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2023年11月14日(火)11:00 AM

マレーシアにおける会社取締役および会社秘書のための新しい倫理規定に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

会社取締役および会社秘書のための新しい倫理規定

 

会社取締役および会社秘書のための新しい倫理規定

2023年11月
One Asia Lawyers Group

橋本 有輝
弁護士(日本)
シャリル・ラムリ
弁護士(マレーシア)

1. はじめに

2023年9月11日、マレーシア会社委員会(以下「CCM」)は、会社取締役および会社秘書役に関する新しい倫理規程(”Code of Ethics”、以下「倫理規程」)を発表し、2024年1月1日より施行される。倫理規程は、マレーシアにおけるコーポレート・ガバナンス慣行を強化することを目的としており、会社が法令を遵守して運営されることを保証する上で、会社における最も重要な役職である取締役と秘書役の職務と責任に焦点を当てている。

本規程は、取締役と秘書役が期待される倫理的事項に関する一般的なガイドラインを提供し、その役割に応じて従うべき基準を定め、特にコーポレート・ガバナンス、透明性、誠実性、説明責任、持続可能性など、この領域で最近問題となっている事項に関する対策や措置を提案している。

この倫理規程は、あくまでガイドラインであり、法令ではないので、同ガイドラインに違反することが直ちに罰則等につながるものではないが、他方で同規程は、会社法その他の法令に定められた各種義務を具体化したものでもあるため(倫理規定前文)、その違反が会社法等の違反につながる可能性には留意する必要がある。

2. 定義

倫理規程における取締役とは、名称の如何を問わず、会社の取締役の地位を占める者を意味する。また、これには、取締役には登記されていないが、会社の取締役の過半数がその指示や命令に従って行動することが慣行となっている者や、補欠取締役・代理取締役(”alternate or substitute director”)も含まれる。

保証有限責任会社(”company limited by guarantee”)では、役員に”governors”、”trustees”、”chief executive officer”、”managing director”などさまざまな名称が与えられているが、これらの人物が会社の経営に責任を負う役職に就任している場合、これらの人物は会社の取締役とみなされる。

3. 倫理規程の主な事項

  1. コーポレート・ガバナンス – 取締役は常に会社の業務に精通し、会社が関連法規や契約要件を遵守していることを認識していなければならない。一方、会社秘書役は、会社またはその取締役もしくは従業員によって不正が行われている、あるいは行われる可能性があると誠実かつ合理的に考えられる情報を、取締役会または適切な当局の者に開示しなければならない。
  2. 汚職防止 – 取締役は、会社がマレーシア汚職防止委員会法(MACA)2009 の第 17A 項の要件に沿った適切な手続きを確立していることを確認しなければならない。この手続きには、汚職防止規程を整備すること、汚職リスク評価を定期的に実施すること、会社の汚職防止姿勢の理解を促進するために従業員や業務関係者に適切な研修を提供することが含まれる。
  3. 利害関係者との関係 – 取締役は、継続的な研修、意識向上プログラム、強固なコミュニケーションを通じて、優れたコーポレート・ガバナンスの実践の価値を従業員が十分に理解することを確保すべきである。
  4. サステナビリティの実践 – 取締役は、意思決定(戦略立案、リスク管理、投資決定を含む)のあらゆる側面にサステナビリティへの配慮を統合し、会社がサステナビリティ戦略、目標、ターゲットを設定し、それが会社全体の戦略やビジョンと整合していることを確認することなどにより、会社の環境、社会、ガバナンス(「ESG」)に対して説明責任を負わなければならない。また、取締役は、収益性の追求を促進するために、社会的、経済的、環境的条件における持続可能性の達成に向けた会社の適切な方針とイニシアティブを採用しなければならない。
  5. 反マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT – 取締役および会社秘書役は、会社が反マネーロンダリング、反テロ資金供与および非合法活動の収益に関する法律2001(AMLA)およびガイドラインの下で規定された原則と一致する方針および手続きを採用し、会社の業務が高い倫理基準に準拠して行われるようにしなければならない。なお、貸金業者やリース事業者等には、AMLAに基づくマネロン対策(CDDや定期的なリスク評価)が義務付けられている点に注意が必要である。
  6. プロフェッショナリズム – 会社秘書は、会社を管理する関連法規、規制、手続き、規則、ガイドラインの遵守を確保するために必要な措置を講じ、関連するすべての報告およびその他の規制要件を認識していなければならない。

4.結論

倫理規程の改訂を受け、取締役と会社秘書役は、規程に規定された要件を理解することが非常に重要である。行動規範を見直し、自社に適用される要求事項を特定し、行動規範の要求事項を遵守し、潜在的な法的責任を軽減するために、社内方針や手続きを策定・実施するなど、積極的な行動を取るべきである。

マレーシアの当事務所のチームは、様々な法規制の遵守やコーポレート・ガバナンスに関するアドバイスに精通しており、お客様の日々の業務や商業上の問題についても積極的にお手伝いしています。私たちのサービスについてもっとお知りになりたい方は、お気軽にお問い合わせください。

2023年08月14日(月)11:00 AM

マレーシア個人情報保護における新しい実務指針についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

マレーシア個人情報保護における新しい実務指針~General Code of Practice~

マレーシア個人情報保護における新しい実務指針
~General Code of Practice~

2023年8月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士  橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

マレーシアでは、2010年に個人情報保護法(PDPA)が制定され、個人情報保護に関する統一規範として機能している。

その後、下位法令や規則が定められて来たところ、本稿では、そのような規則の一つである、新しく発行された一般的実務指針(General Code of Practice。以下GCOP)を取り上げる。

GCOPは、実務指針ではあるものの、法律と同様の効果があるとされており、違反した場合にはPDPA29条に基づく罰則の対象となるとされており[1]対象となる業種の企業にとっては、決して軽視することが出来ないものである点に留意が必要である。

2.GCOP制定の背景・適用される企業

 一部の個人情報使用者は[2]、個人情報の処理に先立ち、「登録情報使用者」として個人情報保護部門に登録する必要がある。現在、登録が必要な情報使用者のクラスは、通信、銀行・金融機関、保険、健康、観光・ホスピタリティ、運輸、教育、サービス(法律、監査、エンジニアリングなど)、不動産、公益事業、質屋[3]がこれに該当する。

また、以上のクラスについては、PDPAにおいて、実務指針の策定が要求されているところ、実際、特定の情報使用者クラスについては、実務指針が随時発行されている[4]。実務指針の目的は、各情報使用者のクラスに固有の状況乃至ビジネス環境に対応するための具体的な実務上の枠組みを提供することである。

しかし、PDPAの要求に関わらず、情報使用者の中には独自の実務指針を策定しないものがあった。GCOPはこの事態に対処するために構築され、2022年12月15日に発行されたものである。つまり、GCOPは、PDPAに基づき実務指針が要求されているものの、いまだ実務指針を策定していない情報使用者クラスの企業に適用されることになる。

具体的には、以下のクラスに適用されることになるとされている。

業種 詳細
通信事業 Postal Services Act 2012に基づくライセンス保有業者
健康 Private Healthcare Facilities and Services Act 1998に基づくライセンス保有業者
観光 Tourism Industry Act 1992に基づき、観光研修機関、認可ツアーバス運行業者、旅行代理店、ツアーガイドを経営または運営する者
Tourism Industry Act 1992に基づき、登録された観光宿泊施設を運営する者
教育 Private Higher Education Institutions Act 1996に基づき登録されている私立高等教育機関
Education Act 1996に基づき登録されている私立学校または私立教育機関
ダイレクト販売業 Direct Sales and Anti-Pyramid Scheme Act 1993に基づくライセンス保有者
サービス業 監査、会計、エンジニアリング、建築設計を行う会社又はパートナーシップ
Control Supplies Act 1961に基づく小売業・卸売業を行う会社又はパートナーシップ
Private Employment Agencies Act 1981に基づく人材紹介業を行う会社又はパートナーシップ
不動産 Housing Development (Control and Licensing) Act 1966に基づくライセンスを保有する住宅開発業者
Housing Development (Control and Licensing) Enactment 1978 Sabahに基づくライセンスを保有する住宅開発業者
Housing Developers (Control and Licensing) Ordinance 1993, Sarawakに基づくライセンスを保有する住宅開発業者
質屋 Pawnbrokers Act 1972に基づくライセンスを保有する質屋
貸金業 Moneylenders Act 1951に基づくライセンスを保有する貸金業者

 

GCOPには全部で12のパラグラフがあるが、ここでは、個人情報収集時の規制、個人情報保有時の規制、情報主体の権利に関する規制、そして最後にエンフォースメントに関する規制の4つに分けて説明する。

