的な評価について解説いたします。

2.事案の概要

 本事案は、建設業者である原告(控訴人)が、地方公共団体(町)である被告(被控訴人)が予定した公共工事(本件工事)を指名競争入札で落札し、建設工事請負仮契約を締結したところ、被告議会が原告との当該契約締結を否定したこと(本件議決)について、被告に対して損害賠償及び遅延損害金の支払を求めたものです。後述するとおり、本件議決の違法性が争点となりました。

3.裁判所の認定[1]

争点

第一審(原審)判旨

控訴審判旨

①公共工事の実施方法

「公共工事に係る工事の実施方法の決定は、予算の執行権限を有する普通地方公共団体の長が、財政状況、国等から交付される補助金の額や交付条件、公共事業の性質や実施状況、工事の必要性や緊急性、工事の実施場所や内容、住民らの要望等の諸般の事情を総合考慮し、高度な経済的・政治的判断として行う」

言及なし。原審判決から変更なく、同旨となります。

②地方自治法第96条1項5号の趣旨

地方自治法96条1項5号が、契約締結の判断を議会の決議によるものとしている趣旨は、「政令等で定める種類及び金額の契約を締結することは、普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにある」とした。

原審判決同旨。

③議会による契約締結の判断基準

普通地方公共団体の議会が、契約締結の可否を判断するにあたっては、「契約の適法性、必要性、相当性等を当該契約にかかる施策の妥当性はもとより、財政事情、当該契約の相手方の適格性、対価の相当性などを含めた諸事情を総合考慮し、高度な経済的・政治的判断として行うものであって、(…)議会の裁量権に基本的に委ねられている。」

「議会は、地方公共団体の意思決定機関として、当該契約を締結する必要性、当該契約の相手方、対価その他の契約内容の相当性等について、違法性の有無の観点はもとより、地方公共団体の施策としての当否の観点も踏まえ、判断すべきであるから、性質上、広範な裁量権を有するものというべきである。」

④議会の議決の違法性の判断基準

契約締結に関する議会の議決が違法になるのは、当該議決が不合理であって、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合に限られる。(…)個々の事案ごとに、当該議案及び議決の内容、審議の内容及び経緯等の事情を基にして、議会の意思として当該議決が不合理といえるかという観点から検討すべきであり、採決に参加した各議員の個別の内心や個別の意見を明らかにし、その当否や合理性の有無それ自体により判断されるものではない。」 

「契約の目的、内容、議案提出までの経緯等、当該議決の趣旨及び経緯その他諸般の事情を考慮しても、当該契約の締結を否決することにおよそ合理的な理由がないような場合には、当該議決は裁量権の逸脱又はその濫用に当たるものとして違法になる。」

⑤議員と建設業業者との利害関係

原告の元代表者である議員が利害関係者として議会の議事から排斥される関係を有する建設業者に対し、「議員と建設業者の利害関係というその関係性自体に着目して、疑問や不安を呈することは、個別の被告住民としての感覚という観点からみた場合は、直ちに不合理な疑問や不安として排斥することはできず」と判示している。

指名業者の選定を含む入札手続において違法又は不当な点は伺われず、新庁舎建設問題は既に予算的に決着が付いており、本件工事の請負契約が締結されれば、原告(控訴人)は約条の工期を遵守し、工程管理等について発注者の監督を受けるのであり、営利企業であることから元代表者が建設に反対の意向を持っているという人的関係があるというだけで、今後の指名競争入札に関して、指名業者の登録から外されるなど社会的・経済的損失を被る危険を冒してまで、敢えて不適正な施工をし、工期を徒過するとは考え難く、そのような事態が生じる蓋然性があることを示す事情は見当たらない。このような人的関係から釈然としない思いを持つこと自体は理解できないものではないが、感情的なものであって否決の合理的な理由になるものではない。

