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2021年04月18日(日)9:47 PM

日本におけるインフラによる日照権侵害に対する事業者責任についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本におけるインフラによる日照権侵害に対する事業者責任について

 

日本:インフラによる日照権侵害に対する事業者責任

2021年4月13日
One Asia Lawyers
弁護士法人One Asia大阪オフィス
代表パートナー弁護士 江副 哲

1.事案の概要

 新東名高速道路の豊田東ジャンクションの高架橋を巡り、近隣住民が中日本高速道路会社に対して、日照侵害を理由に損害賠償を求める裁判を起こし、一審の名古屋地裁岡崎支部の判決(2020年2月)では、冬至の日影時間を基準に補償は不要と判断しました。一方、名古屋高裁の控訴審判決(20年7月)では、日陰になる時間が最も長い時期を基準に日照権侵害を認めました。その後、中日本高速が上告しなかったため、この判決は確定しています。

 被害を受けた住民の住む建物では、冬至の日影時間は1時間程度に過ぎなかったのですが、春分や秋分の頃には建物が高架道路の橋桁の影に入るため、日影時間が午前8時30分ごろから午後4時ごろまでの7時間程度に及ぶという状態でした(写真は本件とは関係ありません)。

2.国土交通省の通知の法的効力

 国土交通省が各地方整備局などに宛てた通知「公共施設の設置に起因する日陰により生ずる損害等に係る費用負担について」(03年7月11日改正)では、冬至の日影時間が3 〜5時間に及ぶ住宅の住民を補償の対象と定められています。中日本高速はこの通知に則り、住民を補償の対象から外していました。

 一審判決では、国交省の通知内容に基づく中日本高速の主張を認め、住民の賠償請求を棄却しましたが、名古屋高裁は、国交省の通知は法令ではないため裁判所の判断を拘束するものではないと指摘し,通知の基準を満たさない場合でも、受忍限度を超える日照被害が認められることはあり得るとの判断を示しています。

 建築物で生じる日影の場合、冬至の時に最も時間が長くなるのが普通ですが、本件のように橋桁が上空を横断する高架道路の場合、住宅との位置関係によって日影時間が最長となる時期が大きく異なるケースも出てきます。このような場合、「冬至の時が最も日影時間が長くなる」という大前提は当てはまらず、控訴審では、冬至のみを基準とするのは必ずしも合理性がないとして、年間を通じた日照被害の状況も考慮して受忍限度を判断しています。

 地域性については、当該地域が都市計画法上の市街化調整区域内にあり、用途指定がない点に言及し、周囲に高層建築物などのない郊外に位置しているところ、高速道路のような幹線道路は郊外に建設されるのが一般的であるとして、特段、地域性を考慮する必要はないと評価しました。

 結論として、判決では、慰謝料として住民1人につき50万円、弁護士費用として損害額の1割に当たる5万円の計55万円を支払うよう中日本高速に命じています。

 この控訴審判決のポイントとなる国交省通知に対する名古屋高裁の考え方は、以下の通りと考えられます。国交省の通知は、あくまでも憲法29条3項に基づく損失補償の観点から、公共事業によって損失を被る住民に対して、適法か違法かを問わず一律に補償する基準を定めています。また、通知は行政機関が自治体や業界団体などに出す連絡事項をまとめたもので、事業執行上参考とされる行政の一判断にすぎず、国会で制定される法律とは異なり法的拘束力がないため、最終的に受忍限度、つまり違法性を判断するのは裁判所の役割であるという考えです。

3.受忍限度論

 それでは、裁判所による受忍限度の判断は何を基準としているのか、について以下で説明します。日照侵害を受忍限度によって判断する考え方は、以下の最高裁判決(1994年3月)が示した「受忍限度論」に基づくものです。「(日照侵害が)通常人が一般社会生活上受忍すべき限度を超えていると認められる場合には、違法な権利侵害ないし利益侵害となる」受忍限度論は、日照侵害だけでなく、騒音や振動などによる被害も含めた工事の違法性を判断する基準として定まっている考え方です。