3.個人情報を収集する際の規制

 3.1. 同意取得

情報処理者が情報処理を行う前に、情報主体による同意の要件に目を向け、同意を求める際に必要な情報を提供する必要がある。

GCOPは、PDPAのメカニズムを変えるものではない。しかし、同意は情報使用者によって適切に記録され、維持されなければならないとしている[5]。当該同意はまた、情報主体が当該個人情報の収集、処理、および/または開示の目的に同意したことを最も明確に示すものでなければならない[6]

同意のための書式は、GCOPにもひな型が添付されているため、情報使用者は、これに依拠することができる[7]

また、書面同意がない場合については、情報対象者が自発的に個人情報を提供する行為[8]、記録された口頭による同意[9] など、「行為による同意」とみなされる情報主体の行為についても本GCOPが規定しているので参考となる。

3.2. 個人情報保護に関する通知

個人情報保護に関する通知については、個人情報の収集前または収集後できる限り速やかに、情報主体に提供されるべきである[10]。この点に関するGCOPの内容は、ほとんどPDPA第7条の繰り返しである。

ただし、通知書に記載すべき事項が具体的に記載されているため[11]、このような通知を作成していない情報使用者は、 GCOPが提供するテンプレート[12]を参照することができる。

また、GCOPは、通知の伝達方法(物理的なコピーの交付、電子メール、情報使用者のウェブサイトなど)[13]についてのガイダンスを提供している。なお、何が最も適切な通知方法であるかは、情報使用者自身が決定するものとされている[14]

4.情報保有時の規制

元々、個人情報保護基準2015(「2015年基準」)は、「安全性原則」、「保持原則」、「完全性原則」を満たすためのガイダンスを提供していた。GCOPは、第6項から第8項において、2015年基準をベースとし、それを若干敷衍している。

個人情報の安全性に関して、GCOPは、個人情報の性質や機密性の度合いによって、実務的な措置がケースによって異なる可能性があることに言及している[15]。このことを念頭に置いて、GCOPは、スタッフのアクセス管理について、電子情報[16]と物理的なコピー[17]の両方について、登録簿の作成、雇用の決定によるアクセスの停止、制限の設定、アクセスシステムの構築などの措置を取ることを推奨している。情報処理者が任命された場合、その情報処理者は任命された情報使用者と同様のセキュリティ基準を遵守することが求められる[18]。GCOPは廃棄制度についても規定している。すなわち、個人情報を削除または破棄する場合、その削除および/または破棄は永続的なものでなければならず、その旨記録する必要がある[19]

5.情報主体の権利に関する規則

 これは、GCOPの第9項および第10項に規定されている。情報へのアクセスや訂正の要請を21日以内[20]に対応することなどが盛り込まれている。また、GCOPはダイレクト・マーケティングに関する「オプトアウト」オプションを以下の通り改善した[21]

特に、第 10.6.4 項は、情報使用者がダイレクト・マーケティングのために情報を処理できる場合を明確にしている。ここでは、同意の取得がある場合に加え、情報主体がダイレクトマーケティング組織の身元および収集・開示の目的を知らされる場合、または情報使用者が個人情報収集時に情報主体にオプトアウトの選択肢を提供することを約束する場合などに、ダイレクト・マーケティング目的で個人情報を使用することができる[22]。これに対し、情報主体は、リクエスト・フォームによるオプトアウトが可能である[23](情報使用者は、GCOP添付のテンプレートを使用することが推奨される[24])。 

6.施行規則

これはGCOPの第11項および第12項に規定されている。

情報使用者は情報保護管理に関して社内体制を整備する義務がある。特に、内部監査体制を整備し、従業員に必要な研修を実施し、法律や規制の進展に注意を払う必要がある[25]

最後に、第12項では、個人情報保護委員会が、指定された日から2年以内に、特定クラスの情報使用者のためのCOPを作成する機関を指定する権限を与えられている。情報使用者の特定のクラスについてCOPが発行されると、GCOPは適用されなくなることに留意すべきである。

7.結論

 総じてGCOPは、従前の個人情報の在り方を大きく変更するものではないが、実践的かつ網羅的なガイダンスを提供するものであって、情報使用者はこれを真剣に受け止める必要がある。また、情報使用者に適用される規定の遵守を怠った情報使用者は犯罪を犯し、有罪判決を受 けた場合、10万リンギ以下の罰金もしくは1年以下の禁固刑、またはその両方が科される[26]

そのため、影響を受ける情報主体は、GCOPを遵守することが強く推奨されます。GCOPの遵守に関するオーダーメイドのサポートをご希望の場合、またはGCOPのトピックについてご質問がある場合は、遠慮なく弊社までご連絡ください。

 

[1] GCOP 1.2.1
[2]PDPA第14条、第15条、第16条
[3]Personal Data Protection (Class of Data Users) Order 2013の別表およびPDPA第29条
[4] 実務指針を定めたクラスとして、以下がある。
・the private hospitals of the healthcare sector;
・the utilities sector, water and electricity;
・the financial sector;
・the communications sector;
・the insurance sector; and
・the aviation sector.
[5] 3.3.1 GCOP
[6] 3.3.2 GCOP
[7] 3.3.3(a) GCOP
[8] 3.3.3(b) GCOP
[9]3.3.3(c) GCOP
[10]4.1 GCOP、セクション7(2) PDPA
[11]4.4 GCOP
[12]Appendix1 GCOP
[13] 4.6.1 GCOP
[14] 4.6.2 GCOP
[15] 6.2 GCOP
[16] 6.3 GCOP
[17] 4 GCOP
[18] 6.5 GCOP
[19] 7.4 GCOP
[20]10.2.3(c)および(d)、10.3.4 GCOP、PDPA第31条(1)および第35条(1)
[21] PDPA第43条
[22]10.6.4 GCOP
[23]当初はPDPA第43条(2)に規定されていたが、現在はGCOP第10.6.1項に規定されている。
[24] Appendix2、3、4 GCOP
[25] 11.3、11.4、11.5、11.6 GCOP
[26]1.2.1 GCOP

2023年08月14日(月)11:00 AM

マレーシア消費者信用法(案)の導入と業界に与えるインパクトについてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

マレーシア消費者信用法(案)の導入と業界に与えるインパクト

マレーシア消費者信用法(案)の導入と業界に与えるインパクト

2023年7月
One Asia Lawyers Group
弁護士(日本法)     橋本 有輝
弁護士(マレーシア法)Heng Zhen Hung

1. はじめに

2022年8月4日、そして2023年4月5日、Consumer Credit Oversight Board(消費者信用監督委員会、以下CCOB)の作業部会は、財務省、マレーシア中央銀行(BNM)及びマレーシア証券委員会(SC)の関与の元、相次いでパブリック・コンサルテーション・ペーパーを発表した。

この中で導入が提唱されているConsumer Credit Act(消費者信用法。以下、「CCA」)は、ノンバンクの消費者信用取引業者に対し、最低限の行動基準を実施し、監督と規制を強化することで、略奪的行為を抑制し、credit consumer(信用消費者)を保護することを目的とするものである。

CCAは、これまでライセンス制度の対象となってこなかった業種も含め、直接的な信用取引を行う業者にはライセンスを、信用消費者や信用取引業者に対するサービス提供者には登録を義務付けるという枠組みを予定している。また、この枠組みはCCOBが管轄し、CCOBはCCAの下で所轄官庁として機能することになっている。

2. タイムライン

2023年4月5日に発表されたパブリック・コンサルテーション・ペーパーの第2弾によると、CCAは段階的に実施されることになっている。

(1)フェーズ1(2024年~2025年)

2024年から2025年にかけて予定されているフェーズ1では、現在直接規制の対象となっていないノンバンクの消費者信用取引業者や信用サービス業者(定義は下記3)に対し、認可を申請し、CCAの規制枠内に入ることが義務付けられる。ノンバンクのリース会社やファクタリング会社、「Buy Now Pay Later」(BNPL)スキームを提供する会社などがこの段階に含まれる。

特筆すべきは、現時点でRegulatory and Supervisory Authority(規制監督機関。以下RSA)によって規制されているノンバンクの信用取引業者は、このフェーズ1の段階ではCCAの監督を求める必要はないということである。RSAには、以下が含まれる。
(a) Consumer Credit Oversight Board (“CCOB”);
(b) Bank Negara Malaysia (“BNM”);
(c) Securities Commission Malaysia (“SC”);
(d) Ministry of Domestic Trade and Cost of Living (“KPDN”);
(e) Ministry of Local Government Development (“KPKT”); 及び
(f) Malaysia Co-operative Societies Commission (“SKM”).