⑥本件の議決の違法性

契約の相手方の適格性等の観点から、原告の元代表者と利害関係を有する「原告との間で請負契約を締結しないという政治的判断は、議会に定められた裁量の範囲を逸脱し又は濫用するものとは直ちに認めることはできないといわざるを得ない。」

原告(控訴人)が工事を行うとしても、新庁舎建設推進派議員の支持者たる町民が感情的に釈然としない思いを抱く可能性があるにとどまり、町民が工事の適正な施工等を危ぶんだり、町の建設行政の在り方に不信感を持ったりするような状況にあったことは伺えない以上、本件議決は、議決対象である契約の目的、内容、議案提出までの経緯等、当該議決の趣旨及び経緯その他諸般の事情を考慮しても、当該契約の締結を否定することにおよそ合理的な理由がないと言わざるを得ないから、裁量権の逸脱又はその濫用があるものとして違法である。

⑦損害

議決の違法性が否定されているため、損害についての判断なし。

違法な議決との因果関係が認められた損害は、当該工事によって得られたであろう営業利益(受注額から工事原価を差し引いた額ではなく、そこから経費を差し引いた営業利益)と、契約締結を前提に動いた実費(契約書添付の印紙代や現場代理人の確保に要した経費)に加えて、これらの合計額の約1割相当額の弁護士費用である。

 

【ポイント1】

 争点③において、控訴審では、原審で使用された「高度な経済的・政治的判断」という表現を使っていません。これは、控訴審において、「もっとも、公共工事等の契約に関する入札については、適正な競争を通じた衡平性、手続の透明性及び工事施工についての経済性の確保が求められており(…)その趣旨に反するような恣意的な取り扱いは許されない」と判示されているところに理由があるものと思われます。

【ポイント2】

 争点④において、原審と控訴審では違法性に係る立証基準が異なるように見られます。

4.両判決の比較

 ⑴ 両判決の判断の相違

  一審判決は「議決が不合理でなければ違法でない」、控訴審は「議決が合理的でなければ違法である」として、違法である範囲を異にしています。訴訟上の立証責任の観点から言えば、一審基準では、議決が不合理であることを原告(控訴人)が証明しなければならず、控訴審基準では議決が合理的であることを町が証明しなければならないという違いがあります。

 ⑵ 判断が相違した理由

   控訴審判決で言及されている上記④の理由から、控訴審は恣意的な取扱い、つまり感情的な思いは排除して判断すべきであるというスタンスであるのに対して、一審判決では、その感情的な思いに流されて、原告(控訴人)の元代表者が新庁舎建設反対の立場であるという関係性だけで、原告(控訴人)による工事の施工や工期の遵守に疑問や不安を呈することは住民感情としては理解できるとして不合理であるとまでは言えないと判断しています。

   民間工事であれば、契約の相手方を誰にするのかの判断に際して人的関係性等を考慮するのは当然認められることであり、ある意味恣意的な判断が許されるのに対して、公共工事の場合は住民の利益確保及び民意の反映という要請から、このような恣意的な判断を排除して客観的に妥当と評価できる判断をすべく法令で適正な入札手続を経て受注者を決めることが義務付けられています。このような適正な手続に則って落札者が決まっている以上、最終的な契約締結の判断が議会の議決にあるとしても、契約締結を否決するためにはそれ相応の理由(合理的な理由)が必要であるというのが控訴審の考え方であり、極めて妥当な判断であると言えます。

   この点、議会は住民に選出された議員によって構成されるため、議決には民意を反映させる必要はありますが(民主主義の原則)、ここでいう民意とは理性的なものを言うのであり、法令の趣旨に反する感情的な意見までも反映させる必要はありません。このような意見を取り入れるとすれば大衆迎合に陥る可能性があるため注意する必要があります。

   そのため、議会が法令を逸脱した議決をした場合は、法令適合性を判断する担い手である司法が議会の判断を是正するべきであり、本件の控訴審がそれを実現したと言えましょう。