 日照侵害に関して受忍限度内かどうかを判断する際に考慮する要素としては、まず被害の程度が挙げられ、基本的には冬至において被害建物がどの程度日照を奪われるかという点が問題になります。これについては、建築基準法56条の2で示されている冬至の午前8時から午後4時までの時間帯が参考とされます。日照時間の長さ、時間帯、各建物の位置、大きさなどを考慮し、春秋分における日照状況も判断の参考にされます。さらに、地域性も考慮に入れられ、例えば、住宅系の地域か、低層建物中心の地域か、商工業系の地域か、建築物の中高層化が進んでいる地域か、都市計画法上の規制があるか、といった点になります。その他、加害回避可能性、被害回避可能性といった要素もあり、これは、加害者側と被害者側で、それぞれ日照侵害を少なくする手段があるかという事情になります。例えば、建物の高さを低くするなど、被害を生じさせないような形に計画を変更できるか、ということが考えられます。

4.事業者の留意点

 今回取り上げた新東名の裁判は、構造物の完成後に賠償請求された事案ですが、工事中に近隣住民から日照権侵害を理由に工事続行禁止の仮処分が申し立てられるケースもあり、万が一、裁判所が仮処分を認めた場合、工事を中断せざるを得ないという重大な事態が生じることになりますので、注意が必要です。

 そこで、事業者としては工事着手前に、受忍限度論の考慮要素である地域性や、建設する構造物による周辺の日照への影響について十分に調査、検討し、前述の裁判例で指摘したように、形式的な基準だけで判断するのではなく、実質的に住民の受忍限度を超えるかどうかを慎重に調べる必要があります。調査や検討の結果、近隣建物の日照への影響が大きいと判断した場合は、建設予定の構造物の構造や位置などの変更で対応できないか再検討すべきです。他方、事前の調査や検討の結果、日照権侵害がないと判断できる場合は、近隣住民への特段の対応は不要かもしれませんが、それでも近隣への工事説明の際、日照には問題がないことを事前に説明しておけば無用なトラブルの防止につながります。

以上

2021年03月23日(火)1:55 PM

日本におけるコーポレートガバナンス・コードの改訂についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本におけるコーポレートガバナンス・コードの改訂について

 

日本:コーポレートガバナンス・コードの改訂について

2021年3月23日

One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
日本法弁護士 江副  哲
同      藤村 啓悟
同      栗田 哲郎

1. はじめに

 2021年にコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます。)の改訂が予定されています( 2018年の改訂時には,2021年3月に改訂案が発表され,同年6月1日に改訂されるというスケジュールでしたが,現時点では,改訂案は発表されていません。)。

コーポレートガバナンスの課題を検討する,金融庁主催の2021年12月8日開催のCGコードフォローアップ会議では,「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(案)」と題する意見書(以下「意見書」といいます。)につき議論されました。

 意見書は,これまでのフォローアップ会議での議論を取りまとめたものであり,改訂案について言及されていますので,CGコードの改訂案は意見書の内容を参照する形で作成される見通しです。

 今回のCGコード改訂は,東京証券取引所の市場区分再編とも関連しています。そのため,本稿では意見書の内容から,改訂予定の内容を概説するとともに,東証の市場区分再編との関わりも説明します。

2 改訂の背景

 CGコードは2015年に策定され,2018年に改訂が行われています。今回は2度目の改訂で,3年に1度のペースで改訂が行われています。

 改訂はコーポレートガバナンスの課題に対応する形で行われます。前記のフォローアップ会議では,資本コストを意識した経営,取締役会の機能発揮, 中長期的な持続可能性,監査の信頼性の確保,グループガバナンスのあり方,コロナ後の企業の変革などといった課題が挙げられており,これら課題について議論が行われています。意見書は,これらのうち,取締役会の機能発揮,中長期的な持続可能性に関連する事項の改訂につき,提案を行っています。

3. 独立社外取締役の3分の1以上の選任

 意見書では,2022年に予定されている東京証券取引所の市場区分再編後のプライム市場につき,その上場企業に対し,独立社外取締役の3分の1以上の選任を求めるべきであると提案しています。 これは,諸外国のCGコードや上場規則の大半は,3分の1以上ないし過半数の独立社外取締役の選任を求めていることや,独立社外取締役が企業の経営環境の変化を見通し,経営戦略に反映させることを期待してのことです。

 また,諸外国のCGコードや上場規則が過半数の独立社外取締役の選任を求めていることも踏まえ,それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業には,独立社外取締役の過半数の選任を検討するよう促すべきであるとの提案もなされています。