(2)フェーズ2(2025年~)

2025年からのフェーズ2では、現在、Ministry of Local Government Development(地方政府開発省。以下、「KPKT」)とMinistry of Domestic Trade and Cost of Living(国内貿易・生活コスト省。以下、「KPDN」)の管轄下にあるクレジット業者やサービス業者の規制権限をCCOBが引き継ぐことになるので、Moneylenders Act 1951(貸金業法)に基づき認可された貸金業者やHire Purchase法に基づく事業を行う業者はCCOBの管轄下に置かれることになる。

*ILB=Impaired Loan Buyers
**DCA=債権回収会社
***DMA=債権管理会社

3. 主な概念

CCAにおいて重要な用語は以下のように定義されている。
「credit(与信行為)」とは、その形態や名称を問わず、以下のような取決め、契約、融資のことをいう。
(a) 相手方が負債を負ったり、金銭的債務を負ったりするもの、または
(b) 相手方に販売された商品またはサービスの代金を分割払いできるようにするもの。

「credit agreement(信用取引契約)」とは、credit providerと信用消費者の間で締結されるもので、与信が提供される契約をいう。

「credit consumer(信用消費者)」
(a)個人的または家族が使用する目的のために、全体的または主として与信を受けようとする個人;
(b) 小規模企業のうち、与信を得ようとする者であり、その与信額が300,000リンギットを超えない者;
(c) CCOB が指定するその他の人物、またはそのクラス、カテゴリーの者;
(d) CCAが適用される信用取引契約に関して、(a)、(b)または(c)に基づく信用消費者に対して、保証人として行動する個人(利益を得る目的の者を除く);

「credit business(信用取引ビジネス) 」
(a) 貸金業
(b) 質屋
(c) Hire Purchase
(d) 信用販売
(e) BNPLスキーム
(f) リース
(g) ファクタリング、およびシャリーアの原則に従って行われる事業を含む

「credit service business(信用サービスビジネス)」
(a) 焦げ付いたローンまたはファイナンスの取得活動
(b) 債権回収サービス
(c) 債務に関する相談および管理サービス
(d) オンライン・クラウドレンディング・サービス
(e) 担保物等の回収にかかる活動

「credit provider(信用取引業者)」とは、信用取引ビジネスを行う者を意味する。

「credit service provider(信用サービス業者」とは、信用サービスビジネスを行う者を意味する

「controller(支配者)」とは、認可を受けた信用取引業者または登録された信用サービス業者に関して、以下を行う者を意味する

(a) 認可を受けた信用取引業者の議決権付株式に付された議決権の33%以上を行使する、またはその行使を支配する権利を有する者
(b) 認可を受けた信用取引業者または登録された信用サービス業者の取締役の過半数を任命する、または任命させる権限を有する者、又は
(c) 認可を受けた信用取引業者または登録された信用サービス業者の業務または管理に関する決定を行いまたは行わせる権限を有し、またかかる決定を実施し、または実施させる権限を有する者。

4. ガバナンス体制

CCAは、信用取引業者の認可と信用サービス業者の登録を含む二重の認可形態の導入を企図するものである。認可手続きでは、主に事業者が専門的な行動基準を守り、その事業内容が消費者に悪影響を及ぼさないことを保証できるかどうかが評価される。CCOBは、申請者の組織構造、持ち株構成、資金力、主要人員の資格や能力などの要素を考慮することとされている。

ガバナンス体制要件は、組織的要件と取締役会の責任に区分されている。

組織的要件は、例えば定義された役割を備えた体制を持つこと、効果的なリスクマネジメントのフレームワークを実装すること、組織内外の不満を管理するシステムを構築すること等からなる。

取締役会の責任は、会社の戦略的方向性、コンプライアンス、リスク管理、倫理的行動を強調するものである。例えば、取締役会は、会計、法律、テクノロジーといった背景をもったメンバーから構成されうる。このように取締役会が高い専門的水準を維持し、消費者保護を確保することに重点が置かれている。

なお、このような枠組みは、マレーシア中央銀行(BNM)がその規制対象企業に課している現行の基準を反映したものである。

5. 財務要件

CCAはさらに、信用取引業者の認可と信用サービス業者に対する包括的な財務要件を概説しており、事業者は以下の財務要件をクリアしなければならないものとされている。

*ILB=Impaired Loan Buyers
**DCA=債権回収会社
***DMA=債権管理会社

これらの要件に加え、企業はCCOBまたは関連するRSAに監査済みの財務諸表を毎年提出し、今後12ヶ月間の十分な財源を確認することが求められる。

6. 適正性及び信頼性要件

CCAは、すべての業者に対し、適性性および信頼性の要件を課すことを予定している。支配者、取締役、上級管理職などの主要人物は、その責任を効果的に、正直に、誠実に遂行する能力を証明しなければならない。

これらの個人は、パブリック・コンサルテーション・ペーパー第2弾の別表2に明記されている要件に従わなければならない。支配者または最高経営責任者の役割の変更は、事前にCCOBの書面による承認を得なければならない。

7. シャリア・ガバナンス

イスラム信用サービスを提供する事業者は、その事業活動を適切に反映した適切なシャリア契約に基づき構成されなければならない。認可を受けたイスラム信用取引業者は、シャリア・アドバイザーを任命するか、シャリア委員会を設置し、シャリア・ガバナンスに関する内部方針を策定することが期待されている。これらのプロバイダーからの質問は、BNMのシャリア諮問委員会(SAC)に提出することができる。

8. 禁止行為

CCAのもとでは、以下のような特定の営業行為が明確に禁止されている:

• 借り手を欺いたり、誤解させたりする行為。これには、商品やサービスの性質、条件、費用について虚偽または誤解を招くような情報を提供することが含まれる。

• 以下の行動:
– 故意に誤解を招く、虚偽の、または欺瞞的な声明、画像、約束を行うこと。
– 重要な事実を不当に隠したり、紛らわしく提示したりすること。

• 信用取引にかかる商品やサービスの販売促進、発行、回収の際に、借り手に対する嫌がらせ、不必要な圧力、身体的暴力の脅迫を行うこと。

• 要求されていない商品やサービスに関し、信用消費者に対して、いかなる形であれ支払いを要求すること。これには、法的手続きを開始すると脅迫することも含まれる。

9. 業者のためのその他ガイドライン

業者は、そのマーケティングにおいて誤解を招くような行為を避け、正直に商品・サービスを宣伝する責任を負う。消費者が十分な情報を得た上で意思決定できるよう、顧客との関係を通じて、商品やサービスに関する明確で正確、かつ完全な情報を提供しなければならない。

利用規約は公平性の原則に従うべきであり、顧客が異なる商品や業者間で柔軟に移行できるようにすべきである。早期解約に伴う手数料は、必要な回収コストのみを反映すべきである。手数料および金利は公正であるべきであり、過大であってはならない。

信用取引契約の締結に先立ち、業者は、パブリック・コンサルテーション・ペーパー第2弾の 14.6 項に詳述されているような、債務返済比率(DSR)計算を利用し、顧客の返済能力を確認するために、綿密なアフォーダビリティ評価を実施しなければならない。また、業者は、突発的な経済的影響に対する顧客の脆弱性を最小化するため、顧客の支出に対するバッファーを許容するDSR値に融資方針を合わせなければならない。支払い困難な事由が発生した場合、業者は、当該変化した状況を反映するように信用取引契約を調整することで、顧客をサポートすることが期待される。

10. ハイヤーパーチェスの枠組み変更

まず、従来の利息計算方法である「78の法則」は、Hire Purchase法30条及び別表6に根拠を有する利息計算方法であり、利息が前倒しされ、ローンの早期決済時に返済額が増えるという不公平な構造であるため、今般廃止される予定である(日本でいう「アドオン金利」)。この計算方法においては、名目上の金利と実質的な金利にずれが生じることも知られており、借手に誤解を与えかねない表記であると認識されている(なお、日本の割賦販売法においても実質金利表記が義務付けられています)。

その代わりに、ローン残額に基づいて利息を計算するreducing balance methodが採用される(実質金利)。この変更により、ハイヤーパーチェス業者は実質金利を前提とした固定金利と変動金利のローンのみを提供することが認められ、消費者にとってより公平でわかりやすい料金体系となる。

さらに、固定金利方式と変動金利方式の両方で、実質金利の上限が年率17%に設定される。

最後に、ハイヤーパーチェス業者は、契約前の段階、広告、ウェブサイトにおいて実質金利を開示することが義務付けられる。

11. 結論

結論として、CCAはマレーシアのクレジット業界に大きな変化をもたらすことになる。完全実施の具体的なスケジュールはまだCCOBから発表されていないが、CCAの段階的導入は、業界の規制状況の変革が間近に迫っていることを示している。

