• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy
トップページ
2022年08月16日(火)12:59 PM

日本における改正資金決済法の概要についてニュースレターを発行いたいました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正資金決済法の概要

 

改正資金決済法の概要

2022年8月16日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年6月3日、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律[1]」(以下「改正法」といいます)が第208回国会で成立しました。

1 概要  

 米国を中心とした海外における電子的支払手段(いわゆるステーブルコイン)の発行や流通の増加、銀行等における取引モニタリング等の更なる実効性向上の必要性の高まり、高額で価値の電子的な移転が可能な前払式支払手段の広がりなどの影響により、金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度を構築する必要があるとされ、本改正が行われました。

 改正法における主な改正点[2]は、次の3つになります。

 ①電子決済手段等取引業等の創設
 ②為替取引分析業の創設
 ③高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

 本ニューズレターでは、①の電子決済手段等取引業等の創設について取り上げます。

2 電子決済手段等取引業等の創設

(1)電子決済手段の新設

 改正法では、「電子決済手段」という概念が新設され、その基本的な内容として以下の通り規定されました(改正法第2条5項1号)。

第2条

5 この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成19年法律第102号)第2条第1項に規定する電子記録債権、第3条第1項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める者を除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く。)

 

 当該定義では、電子決済手段の要素として通貨建資産に限定することが定められており、規制の対象となるいわゆるステーブルコインについて明確化されました。

(2)電子決済手段等取引業者への登録制の導入

 電子決済手段等の発行者と利用者との間に立つ仲介者が行う以下の対象行為について「電子決済手段等取引業」と定義されました(改正法第2条10項)。そして、電子決済手段等取引業者として電子決済手段等取引業を営むためには内閣総理大臣の登録を受けることが必要とされ(改正法第2条12項、第62条の3)、また、電子決済手段等取引業者には各種の行為規制が課されることになりました。これらの概要は以下の通りです。

 

項目

該当条文

内容

対象行為

改正法第2条10項

・電子決済手段の売買・交換、管理、媒介等

・資金移動業者を代理して預金債権等の増減を行う行為

参入要件

改正法第62条の6第1項

・電子決済手段等取引業を適正かつ確実に遂行する体制の整備

・一定の基準に適合する財産的基礎を有するなど

業務に関する規制

改正法第62条の10~第62条の16

・情報の安全管理

・委託先に対する指導

・利用者の保護等に関する措置

・金銭等の預託の禁止

・利用者財産の管理

・発行者等との契約締結義務

・指定電子決済手段等取引業務紛争解決機関との契約締結義務等

監督について

改正法第62条の18~第62条の24

・帳簿書類の保存

・報告書の作成

・立入検査、業務改善命令など

 

 また、電子決済手段を発行する銀行等又は資金移動業者は、自身の発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行うことが認められています(改正法第62条の8第1項)。

 なお、銀行の代理で電子決済手段を仲介する場合については「電子決済等取扱業」という概念が新設されました(改正銀行法[3]第2条17項)。そして、電子決済等取扱業を営む「電子決済等取扱業者」については登録制とした上で(改正銀行法第2条18項、第52条の60の3)、改正法における電子決済手段等取引業者とおおむね同様の規制が課されることになりました(改正銀行法第52条の60の11乃至第52条の60の15)。

以上

[1] 金融庁「改正資金決済法 新旧対照条文」

[2] 金融庁「改正の概要」

[3] 金融庁「改正銀行法 新旧対照条文」

2022年07月13日(水)11:08 AM

日本における改正借地借家法の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正借地借家法の概要

 

改正借地借家法の概要

2022年7月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年5月12日、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が成立し、同月19日に公布されました。この法律では、行政や民間の各種手続における押印・書面に係る制度の見直しのため、48の法律が一括改正されました。その中には、借地借家法の一部改正[1](以下「本改正法」といいます)が含まれており、借地借家法上の一般定期借地権の設定や定期建物賃貸借の契約手続等の電子化などが行われました。この借地借家法の改正に伴い、借地借家法施行令及び借地借家法施行規則が制定され、本改正は2022年5月18日から施行されました。

 本ニューズレターでは、上記法律によって改正された借地借家法、借地借家法施行令[2]及び借地借家法施行規則[3](以下「施行令」及び「施行規則」といいます)に関して解説いたします。

1 概要

 本改正法における改正[4]は、次のとおりになります。

 ①一般定期借地権の特約が電磁的記録でも可能
 ②定期建物賃貸借に係る事前説明書面の交付等が電磁的方法等でも可能

2 改正点の具体的内容

(1)一般定期借地権の特約が電磁的記録でも可能(本改正法第22条2項)

 一般の定期借地権(存続期間が50年以上の借地権)については、特約で法定更新や建物買取請求権等の制度の適用を排除することが可能ですが、その特約は公正証書等の書面による必要がありました(改正前第22条)。

 本改正では、この特約について、電磁的記録による特約も書面による特約と同様の扱いとされることになりました(本改正法第22条2項)。これによって電子契約システム等を利用したオンラインでの契約においても、一般定期借地権の特約を合意することが可能になりました。

第22条2項(定期借地権)

前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第38条第2項及び第39条第3項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、 前項後段の規定を適用する。

(2)定期建物賃貸借に係る事前説明書面の交付等が電磁的方法等でも可能(本改正法第38条)

 定期建物賃貸借(期限の定めがある建物の賃貸借)については、特約で法定更新の適用排除することが可能ですが、そのためには、公正証書等の書面による契約が必要であり、また、賃貸人は、賃借人に対して、事前に、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することについて、書面を交付して説明する必要がありました(改正前第38条1項及び2項)。

 本改正では、この特約について、電磁的記録による特約も書面による特約と同様の扱いとされることになり(本改正法第38条2項)、また、賃借人の承諾を得た場合には、説明の際の書面の交付に代えて電磁的方法により提供を行うことが可能になりました(本改正法第38条4項)。これによって、法定更新の適用のない定期建物賃貸借の契約について、事前説明書面の交付・説明から契約の締結まで、電子契約システム等を利用したオンラインでの対応が可能になりました。