5.まとめ

 本事案における裁判所の判断からは、以下のように言えます。

 ・地方公共団体発注の工事に係る請負契約の締結について、最終判断権者が議会ではあるものの、法令に基づいた適正な入札手続を経て落札者が決まっている以上、それを否定するには合理的な理由が求められる。

 ・議会による契約締結の可否判断に際しては、利害関係者や住民の思いといった感情的な要素は排除して、法令の趣旨に照らした客観的な判断が求められる。

以上

[1] なお、本件で落札業者は、再入札において指名されなかったことについても違法であるとして損害賠償請求をしていますが、この点については一審では認められず、控訴審では判断されませんでした。一審で認められなかったのは、本件議決が違法でないとした理由と同様となります。控訴審で判断されなかったのは、裁判所の判断構造によるもので、本件のように主位的請求と予備的請求があれば、まず主位的請求について判断した上で、それが認められなかった場合に限り予備的請求について判断することになっているため、本件の控訴審では主位的請求が認められている以上、予備的請求について判断しなくてよいことによります。

2022年06月06日(月)3:34 PM

日本における建築物への太陽光発電設備の設置義務化についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

建築物への太陽光発電設備の設置義務化

 

建築物への太陽光発電設備の設置義務化について

2022年6月3日 
  弁護士法人One Asia  
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

. はじめに

 2022年5月18日、東京都では、環境審議会の分科会を開催し、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(環境確保条例)の改正に関する中間のまとめ素案(以下、「本案」といいます。)が示されました。本案の中では、カーボンハーフ(温暖化ガス半減)実現に向け、住宅等の中小規模新築建物に太陽光発電設置を義務付ける等の規定が盛り込まれています。温暖化ガス抑制、再生可能エネルギーの利用促進に向けた類似の取り組みとしては、既に京都府にて、延床面積2000㎡以上の建築物について再生可能エネルギー設備の設置を義務付けており(京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例)、群馬県においても、一定規模以上の建築物の新築・増改築に当たっては再生可能エネルギー発電設備等の導入を求めています(二千五十年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例)[1]

2.本案の概要

 ⑴ 骨子

   本案では、カーボンハーフの実現に向けた行動を加速し、脱炭素に向けた社会基盤を早期に確立することを目指し、建物の規模等によって、それぞれ規定の強化・拡充、新設事項を定めています。なお、本改正案における対象事項は多岐にわたるため[2]、本ニューズレターでは、太陽光発電設備等(以下、「再エネ設備」といいます。)の設置に関わる事項等を取り上げて紹介させていただきます。

 ⑵ 新築建物に関する事項

  ア 延べ床面積2000㎡以上の新築建物|発電義務量に係る最低基準の設定

    同対象建築物に対しては、建築主に環境配慮の措置を求める「建築物環境計画書制度」を定めていますが、再エネ設備の設置が3割程度に留まっていることから、新たに再エネ設備の設置に関する最低基準を設定し、太陽光発電に適した屋根に一定容量の設備が設置されるよう促進すべきとの案が示されました。この中で、「太陽光発電に適した場所(屋根等)に、一定の割合を乗じる等して設置義務量を設定」「太陽光発電の設備が困難な場合は、地中熱等他の再エネに代替して設置」等の考え方のイメージが示されており、当該対象建築物の設計や建築場所の状況に即した再エネ設備の設置が必要となります。

  イ 延べ床面積2000㎡未満の新築建物|新制度の創設、事業者単位での義務量設定

    同対象建築物は、都の定める「建築物環境計画書制度」の対象となっていないことから、新たな制度の創設が本案で示されました。新制度では、対象として都内に供給する新築中小規模建物(1棟の延床面積が2000㎡未満)の延床面積を事業者単位で合算して判断し、供給総延床面積2万㎡以上を供給する供給事業者を制度対象とすることが示されました。そのうえで、同対象事業者に対して、再エネ設備の設置に関して一定の義務量[3]を定めることで、再エネ設備の設置促進を図るものとしました。