その間に、すべての信用取引業者や信用サービス業者は、CCAの下で提案されている規則や規制に備えることが賢明である。

弊所では、マレーシアで信用取引に関連する業者の皆様がCCAの要求に則した体制を構築するためのサポートを行うため、引き続き情報収集及び発信に努めてまいります。

2023年07月14日(金)4:55 PM

マレーシアにおける日本の判決の執行についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

マレーシアにおいて日本の判決を執行できるか

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

2023年7月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1. はじめに

 日本の法人であるA社は、マレーシアの法人であるB社との間で、売買契約を締結した。
同売買を定めた契約書には、同契約に関する紛争は、日本の裁判所が専属的な管轄権を持っていると規定していた。
 そこで、A社は、日本においてB社を提訴し、仮に、送達などの問題もクリアし、B社に対する勝訴判決(例えば1000万円の支払いをB社に命じる判決)を得たと仮定する。
 しかしながら、B社は、判決に従った支払いをしないため、A社は判決を用いてB社に対する強制執行を検討することにした。
 ところが、B社は、マレーシア法人であり、専らマレーシア国内において事業を行っていたため、日本には見るべき資産は何もなかった。
 さて、A社は、日本の裁判所が下した判決をもって、B社がマレーシア国内に有する資産の差し押さえなどの強制執行手続きをマレーシアにおいてとることが出来るのであろうか。
 前置きが長くなったが、これが本稿のテーマである。

2. 外国判決の執行に関する2つのルール

(1)法律に基づく外国判決の執行
 1958年判決相互執行法(Reciprocal Enforcement of Judgment Act 1958、以下「REJA」という。)の下では、その別表に記載されている国の判決を、マレーシアで強制執行できるとされている。
 しかしながら、同別表に記載された対象国は、英国、香港、シンガポール、ニュージーランド、スリランカ、インド、ブルネイに留まる。
 ここには、日本が含まれていないため、REJAに基づき、日本の裁判所が出した判決をもって執行を行うことはできない。
(2)コモン・ローに基づく外国判決の執行
 REJAに含まれない国の裁判所が出した判決を執行するには、もう一つのルートであるコモン・ローに基づく執行に依る他ない(common law action)。
 この手続きは、いわば外国判決の存在を一つの請求原因として、マレーシアにおいて新たな訴訟を提起するという手法である。
 以下、簡単に両手続きをまとめてみる。

3. REJAに基づく執行

(1)要件
 REJAに記載された国の裁判所が出した判決は、以下の要件を満たす場合、REJAに基づく強制執行が可能である[1]。
 ① 判決日から6年が経過していないこと、
 ② 判決内容が未だ充足されていない(判決が不履行である)こと、
 ③ 判決の出された国では執行が出来なかったこと、及び
 ④ 金額の明示された金銭の支払いを命じる確定判決であること。
(2)手続き
 宣誓供述書を添えてOriginating Summonsと呼ばれる書面を裁判所に提出し、当該外国判決の登録を求める。登録がなされると、当該外国判決は、マレーシア国内で出された判決と同じ取り扱いになる。
(3)被告が出しうる異議
 REJA第5条には、前の裁判での被告が上記手続きにおいて出しうる異議として以下のような事由を列挙している。これらに該当する場合、外国判決は無効となる。
 ① 元の判決をした裁判所が、判決事項につき管轄を持っていなかった、
 ② 被告は、元の裁判において出廷するための十分な機会を与えられなかった、
 ③ 元の判決が、詐欺的又は公序良俗に反する方法で取得された、又は   

4. コモン・ローに基づく執行

(1)要件
 コモン・ローに基づく執行については、制定法は存在しないが、この点につき、インドネシアの判決を取扱ったPT Sandipala Arthaputra v Muehlbauer Technologies Sdn Bhdの事例が参考となる。
 この事例では、コモン・ローに基づく執行は、以下の要件を満たす必要があるとされた。
 ① 元の判決が確定していること、
 ② 元の判決を下した裁判所が判決事項につき管轄を持っていたこと、及び
 ③ 元の判決の効力を認めるにつき、抗弁が存在しないこと。
(2)手続き
 この手続きは、通常の訴訟と同様、裁判所に外国判決の存在を一種の請求原因として、裁判所に訴訟を提起することで行われる。ただし、被告は、上記(1)の要件の存在を争うことはできるが、元の判決の基礎となった事実関係に関する反論を新たに提出できるわけではない点に特異性がある。
 また、この訴訟は、あくまで通常訴訟であるため、外国判決が存在することやその判決内容に関しても、訴訟上の証拠能力の議論が当てはまる。
 例えば、外国判決の存在については、その原本又は認証された写しが必要であるし[2]、また判決が英語以外で記載されている場合には、英語又はマレー語への翻訳も必要であり[3]、これらを欠いた場合は、請求が認められないことを結果しうる。

5. 以上、マレーシアにおける外国判決の執行に関する最新の動向について、少しでもご理解いただけたなら幸いです。上記の論点についてご質問がございましたら、お気軽にご連絡ください。また、今後のマレーシア民事訴訟シリーズでは、上訴および外国判決の執行全般についてより深く掘り下げていきますので、どうぞご期待ください。

 

[1] Section 3(3) and 4(1) REJA
[2] Section 78(1)(f) and 86 of Evidence Act 1950
[3] Penbinaan SPK Sdn Bhd v Conaire Engineering Sdn Bhd LLC [2023] 3 CLJ 677

2023年07月13日(木)12:07 PM

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

 

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

2023年7月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1. はじめに
 マレーシアの雇用の枠組みを規定する主要な法律である1955年雇用法(Act 265。以下、単に「雇用法」)が最近改正され、2023年1月1日から施行されたにもかかわらず、雇用法全体は依然として企業に有利であると認識されている。
 今般の改正により、雇用法は、従業員に対する保護や福利厚生に関してはグローバル・スタンダードに沿ったものとなったが、依然法律に残る制限は、マレーシアで事業を行う投資家にとって魅力的なビジネス環境に貢献している。
 このニュースレターでは、マレーシアが企業にとって魅力的な目的地となる具体的な要因を掘り下げていく。

2. 雇用の枠組み
(1)法律の内容
 マレーシアは、他国に比べ、雇用の枠組みを規定する法律の数が比較的限定されている点に特色がある。以前は、基本的には、1955年雇用法、1971年労使関係法、1959年労働組合法という3つの主要な法律があるだけであり、最近になってようやく、最低賃金法や最低定年法といった重要な法律が導入・施行されたにとどまる。こうした動きは、マレーシアの雇用の枠組みを改善しようとする継続的な努力を示しているといえるが、他方でマレーシアの雇用の枠組みがまだ発展途上であることも示唆している。

(2)雇用主が知っておくべき主な従業員に対する保護と福利厚生
 2023年1月1日以前は、1955年雇用法は月額賃金が2,000リンギット(日本円で約6万円)以下の低賃金労働者のみを対象としていた。改正を踏まえた現在では、賃金水準に関係なく、すべての従業員が、年次休暇、出産・育児休暇、病気休暇、最低額の超過勤務手当など、いくつかの手当を受ける権利を有する。しかし、この改正では、月給4,000リンギ以下の従業員に対してのみ、残業手当、休日・祝日出勤手当、解雇手当などの特定の手当が必須とされるなど、雇用者に有利な制限も残っている。
 前述の福利厚生に加え、マレーシアの従業員は、不当解雇に関して重要な保護を享受している。1971年労使関係法(Industrial Relations Act 1971)に従い、給与水準に関係なく、全ての従業員は正当な理由なく解雇された場合、労働裁判所に訴える権利を有する。

3. マレーシアでビジネスを行うメリット
(1)保守的な最低賃金法。
 最近の最低賃金令(Minimum Wage Order 2022)は、雇用場所に関係なく、従来の最低賃金を月額1,200リンギから1,500リンギに改定した。ただし、2023年7月1日までは一定の適用除外が認められており、従業員5人未満の小規模事業主が新最低賃金を遵守するための時間的余裕が認められている。この調整にもかかわらず、マレーシアの最低賃金は、マレーシアの一般的な経済状況を考慮すると、シンガポールのような近隣諸国と比較すると、依然として比較的低いと考えられている。
 使用者側の視点に立てば、最低賃金の低さは、特に低技能労働者への依存度が高い企業にとって、主に人件費の削減という点で企業にメリットをもたらす。さらに、雇用主は人件費を管理しながら、従業員を追加雇用したり、より多くの労働力を維持したりする柔軟性から利益を得ることができる。その結果、最低賃金の低さは全体的なコスト削減に貢献し、企業の利益率を改善する可能性がある。

(2)労働組合の動きが制限されている。
 マレーシアは経済の安定を海外からの直接投資に依存している。そのため、労働組合の設立は1959年の労働組合法によって規定されているが、他国とは異なり、ストライキなどの労働組合運動の主要かつ強力な手段は一般的に禁止されており、厳格な規約が満たされた後にのみ許可される。これはストライキが経済に悪影響を及ぼしかねないという理由によるものである。
 その結果、マレーシアの雇用主は、従業員の労働組合が社内に存在する場合でも、この禁止令の恩恵を受けることができる。

(3)差別に関する特別な法律はない
 マレーシアは、様々な人種、民族、宗教からなる多様な国民性にもかかわらず、他のいくつかの国とは異なり、マレーシアには性別、人種、性的嗜好による雇用差別を特に禁止する法律がない。最近、職場における差別撤廃と平等が提唱されているが、マレーシアの雇用主は依然として雇用慣行における裁量権を有しており、言語要件(例えば、北京語能力)のような必要と思われる特定の基準に基づいて雇用決定を行うことができ、特定の法律の侵害にさらされることはない。さらに、雇用主が従業員を募集・採用する際に多様性枠を遵守する法的義務もない。