第38条4項(定期建物賃貸借)

建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人 は、当該書面を交付したものとみなす。

 電磁的方法の具体的な内容は、施行規則第1条1項に定められており、以下の①~③の方法であって、受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものとされています。

 ①電子メール等を送信する方法
 ②アップロードしたファイルをダウンロードさせる方法
 ③情報を記録した媒体(USBメモリ、DVD、CD-ROM等)

 なお、事業用定期借地契約(第23条3項)については、引き続き公正証書による必要がある点については、留意が必要です。

 また、事前説明書面を電磁的方法で提供する際の手続は、賃貸人が賃借人に対して、利用する電磁的方法の種類・内容(上記①~③から選択及びファイルの記録方式)を示した上で、賃借人から書面又は電磁的方法で承諾を得るものとされています(施行令第1条)。ただし、承諾を得た場合で、賃借人から電磁的方法による提供を受けない旨の申し出があった場合は、書面での交付となります(施行令第2条)。

以上

[1] デジタル庁「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)」新旧対照表、99頁以下

[2] 法務省「借地借家法施行令(政令第187号)」条文

[3] 法務省「借地借家法施行規則(法務省令第29号)」条文

[4] 法務省「改正の概要」

2022年06月14日(火)9:29 AM

日本における改正建築物省エネ法の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正建築物省エネ法の概要

 

改正建築物省エネ法の概要

2022年6月14日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年6月13日、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。この法律は、一部を除き、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとされています。

本ニューズレターでは、上記法律によって改正された「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」[1](以下、改正後の同法を「本改正法」といいます)に関して解説いたします。

1 背景

 2050年までにカーボンニュートラル、2030年度までに温室効果ガスの46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、エネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における省エネ対策が求められています。また、温室効果ガスの吸収源対策の強化を図る上で、木材需要の約4割を占める建築物分野での木材利用のさらなる促進に資する規制の合理化などを講じる必要があるとされています。

2 概要

 本改正法における改正は、建築物分野での省エネ対策の強化を行うものであり、主な改正点[2]は次のとおりになります。

 ①全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け
 ②トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充
 ③販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進

本ニューズレターでは、上記の改正点に関してそれぞれ解説いたします。

3 改正点

(1)全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け

 現行法では、延べ床面積300㎡以上の中規模・大規模建築物(非住宅)が、建築物エネルギー消費性能基準(以下「省エネ基準」といいます)への適合が義務対象となっています(現行法11条)。その他の中規模・大規模の住宅は届出義務、300㎡未満の小規模建築物(非住宅)及び住宅は努力義務、説明義務に留まっています。

本改正法では、全ての新築住宅及び非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられました(本改正法10条)。

第10条(建築主の基準適合義務)

建築主は、建築物の建築(エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模以下のものを除く。)をしようとするときは、当該建築物(増築又は改築をする場合にあっては、当該増築又は改築をする建築物の部分)を建築物エネルギー消費性能基準に適合させなければならない。

(2)住宅トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充

 住宅トップランナー制度とは、住宅事業者が供給する分譲戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートの建築物エネルギー消費性能(以下「省エネ性能」といいます)の向上の目標(以下「トップランナー基準」といいます)を定め、断熱性能の確保や効率性の高い建築設備の導入等により、一層の省エネ性能の向上を誘導する制度のことをいいます。

 本改正法では、2030年度以降に新築される住宅と建築物についてZEH・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)水準の省エネ性能を確保するため、住宅トップランナー制度の対象に現行の注文戸建住宅、分譲戸建住宅、賃貸アパートに加え、分譲マンションが追加されました(本改正法29条1項)。

第29条(分譲型一戸建て規格住宅等のエネルギー消費性能の一層の向上に関する基準)

経済産業大臣及び国土交通大臣は、経済産業省令・国土交通省令で、分譲型一戸建て規格住宅又は分譲型規格共同住宅等(以下この条及び次条において「分譲型一戸建て規格住宅等」という。)ごとに、特定一戸建て住宅建築主又は特定共同住宅等建築主(次項及び同条において「特定一戸建て住宅建築主等」という。)の新築する分譲型一戸建て規格住宅等のエネルギー消費性能の一層の向上(建築物エネルギー消費性能基準に適合する建築物において確保されるエネルギー消費性能を超えるエネルギー消費性能を当該建築物において確保することをいう。以下同じ。)のために必要な住宅の構造及び設備に関する基準を定めなければならない。

(3)販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進

 現行法7条では、建築物の販売又は賃貸を行う事業者に対して、建築物への省エネ性能の表示努力義務が課されています。

 本改正法では、当該省エネ性能の表示を推進するため、努力義務に加え、表示事項の告示について規定されました(本改正法33条の2)。さらに、販売事業者等に対して、告示に従った表示をしていないと認めるときは、国土交通大臣は、当該事業者に対し、告示に従った表示をすべき旨の勧告、その勧告に従わなかったときは公表、命令をすることができるとされました(本改正法33条の3)。

第33条の2(販売事業者等の表示)

建築物の販売又は賃貸(以下この項並びに次条第一項及び第四項において「販売等」という。)を行う事業者(次項及び同 条において「販売事業者等」という。)は、その販売等を行う建築物について、エネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない。

2 国土交通大臣は、前項の規定による建築物のエネルギー消費性能の表示について、次に掲げる事項を定め、これを告示するものとする。

一 建築物のエネルギー消費性能に関し販売事業者等が表示すべき事項

二 表示の方法その他建築物のエネルギー消費性能の表示に際して販売事業者等が遵守すべき事項

第33条の3(販売業者等に対する勧告及び命令等)

国土交通大臣は、販売事業者等が、その販売等を行う建築物について前条第二項の規定により告示されたところに従ってエネルギー消費性能の表示をしていないと認めるときは、当該販売事業者等に対し、その販売等を行う建築物について、その告示されたところに従ってエネルギー消費性能に関する表示をすべき旨の勧告をすることができる。