 ただし,これは独立社外取締役を増加させればさせるほど,期待される企業価値の向上及び経営監督機能の強化に資するという前提に立ったものです。現状では,独立社外取締役の数を増加させることのみを目的とすることに否定的な意見もあります。  

 しかし,特に支配会社を有する上場企業については,そのような企業特有の問題に対応するために,過半数の独立社外取締役選任を求めることが積極的に検討されています。支配会社を有する上場会社では,支配会社と少数株主との間に構造的な利益相反リスク(例えば親会社と子会社間の取引の場合など)があるため,取締役会の独立性を高める必要性があるからです。

 2021年1月26日開催のCGコードフォローアップ会議では,会議メンバーから支配会社を有する上場会社では,独立社外取締役を過半数選任とすべきという意見も複数出ている状況です。        今後の会議の議論次第では,支配会社を有する上場会社は,特別に独立社外取締役の過半数の選任を要求される可能性があります。

4. スキルマトリックスの公表

 意見書では,スキルマトリックスの開示を求めることが提案されています。

 スキルマトリックスとは,各取締役が有するスキルを,マトリックス表でまとめたものになります。

 スキルマトリックスを開示することの意義は,株主が取締役会のスキル構成を知ることができることに加え,会社自身が取締役会の構成を検討し,説明することに資する点にあります。

 上記のような意義・目的の達成手段として,各取締役の有するスキルの組み合わせ,いわゆるスキルマトリックスの開示を求めることが検討されています。

5. 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

 社会の多様化に対応し,企業の持続的な成長を確保する上では,企業内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な価値観が求められます。このため,企業内の多様性を確保することについても,CGコードの改訂案として提案されています。

 意見書は,企業内の多様性確保を推進するために,女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等,中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともにその状況を公表することを求めるべきとします。

 また,意見書は,多様性の確保を推進するための人材育成体制や社内環境整備を促すために,企業が多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と合わせて公表するように求めるべきとしています。 

6. 市場区分再編との関連

 今回のCGコード改訂で,上場企業に大きな影響があるのは,東京証券取引所の市場区分再編にあたっての市場選択手続です。特に,2022年の新市場区分移行後の「プライム市場」では「より高いガバナンス水準」が求められます。

 市場選択手続では,改訂後CGコードの内容を反映したコーポレートガバナンスに関する報告書が提出書類となっています。

 したがって,上場企業においては,新市場区分の市場選択手続にあたり,改定後CGコードへの対応が必要となる可能性がありますので,今後もCGコードフォローアップ会議における議論の動向を注視する必要があります。

 

以上

2021年03月23日(火)1:50 PM

日本における資金決済法改正にかかる資金移動業と収納代行への規制見直しについてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本における資金決済法改正にかかる資金移動業と収納代行への規制見直しについて

 

日本:資金決済法改正にかかる資金移動業と収納代行への規制見直しについて

2021年3月23日

One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
日本法弁護士 江副  哲
同      藤村 啓悟
同      栗田 哲郎

 

1. はじめに

 2020年6月5日に成立、同月12日に交付された「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和2年法律第50号)の施行が、2021年に予定されています。同法は、法令名のとおり金融サービスの利用者の利便性向上と保護の確保を目的としており、金融商品取引法、金融商品販売法、銀行法、保険法等、資金決済法等につき横断的な改正が行われています。[1]

 以下では、同法のうち、「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」といいます。)の改正部分につき、概要を説明します。

2. 改正の背景及び概要

 今回の資金決済法改正は、情報通信技術の発展と、資金決済ニーズの多様化に対応するために行われます。具体的には、①キャッシュレス決済の普及に伴う、利用者の利便性の向上と、②キャッシュレス決済利用者の保護による安心・安全の確保といったニーズの実現を図ることを目的としており、その実現手段として、規制の見直しが行われました。改正が行われた項目は大きく分けて、資金移動業の規制見直しと、収納代行への対応の2点となります。

3. 資金移動業の規制見直し

 従来の資金決済法では、資金移動業者は100万円を上限とした為替取引のみ認められていました。しかし、海外送金を含めて、個人による高額商品・サービスの購入や企業間決済の際に利用する等のニーズが利用者側にありながら、従来の資金移動業者はこれに対応することができませんでした。また、送金の取扱件数が増加する一方で、送金のニーズは低額の送金が大半を占めており、件数ベースでは5万円未満の送金が約9割に上ります。つまり、キャッシュレス決済利用者には、100万円以上の高額決済と、5万円以下の少額決済のニーズがあります。これに対応するため、改正資金決済法は資金移動業者を以下の3類型に再構成することとなりました。