(4)その他の要因-友好的な移民基準
 マレーシアは、専門職レベルから低スキル労働者まで、外国人を歓迎している。より多くの外国人がマレーシアでビジネスを始められるよう、入国管理基準を常に改善している。雇用ビザは短期出張には必要なく、外国人投資家がマレーシアに来て、ビジネスの実現可能性調査、ビジネス契約の締結、またはその他のビジネス目的を制限なく行うことができる。上記に加えて、マレーシアには、外国人の長期滞在を奨励する「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム」(MM2H)プログラムという既存のプログラムもある。これはマレーシア政府が2002年に導入したもので、外国人が居住、就労、引退するのに適した目的地としてマレーシアを促進することを目的としている。

4. 結論
 マレーシアの雇用法は、特にパンデミックや新たなテクノロジーによってもたらされた労働環境の変化に対応して、継続的に発展している。とはいえ、マレーシアの現在の雇用の枠組みは、従業員保護がより厳格な国に比べて、ビジネス・フレンドリーな環境を好む傾向にあることは注目に値する。

 マレーシアの当事務所のチームは、様々な雇用問題に関するアドバイスに精通しており、お客様の日々の雇用に関するお悩みを積極的にサポートいたします。当事務所のサービスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

2023年04月13日(木)2:21 PM

マレーシアにおける民事裁判についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける民事裁判(5) ~略式判決・欠席判決~

 

マレーシアにおける民事裁判(5) ~略式判決・欠席判決~

2023年4月
One Asia Lawyers Group マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

 マレーシアにおける裁判の在り方について概説している本シリーズであるが、今回は、正式裁判に至らずに裁判が終了する場合、すなわち、略式判決及び欠席判決について説明する。

 マレーシアは、英米法の司法制度を採用しているため、正式裁判に以降した場合には、厳格な手続きのもと裁判が行われることになり、これに要するリーガル・コストや解決に至るまでの期間が膨大なものとなり得る。その観点で見ても、正式裁判に至らずに紛争を解決できる略式判決(訴訟提起から4-6か月程度での解決が見込まれる)や欠席判決(訴訟提起から3か月程度での解決が見込まれる)の制度は実務的にはかなり重要である。

2.略式判決(Summary Judgment)

 裁判所規則(ROC)第14条のRule 1(1)によれば、原告は、被告が出廷した後、被告が、損害賠償請求額に関するものを除き、請求またはその一部に対して反論をしないことを根拠として、裁判所に対して被告に対する略式裁判の命令を申請することができる。つまり、略式裁判は、相手方が出廷はするものの法的な意味での反論がない場合又は反論の根拠が極めて弱い場合に迅速に判決を出すことができるようにするものである。例えば、貸金の返還請求裁判において、被告が「お金がないので返せない」とだけ主張することは、法的な意味での反論にはなっていないため、略式裁判に相応しいという判断となり得る。

 このような略式裁判は、原則として、令状(Writ)または訴状(Statement of Claim)で始まるすべての訴訟について認められている。

 逆に、事実の存否に関する主張が対立しているような場合は、証人尋問が必要と考えられ、略式判決は認められない。例えば、貸金の返還請求裁判において、被告が「お金を借りたのではなく贈与であった」とか、「お金は借りたが返した」と主張する場合である。このほか、裁判所規則では、名誉毀損、悪意のある訴追、結婚の約束違反などに関する裁判の場合、略式判決ができない旨を定めている 。また、被告が政府である場合も略式判決ができない 。

3.略式判決を申し立てる方法

 原告は、自身の案件が略式判決に適していると考える場合、以下の3つのことを確認する必要がある  。第一に被告が出廷していること、第二に訴状(statement of claim)が提出されていること、最後に略式裁判の申立てを裏付ける宣誓供述書(Affidavit)が 裁判所規則の定める要件(主に下記4のRule2(1)の要件)に合致していることである。また、この申立ては、宣誓供述書(Affidavit)を添付した申立通知書(Notice of Application)によって行われる必要がある。

 申立ての時期については特段の期限はないものの  、何ヶ月も経ってから申し立てた場合、当該遅延につき正当な理由が要求され、場合によっては裁判所の裁量で却下される可能性もある  。

4.略式裁判のための宣誓供述書に関する留意点

 略式裁判の申立てを基礎づける宣誓供述書は、原告の請求に異議を唱える実質的な反論が存在しないことを明確に述べなければならない 。申立書が提出されると、その写しは被告及び/又はその弁護士に送達されなければならない。被告は、実質的な反論があり、裁判期日が必要であることを表明することで、これに異議を唱える必要がある。

 この異議申し立ては、原告の宣誓供述書に対する反論としての供述書(Affidavit in Reply)を通じて行われる。

 ここでは、被告が単なる否定をするだけでは足りず、原告の主張を否定するような関連する事実(単なる否認ではなく、積極的な事実の主張)が述べられる必要がある 。また、相殺や反訴が反論とみなされることもある (反訴が原告の本来の請求とどの程度関連しているかによる)。被告によって反論の供述書が提出されると、原告は反論する機会を得て、通常、当事者は宣誓供述書の提出はこれで終了となる。

 上記の後、審問が行われ、原告が、被告が請求に対抗する実質的な反論を持たないことを証明できれば、略式判決が下され、事件はそこで終了する。しかし、案件が正式裁判にかけられるべきであると判断された場合、裁判官は申立てを却下する。

5.欠席判決とは

 以上は、被告があくまで出廷をしたうえで、効果的な反論を持たない場合の説明であったが、被告が出廷すらしない場合に登場するのが、欠席判決である。

本シリーズの(2)で説明した通り、WritとStatement of Claimの送達を受けた被告は、Order12のRule4では、出廷は訴状が送達された日から14日以内に行わなければならないと定めている。この期限を徒過した場合、欠席判決がなされる。

 ただし、欠席判決は、予定損害賠償額の請求であれば終局判決となるが、それ以外の損害賠償請求の場合や不動産の明渡しを求める訴訟の場合は、裁判所が損害額を評価する等のための中間判決になる。また、被告が政府である場合は、欠席判決はなされない。

6.欠席判決の手続き

 上記の14日間が経過すると、原告は欠席判決を要求することができる。欠席判決が認められるためには、原告は、第一に令状の送達が適切に行われたこと  、第二に送達を証明する宣誓供述書があること  、不出頭証明書(Certificate of Non-Appearance)があることを示す必要がある 。

すべての書類が提出されると、欠席判決が原告に渡される 。

 とはいえ、何らかのやむを得ない事情により、被告が出廷できなかった場合もあり得るところである。Order 42 のRule 13では、欠席判決が被告に送達された日から30日間、被告が欠席判決の無効化を申立てるための猶予期間が認められている。この無効化を行うには、被告からの宣誓供述書を添付した申請通知が必要である 。ただし、この無効化が認められるか否かは、裁判所の完全な裁量に委ねられている 。 したがって、訴状が送られてきた場合には、早急に対応を検討する必要があると言える。

7.欠席判決の種類

(1)予定された損害賠償の請求のみを行う場合:この場合の欠席判決は、終局判断となる(Order 13 Rule 1)。

(2)予定された損害賠償の請求以外の損害賠償を行う場合、動産・不動産の返還請求を行う場合:これらの場合の欠席判決は、損害の存否のみに関する中間判決となり、損害の査定等の審理を続けることになる(Order 13 Rule 2-4)。

(3)それ以外の請求の場合:この場合中間判決は出ず、その代わり被告が出席したと見做されたうえで審理が続行する。

8.まとめ

 上記についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

2023年04月13日(木)8:39 AM

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応について

 

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応について

2023年4月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1.対応を要する不祥事

 日本に本社を置く会社が東南アジア等の国外に子会社を持つ場合の典型的な相談事項が、子会社従業員による不祥事・不正行為対応である。

 マレーシアの法律は、従業員による不正行為に相当するものを明示的には解釈していない。ただし、Employment Act 1955(以下「雇用法」)の第14条1項では、正当な調査(due inquiry)が行われた後、その行為が従業員の明示的または黙示的な労働条件と矛盾する場合、当該行為が解雇の理由となり得ることが示されている。

 さらに、実際には、会社の方針に反し、一般的に雇用者の経営、評判、資産に害や損害を与える様々な行為や振る舞いがあり得るため、不正行為と呼べるものの範囲はより広くなる。無断欠勤、遅刻、会社の財産の不正使用といった軽微な不正行為から、暴力、セクハラ、賄賂、詐欺といった重大な不正行為まで、いずれも懲戒処分の対象となる。本項では、広く懲戒処分の対象となり得る行為を不正行為と呼ぶこととする。

 しかし、この点、法律は一般的に従業員の権利を保護する方向にあるため、雇用主は、上記のように、正当な調査プロセスが実施された後でなければ、懲戒処分を行うことができない。この正当な調査が何を意味するかについては雇用法では定義されていないが、マレーシアでは、上記雇用法14条1項に則した一連の対応を社内調査(domestic inquiry session)と呼ぶことが多い。

 そこで、本稿では、社内調査の法的要件と、どのような社内調査を行う必要があるのかについて解説する。

2.社内調査

(1)社内調査とは?