2 国土交通大臣は、前項の勧告を受けた販売事業者等がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

3 国土交通大臣は、第一項の勧告を受けた販売事業者等が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、建築物のエネルギー消費性能の向上を著しく害すると認めるときは、社会資本整備審議会の意見を聴いて、当該販売事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

4 国土交通大臣は、前三項の規定の施行に必要な限度において、販売事業者等に対し、その販売等を行う建築物に係る業務の状況に関し報告させ、又はその職員に、販売事業者等の事務所その他の事業場若しくは販売事業者等の販売等を行う建築物に立ち入り、販売事業者等の販売等を行う建築物、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

5 第十七条第二項及び第三項の規定は、前項の規定による立入検査について準用する。

以上

 

[1] 国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」新旧対照条文

[2] 国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」概要

2022年05月11日(水)12:28 PM

日本における民事訴訟法改正案の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

民事訴訟法改正案の概要

 

民事訴訟法改正案の概要

2022年5月11日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年3月8日、第208回国会に民事訴訟法等の一部を改正する法律案[1][2](以下「本改正法案」といいます。)が提出されました。

1 概要

 本改正法案における主な改正点は民事裁判手続のIT化、裁判期間の短縮化、個人の住所及び氏名の秘匿制度の創設が挙げられます。

本ニューズレターでは、上記の改正点に関してそれぞれ解説いたします。

2 民事裁判手続のIT化

 (1)背景

 現在、日本の民事裁判手続のIT化に関して諸外国と比較すると非常に遅れた状態にあるとされています。例えば、訴状等の裁判書類のオンライン提出は、アメリカでは1990年代前半より開始されており、また、アジアではシンガポールが先進的で、1998年から取り組みが始められています[3]

 日本では、2004年に民事訴訟法に裁判書類のオンラインによる提出のための規定(現行法第132条の10)が置かれ、翌年4月の施行から約4年間、札幌地方裁判所にて一部の申立て等をオンラインで行うシステムが試行されましたが、実務に定着することなく2009年3月に運用が停止されました。その後2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」[4]において、「裁判に係る手続等のIT化を推進する方策」について検討する方針が定められ、実現のために検討が行われました。その結果、2018年3月に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―」[5]が公表され、民事裁判手続のIT化が段階的に進められることとなり、まずは法改正が必要なく運用で実現できるものとしてTeamsを利用したウェブ会議による手続が進められました。また、2022年2月よりインターネットを利用した民事裁判書類の電子提出システム(mints[6])による裁判書類の提出が一部の裁判所において開始され、2022年夏又は秋頃には知的財産高等裁判所、東京地方裁判所、大阪地方裁判所でも運用が開始される予定です。

 そして、裁判手続のIT化をさらに進めるために必要な法改正に取り組むべく、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会における審議[7]を経て、本改正法案が国会に提出されました。

(2)訴訟記録の電子化

 訴状等の裁判所に提出する裁判書類を含め、裁判関係文書等は全て「紙」で作成され、管理されてきました。本改正法案では、これらの訴訟記録を電子化することを想定し、それに伴う手続が規定されています。

 まず、弁護士が訴訟代理人として訴訟を遂行する場合、弁護士は裁判書類の電子提出が義務化されます(法案第132条の11第1項1号)。また、電子判決書の導入(法案第252条1項)、電子呼出状による期日の呼出し(法案第94条1項1号、2項)、電磁的記録の送達(法案第109条、第109条の2)、電磁的記録の公示送達(法案第111条2号)等についても規定がされています。送達に関しては、原則電磁的記録を出力することにより作成した書面で行うこととされていますが(法案第109条)、電子情報処理組織による送達を受ける旨の届出がされている場合は、当該方法による送達が可能とされています(法案第109条の2第1項)。なお、電子提出が義務化される弁護士については、当該届出がされていなくても電子情報処理組織による送達が可能とされています(法案第109条の4第1項)。

 また、訴訟記録の閲覧謄写等は、これまでは当事者であっても裁判所に足を運ぶ必要がありましたが、訴訟記録の電子化に伴い、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、電磁的訴訟記録を裁判所設置端末及び裁判所外端末から閲覧及び複写することが可能となります(法案第91条の2第2項)。

(3)ウェブ会議の利用

 新型コロナウィルスの流行に伴い、これまであまり使用されていなかったTeamsを利用したウェブ会議システムを利用した弁論準備手続、書面による準備手続が裁判手続において頻繁に開催されるようになりました。しかし、弁論準備手続ではウェブ会議システムを利用するには一方の当事者の出頭が必要とされていました(現行法第170条3項、民事訴訟規則第96条1項)。

 本改正法案において、ウェブ会議等による口頭弁論(法案第87条の2第1項)、弁論準備手続(法案第170条3項)、書面による準備手続(法案第176条2項)の規定が整備されています。弁論準備手続については、本改正法案では一方当事者の出頭の要件が撤廃され、最高裁判所規則に基づき手続が行われるようになります。

 また、本改正法案は、ウェブ会議による尋問の実施要件が緩和されました。現行法では証人が遠隔地に居住する場合等にテレビ会議システムによる尋問が認められていましたが(現行法第204条)、本改正法案では上記の場合に加えて当事者に異議がない場合にもウェブ会議による尋問が可能となります(法案第204条3号)。また、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、裁判所外でウェブ会議を用いた証拠調べの手続も可能となります(法案第185条3項)。その他、審尋(法案第87条の2第2項)、通訳人(法案第154条2項)、参考人等の審尋(法案第187条3項、4項)、和解の期日(法案第89条2項)等も、ウェブ会議システムを用いて実施できるように規定されました。

3 裁判期間の短縮化

 裁判手続のIT化につき、新しい審理手続として「法定審理期間訴訟手続」と呼ばれる手続が創設されることになります(法案第381条の2第1項)。ただし、消費者契約に関する訴え及び個別労働関係民事紛争に関する訴えは除かれています。