 ⑶ 既存建物に関する事項|2050年のゼロエミッションビル化に向けた規制強化

   既存建物については、大規模事業所に対してCO₂排出総量の削減を義務化した「キャップ&トレード制度」、中小規模事業所に対して事業所ごと・事業者単位でCO₂排出量等の報告を求める「地球温暖化対策報告書制度」を導入し、気候変動対策としての取組を推進しているところではありますが、「ゼロエミッション東京戦略」[4]において、2050年に「都内全ての建物がゼロエミッションビル」を掲げていることから、既存建物においてもゼロエミッションビルが標準化されている姿を目指すため、上記新築建物への取組と同様に、再エネの利用を一層高め、建物のエネルギーマネジメント性能を高める(エネルギー利用の効率化)こととしました。概要としては、①大規模事業所に対して、温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度の強化を図るとともに、②中小規模事業所を所有・仕様して一定以上のエネルギーを使用する企業を対象に実施される「地球温暖化対策報告書制度」の強化を図ることを掲げています。

3.今後の展望

  本国においては、2021年8月公表の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方」にて、「2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し」「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」等を提示しており、今後も各都道府県において東京都等と同様に設備設置義務化の動きは進んでいくものと思われます。そのため、各事業者においては、事業地域における法令改正の動向は注視していく必要がありますし、使用する契約書・約款等についても、改正状況に照らしたアップデートが必要とならないか、定期的に確認する意識を持っていただきたいところです。

[1] このほか、京都市、福島県大熊町においても太陽光発電設備等の設置義務付けが定められています。一般財団法人地方自治研究機構「太陽光発電設備等の建物への設置を義務づける条例」(令和4年5月27日作成)参照。

[2] 本案の全体像・詳細に関しては、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について(中間のまとめ(案))」をご確認ください。

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/council/kikaku.html

[3] 義務量の算定に当たっては、住宅等の「年間供給棟数」に対して「設置可能率」及び「1棟当たりの最低基準」を乗じることにより算定し、対象事業者単位で送料として義務量を課す仕組みとすることで、事業者が柔軟に義務履行できるよう規定されることが想定されています。

[4] 2050年にCO₂排出実質ゼロに貢献するとして、2019年5月に東京都により宣言されたもので、6分野14政策を体系化し、2050年に目指すべき姿(ゴール)とロードマップを明示する等している。

 

以上

2022年05月09日(月)11:34 AM

日本における所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正

 

日本:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正

2022年5月7日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

 2022年4月27日、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律案(以下、「本改正法」といいます。)が、参議院本会議にて全会一致で可決されました。人口減少・少子高齢化が進行し相続件数が増加する一方で、ニュースレター「日本:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解説」(2022年1月7日発行)でも取り上げたように、持家よりも賃貸住宅を指向する消費者の割合が増加傾向にある等、土地の利用ニーズの低下、所有意識の希薄化等により、所有者が確知できない土地(所有者不明土地)の増加が見込まれています。そのため、その利用の円滑化と促進、管理の適正化は喫緊の課題となっており、本改正法は、このような問題意識を反映したものとなります。本改正法は、公布日(現時点では未定)から6カ月を超えない範囲で施行されることとなります。

2.本改正法の概要

 ⑴ 本改正法の骨子

   本改正法では、①所有者不明土地の利用円滑化の促進、②所有者不明土地における災害等の発生防止に向けた管理の適正化、③所有者不明土地対策の推進体制の強化の3点に係る改正が行われました。

 ⑵ 所有者不明土地の利用円滑化の促進

   所有者不明土地は、所有者の意思確認ができないことから、その土地利活用が制限されている現状があります。そのため本改正法では、利活用の可能性を広げるため、主に地域福利増進事業に関連して、以下の改正が行われました。