 社内調査とは、雇用主が従業員の不正行為を調査するために使用する法的手続きである。マレーシアの法令では、社内調査を行うための指針は示されていないため、社内調査の妥当性や公平性は、判例に基づくルールに基づいて評価されることになる。

 社内調査の目的は、告発された従業員に対し、疑惑に対する弁明する機会を提供し、雇用主が取る懲戒処分が公正かつ合理的であることを確認することである。

また、このプロセスでは、証拠の収集、証人や告発された従業員との面接の実施および会社が行った調査の結果に基づいて決定を下すことになる。

 このプロセスは、内部的に行われるものであるため、調査は、より高いランクの会社代表者、または公平で独立した、告発された従業員や不祥事に直接または間接的に関連するいかなる要素も持っていないとみなされる任意の個人を含むパネルによって内部的に行われなければならない。

(2)法的要求事項

 Industrial Relations Act 1967(労使関係法)20条1項は、雇用主から正当な理由なく解雇されたと考える従業員は、みなし解雇を主張し、マレーシアの人的資源省に対して、元の職場に復職するよう文書で申し入れることができるとしている。

 従って、社内調査は、雇用主が従業員に対して懲戒処分を行う正当な理由を立証するための重要な要素であり、この立証に成功して初めて懲戒処分は法律上合法とみなされる可能性が見いだせる。しかし、雇用主が社内調査としての適切な手続きを踏まなかった場合、従業員は懲戒処分に異議を唱え、当該手続き後に雇用が終了した場合には正当な理由のない解雇があったことを主張する根拠を持つことにつながる。

(3)推奨されるプロセス

 マレーシアの判例に基づき、有効かつ公正な社内調査のプロセスは、以下のステップを含むべきであるとされている:

 ①審尋の通知:対象従業員には、審尋の日時、場所、および調査対象時効を含む事前の書面通知を行う必要がある。

 ②調査パネル(以下、日本語の語感に合わせて「調査委員会」という)の選定:通常、上級従業員または中立的な第三者である調査委員会が、調査を実施するために選択されるべきであるとされている。調査委員会は、公平であるべきであり、調査結果に個人的な利害関係を持つべきではない。

 ③証拠収集:調査委員会は、従業員、目撃者、関連する文書や記録など、すべての関連当事者から証拠を収集する必要がある。

 ④ヒアリングを実施する:従業員には、呼び出したい証拠や証人を含め、自分のケースを説明する機会が与えられる必要がある。また、調査委員会は、雇用主が自らの立場を支持するために他の事例を提示したり、証人を呼んだりすることを認めるべきである。

 ⑤決定:調査委員会は、調査中に提示された証拠に基づき、決定を下すべきである。決定は、決定の理由とともに書面で従業員と雇用者の双方に通知されるべきである。

 ⑥不服申立て:従業員が決定に満足しない場合、決定に異議を申し立てる権利が与えられるべきである。産業裁判所に提訴された場合、その決定が不合理なものであったり、上記のステップを踏んでおらず社内での調査が不当または無効となることにつながるものでない限り、一般的に裁判所は会社の方針に基づいて行われた決定に干渉することはない。

 上記とは別に、社内調査のプロセスは、聴取される権利、申し立てについて知らされる権利、公正かつ公平な審理を受ける権利など、自然正義の原則に従って行われるべきであることに留意する必要がある。

3.雇用主の取るべき対応

(1)事前対応:会社における枠組みの整備及び実施

 雇用主は、不正行為の種類、懲戒手続き、取られる可能性のある措置について明確に記載した規程(多くはHandbookであろう。例えば、Seriousな不正行為と軽微なそれを区別して記載したうえ、その後の社内調査の在り方にも濃淡を設けるといった工夫があり得る)を予め備えた上、これを実施することが推奨される

 企業内に明確で包括的な枠組みがあれば、雇用者と被雇用者の双方が雇用関係における権利と責任について明確に理解することができ、また、規程の意味・解釈をめぐる誤解やそれに伴う法的問題のリスクを軽減することにもつながる。

(2)事後対応:雇用法に関する専門家への相談

 いざ不正行為が発覚した場合、企業は、社内調査のプロセスについて弁護士に相談することが推奨される。社内調査のプロセスは複雑で、法的な問題を含んでいる可能性がある。弁護士は、関連する法令及び会社の規程を遵守しながら、公正で有効な調査を行う方法について貴重なガイダンスを提供することが可能である。

 弁護士は、雇用主が社内調査プロセスにおける法的義務を理解し、社内調査プロセスが会社の雇用方針および手続き、ならびに適用される法律または雇用契約または契約と一致する方法で実施されるように支援することができる。

4.結論

 従業員は、企業にとって貴重な資産です。事業戦略を実行し、目標を達成し、成長を促進する責任を負う、組織の基幹となる存在です。従業員は、さまざまなスキル、知識、経験を職場にもたらし、その貢献は企業の成功に不可欠です。

 しかし、従業員が不祥事を起こした場合、会社の評判を下げたり、会社に損失を与えたり、法的責任を負わせたりする可能性があります。そのため、雇用主が懲戒問題をどのように管理するかという枠組みを含む強力なコンプライアンスの枠組みを持つことは、雇用主が雇用問題をより効果的に、よりリスクなく管理するのに役立ちます。

 当事務所は、雇用主の事業内容に応じた雇用形態の構築、包括的な雇用条件を含む雇用契約書の作成から、合法的かつ有効な社内照会手続きのアドバイスに至るまで、雇用関連事項のアドバイスに豊富な経験を有しています。私たちのサービスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

2023年03月13日(月)5:10 PM

マレーシアにおける調停手続き についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける調停手続き

 

マレーシアにおける調停手続き

2023年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1.はじめに

 今回は、マレーシアにおける調停を紹介する。

 日本で「調停」と聞くと離婚や相続といったイメージを持つかもしれないが、マレーシアでは、調停は、裁判外紛争解決手続(ADR)の一つとして知られている枠組みであり、未払いの金員に関する紛争の解決にも積極的に利用されている。

 この記事では、調停による債務整理の流れ、準拠法、スケジュールの目安、それにかかる費用について紹介する。

2.マレーシアにおける調停法 

(1)調停とは何か?

 Mediation Act 2012(以下、2012年調停法)の第3条は、「調停」を定義しており、「調停者が当事者間のコミュニケーションと交渉を促進し、当事者が紛争に関する合意に達するのを支援する任意のプロセス」を意味するものとされている。中立的な立場で、訓練を受けた、紛争の主題に関する専門家の支援を受けながら、当事者は調停者を通じて問題を話し合うことができる。債権債務に関する調停であれば、当事者は、実際の財務状況等に基づいて、和解を実行するための最善の方法について話し合うことができる。

 また、調停は当事者の申立てに基づいて開始することが一般的ではあるが、裁判所の勧告に基づき実施される場合もある。当事者が訴訟手続を開始しているにもかかわらず、裁判所は、調停によって問題を解決できると判断した場合、調停によって解決するよう当事者に勧告します。このようなプロセスをCourt Facilitated Mediationと呼ぶ。この点は、日本でも同様の訴訟指揮がなされることがあるので似ていると言える。

(2)調停に関する法律について

 マレーシアにおける調停のプロセスを規定する主要な法律は、Mediation Act 2019(以下2019年調停法)である。以下、主要な条項を概観する。

 ・第5条(調停の開始要件):人は、紛争がある相手方に対して、紛争事項を明記した調停に関する招待状(a written invitation)を送付することによってのみ、調停手続を開始することができると規定されている。その後、受取人が当該招待状に対して、問題を解決するために調停を使用することに同意した時点で、調停手続が開始されたとみなされる。

 ・第6条(調停合意の必要性):調停に参加する当事者は、調停に問題を提出する合意、調停者の任命、当事者が負担する費用、および当事者が適切と考えるその他の条件を含む、書面による調停合意を締結しなければならない。

 ・第7条(調停委員の資格):調停委員を任命するための要件として、関連する資格、調停に関する特別な知識または経験を有すること、調停センターの規則を満たす必要がある。

 ・第11条(調停の方法):調停の実施について規定されており、調停は、当事者が一緒に、または別々に、非公開で実施されなければならない。さらに、当事者は、調停者の同意を得た上で、当事者を支援するために、当事者以外の者を選んで参加することができる。