 当該手続を利用するためには、当事者双方の申立て、又は一方の申立てと他方の同意が必要となります(同条2項)。当該手続を行う決定がされた場合は、決定の日から2週間以内に口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定し、また当該期日から6か月以内に口頭弁論を終結し、口頭弁論を終結する日から1か月以内に判決が言い渡されることになります(法案第381条の3)。判決については、訴えを却下した判決以外は控訴することができません(法案第381条の6)。なお、当事者は判決の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることができ(法案第381条の7第1項)、異議があれば通常の手続によりその審理及び裁判をするとされています(法案第381条の8第1項)。

4 秘匿制度の創設

 当事者又はその法定代理人の住所、氏名等を他方当事者に対しても秘匿することができる制度が新たに設けられています(法案第133条1項)。従来の閲覧等制限の制度では、閲覧等の制限決定の対象となった情報も相手方当事者には開示されていましたが、当該秘匿制度では他方当事者に対しても秘密が保護されることになります。当該制度は、DV被害者や性犯罪被害者が加害者に氏名や住所を知られることなく訴えを提起するような場面が想定されています。

以上

 

[1] 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」新旧対照条文https://www.moj.go.jp/content/001368845.pdf

[2] 法務省「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」(令和4年1月28日)https://www.moj.go.jp/content/001365873.pdf

[3] 杉本純子「シンガポール・アメリカにおける裁判手続等のIT化」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/dai2/siryou5.pdf

[4] 「未来投資戦略2017」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017.pdf

[5] 裁判手続等のIT化検討会「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―」(平成30年3月30日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

[6] 「民事裁判書類電子提出システム(mints)について」https://www.courts.go.jp/saiban/online/mints/index.html

[7] 法制審議会-民事訴訟法(IT化関係)部会https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003005.html

2022年04月14日(木)3:19 PM

日本における株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの補足説明の公表に関する概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの補足説明の公表に関する概要

 

株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの補足説明の公表に関する概要

2022年4月14日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年2月4日、全国株懇連合会より、「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの補足説明について」(以下「本補足説明」といいます。)が公表されました。本補足説明は、2021年10月22日に全国株懇連合会が公表した「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正について」(以下「本改正」といいます。)の説明を補足するものになります。

1 定款モデルの改正について

 本改正は、会社法改正により株主総会資料の電子提供制度が2022年9月1日に施行されることを踏まえ、定款モデルの改正が行われました。

 本改正の内容は、以下の通りです。

 ①現行定款モデル第15条1項に電子提供措置をとる旨の規定の新設
 ②同条第2項で電子提供措置事項のうち法務省令に定めるものの全部又は一部を書面交付請求株主に交付する書面に記載することを要しない旨の規定の新設
 ③同条のインターネット開示の規定の削除

 上記①の定款への定めについては、2022年9月1日における上場会社は電子提供措置を利用することが強制されます。これを受けて、上場会社については、経過措置により施行日を効力発生日として電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更の株主総会決議をしたものとみなされますが(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。以下「整備法」といいます。)第10条2項)、それ以外の会社は電子提供措置をとる旨の定款変更手続と登記手続が必要となります。

 これに対し、上記②及び③については上場会社であっても適用が強制されないことから、みなし定款変更の適用はありません。そのため、上場会社か否かにかかわらず、上記②及び③については定款変更手続が必要になります。

 以上の通り、上場会社であっても上記②及び③については定款変更手続が必要とされるため、結果的に、上場会社あっても、①ないし③の全てについて定款変更を行う会社が多いと思われます。

 また、みなし定款変更が適用となる施行日時点の上場会社は、株主が書面交付請求できる期間を一定期間保障する観点から、整備法第10条3項は、電子提供制度の施行日から6か月以内の日を株主総会日とする株主総会を招集するときは改正前の会社法に従うこととしているため、2023年3月以降に開催される株主総会から電子提供制度が適用されることになります。そのため、制度施行後最初の株主総会が2023年3月以降(施行日から6か月経過後)に開催される場合には、当該株主総会から電子提供制度が適用されることから、電子提供制度施行に伴う定款変更は、電子提供制度施行前の株主総会、すなわち2022年の定時株主総会等で定款変更議案を付議して整備しておくことが望ましいと考えられます。

2 定款モデルの補足説明について

  本補足説明では、改正定款モデルの附則において、削除・新設となる定款規定を「現行定款第15条」、「変更案第15条」と表記されていた点について、附則で効力発生日等を定める対象となる規定を特定するためにのみ用いてるものであり、「現行定款」、「変更案」の表記は、それぞれの用語が持つ意味を表現する趣旨で用いていない旨の説明がなされています。

 なお、電子提供制度の施行後の定款を作成する際、附則に「現行定款」、「変更案」という表記があることに違和感がある場合には、当該部分を「変更前定款第15条」、「変更後定款第15条」とする表記を用いる、またはいずれの文言も入れない対応が考えられる旨の説明がなされています。また、いずれの文言も入れない場合の定款モデルも公表されています。

以上

2022年03月11日(金)3:12 PM

日本における再エネ特措法の改正に関する概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

再エネ特措法の改正に関する概要

 

再エネ特措法の改正に関する概要

2022年3月11日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年4月1日より「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「再エネ特措法」といいます。)が改正され、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(以下「改正法」といいます。)が施行されます。

1 背景

 現行の再エネ特措法によって導入された固定価格買取制度(FIT(Feed-in Tariff)制度)は、時限的な制度であり、また、FIT制度を支える国民負担の増大、地域社会との共生、系統制約の顕在化といった課題への対処が必要となっていました。このような課題を踏まえつつ、今回の改正は、抜本的な見直しとして行われるものです。

2 概要

 再エネ特措法の改正は、主に次の3つの観点から行われます。

 ①新たに市場価格をふまえて一定のプレミアムを交付するFIP(Feed-in Premium)制度の創設
 ②太陽光発電設備の廃棄等費用の外部積立制度の導入
 ③未稼働案件の認定失効制度の導入

 以下、それぞれの制度に関して解説します。

3 ①FIP制度の創設

 (1) FIP制度について

 FIP制度は、現行のFIT制度のように電気事業者が再生可能エネルギー電気の全量を固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電事業者が、発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電させ、そこで得られる市場売電収入に加えて一定の補助額(「プレミアム」)による収入を得る制度です。