・高額類型「第一種資金移動業」(認可制):100万円以上の為替取引を取り扱い可能

 ・現行類型「第二種資金移動業」(登録制):100万円以下の為替取引のみ可能
 ・少額類型「第三種資金移動業」(登録制):5万円以下の為替取引のみ可能

 これまでの資金移動業者は、登録を受ければ資金移動業を営むことができました。第二、第三種資金移動業は、これまでと変わらず、登録を行えば資金移動業を営むことができます。しかし、第一種資金移動業については、内閣総理大臣の認可を受けなければならない認可制とされ、より厳格な手続きが求められます。

 改正資金決済法は、資金移動業を上記の3類型に分けたうえで、それぞれの類型に対応する形で、利用者資金の保全に関する規制を定めています。また、現行法と同様、利用者資金の保全方法として供託、保証、信託の手段を採用していますが、改正資金決済法では、保全のタイムラグの縮小(現行法で要求される供託等の額は、前週の預かり額の実績により決定されますが、その場合、実際に利用者から預かっている額と供託額にズレが生じます。)の観点から、見直しが行われています。

 現行法と大きく異なる保全方法が採用されているのが、第三種資金移動業です。第三種資金移動業を営む事業者は、内閣総理大臣に届出書を提出すれば、履行保証金供託などの既存の保全方法に代えて、銀行等に対する預貯金で保全額を管理することが認められます。

 また、滞留規制に関連して、第一種資金移動業を営む資金移動業者に対しては、具体的な送金指示(移動する資金の額、資金を移動する日、資金の移動先)を伴わない資金の受け入れを禁止する規制と、資金の移動に関する事務処理のために必要な期間を超えた為替取引に関する資金の受入を禁止する規制が設けられています。第一種資金移動業は高額の資金移動を取り扱う関係上、破綻等した場合の利用者に与える影響や社会的・経済的な影響は他の類型と比較しても大きくなります。このため、運用上・技術上必要な期間を越えて利用者の資金が滞留しないようにする、厳格な滞留規制が課されます。なお、第一種資金移動業者が行う為替取引には、1件当たりの金額が100万円以下であっても、上記の滞留規制が課されることには注意が必要です。      

   第一種資金移動業

第二種資金移動業

    第三種資金移動業




・①移動する資金の額②資金を移動する日③資金の移動先を明らかにすること(改正資金決済法51条の2第1項)

・資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間を超えて債務を負担しないこと

(同条2項)

・為替取引に関する債務が100万円を超える場合、利用者の資金が為替取引に用いられるものか確認するための体制を整備すること(改正内閣府令30条の2第1項)

・為替取引に用いられないものを保有しないための措置を講じること(同条2項)

滞留可能








供託,保証,信託

供託,保証,信託

供託,保証,信託

自己の財産と分別した預金管理も可能
(改正資金決済法45条の2第1項)

 

4. 収納代行への対応

 また、現行法では、債権者の依頼を受けて債務者から代金を回収(収納代行)する事業者は、規制対象に含まれていませんでした。

 改正資金決済法は、利用者保護の観点から、近年登場した「収納代行」と称しつつ、実質的には一般利用者間の送金を行うサービスについて「為替取引」に該当するとし、資金移動業の登録を求めることを明確化しました(改正資金決済法2条の2)。

 ただし、「為替取引」に該当するとして資金移動業の登録を求めることが明確化されたのは、いわゆる「割り勘アプリ」などと言われる、実質的に一般利用者間の送金サービスとなっているものだけになります。宅配業者の代金引換や、コンビニの収納代行といった、企業が受取人となっている送金サービスは、現在まで深刻な問題は指摘されていません。そのため、債権者が事業者で、かつ、債務者(一般利用者)に二重払いの危険がないものについては、利用者保護の必要性は小さいことから、現状維持として資金移動業の登録は義務付けられていません。

以上

 

[1]金融庁「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」2020年3月(https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/01/setsumei.pd)

国立国会図書館「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律 法令情報詳細画面」

(https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000151757&current=-1)

2021年03月03日(水)11:33 AM

日本における会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)の施行についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)の施行について

 