(3)メディエーション・センター

 日本と異なり、マレーシアでは、当事者間の合意がない限り、調停を行うために従うべき特定の規則が存在せず、メディエーション・センター(Mediation center)と呼ばれる機関が独自にルールを定めている。当事者が特定のメディエーション・センターで調停を行うことに合意した場合、そのメディエーション・センターのルールに従うことになる。

 メディエーション・センターは、AIAC調停規則(AIAC Mediation Rule)を使用するアジア国際仲裁センター(AIAC)と、独自の規則を使用するマレーシア調停センター(MMC)が知られている。MMCは、マレーシアの首都クアラルンプールにあるマレーシア弁護士会の後援のもとに設立された機関である。MMCは、国内だけでなく国際的なレベルの紛争を解決するための調停サービスを提供しています。MMCの定める調停に関する主要な規定は以下の通りである。

 ・調停人の選任 – 2012年調停法に加え、MMCで行われる調停は、MMCの定める規則、倫理規定(「MMC規則」)に従わなければならない。MMCルールに基づき、MMCは、パネル上の調停者のリストを転送し、当事者が7日以内にMMCのパネル上の調停者に合意しなかった場合、MMCは、MMCのパネル上の者を調停者として任命するものとします。

 ・守秘義務 – 開示された情報および表明された見解を含む、調停で行われたすべてのコミュニケーションは、他の手続きにおいて議論の根拠として使用されないものとされている。例えば、債権者と債務者の間で行われる調停手続きにおいて、債務者がある未払い金の存在を認めたという事実があったとしても、債権者は、訴訟において、「債務者はこの債務については認めていた」と主張することは許されないということになる。こうすることで、調停における双方の忌憚のない意見交換を促進することを企図している。

 ・記録化されない‐速記録、議事録等の視聴覚記録は行われない。

 ・調停人の費用 – MMCが随時定めるものであり、当事者が別途合意しない限り、当事者が等しく負担するものとされている。

3.調停のプロセスフロー

 調停がどのように行われるかをさらに理解するために、調停手続きのステップを以下に示した。とはいえ、後記4に記載する通り、仲裁等と比べても手続きのルールは大まかなものに留まる。

 ・ステップ1当事者が調停に参加することに同意する。裁判所が仲介する調停では、調停に同意するための同意書を記入する。

 ・ステップ2協議プロセスは柔軟で、通常、調停委員のオープニングステートメント(調停の手続き、調停委員の立場、その他上記ルール等の説明)で始まり、各当事者は自分の意見を表明し、その後、各当事者が意図する和解条件を交換するために、個別に協議する。

 ・ステップ3調停委員は、各当事者による和解条件を検討し、各当事者の利益を収容するためのアイデアや提案を策定する。調停委員は、合意が得られるまで、両当事者に別々にアイデアや提案を行ったり来たりする方法を用いる。

 ・ステップ4協議の後、当事者が合意に達したら、調停委員はセッションの最後に要約を書き、両当事者に署名してもらう。これによって、和解合意がなされ、法的にも有効となる。もし、当事者が円満にて相互の合意に達しない場合は、調停委員は、当事者が別の調停期日に進んで話し合うか否かの確認を行う。

 4.調停と仲裁の違いについて

 以下では、調停と仲裁の違いについて言及する。

 命令の発行がない仲裁とは対照的に、調停委員が命令を発行することはない。その代わり、調停委員の役割は、当事者が和解に至るのを支援することのみである。仲裁の場合、命令が出され、裁判所の決定が認められたかのように当事者を拘束することになる。

 調停委員には決定権がない調停の結果を決定する権限は当事者にあるため、調停委員には決定を下す権限がない。仲裁では、仲裁人は当事者の同意がなくても決定を下す権限を持つのと対照的である。

 インフォーマルなセッション調停はあまり正式ではなく、より柔軟な設定で議論を行うものである。当事者が同じ目的、すなわち和解に達することを目的としているため、より友好的なものとなることが予定されている。仲裁は、正式な手続きであるため、仲裁人は仲裁を規律する特定のルールを指定する必要がある。

5.結論

 以上見てきた通り、当事者は、調停の助けを借りて、債権債務の問題を解決するための最良の実用的な解決方法を議論することができる。調停委員は両当事者にとって公平な提案をするよう訓練されているため、当事者は、自らのアイデアのみならず、高度な訓練を受けた調停委員を通して、アイデアや提案を検討することができる。また、柔軟性があり、手配が簡単で、すぐに結論を出すことができるなどの利点もあり、調停はより好ましいものとなっている。

 以上が、マレーシアにおける紛争解決の選択肢の検討の一助になれば幸いです。

2023年02月14日(火)1:43 PM

マレーシアにおける仲裁についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける仲裁 – アジア国際仲裁センター(AIAC)-

 

マレーシアにおける仲裁
アジア国際仲裁センター(AIAC

2023年2月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士Najad Zulkipli

1.はじめに

 国際的な紛争解決手法として確立した地位を得つつある 仲裁は、マレーシアにおいても確立された紛争解決手段の一つである。

 アジア国際仲裁センター(以下AIAC)は、マレーシアにおける国立の仲裁センターであり、国内および国際を問わず紛争を解決するための仲裁手段を提供している。特に、仲裁判断は様々な国で執行可能であることから、マレーシアの外国人投資家にとって、契約上の権利を保護するために紛争解決メカニズムとして仲裁を定める必要性がかなり大きいと言える。

 この記事では、AIACを通じた紛争解決のプロセス、準拠法、スケジュール、費用などについて説明する。

2.仲裁法

(1)仲裁とは何か

 仲裁は、当事者双方によって又は各当事者から指名された仲裁人によって紛争を解決するものであり、当事者が仲裁を紛争解決方法として合意した場合に初めて利用可能なものである。

 この点、訴訟については、当事者が紛争解決方法としてこれを合意しなくても利用可能なこととは対照的である。

 仲裁は、このように両当事者が仲裁によって紛争を解決することに相互に合意する、私的なプロセスとして特徴付けられる。

(2)仲裁と訴訟の比較、メリット

 仲裁は、訴訟とは大きく異なる特徴を持っており、ここにそれを整理した。

 ア 柔軟性

   まず、仲裁は、以下の点を当事者の合意によって自由に決定することが出来るという、訴訟にはない柔軟性を有する。

  ① 誰を仲裁人とするか

    訴訟:判断を行う裁判官を選べないため、紛争に関する専門知識を有さない裁判官が判断を行う場合があり得る。

    仲裁:当事者が、誰を仲裁人とするか選択することが出来る。

       なお、当事者が誰を仲裁人とするか合意しなかった場合はAIACのルール

  ② 仲裁人の数

    訴訟:裁判官の数は、法令によって決定される。

    仲裁:仲裁人は、1人でも良いし、2人以上の複数でも良いが、これも当事者が決定できる。

  ③ 使用言語

    訴訟:訴訟では、英語及びマレー語の両方が使用されることがまま見受けられるが、いずれにせよ裁判官の裁量に委ねられている。

    仲裁:当事者が自由に決定できる。

  ④ 手続のルール

    訴訟:ルールは法令によって決まっている。

    仲裁:当事者が選択できる。

  ⑤ 仲裁地

    訴訟:管轄裁判所は法令によって決まっている。

    仲裁:例えば、AIACを仲裁機関と定めながら、東京を仲裁地として定めるということも可能である。

       なお、何も定めなければAIACの規則(Rule7)に従い、Kuala Lumpurが仲裁地となる。

 イ 機密性

   訴訟:マレーシアの訴訟は、日本と同様、公開の法廷にて審理されることになる。また、裁判所の行った判断を示す判決は、オンラインにて公開される(e-filing system (EFS))。

   仲裁:AIAC規則のRule16は、当事者及び仲裁人のみならず、これに関与した専門家や証人までも、仲裁に関する事項を秘匿することを要求している。したがって、仲裁手続きの内容のみならず、仲裁手続きが進行していることそれ自体や、判断内容を公に開示しないで紛争解決を図ることが出来る。

 ウ 終局性

   訴訟:マレーシアの訴訟も基本的には日本同様、三審制を採用しているため、第一審の判断に不服のある当事者は控訴審に不服申立てをすることが出来、さらに控訴審の判断に不服がある場合は、上告審に不服申立てをすることが出来る。

   仲裁:仲裁判断は、例外的な事情がない限り、終局的なものであり、執行可能である。AIAC規則が採用されている場合、「当事者は仲裁判断を直ちに実行し、裁判所に不服申し立てをする権利を放棄するものとし、仲裁判断は、終局的かつ執行可能なものである」と規定されている(Rule12(10))。

 エ 執行

   訴訟:マレーシアにおける外国判決の執行については、シンガポール等のごく限られた国の判決のみ執行可能であり、日本、アメリカ、イギリス、中国等の判決を執行することは出来ない。

   仲裁:仲裁判断は、High Courtで承認を受けることで、判決と同様、これをもって強制執行が可能となる。

  さらに、マレーシアは、New York Conventionに加盟しているため、マレーシアでなされた仲裁判断を日本を含む同条約加盟国で執行することも、同条約加盟国でなされた仲裁判断をマレーシアで執行することもいずれも可能である。

  以上からすると、執行先が日本等マレーシア国外となり得る場合には、訴訟ではなく仲裁を紛争解決機関として指定すべきということになる。

3.AIACの役割 – 手続き、時間、費用について

(1) AIACとは?