 現行のFIT制度では、電力会社が再エネ電気を買い取る際の1kWhあたりの単価(「調達価格」)が定められており、FIP制度においても「基準価格(FIP価格)」が定められます。この「基準価格」は、再エネ電気が効率的に供給される場合に必要な費用の見込み額をベースに、さまざまな事情を考慮して、あらかじめ設定されます。FIP制度の開始当初は、この基準価格をFIT制度の調達価格と同じ水準にすることとなっています(調達価格等算定委員会「令和3年度以降の調達価格等に関する意見」11ページ)。

 また、「参照価格」も定められます。参照価格は市場取引などで発電事業者が期待できる収入のことで、市場価格に連動し、1ヶ月単位で見直しが行われます。

 再エネ発電事業者は、この「基準価格」と「参照価格」の差を「補助額(プレミアム)」として受け取り、市場売電収入にプレミアムを上乗せされた合計分が収入となります。なお、プレミアムは、参照価格の変動等によって変わるため、同様に1ヵ月ごとに更新されます。

 FIP制度において、再エネ発電事業者はプレミアムを得ることにより、再生可能エネルギーへ投資するインセンティブを確保することが可能となります。電力の需要と供給のバランスに応じて変動する市場価格を意識しながら発電し、蓄電池の活用等により市場価格が高いときは売電する工夫をすることで、さらに収益を拡大できることが期待されています。

 (2) FIP制度の対象

 太陽光や風力などの電源の種別によって一定規模以上については、新規認定でFIP制度のみが認められます。新規認定でFIT制度が認められる事業に関しても、50kW以上は事業者が希望する場合にFIP制度による新規認定を選択することができます。また、既にFIT認定を受けている電源に関しても、50kW以上は事業者が希望する場合はFIP制度に移行することが可能となります。

4 ②太陽光発電設備の廃棄等費用の外部積立制度  

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律等により、太陽光発電設備の廃棄処理の責任は太陽光発電事業者等にあります。しかし、太陽光発電事業は、参入障壁が低く様々な事業者が取り組むだけでなく、事業主体の変更が行われやすい状況にあるため、有害物質を含むものもある太陽光パネル等が、発電事業の終了後に放置や不法投棄されるのではないかという懸念が顕在化してきています。

 こうした状況を踏まえて、適切なタイミングで必要な資金を確保するために、太陽光発電設備の廃棄等に関する費用について原則源泉徴収的な外部積立て制度が創設されました。

 当該制度の対象、積立方式、金額、時期、取戻条件、施行時期は以下の通りです。

 (1) 対象

 10kW以上すべての太陽光発電のFIT・FIP認定事業(複数太陽光発電設備も対象)

 (2) 積立方式

 ・原則として、推進機関への源泉徴収的な外部積立て
 ・FIT制度の案件では特定契約の相手方である電気事業者を経由する形で、FIP制度の案件では推進機関から支払われるべき供給促進交付金から控除する形で、毎月の電気供給の対価から解体等積立金相当額が差し引かれ、推進機関に積み立てられる。
 ・長期安定発電の責任・能力を有し、かつ確実な資金確保がされている等、一定の要件を満たす案件では例外的に内部積立てが認められる

 (3) 積立金額

 ・調達価格又は基準価格の算定において想定されている廃棄等費用の水準(入札案件は最低落札価格を基準に調整)
 ・解体等積立金額は、「各認定事業に適用される解体等積立基準額(円/kWh)」に、「供給電気量(kWh)」を乗じた額として計算される

 (4) 積立時期

 ・調達期間又は交付期間の終了前10年間

 (5) 取戻条件

 ・廃棄処理が確実に見込まれる資料等の提出等
 ・調達期間又は交付期間終了後は、事業終了・縮小のほか、パネルを交換して事業継続する際も、パネルが一定値(認定上の太陽光パネル出力の15%以上かつ50kW以上)を超える場合に取戻しが認められる
 ・調達期間又は交付期間中は、事業終了・縮小のみ取戻しが認められる

 (6) 施行時期

 ・最も早い事業が積立てを開始する時期は2022年7月1日(事業ごとの調達期間/交付期間終了時期に応じて、順次積立てが開始される)

5 ③未稼働案件の認定失効制度の導入

 認定を受けた事業計画の中には、系統の接続契約を締結して系統容量を確保したまま長時間稼働開始に至っていない案件が少なからず存在しています。これらの未稼働案件が長時間放置された場合、新規参入を目指す事業者の系統利用が阻害され、新規案件の開発に支障をきたしていました。現行の再エネ特措法においても、運転開始期限が設定されていますが、運転開始期限を経過しても超過期間分だけ調達期間が月単位で短縮されるだけで、FIT認定は維持され、調達価格と系統容量は確保され続けることから、国民負担の増大や系統容量の圧迫という問題が残っているとの指摘がなされていました。

 このような問題に対処するため、改正法では、再生可能エネルギー発電事業計画の認定を受けた日から起算して、経済産業省令で定める期間内に、認定計画に係わる再生可能エネルギー発電事業を開始しなかった場合、認定が失効するという制度が設けられました。運転開始期限とは別に失効期限を設定し、失効した未稼働案件の系統容量を開放し新規事業者による活用を促すことを目的としています。

 失効となる期限について、運転開始期限の1年後の時点の進捗状況で適用の判断がなされ、具体的な進捗状況ごとに、以下のような規律が適用されます。

 ①系統連系工事着工申込みを行っていない案件は、運転開始期限の1年後の時点で認定が失効する。
 ②系統連系工事着工申込みを行った案件は、進捗を評価できる一方、一定期間内に運転開始まで至る可能性が高いと考えられることから、運転開始期限に、猶予期間として、運転開始期間に当たる年数を加えることとし、その到来をもって認定が失効する。
 ③大規模案件に係るファイナンスの特性を踏まえた例外的措置として、運転開始に向けた準備が十分に進捗し、確実に事業実施に至るものとして、環境影響評価の準備書に対する経済産業大臣勧告等の通知や工事計画届という開発工事への準備・着手が公的手続によって確認された一定規模以上の案件については、運転開始期限に、猶予期間として調達期間に当たる年数を加えることとし、失効のリスクを取り除く。