日本:会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)の施行について

2021年3月3日

One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
パートナー弁護士 古田 雄哉
同 江副  哲
同 栗田 哲郎

1.はじめに

 令和元年12月4日に成立し、同11日に交付された会社法の一部を改正する法律の一部(株主総会資料の電子提供制度を除いた部分)が令和3年3月1日から施行されます。 

 令和3年3月1日から施行される内容としては、①株主総会における株主提案権の制限、②取締役の報酬に関する規律の見直し、③役員等のための会社補償、D&O保険に関する手続規定の新設、④上場会社等における社外取締役設置の義務化、⑤株式交付制度の創設等があります。

本稿においては、今回の改正点について解説します。

2.株主総会における株主提案権の制限

 株主は、株主総会において議案を提出することができます(法304条)。そして、株主(取締役会設置会社においては議決権の1%または300個(公開会社では6ヶ月間)を保有する株主)は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前(定款で引き下げ可)までに、提出しようとする議案の要領を株主に通知するよう請求することができます(法305条1項)。

 従前は、この“要領通知請求権”について特に個数の上限はありませんでした。そのため、一部の株主により多数の要領通知請求がなされ、会社のコスト負担や運営上の負担の増加が問題視されていました(濫用的株主提案)。

 そこで新法では、取締役会設置会社の株主が要領通知請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については要領通知をすることを要しないとされました(改正後法305条4項)。なお、どれを10を超えるものとするかは、取締役が決めることとされていますが、株主が優先順位を定めていた場合はこれに従うことになります(改正後法305条5項)。

3.取締役の報酬に関する規律の見直し

 取締役の報酬については、定款で定めがない場合は株主総会の決議でこれを定めることとされていますが(法361条1項)、個々の取締役ごとに報酬額を定める必要は無く、取締役全員に対する報酬の総額のみを定め、各取締役の報酬については取締役会設置会社においては取締役会に一任することが一般的でした。

 この点、今回の改正では、上場会社等(①公開会社でありかつ大会社である監査役会設置会社であって、金融商品取引法第24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を提出している会社②監査等委員会設置会社)においては、定款又は株主総会決議で個々の取締役の報酬の定めをしていない場合、取締役会において取締役個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定める必要があるとされました(改正法361条7項)。

 これまでは、取締役会で代表取締役に再一任して代表取締役が報酬を決定するということも多く行われてきましたが、この決定方針は事業報告で開示をすることが必要とされており(規則121条6号)、恣意的な報酬決定に一定の歯止めがかかり、経営の透明化に資することが期待されています。

 当該規制が該当する会社については、次の株主総会で報酬についての議案が上程される場合はこの決定方針の説明をすることが求められますので、早急な対応が必要になります。

4.役員等のための会社補償、役員等賠償責任保険(D&O保険)に関する手続規定の新設

 会社補償とは、役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任のある追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部又は一部を会社が当該役員等に対して補償することをいいます。そしてこのような場合に備えて加入するのがD&O保険です。

これまでの会社法では条文上規定がなかったものが、今般の改正で明文化されることになりました。

 ⑴ 会社補償契約について

 会社補償契約をするには、取締役会設置会社においては取締役会決議によっておこなう(非設置会社は株主総会)こととされました(法430条の2第1項柱書)。なお、補償契約に基づき補償を受けた取締役は、遅滞なく取締役会に報告をすることとされています(同条4項)。

  補償契約によって補償される費用は以下とされています(同条1項1号2号)。

   ① 当該役員等が職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、
    又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用
    ※ただし、通常要する費用を超える部分は補償なし(同条2項1号)。

   ② 当該役員等が職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における
    賠償金または和解金
    ※ただし、悪意重過失がある場合は除く(同条2項3号)。    

 ⑵ 役員等賠償責任保険(D&O保険)契約について

 また、株式会社が役員等賠償責任保険を契約するにあたっては、その内容の決定は株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議によらなければならないとされました(改正法430条の3)。

 ここでいう役員等賠償責任保険とは、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が店舗することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいうとされています。ただし、当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるもの(自動車保険等)は除くとされています。

5.上場会社等における社外取締役設置の義務化

 公開会社であり、かつ大会社である監査役会設置会社であって金融商品取引法第24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を提出している会社においては、社外取締役の設置が義務化されました(改正法327条の2)。