  ⅰ 地域福利増進事業の拡充

    現行法では、地域福利増進事業として、公民館や病院、公園等の整備に関する事業等が対象となっていたところ、これらに加え、備蓄倉庫等の災害関連施設や再生可能エネルギー発電設備の整備等に関する事業が追加されました。地域福利増進事業に該当する場合、所有者不明土地を当該事業に利活用できるようになり、同時に当該土地の適切な管理が期待されます。対象事業が追加されることで、所有者不明土地の一層の利活用・管理の適正化が促進されることとなります。

  ⅱ 地域福利増進事業の事業期間の延長等

    現行法では、購買施設や再生可能エネルギー発電設備等を民間事業者が整備する場合、土地の使用権の上限期間が10年とされていますが、本改正法により、20年に延長されることになります。また、事業計画書等の縦覧期間は6月から2月に短縮されました。

  ⅲ 地域福利増進事業等の対象土地の拡大

    本改正法により、損傷、腐蝕等により利用が困難であり、引き続き利用されないと見込まれる建築物が存する土地であっても、地域福利増進事業や土地収用法の特例手続の対象として適用されることとなりました。

 ⑶ 災害等の発生防止に向けた管理の適正化

   所有者不明土地は、その管理が適切に行われないことから、重大な災害発生や周辺環境の悪化の危険性が危惧されるところです。本改正法では、行政が所有者不明土地の適正な管理に向けた諸措置を講ずることができるように、以下のような改正が行われました。

  ⅰ 勧告・命令・代執行制度

    今後引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地等について、周辺の地域における災害等の発生を防止するため、市町村長による勧告・命令・代執行制度が創設されることとなりました。同制度は、管理が実施されておらず、今後も管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(管理不全所有者不明土地)について、災害の発生等の防止が必要かつ適当であると認められる場合に、市町村長が当該土地の所有者に対して、災害などの発生防止のための必要な措置を講ずるよう勧告、災害等防止措置命令することができ、また、当該措置の代執行を行うことができることを内容とします。

  ⅱ 管理不全土地管理制度に係る民法の特例

    引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地等について、民法上利害関係人に限定されている管理不全土地管理命令の請求権を市町村長に付与することにより、行政によって土地管理をできるようにしました。この管理不全土地管理制度(所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利等が侵害されるような場合に、裁判所の命令によって、管理不全土地管理人を選任する制度)は、令和3年に成立した民法改正(一部遡求適用がありますが、施行は2023年4月1日となります。)によって新たに制定された制度ですが、土地管理をより一層促進するため、本改正法によって適用対象が拡大されることとなりました。

  ⅲ 管理の適正化のための所有者探索の迅速化

    ⅰの勧告等の制度の創設に伴い、その前段階として、土地の所有者の探索のために必要な公的情報の利用・提供を可能とする措置が導入されました。

 ⑷ 所有者不明土地対策の推進体制の強化

   先に説明したとおり、所有者不明土地の更なる増加が予想される中、今後の関連施策の実施に係る体制を整備・強化するための改正も、本改正法にて組み込まれました。

  ⅰ 所有者不明土地対策に関する計画制度及び協議会制度

    市町村は、所有者不明土地の利用等に係る施策に関して、所有者不明土地対策計画の作成や所有者不明土地対策協議会の設置が可能となりました。

  ⅱ 所有者不明土地利用円滑化等推進法人の指定制度

    市町村長が特定非営利活動法人や一般社団法人等を所有者不明土地利用円滑化等推進法人(以下、「推進法人」といいます。)として指定する制度が導入されることになりました。推進法人は、市町村長に対して、計画作成の提案や管理不全土地管理命令の請求を要請することが可能であり、市町村の人的リソースを補い、所有者不明土地対策を一層推進することが期待されます。

  ⅲ 国土交通省職員の派遣の要請

    市町村長は、計画の作成や所有者探索を行う上で、必要に応じ、国土交通省職員の派遣の要請が可能となりました。行政職員の不足や地方の地町村におけるノウハウ不足を解消するための措置として期待されます。