以上

2022年02月14日(月)9:27 AM

会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令に関する概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令に関する概要について

会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令に関する概要

2022年2月13日

One Asia Lawyers 東京事務所

弁護士 松宮浩典

2021年12月13日に「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和3年法務省令第45号)」(以下「本省令」という。)が公布され、同日に施行されました。

 

1 背景

 取締役会設置会社では、定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対し、計算書類等を提供しなければならないとされています(会社法第437条)。ただし、事業報告及び計算書類に表示すべき事項の一部については、当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3か月が経過する日までの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載することし、当該ウェブサイトのURL等を株主に対して通知することにより、当該事項が株主に提供されたとみなす制度、いわゆる「ウェブ開示によるみなし提供制度」があります(会社法第437条、会社法施行規則第133条第3項、会社計算規則第133条第4項等)。

本省令では、新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえ、本省令の施行日から令和5年2月28日までに招集手続が開始される定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に限り、ウェブ開示によるみなし提供制度の対象となる事項の範囲が拡大されました(改正会社法施行規則第133条の2、改正会社計算規則第133条の2)。

なお、新型コロナウィルス感染症の影響を考慮して令和2年5月15日に公布・施行した法務省令、令和3年1月29日に公布・施行した法務省令がいずれも失効しているため、本省令は再度同様の改正を行ったものになります。

2 概要

本省令による改正により、以下の事項がウェブ開示によるみなし提供制度の対象となりました。ただし、ウェブ開示を行う場合、ウェブ開示をする旨の定款の定めが必要になります。本省令による改正前の会社法施行規則又は会社計算規則に基づきウェブ開示をする旨の定款の定めがすでにある場合は、定款の定めを新たに設けたり、変更したりする必要はありません。

また、②に関しては、会計監査報告に無限定適正意見が付されていることなどの一定の条件を満たす場合にのみ、ウェブ開示によるみなし提供制度の対象となります(改正会社計算規則第133条の2第1項各号)。

① 株式会社が事業年度の末日に公開会社である場合において事業報告に表示すべき事項のうち「当該事業年度における事業の経過及びその成果」(会社法施行規則第120条第1項第4号)及び「対処すべき課題」(同項第8号)

② 貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項(監査役等による監査報告及び会計監査人による会計監査報告も含まれる(会社計算規則第133条第1項参照)。)

3 株主への配慮について

 本省令では、上記①②の事項についてウェブ開示を行う場合には、株主の利益を不当に害することがないように特に配慮しなければならないと定められています。具体的な方法については、各社の判断に委ねられていますが、法務省は具体例として次のような方法を挙げています。

上記①②の事項について、できる限り早期にウェブ開示を開始すること。

できる限り株主総会までに上記①②の事項を記載した書面を株主(会社法第299条第3項の承諾をした株主を除く。以下(2)において同じ。)に交付することができるように、ウェブ開示の開始後、準備ができ次第速やかに、上記①②の事項を記載した書面を株主に送付すること。あるいは、株式会社に対して上記①②の事項を記載した書面の送付を希望することができる旨を招集通知に記載して株主に通知し、送付を希望した株主に、準備ができ次第速やかに上記①②の事項を記載した書面を送付すること。

株主総会の会場に来場した株主に対して上記①②の事項を記載した書面を交付すること。

 

以上

 

2022年01月13日(木)1:59 PM

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要

 

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の
押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要

2022年1月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年5月19日に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「本法律」といいます。)を含むデジタル改革関連法が公布され、一部法律を除き同年9月1日に施行されました。

1 背景

 本法律は、2021年5月19日に公布された「デジタル社会形成基本法」(以下「基本法」といいます。)に基づき、デジタル社会の形成に関する施策を実施するため、個人情報の保護に関する法律、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)等の関係法律についての所要の整備を行い、合計48の法律について押印義務及び書面化義務の見直しを図るものとなっています。

 本ニューズレターでは、押印義務及び書面化義務の見直し対象のうち、①宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます。)における宅地建物の売買契約等に係る重要事項説明書等の押印義務の廃止及び重要事項説明書の電子化、並びに②借地借家法における定期借地権の設定や定期建物賃貸借における契約に係る書面・事前説明書の電子化について解説します。

 なお、宅建業法及び借地借家法に関する改正は、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日までに施行されるとされています(本法律第37号附則第1条4項)。

2 宅建業法の改正

 これまで書面を作成して記名押印が必要とされていた重要事項説明書、契約締結時交付書面及び媒介契約について、一定の場合に電磁的方法による提供を可能とし、また、重要事項説明書及び契約締結時交付書面について押印を不要とする改正が行われました。

改正の概要は以下のとおりです。

(1)媒介契約について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結するときは、一定の事項が記載された書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければなりません(宅建業法第34条の2第1項)。

 改正後は、同条11項及び12項として、以下の条項が新設されました。

11 宅地建物取引業者は、第1項の書面の交付に代えて、政令で定めるとことにより、依頼者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。以下同じ。)であって同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に記名押印し、これを交付したものとみなす。

 

12 宅地建物取引業者は、第6項の規定による書面の引渡しに代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承認を得て、当該書面において証されるべき事項を電磁的方法であって国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を引き渡したものみなす。

 これにより、以下の2つの要件を満たす場合には、媒介契約書面への記名押印及び交付とみなされます。

 ①政令で定める方法により、依頼者の承諾を得ること。

 ②記名押印に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

なお、媒介契約に関しては、後述の重要事項説明書及び契約締結時交付書面とは異なり、書面で作成する場合は記名押印が必要とされており、その点には留意する必要があります。

(2)重要事項説明書について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者に対して、契約成立前に、宅地建物取引士をして一定の事項を記載した書面を交付して説明しなければならず(宅建業法第35条1項)、かつ、当該書面には宅地建物取引士が記名押印する必要がありました(同条5項)。

