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2022年01月06日(木)12:04 PM

マレーシアにおける雇用法の改正案についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

2021年雇用法法案- 1955年マレーシア雇用法の改正案

 

2021年雇用法法案– 1955年マレーシア雇用法の改正案

2022年1月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  ナジャッド・ズルキプリ

1.はじめに

 Employment Act 1955(以下「雇用法」という)を改正する法案である Employment Bill 2021(以下、「本法案」という)は2021年10月25日にマレーシア議会に上程された。本法案は現在2回目の審議中で、法律として承認され施行される前に議会の手続きを踏むこととなる。

 本法案は以下に要約する通り雇用法に様々な改正を行うことを目指すものである。これらの改正案は国際労働機関(International Labour Organisation)から要求される基準に従おうとするものとされている。

 全ての雇用主は、これらの改正案を認識し、これが施行された際には従業員に関連する社内規定、契約及びガイドラインを改正する等して同法律を遵守する必要がある。

2.本法案の主要な改正点

(a) 国人労働者の雇用

 雇用法第60K条にかかるこの改正案は、外国人労働者を雇用しようとする雇用主は、申請書を労働局長官(Director General of Labour)から事前の承認を得ることが必要となる。従来は、雇用主が雇用主により外国人労働者の詳細について同局長に通知することだけが求められていたことから、外国人の雇用を厳格化するものである。

 また、雇用主の申請は以下を含む特定の条件を満たす必要がある。

 ・雇用法により基づく決定、命令もしくは指示に関連し未解決の事項がないこと;
 ・雇用法、1969年従業員社会保障法(SOCSO法)、労働者住宅最低基準法、1990年宿泊およびアメニティ最低基準法もしくは2011年国家賃金評議会法に違反する犯罪関する未解決事項乃至事案がないこと; 又は
 ・雇用主が人身売買防止および強制労働に関連する犯罪に対する有罪判決を受けたことがないこと。

 上記条項に違反した場合、有罪判決を受け、雇用主はRM100,000.00以下の罰金もしくは5年以下の禁錮、またはその両方の責任を負うことが提案されている。

(b) 妊婦保護および男性従業員への育児休暇の導入

 (i) 妊娠中の従業員の産休及び解雇

 本法案では、60日間の出産休暇を90日間の出産休暇に置き換える修正が提案されている。さらに、故意による雇用契約違反、不正行為もしくは事業閉鎖の場合を除いて、雇用主が妊娠中の従業員を解雇することは、雇用法違反となる旨の提案がなされている。現行法では、妊娠中の従業員の解雇の禁止は、雇用主による事業の閉鎖の場合にのみ除外されていますので、これら改正は女性従業員の保護を図ろうとするものである。

 (ii) 育児休暇の導入

 その他にも、男性従業員に対する育児休暇の導入が提案されている。男性従業員は、12ヶ月以上雇用され、かつ、その出産予定日を雇用主に30日以上前に通知した場合は、3日間の有給休暇を取得することができる権利を得るというものである。この改正案は従業員に最も肯定的に受け入れられるであろう改正案である。

 (iii) 第44A条の削除 – RM2,000以上の賃金の女性従業員の除外

 上記の通り、従業員にとっては肯定的な改正がある一方で、本法案は雇用法から第44A条を削除することを提案していることも重要である。現行雇用法の第44A条は、第XI章で提供されている産休等の妊婦保護の規定は、賃金額に関わらず全ての女性従業員に適用されると規定している。もしこの部分の改正がそのまま可決された場合には、妊婦保護の規定が適用される範囲は、月額RM2,000.00未満の女性従業員に限られることになる。

(c) セクシャル・ハラスメントに関する通知の掲示義務及び罰則の強化

 本法案は雇用主にセクシャル・ハラスメントの認識を高めるための通知を、雇用場所に目立つように掲示する新たな条項を提案するものである。さらに、本条項に関し、第81F条にて雇用主がセクシャル・ハラスメントの苦情に対し調査を怠った場合に対する罰則をRM10,000.00からRM50,000.00に引き上げる提案がされている。

(d) 一週間の最大就労時間の削減と病気休暇の条項の改訂

 一週間の最大就労時間が最大48時間から45時間へと短縮するよう提案されている。また病気休暇については、病気休暇の総数を規定している現行の第61F条にて、病気休暇の日数には入院日数60日を含むと規定されているが、これを削除することが提案されている。本条項の削除によって、従業員は通常の病気休暇から差し引くことなく60日間の入院休暇を利用できるようになる。

(e) 軟な就労形態

 本法案では従業員が雇用主に申請可能な柔軟な就労形態について導入されている。この申請において、従業員は、雇用に関する就労時間、就労日数もしくは勤務地の変更を申し出ることが出来る。当該申請を受領した雇用主は、承認もしくは却下することができるが、雇用主は却下した理由を書面で従業員に通知しなければならない。