3.おわりに

  本改正法の施行後5年間の運用目標を、①地域福利増進事業における土地の使用権設定が累計75件、②所有者不明土地対策計画の作成数が累計150件、③推進法人の指定数が累計75団体とすることが示されており、今後、本改正法を皮切りに、所有者不明土地の更なる利活用・管理に向けた施策が各自治体においても実施されることが期待されます。各社、新たな事業展開に際して、本改正法及び関連施策を有効活用することも想定されますので、今後の動向を注視いただきたいところです。

2022年04月14日(木)8:55 AM

日本における消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正

 

日本:消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正

2022年4月13日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

 政府は本年3月1日,成人年齢を18歳に引き下げる民法の改正等を踏まえて,より一層の消費者保護・救済に資するため,消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正案を閣議決定しました。

2.消費者契約法の改正概要

  本改正では,平成30年消費者契約法改正時の附帯決議[1]に対応し,消費者の安心・安全な取引のセーフティネットを更に整備するため,以下のような改正が組み込まれました。

 ① 契約の取消権の追加

   消費者は,以下の場合に契約を取り消すことができるようになり,困惑類型(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときに取消しが認められることとなる類型)の適用場面が追加されます。

ⅰ 事業者が勧誘をすることを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合

  従前は,事業者が退去しなかった場合(消費者契約法第4条3項1号),消費者の退去を妨害した場合(同項2号)に取消権の行使を認めていましたが,本改正によって,退去困難な場所に同行して勧誘したことのみをもって,取消権が行使できることとなりました。そのため,具体的な退去妨害行為を行わなかったとしても,勧誘することを告げずに消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら,同所に同行すれば,取消権行使が認められることとなります。

ⅱ 威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害した場合

  本改正では新たに,消費者が契約を締結するか否かの相談を電話等で行おうとした際,事業者がこれを威迫する言動も交えて妨げた場合に,取消権行使が認められることとなります。

ⅲ 契約前に目的物の現状を変更し原状回復を著しく困難とした場合

  従前は,契約によって負うこととなる義務の全部又は一部を実施することによって,実施前の原状回復を困難とした場合には,当該契約の締結を事実上強制することなり消費者の適切な意思表示が期待できないことから,取消権行使を認めていました。本改正では新たに,義務の実施によって原状回復が困難となる場合のみならず,目的物の現状を変更することで原状回復が困難となった場合(例えばリフォーム工事で物件の現状を変更する場合等)にも,取消権行使を認めることとなります。

 ② 解約料説明の努力義務

   事業者は,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定(違約金)条項を定める場合,消費者からの要請があった際には,当該予定額の算定根拠の概要を説明すべき努力義務を負うものとされます。また,適格消費者団体との関係では,事業者は,当該予定額が同種の消費者契約の解除に伴い生ずる平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当の理由がある場合には,当該団体からの要請に応じて,予定額の算定根拠を説明すべき努力義務を負うとされます。

 ③ 免責の範囲が不明確な条項の無効

   損害賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない条項)については無効となります。具体的な条項としては,以下例示されています。

  (無効となる条項例)「法令に反しない限り,1万円を上限として賠償します。」

            ⇒軽過失による行為のみ適用されることが明示されていません。

  (有効となる条項例)「軽過失の場合は1万円を上限として賠償します。」

 ④ 事業者の努力義務の拡充

   事業者に対して,解除時に解除権行使に必要な情報提供等を行うことを内容とする努力義務を課すとともに,成人年齢が18歳に引き下げられたことを踏まえ,勧誘時の情報提供として,消費者の知識・経験に加えて,年齢・心身の状態も総合的に考慮した情報提供を行うことを求めています。その他にも,適格消費者団体からの開示性要請等に対応すること等を事業者に求める改正も行われました。