 改正後、重要事項説明書への宅地建物取引士の押印が不要とされ、記名のみで足りるものとされました(改正宅建業法第35条5項)。さらに、以下の規定が同条8項及び9項として新設されました。

8 宅地建物取引業者は、第1項から第3項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第1項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第2項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第3項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第5項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。

 

9 宅地建物取引業者は、第6項の規定により読み替えて適用する第1項又は第2項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第6項の規定により読み替えて適用する第1項に規定する宅地建物取引業者の相手方等である宅地建物取引業者又は第6項の規定により読み替えて適用する第2項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方である宅地建物取引業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第7項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

 これにより、以下の2つの要件が満たされれば、重要事項説明書の交付があったとみなされます。

 ①政令で定める方法により相手方の承諾を取得すること。

 ②宅地建物取引士による記名に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

(3)契約締結時交付書面について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、契約締結時にその相手方に、一定の事項が記載された書面を作成し、宅地建物取引士に記名押印させて交付しなければなりません(宅建業法第37条1項、3項)。宅地又は建物の賃貸に関して代理又は媒介をした場合も同様に契約締結時交付書面の交付が必要とされています(同条2項)。

 改正後は、契約締結時交付書面への宅地建物取引士による押印が不要とされ、記名のみで足りるものとされました(改正宅建業法第37条3項)。さらに、契約締結時に提供すべき事項を電磁的方法により提供することを可能とする以下の規定が同条4項及び5項として新設されました。

4 宅地建物取引業者は、第1項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって前項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

一 自ら当事者として契約を締結した場合 当該契約の相手方

二 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者

三 その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者

 

5 宅地建物取引業者は、第2項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第3項の規定による措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

一 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者

二 その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者

 前述の重要事項説明書と同様、以下の2つの要件が満たされれば、契約締結時交付書面の交付があったものとみなされます。

 ①政令で定める方法により相手方の承諾を取得すること。

 ②宅地建物取引士による記名に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

3 借地借家法の改正 

 これまで書面による作成を必要としていた定期借地権の特約及び定期建物賃貸借契約について、電磁的記録による作成を認める改正が行われました。

 改正の概要は以下のとおりです。

(1)定期借地権の特約について

  現行の借地借家法上、存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、建物買取請求権を行使しない旨の特約を定めることが可能とされていますが、当該特約は公正証書による等書面により行わなければなりませんでした(借地借家法第22条)。

 改正後は、同条2項として以下のような条項が新設されました。

2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第38条第2項及び第39条第3項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。

 これにより、定期借地権の特約を電磁的記録により行うことで、書面の作成が不要となります。

なお、改正後も、事業用定期借地権は公正証書による必要があり、事業用定期借地権契約は電子契約にて行うことはできません(借地借家法第23条3項)。

(2)定期建物賃貸借契約について

 現行の借地借家法上、契約期間の更新がない定期建物賃貸借契約は、公正証書による等書面により契約をしなければならず(借地借家法第38条1項)、また、同契約の締結時には、賃貸人は、事前に賃借人に対し、契約の更新がなく期間の満了により賃貸借が終了する旨を記載した書面(事前説明書面)を交付して説明することが求められています(同条2項)。

 改正後は、以下のような規定が新設されました。

2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。

 定期建物賃貸借契約については、前述の定期借地権の特約と同様に電磁的記録による方法が許容されることとなります。

 また、事前説明書面については、以下の2つの要件を満たすことが必要とされています。

 ①政令で定める方法により賃借人の承諾を取得すること。

 ②法務省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び法務省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

以上

2021年12月09日(木)4:25 PM

日本における相続土地国庫帰属制度の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

相続土地国庫帰属制度の概要

 

相続土地国庫帰属制度の概要

2021年12月9日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年4月28日に「民法等の一部を改正する法律」(以下「民法等一部改正法」といいます。)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(以下「相続土地国庫帰属法」といいます。)が公布され、2023年4月までには「相続土地国庫帰属制度」(以下「本制度」といいます。)の運用が開始される見込みです。

1 背景

 都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、土地の所有意識の希薄化・土地利用のニーズの低下、また、相続登記の申請は義務ではなく、申請を行わなくても不利益を被ることは少ないこと等の理由により、所有者不明土地が発生しています。所有者不明土地が今後ますます増加し深刻化するおそれがあるため、発生を抑制する方策として今回本制度が創設されました。

 本ニュースレターでは、本制度について解説します。

2 概要

 本制度は、所有者不明土地の発生を抑制するため、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます。)により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度になります。

 管理コストの国への転嫁や土地の管理を疎かにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件(下記に記載)を設定し、法務大臣が要件審査を行います。要件審査を経て法務大臣の承認を受けた者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。国庫に帰属した土地は、主に農用地や森林として利用されている土地は農林水産大臣が管理・処分し、それ以外の土地は財務大臣が管理・処分します。

3 手続の流れ

 本制度の手続の流れは、以下の通りです。

(1) 承認申請
 申請書と一定の添付書類を提出し、審査手数料を支払う。

(2) 法務大臣(法務局)の要件審査及び承認
 要件を全て満たした場合、法務大臣より承認の通知がされる。
 ただし、①承認申請の権限がない者からの申請の場合、②要件に該当しない土地、申請書や添付書類、負担金の規定に違反している場合、③事実の調査に協力しない場合に該当する場合、申請は却下される。

(3) 申請者が負担金を納付
 負担額は、承認と合わせて法務大臣より通知される。また、承認の通知を受けてから30日以内に納付しない場合は、承認の効力が失われる。

(4) 国庫への帰属
 土地の所有権は、申請者が負担金を納付した時点で国庫に移転する。

4 要件

 土地所有者が承認申請をする場合は、以下のいずれにも該当しないことが要件となります。

(1) 却下要件(相続土地国庫帰属法第2条第3項)
 承認申請はその土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。
 ①建物の存する土地
 ②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
 ③通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
 ④土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
 ⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