 この改正は、多くの雇用主が、COVID-19の感染爆発を原因とする政府による移動制限令(MCO)の発令のために導入してきた柔軟な就労形態の発展に依拠して導入されようとしている。この改正はこの点を捉えたものであり、これが可決された場合、マレーシアの最先端技術に則した就労文化の向上に確実につながることと期待されている。

3.その他の改正

 上記の他にも様々な改正点が本法案にて提案されている。これらはひと月に満たない月の賃金の計算方法や強制労働に対する新しい罪の創設等の項目が含まれている。

4.結論

 本稿の発行時点では、法案はまだ手続き中であり法律として施行されていない。本法案がもし承認され議会で可決された場合、雇用主は既存の雇用体制の修正するための必要な手続きを取ることが要求される。

 弊所は本法案の影響に対し適切なアドバイスをお客様へ提供し、オーダーメイドの契約、社内規定もしくは雇用規則の作成のお手伝いをいたします。弊所のサービスに関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

参照: Employment Bill (Amendment) 2021 [PN(U2)3164]

2021年10月18日(月)1:58 PM

マレーシアにおける汚職防止法違反に対する企業の採り得る防衛策についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

汚職防止法違反に対する企業の採り得る防衛策

 

汚職防止法違反に対する企業の採り得る防衛策
~汚職防止ガイドラインの遵守方法~

2021年10月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士    橋本 有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

 

 マレーシアにおける汚職防止について、昨年大きな法改正があった。

すなわち、もとよりマレーシアにおいては、汚職防止法[1]が規定されていたところ、昨年、汚職防止改正法[2]が成立・施行され、汚職行為を行った者だけでなく、その者が帰属する法人及びその法人の取締役も合わせて責任を負う(以下、この責任を「企業責任」という)こととなったのである。

 この汚職防止法及び同改正法の適用範囲に関しては2021年8月に別稿にて紹介しているため、本稿では現地の会社がいかにしてこの企業責任を免れることが出来るのか、に焦点を当てることとする。

1 企業責任の内容

 会社は、その上層部や代表者がそのような汚職行為を認識しているか否かに関わらず、その会社の利益のために当該汚職行為が行われた場合には、その従業員等の汚職行為に対して責任を負う可能性がある(汚職防止改正法17A条)。

 会社や取締役が有罪となった場合、第17A条(2)の定める罰則は、賄賂の価値の10倍以上もしくは100万RM(約2,500万円)のいずれか高い方の罰金、または20年以下の懲役、もしくはその両方となる。

 上記の通り、この企業責任は、上層部の認識に関わらず適用されるものであるため、一見するとこの企業責任を回避することは極めて困難なように見える。しかし、この企業責任が免責される道が唯一用意されている。それが、以下に述べるガイドラインに基づく「適正な手続き」の実施である。

2 ガイドラインの遵守

(1)ガイドラインの法的な位置づけ

 汚職防止改正法のもと、会社に残された利用可能な唯一の防衛手段は、汚職のないビジネス環境を促進するための「適切な手続き」を確実に実施することである。

 そして、この「適切な手続き」とは何かを理解することを支援するために、「適切な手続きに関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」)が導入された[3]

 ただし、本ガイドラインは網羅的なものではなく、また万能ではないことに留意する必要がある。「適切さ」の標準的な決定要因はなく、裁判所は各企業の手続きや規程内容が「適切」であるかどうかをケースバイケースで検討すると思われる。とはいえ、裁判所がガイドラインの遵守を重要視する可能性は非常に高いと考えられているため、各会社は、本ガイドラインの内容を十分に理解し、汚職防止規程等の整備に着手する必要がある。

(2)5つの基本原則

 本ガイドラインは、会社が「適切な手続き」を満たすために汚職防止体制を確立する際に参照することができる5つの基本原則に基づいて形成されている。これらの原則は、T.R.U.S.Tとそれぞれの原則の頭文字をとって表現されている。

– トップレベルのコミットメント=Top Level Commitment
– リスクアセスメント=Risk Assessment
– 対策の実施=Undertake Control Measures
– 体系的なレビュー、モニタリング、エンフォースメント=Systematic Review, Monitoring and Enforcement
– トレーニングとコミュニケーション=Training and Communication

(3)原則1:トップレベルコミットメント

 トップレベルの経営陣は、腐敗防止法の遵守を確実にし、組織の主要な腐敗リスクを効果的に 管理する上で重要な役割を果たすという原則である。経営陣は、特に以下のことを実施することにより、あらゆる汚職行為と闘うための組織の努力を先導しなければならない。

 ① コンプライアンスプログラム
 汚職リスクに適切に対処する明確な方針の策定を含む、汚職防止のためのコンプライアンスプログラムを確立し、維持し、定期的に見直すこと。