3.消費者裁判手続特例法の改正概要

 ⑴ 消費者裁判手続特例法とは

   消費者裁判手続特例法(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)は,多くの消費者事件で課題となる消費者と事業者間の情報の質・量・交渉力の格差,訴訟に関する費用や労力のために消費者による被害回復が困難となっていることをうけ,消費者被害を回復しやすい訴訟手続(被害回復制度)と,事前予防として不特定多数の消費者の利益を擁護するために差し止めを求めることができる手続(差止請求制度)を新設することを内容とする法令です。

   同法によって新設された各手続は,以下の2段階型の手続により構成されます。個々の消費者は,特定適格消費者団体に授権することにより,下記手続に参加することとなります。

  Ⅰ 特定適格消費者団体が原告となり,事業者を被告として,消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害に対し,共通する原因に基づき金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴え(共有義務確認訴訟)を提起する。

  Ⅱ Ⅰの訴えにて原告(特定適格消費者団体)が勝訴した場合,事業者が誰にいくら支払わなければならないかを迅速に確定する(簡易確定決定)。

   上記手続の創設によって,消費者は,多くの消費者被害回復を一つの手続で行うことによる費用低減,消費者団体の専門的知識・交渉力を活用することができ,消費者被害が回復されやすくなりました。

 ⑵ 改正概要

   消費者裁判手続特例法は,端緒情報の質・量が不十分であること,対象としうる事案が限られること,特定適格消費者団体が現実的に対応可能な範囲が限られることから,上記手続の活用が広がらない現状にありました。そこで本改正では,これらの課題に対応するため,概要以下の改正が行われることとなりました。

  ① 対象範囲の拡大

    従前は財産的損害のみを手続の対象としていましたが,対象となる損害に一定の慰謝料(ⅰ財産的損害と併せての請求であり,ⅱ故意によって発生した損害に限る)が追加されます。また,被告に事業者以外の個人(悪徳商法に関与した事業監督者・被用者が想定されています)に対しても,同手続による責任追及を可能となります。

    財産的損害と併せての請求を求められることから,例えば個人情報漏洩に伴う慰謝料請求のみを根拠とした手続利用は本改正でも認められていませんが,従前は財産的損害が少額であったために訴訟提起には至らなかった場合であっても,慰謝料請求と併せて訴訟提起に踏み切るケースも増えてくるのではないかと考えられます。

  ② 和解の早期柔軟化

    現行法では,事業者の責任の有無を判断することを対象とした手続でしたが,本改正により,解決金を支払う和解や,それ以外の和解等が可能となります。

  ③ 事業者への情報提供方法の充実

    本改正では,事業者に対して手続の対象となる消費者への個別通知を義務付けるほか,消費者の氏名等の情報開示を早期に可能とし,行政が公表する情報を拡充することを内容とし,消費者に対する情報提供方法を充実させることで,消費者救済に向けた一層の環境整備を行うこととなります。

  ④ 特定適格消費者団体の負担軽減

    特定適格消費者団体における負担を軽減するため,同団体を支援する法人(消費者団体訴訟等支援法人)を認定する制度を導入されます。同法人は,特定適格消費者団体の委託を受けて,対象消費者等に対する情報の提供や金銭の管理,通知等の事務を行うことができます。

 4.おわりに

   特に今回の改正では,消費者契約における契約取消権の行使場面が広がるとともに,損害賠償の予定額についての説明義務(努力義務)が追加されることとなりますので,従前にも増して,契約締結に当たっての対応,契約内容の策定に当たっては注意いただきたいところです。また,消費者裁判手続特例法の改正によって,集団訴訟が提起される場面が広がりましたので,従前は損害額が低額のために訴訟にまでは至らなかったケースについても,訴訟リスクが生じることとなります。当然,訴訟に至らなかったとしても,各事業者において適切な対応を求められるところではありますが,本改正を機会に,顧客対応の見直しを検討されてはいかがでしょうか。

 

[1] 議決された法案等に関して付される,施行についての意見や希望等を表明する決議であるが,法的拘束力はない。

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