改正前の同条では、社外取締役の設置をしない場合は株主総会でその理由を説明しなければならないとされるに留まっていましたが、改正法では社外取締役の設置が義務化されました。なお、東証上場企業においてはすでに99%近くの株式会社が社外取締役を設置しているとのことであり、実務上の影響は少ないものと思われます。

 また、社外取締役の業務執行について、社外性を失わないようにする規定についても新設されました(改正法348条の2)。これによれば、株式会社(指名委員会等設置会社は除く)と取締役との利益が相反する状況にあるときその他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なう恐れがあるときは、都度取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるとされ(同条1項)、この場合は社外取締役の社外性が失われないこととされました。ただし、委託を受けた社外取締役が、業務執行取締役の指揮命令の下、委託された業務を執行した場合はこの限りではないとされています(同条3項)。

6.株式交付制度の創設

 株式交付とは、株式会社が他の株式会社をその子会社とするために、当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対してその株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいうとされており(改正法2条32の2号)、本改正で新設された制度です。

 類似の手続としては株式交換(法2条31号)が挙げられますが、株式交換は完全親子会社化のための制度であったため、完全親子会社とまではすることは望まないが、株式取得の対価として親会社の株主を交付したい場合に利用することが想定されます。

7.まとめ

 今回の改正では取締役の報酬に関する規定、会社補償、D&O保険、社外取締役の設置等、取締役に関する制度の見直しが多くなされました。はやければ次回株主総会には対応が必要な事項もありますので、改正内容を正確に把握することが重要となります。

 

以上

2021年02月09日(火)11:50 AM

日本における工事現場での事故に対する発注者責任についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

日本における工事現場での事故に対する発注者責任

日本における工事現場での事故に対する発注者責任

2021年2月8日

One Asia Lawyers

弁護士法人One Asia大阪オフィス

代表パートナー弁護士 江副 哲

1.はじめに

 工事現場で死傷事故などが発生したときに、その賠償責任はいったい誰が負うのかという問題について、発注者の誤った指示など不適切な対応が原因で事故が起こった場合、施工者だけでなく発注者も民事上の賠償責任を負う恐れがあります。また、場合によっては、刑事責任も問われる可能性もあります。では、具体的にどのような場合に発注者が賠償責任を負うのかについて、発注者の責任を認めた裁判例を基に解説します。

2.裁判例① ~作業員の負傷事故に対する賠償責任~

 道路工事中に発生した作業員の負傷事故で、発注者である津市の賠償責任を繰り返し認めた判決は、その一例で、側溝の掘削作業中に隣接する既設の石積み擁壁が崩落し、作業員が擁壁と掘削面との間に挟まれて重傷を負ったという事故になります。この事故では、最初の訴訟で敗訴した津市が、作業員にいったん賠償金を支出し、続いて、市と元請の施工者である勢和建設(津市)との間で、その賠償金の負担について再度、法廷で争うという異例の展開となりました。

 まず、訴外で既に2200万円の賠償金を勢和建設から受け取っていた同社の作業員が、市だけを相手取り損害賠償を求めて提訴し、その後、津地裁の一審判決(2017年5月)と名古屋高裁の控訴審判決(同年12月)のいずれも市の責任を認め、損害賠償の支払いを命じています。市は裁判の過程で、設計図書で指定しない仮設や施工方法などは、自主施工の原則で受注者が選択するものだと説明し、発注者が施工方法などの選択について注文を付けることは許されないと主張していました。しかし、裁判所は、石積み擁壁の根入れ位置が、設計図書では掘削溝の底面よりも深かったが、実際には底面まで達していなかったことを市の工事担当者が把握していたと指摘し、自主施工の原則を前提としても、施工者に具体的な安全対策を指示せず、安全が確保されるまで工事を一時中止させる義務を怠ったとして、市の過失を認めました。