 ② コミュニケーション  
 汚職防止に関する組織の方針とコミットメントを社内外に伝えるための指示を出す。

 ③ 内部告発の仕組み
 疑わしいものや実際に生じた汚職行為及びコンプライアンスプログラムの不備に関連して、あらゆる報告(内部告発)チャネルの利用を奨励する。

 ④ 専門的なサービス
 汚職プログラムに関連して従業員および業務関係者に助言や指導を提供することを含む、すべての汚職防止コンプライアンス問題に責任を持つ適切な人材または機能(組織の外部であってもよい)を割り当て、適切に配置する。

(4)原則2:リスクアセスメント

 リスクアセスメントは不可欠であり、汚職防止体制の不可欠な部分を形成しなければならないものとされている。会社は、定期的なリスクアセスメントを実施しなければならず、また、法律や事業の状況に変化があった場合にも実施しなければならない。

 リスクアセスメントの目的は、汚職リスクを特定し、分析・評価し、対策の優先順位をつけることであり、その結果は、事業がさらされうる汚職リスクを軽減するための適切なプロセス、システム及び管理方法を確立するために使用される。

 本ガイドラインでは、3年ごとに包括的なリスクアセスメントを実施し、必要に応じて断続的にアセスメ ントを実施することを推奨している。また、適切な文書化を目的として、組織内の一般的なリスクレジスターの中に汚職防止のためのリスクアセスメントを組み込むことも合わせて推奨している。

(5)原則3:対策の実施

 上記アセスメントによって汚職リスクが特定された場合、会社は、組織の既存の体制の脆弱さから生じる汚職リスクを軽減するために、対策を講じる必要がある。

 要求される対策は以下の通りである。

 ① 関係者のデューデリジェンスの実施
 ② 汚職事案の報告ルート(内部告発)の確保
 ③ 組織のための一般的な贈収賄防止および汚職防止方針の策定
 ④ 利害相反に関する方針
 ⑤ 贈与、娯楽、接待、旅行、寄付、スポンサーシップに関する方針の策定
 ⑥  斡旋料、財務管理及びその他の非財務管理に関する確立された手順の確立
 ⑦ 適切な手順に関連した文書を管理するための記録の管理

 上記の方針については、トップレベルの経営陣によって承認され、最新の状態に保たれ、公開され、容易に入手できるものでなければならない。

(6)原則4:体系的なレビュー、モニタリング、エンフォースメント

 汚職防止プログラムやそれを支える体制の有効性及び効率性は、それが適切に実施されていることを確認するために定期的にレビューされなければならないとされています。このようなレビューの基本は、組織内で実施されている既存の汚職防止管理を改善することである。

 この目的のために、商業組織は特に以下を検討する必要があります。

 ① モニタリングのためのメカニズムの確立
 ② 内部監査を実施する能力のある人の特定
 ③ 少なくとも3年に一度、資格を有する独立した第三者による外部監査の検討
 ④ 方針や手順の継続的な評価
 ⑤ 職員のパフォーマンスを監視し、汚職防止ポリシーの理解と遵守を確認
 ⑥ プログラムを遵守していないことが判明した人員に対する懲戒手続の実施

(7)原則5:トレーニングとコミュニケーション

 組織内及び組織に関連する人々に対し、汚職のリスクと汚職行為の結果の重大性に対する意識を高めるために、 トレーニングは社内外で行われなければなりません。会社は、従業員や業務関係者が組織の汚職防止プログラムを完全に理解できるように、適切なトレーニングを提供しなければならない。

 また、コミュニケーションが重要と考えられている。したがって、汚職防止の方針及びプログラムが従業員や業務関係者に確実に伝達されているための手段を講じる必要がある。これは、電子メール、ニュースレター、行動規範、ウェビナー、タウンホールセッションなどで行うことができる。

3 結論

 マレーシアでは、今年3月、ある組織の職員が行った賄賂を理由に、17条A項に基づいて起訴された初の企業責任事件が発生した。組織が有罪となった場合、上級管理職(取締役、役員、コントローラー、その他経営に関わる者)が犯罪を犯したとみなされ、「適切な手続き」が行われていたことを証明できない限り、重い刑罰を受けることになる。

 このように、マレーシアでビジネスを行う上では汚職防止法及び同改正法への対応は不可避というべきであり、同法及びガイドラインに沿って汚職防止に向けた対策を進めていくことが重要である。

 なお、弊所では、汚職防止関連法規を踏まえ、企業が上記ガイドラインを踏まえた適切な汚職防止規程(内部通報制度構築を含む)を策定し、従業員らに対し適切なトレーニングを行うことをサポートし、現に数多くの企業が導入している。

 

[1] Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009

[2] Malaysian Anti-Corruption Commission (Amendment) Act 2018

[3] ガイドラインの原文

https://f.datasrvr.com/fr1/119/75252/Prime_Ministers_Department_-_Guidelines_on_Adequate_Procedures.pdf