(2) 不承認要件(相続土地国庫帰属法第5条第1項)
 法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属について承認をしなければならない。
 ①崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
 ②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
 ③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
 ④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければならない通用の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
 ⑤前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

 以上の各要件を満たさなければ、承認申請は認められません。

 さらに、承認申請の審査のために、必要があると認められるときは、法務局職員による当該土地の実施調査を行うことができる規定が設けられています(相続土地国庫帰属法第6条第1項、第2項)。正当な理由がないにも関わらず、調査に応じない場合は、申請が却下されることがあり、また、調査妨害等を行うと6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金処分も規定されています(相続土地国庫帰属法第4条第1項第3号、第17条)。

 また、承認を受けて土地が国庫に帰属した場合であっても、申請者が偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は承認を取り消すことができます(相続土地国庫帰属法13条)。そのほか、承認時に申請者が却下要件や不承認要件に該当する事由があることを知りながらそれを告げずに国に損害が生じた場合は、その申請者は国に対し損害賠償責任を負います(相続土地国庫帰属法14条)。

以上

2021年11月15日(月)10:19 AM

日本における実質的支配者リスト制度の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

実質的支配者リスト制度の概要

 

実質的支配者リスト制度の概要

2021年11月15日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers 東京事務所 <style=”text-align: right;”>弁護士 松宮浩典

  2021年9月17日に「商業登記所における実質的支配者情報一覧に保管等に関する規則」(以下「本規則」といいます。)が公布され、「実質的支配者リスト制度」(以下「本制度」といいます。)の運用が2022年1月31日より開始されます。本ニュースレターでは、本制度について解説します。

1 背景

 法人の実質的支配者に関する情報を把握することは、法人の透明性を向上させ、資金洗浄等の目的による法人の悪用を防止する観点から、国内外の要請が高まっています。

このような状況を踏まえ、法人設立後の継続的な実質的支配者の把握についての取組の1つとして、本制度が創設されることになりました。

2 概要

 本制度は、株式会社(特例有限会社を含みます。)が、商業登記所の登記官に対し、当該株式会社が作成した実質的支配者に関する情報等を記載した書面(以下「実質的支配者情報一覧」といいます。)を所定の添付書面とともに提出し、その保管及び登記官の認証付きの写しの交付の申出を行うことができるとするものです。なお、本制度は無料で利用できます。

 本制度における実質的支配者とは、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む。)に該当する者をいいます。

 具体的には以下の(1)又は(2)に該当する者です。

(1) 会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合は除く。)

(2) (1)に該当する者がいない場合は、会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合は除く。)

 ここで「自然人とみなされるもの」には、国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場企業等及びその子会社が該当します(犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第5項、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第14条、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第11条第4項参照)。

3 手続の流れ

 実質的支配者情報一覧の保管及び写しの交付の流れは、以下の通りです。

(1) 会社の代表者又は代理人による申出   ①実質的支配者情報一覧の作成   ②申出書の作成   ③添付書面の準備(以下<添付を要する書面>及び<添付可能な書面>参照)   ④申出書を申出会社の本店所在地を管轄する商業登記所に提出

(2) 商業登記所による確認及び交付   ①登記官による申出内容の確認   ②実質的支配者情報の保存   ③商業登記所に保管された実質的支配者情報一覧の写しである旨の認証文付きの実質的支配者情報一覧の写しの交付

 申出書に添付する書面として、以下のものが挙げられています。

<添付を要する書面(本規則第4条第1項)>

(1) 実質的支配者情報一覧

(2) 申出会社に係る次に掲げる書面のいずれか   ①申出日における株主名簿の写し   ②公証人が発行する申告受理及び認証証明書(設立後最初の事業年度を経過していない場合に限る。)   ③法人税確定申告書別表二の写し(申出日の属する事業年度の直前事業年度に係るもの。設立後最初の事業年度を経過している場合に限る。)。

(3) 上記(1)の実質的支配者情報一覧の記載と上記(2)の書面の記載とで内容が合致しない場合には合致していない理由を明らかにする書面

<添付可能な書面(本規則第4条第2項)>

(1) 実質的支配者の氏名及び住居と同一の氏名及び住居が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該実質的支配者が原本と相違ない旨を記載した謄本を含む。) ※例:運転免許証の表裏両面のコピー、住民票の写し

(2) 上位会社(実質的支配者の支配法人)に係る<添付を要する書面>(2)①から③までに掲げる書面のいずれか

 ただし、実質的支配者リストの記載と上記書面の記載とで内容が合致しない場合には、その理由を明らかにする書面の添付を要する。

4 本制度における留意点

 (1) 実質的支配者に関する情報の真実性を証明するものではないこと

 本制度の実質的支配者は、申出会社の申告による情報に基づき、議決権の保有割合を形式な基準として判断されるものであり、登記官が実質的支配者自体を証明するものではありません。実際に、実質的支配者情報リストの写しには、「これは、会社において作成した実質的支配者情報一覧について、登記官が各添付書面欄記載の書面と整合することを確認して保管を行ったものの写しであり、記載されている内容が事実であることを証明するものではない。」と付記されます(「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則の施行に伴う事務の取扱いについて(通達)」、第2の2(4)イ(ウ))。

 なお、申出会社が虚偽の資料を用いるなどして申出を行った場合には、個別の事案に応じて、関係法令に基づき制裁が科される可能性があります(「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規定案に関する意見募集の結果について」、15番)。例えば、申出会社が株主名簿に虚偽の記載をした場合には、会社法976条7号の規定により、100万円以下の過料に処せられることになります。

(2) 実質的支配者が変更された場合の申出は任意であること

 本制度は、任意の申出に基づいて実質的支配者リストの写しを発行するものであるため、実質的支配者リストに記載されている情報に変更があった場合でも、変更後の実質的支配者リストの保管及び写しの交付の申出をするかどうかも任意となります。したがって、新たな情報が記載された実質的支配者リストの写しを必要な場合は、改めて申出をする必要があります(法務省「実質的支配者リスト制度Q&A」、5-2)。

以上

Older Posts »