 この判決を受け、市は被災した作業員に賠償金9300万円を支払いましたが、判決内容に納得せず、勢和建設に賠償金の負担を要求し、市が同社に発注していた別の工事5件分の請負代金の支払いを止め、事実上、賠償金相当額を負担させるという強硬な対応を取ったところ、これに勢和建設が反発し、市に対して請負代金を請求する訴訟提起に至りました。この訴訟では、津地裁の一審判決(20年1月)、名古屋高裁の控訴審判決(20年8月)ともに、勢和建設が擁壁について安全対策を講じるよう市に指示されながら対策を取らなかったことを理由に、同社の過失を認定しました。一方で、市に対しても、擁壁の危険性を認識したのに具体的な対策を指示せず、施工者の対策状況を確認していないことから、監督権限不行使の過失があると認定、市の過失割合を2割と判断しました。さらに控訴審では、市は施工者から擁壁の崩落回避のための提案を受けながら、それを採用せず代替案も示さなかったという経緯を指摘し、市が具体的な指示をしなかった点だけで責任があるとはいえないとしながらも、市は仕事の完成を待つ立場にとどまらず、第三者に危害を及ぼす事態の回避に向け副次的・補充的な責任を負う立場にあると言及されています。

3.裁判例② ~橋桁落下事故による第三者被災に対する賠償責任~

 社会に衝撃を与えた大事故で発注者の賠償責任を認めた例として、1991年3月に広島市の新交通システム「アストラムライン」の建設工事で起こった橋桁落下事故が挙げられます。架設中の橋桁が作業員と共に橋脚下の県道上に落下したところ、県道を交通規制していなかったため、信号待ちしていた車両を押し潰し、車の運転者など第三者を含む15人が死亡、8人が重軽傷を負うという大惨事になりました。そこで、遺族が広島市と施工者のサクラダ(2012年に破産手続き開始)に対して損害賠償を求め、広島地裁に提訴した事故になります。

 一審判決(1998年3月)では、市の建設工事請負契約約款や建設工事施工監理の手引などを挙げ、市の監督員が発注者の立場で作業内容やそれに伴う危険の回避について監督することを前提とした規定を設けている点に言及し、「市には、本件工事の安全性を確保するための監督をなすべき義務があった」と判断しました。さらに、施工者の作業が他の工区よりも大幅に遅れていた点や、施工計画書に橋桁の落下防止措置が明記されていなかった点などを市の監督員は知っていたと指摘し、「市には施工者の安全対策を確認し、転倒防止ワイヤを取り付けるなどの安全対策を取るよう指示すべき義務があった」と結論付けています。

 市は、この判決を不服として控訴しましたが、既に施工者から賠償金を受け取っていた遺族が早期終結を望み、市への請求を放棄した結果、控訴審は実質的な審議をせずに終わっています。

4.公共工事における発注者責任

 以上の裁判例は、発注者に民事上の賠償責任を認めた事例で、発注者は、事故発生の危険を予見できる場合、安全性を確保するため施工者を監督すべき義務を負うと指摘しています。ただし、このような現場の安全確保に関する発注者の義務は、公共工事と民間工事では大きく異なると考えられます。

 国や自治体が発注する工事の場合、発注者側には監督員という技術者が関わることから、発注者も施工方法などについて一定の評価や判断ができるという前提で、このような義務を認めていると考えられます。そのため、公共工事では発注者が施工方法などをチェックすべき立場にあると十分に意識することが肝心であるといえます。万が一、施工方法に問題があり、工事の安全性を確保できないと判断した場合には、受注者に対して適切な是正を求める必要があります。他方、民間工事の場合は、発注者側に監督員のような技術者が関与する例は少ないといえます。発注者側の技術者が関与していない工事では、発注者があえて危険な作業をするよう求めるなど、積極的に不適切な指示を出したりしない限り、発注者に責任が及ぶことはまれです。

 もっとも、発注者が事故に対する賠償責任を負うからといって、施工者が責任を免れるわけではありません。前述の2つの裁判事例ともに、施工者も賠償責任を負わされています。施工者は、発注者の指示や設計図書に誤りがないか、現場との不整合はないかなどを精査し、問題があれば発注者に対して指摘しなければなりません。そのため、施工者としては、発注者の指示どおり施工していれば事故が生じても自らに責任はないというような安易な考えは捨てるべきであるといえます。

 従来は、工事現場の安全管理を含む施工管理は施工者の義務であり、公共工事であっても、工事現場での事故に対して発注者が責任を負うことはないと考える傾向にありましたが、今回紹介した裁判例のように、発注者としても安全確保や事故防止のために対応すべき場面があると認識され、その対応を怠った場合は施工者だけでなく、発注者も法的責任を負うという評価がされるようになってきました。そのため、発注者としては、施工者にお任せという姿勢は改め、施工者と協力して事故防止に努めることが求められます。

以上

 

2019年01月23日(水)1:02 PM

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