 アジア国際仲裁センター(以下AIAC)は、以前はクアラルンプール地域仲裁センター(Kuala Lumpur Regional Centre for Arbitration)として知られていたマレーシアの主要な仲裁センターである。AIACは、2013年に改訂されたUNCITRAL仲裁規則[1] を世界で初めて採用し、「AIAC仲裁規則」として知られる仲裁手続の開始から終了までの全行程を規定する独自の手続規則を持っている。なお、マレーシアにはAIAC以外にも、マレーシア建築家協会(MIA)、マレーシア仲裁人協会(MiArb)といったセンターがある。

(2) AIAC仲裁規則 

 AIACは上記の通りAIAC仲裁規則を定めており、当事者は、国内または国際レベルでの紛争を解決するために、AIAC仲裁規則の一部または全部を仲裁に適用されるルールとして合意することができる。

(3) AIACの役割

 AIACの役割は、国内および国際仲裁の実施に中立的で独立した場を提供すること以外に、AIACのディレクターが当事者または当事者が合意した任命権者によって任命された仲裁人の任命を確認する仲裁人の任命にも及ぶ。当事者または当事者が合意した任命権者が仲裁人を任命するという当事者間の合意は、仲裁人を指名するという合意として扱われ、仲裁人を任命するという合意とはみなされない。

(4) 仲裁手続き、所要時間

 AIAC仲裁規則のもとでは、仲裁判断が出るまでの決まった期間は存在しない。しかし、以下に述べる通り、仲裁が効率的に進行することを保証する一定のメカニズムが存在する。

 例えば、AIAC仲裁規則のRule 6では、仲裁廷は適切と思われる方法で問題を処理する権限を与えられており、各当事者が弁論を行うために利用できる時間を制限することもできる。また、Rule 12は、仲裁廷に、最終の口頭による提出物または書面による陳述の提出日から3ヶ月以内に最終判断を下すことが義務付けている。この期間については、延長も認められてはいるものの、これはAIACのディレクターの承認が条件となっている。また、Part 2 のRule 25は、書面による陳述(請求の範囲および答弁の陳述を含む)のために仲裁廷が定めうる期間につき45日を超えてはならない、としている。

 そのため、当事者が仲裁人の指名・任命に合意するまでの時間を除けば、概ね4~5ヶ月で全ての手続が終了すると見積もることが可能である。

(5) 費用について

 (i) 登録料 – 申立人は、登録料として、国際案件の場合は00、国内案件の場合はRM1,500.00を支払う 必要がある(返金不可)。

 (ii) 仲裁費用及び管理費用 – 紛争の金額に応じて従価ベースで計算される。手数料を決定するための尺度は、AIAC仲裁規則の別表1パートIIIに記載されている(添付参照[2])。

4.結論

 契約交渉、特にクロスボーダー・ビジネス、当事者の出身地、適用される裁判管轄に関わる取引において、紛争解決のための適切なメカニズムや裁判地を慎重に導入することが不可欠です。多くの紛争は訴訟によって解決されるかもしれませんが、契約の技術的な問題や商業的な考慮事項など、仲裁を紛争解決のためのより良い代替案とする要因は数多くあります。

 契約書の交渉・作成はもちろん、仲裁を含む効果的な紛争解決メカニズムのアドバイスや契約書への盛り込みも行います。このトピックに関する詳細な情報が必要な場合は、弊社までお問い合わせください。

 

[1] https://admin.aiac.world/uploads/ckupload/ckupload_20210801103608_18.pdf

[2] https://admin.aiac.world/uploads/ckupload/ckupload_20210801103608_18.pdf

 

2022年12月14日(水)8:01 AM

マレーシアにおける民事裁判:訴訟前の資産凍結についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける民事裁判(3) ~訴訟前の資産凍結~

 

マレーシアにおける民事裁判(
訴訟前の資産凍結

2022年12月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

マレーシアの訴訟を概説する本シリーズでは、前回、訴訟の開始について概観した。

今回は、訴訟前に相手方当事者の資産を凍結する制度であるMareva injunction(マリーバ・インジャンクション日本の仮差押えに相当するもの)について、説明を試みる。

2.マリーバ・インジャンクションとは?

マリーバ・インジャンクション(以下、「資産凍結命令」)は、Mareva Compania Naviera SA v International Bulkcarriers SA[1] という判例に由来したもので、被告が関与している事件の判決が出るまで、被告財産の処分を禁止する仮の命令である。この命令は「原告の係争中の請求に対応するために必要な場合」に出され得るものであり[2] 、つまり、資産凍結命令は、原告による申立てがなされていない場合であっても実施される可能性がある。 この命令は、Civil Procedure Rules 1997(民事訴訟規則)で”freezing order”とも呼ばれており、両者は同じように使われることが少なくない。

 3.資産凍結命令の手続き[3]

申請は、宣誓供述書を添付した申請通知書によって行う。この申請は、被告に通知することなく、また被告を法廷に出席させることなく行われるのが一般的で、ex-parte application(「一方的な申請」という意味)とも呼ばれている。緊急性が高い場合、原告は実際の訴訟を提起する前に申請を行うことも可能であり、この点は日本の仮差押えと同じである。

この申請をサポートする宣誓供述書は、以下の点などを含む必要がある[4]

・請求の原因となる事実
・仮処分申請の原因となる事実
・一方的な申請を正当化するために依拠すべき事実(相手方への通知の詳細、通知が行われていない場合は通知を行わなかった理由を含む)
・請求または申請に対する相手方の回答(または相手方が主張する可能性のあるもの)など

4.資産凍結命令認容のための検討される事項

裁判所が何を考慮するかについては、以下の判例法を参照する。すなわち、Bank Bumiputra v Lorrain Osman[5] では、原告は次の 3 点を示さなければならないとされた。① 請求に理由のあること(Good Arguable Case)、②被告が管轄内に資産を有するという証拠、③判決が出る前に被告によって資産が処分される可能性があること、である[6]

また、日本の仮差押えと同様、本訴において原告が敗訴した場合における被告の損害賠償請求権の担保として、一定の担保金を裁判所に納めるよう要求される場合がある[7]

5.資産凍結命令の取得後の流れ

資産凍結命令が出されると、命令の日から 7 日以内に当事者に送達されなければならず、裁判所は命令の日から 14 日以内に当事者が出席の上(つまり、原告と被告の両方が出席して)申請を審理する日を決めなければならない[8]。 つまり、資産凍結命令は、原則 21 日間有効である[9] 。そのうえ、上記審理を踏まえて裁判所はこの凍結の期間の延長又は取消を決定することになる。なお、上記21 日以内に審理期日の指定がされない場合、新たな凍結命令の申請する必要がある[10]

以上の通り、一旦申請者の申請のみに基づいて決定された資産凍結命令は暫定的なものという扱いである。これは、被告の資産を自由に移動・処分する権利を著しく侵害するものであるため、凍結命令に対して被告側から異議を申し立てる機会を与えるためである。

また、訴訟の提起前に申請が行われた場合は、命令が下されてから 2 日以内(又は裁判所が適切と考える期間) に訴訟を提起しなければならない[11]

6.結論

以上が資産凍結命令の概要となります。しかし、凍結命令には様々なパターンがあり、その都度原告のニーズも異なります。今回ご紹介した内容をさらに詳しくお知りになりたい場合は、お気軽に弊社までお問い合わせください。次回は、他の形式の凍結命令及び仮処分申請についてご紹介します。

[1] [1980] 1 all er 213

[2]  S & F International Limited v Trans-Con Engineering Sdn Bhd [1985] 2 CLJ 228

[3] 詳細は、Rules of Court 2012が規定する。

[4] Order 29 Rule 1(2A), Rules of Court 2012

[5] [1985] 2 MLJ 236

[6] Beyond Hallmark Sdn Bhd v Leong Tuck Onn Wong Swee Min [2017] MLJU 1315

[7] Keet Gerald Francis Noel John v Mohd Noor @ Harun Abdullah and Others [1995] 1 CLJ 293  

[8] Order 29 Rule 1(2BA), Rules of Court 2012

[9] Order 29 Rule 1(2B), Rules of Court 2012

[10] RIH Services (M) v Tanjung Tuan Hotel [2002] 3 MLJ 1

[11]  Order 29 Rule 1(3)(b), Rules of Court 2012

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