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2023年11月13日(月)11:40 AM

「企業買収における行動指針」の概要に関するニュースレターを発行いたしました。今回は、第1回として、上記行動指針の原則と基本的視点を解説しています。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

【第1回】「企業買収における行動指針」の概要 ~原則と基本的視点について~

 

【第1回】「企業買収における行動指針」の概要
~原則と基本的視点について~

2023年11月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 日本におけるM&Aを健全な形でさらに発展させていく観点から、M&Aに関する公正なルールとして「企業買収における行動指針[1]」が新たに策定され、2023年8月31日に公表されました(以下「本指針」といいます)。

1 概要

 本指針は、次のとおり全6章で構成されています。

第1章 はじめに
第2章 原則と基本的視点
第3章 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範
第4章 買収に関する透明性の向上
第5章 買収への対応方針・対抗措置
第6章 おわりに

 本ニュースレターでは、第1章及び第2章を取り上げ、第3章以降については、次回以降数回に分けて解説いたします。

2 「第1章 はじめに」について

(1)本指針の意義

 本指針の目的は、「公正な買収の在り方に関する研究会」における議論等を踏まえて、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に、M&Aに関する公正なルール形成に向けて経済社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスを提示することとされています。

 また、公正なM&A市場を整備することで市場機能が健全に発揮され、望ましい買収が活発に行われることは、買収による企業の成長に資するものであり、また、買収が活発に行われることは、業界再編の進展、資本効率性の低い企業の多い日本の資本市場における健全な新陳代謝にも資するものであり、本指針は、公正なM&A市場の確立に向けたさらなる一助となり、更には望ましい買収の実行を促進させることが期待されています。

(2)本指針の対象

 本指針は、買収者が上場会社の株式を取得することでその経営支配権を取得する行為を主な対象としており、対象会社の経営陣からの要請や打診を受けて買収者が買収を提案する場合のみならず、経営陣からの要請や打診が行われていない中で買収提案が行われる場合も射程に含まれています。

 また、買収の方法については、公開買付け、市場内買付け、相対取得等の金銭を対価とする株式の取得を行う場合を主に念頭に置いているものの、株式を対価とする株式の取得や、合併、株式交換、株式交付等の組織再編によって経営支配権を取得する行為等についても、必要に応じて取り上げられています。

3 「第2章 原則と基本的視点」について

(1)買収一般において尊重されるべき3つの原則

 本指針では、上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき原則として、次の3つの原則が提示されています。

①企業価値・株主共同の利益の原則(第1原則)
望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきであるという原則。

②株主意思の原則(第2原則)
会社の経営支配権に関わる事項については、株主の合理的な意思に依拠すべきであるという原則。

③透明性の原則(第3原則)
株主の判断のために有益な情報が、買収者と対象会社から適切かつ積極的に提供されるべきである。そのために、買収者と対象会社は、買収に関連する法令の遵守等を通じ、買収に関する透明性を確保すべきであるという原則。

(2)基本的視点

望ましい買収
 買収取引の実施について、買収者や対象会社、株主が合理的に行動し買収取引が行われることを通じて、シナジーによる価値向上や、経営の効率の改善を促すことが期待され、買収の可能性があることは、現在の経営陣に対する規律として機能すると指摘されています。

 また、買収が成立した場合には、買収者は自らの経営戦略の実行により向上した企業価値が買収対価を上回る部分を享受できる一方で、株主は、買収対価が足元の株価を上回る部分(いわゆるプレミアム)を享受することができるとされています。

 これらの買収が持つ機能が発揮され、市場が経済的な効果を上げるためには、買収の当事者及び関係者が尊重し遵守すべき行動規範が求められるとされています。

企業価値の向上と株主利益の確保
 一般に、買収が実行される場合には、対象会社の企業価値を向上させ、かつ、その企業価値の増加分が当事者間で公正に分配されるような取引条件で行われるべきであるとされています。

 価格等の取引条件自体については一定の幅があるものとして取り扱われるべきものであるが、特に取締役会が買収に応じる方針を決定する場合は、対象会社の取締役が会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断することに加えて、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力が行われるべきとされています。このような努力が適切にされる場合には、買収が企業価値を向上させ、その企業価値の増加分が買収者と対象会社の株主の間で公正に分配されるような取引条件で行われたものと期待しやすいとされています。

株主意思の尊重と透明性の確保
 会社の経営支配権に関わる事項については、原則として、株主の合理的な意思に依拠すべきであるが、買収者や対象会社の取締役会と株主の間には情報の非対称性があり、買収の是非や取引条件に関する正しい選択を株主が行うためには、十分な情報が株主に提供される必要があると指摘されています。

 通常、買収における株主意思の尊重は、公開買付けへの応募等を通じて株主の判断を得る形で行われるものであり、そのために必要な情報や時間を確保するための制度・枠組みが構築されているため、このような制度・枠組みを遵守することを通じて、透明性を高め、株主に十分な情報や時間を提供することで、株主の適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)が行われることが期待されます。

 買収者は、買収の公表に至るまでは対象会社に対して説明を行うとともに、公表後は公開買付届出書などへの適切な記載を通じて株主を含めた市場に対する説明責任を果たす必要があるとされ、対象会社の取締役会は、当該買収が企業価値の向上及び株主利益の確保に資すると考えるか、より望ましい方策が他にあるかについて、自らの利害を離れて、自らの意見を株主に示すことが求められるとされています。

 

[1] 経済産業省「企業買収における行動指針」

2023年10月13日(金)2:30 PM

改正再エネ特措法施行規則の概要を解説する、ニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

改正再エネ特措法施行規則の概要

改正再エネ特措法施行規則の概要

2023年10月12日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 近年、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、安全面、防災面、景観・環境等への影響、将来の廃棄等に対する地域の懸念が顕在化しています[1]。こうした懸念を解消すべく、災害の危険性に直接影響を及ぼし得るような土地開発に関わる関係法令の許認可の取得について、FIT/FIP制度認定の申請要件とすること等が取りまとめられた「再生可能エネルギー電気の利用に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令[2]」が2023年10月1日に施行されました(以下「本改正」といいます)。

1 概要

 本改正では、主に次の2点に関して改正されました。

①森林法・宅地造成及び特定盛土等規制法・砂防三法に係る認定手続厳格化
②屋根設置太陽光発電設備に関する認定手続厳格化

 以下、各改正点について解説いたします。

2 森林法・宅地造成及び特定盛土等規制法・砂防三法に係る認定手続厳格化

 再生可能エネルギー電気の利用に関する特別措置法施行規則(以下「施行規則」といいます)第4条の2は、FIT/FIP認定手続の申請に必要な添付書類について定めており、FIT/FIP認定の要件として、以下の許可等の処分を受けていること等を示す書類が必要添付書類として追加されました(改正施行規則第4条の2第2項第7号の2)。

①森林法第10条の2第1項の開発行為の許可
②宅地造成及び特定盛土等規制法第12条第1項及び第30条第1項の許可
③砂防法第4条第1項の規定に基づく制限として行う処分
④地すべり等防止法第18条第1項及び第42条第1項の許可
⑤急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第7条第1項の許可

 なお、当該認定の申請までに当該許可等の処分を受けていることを求めないことに特段の理由がある場合は、この限りでないとされています。具体的には、当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備が風力発電設備又は地熱発電設備であって、環境アセスメント手続の対象である場合を指すとされています。該当する場合においては、認定から3年以内に当該許可等の処分を取得することを条件とした条件付認定を行うとし、下記の場合は認定を取り消すとされています。

(A)環境アセスメント手続完了前に一連の事業に着手した場合
(B)環境アセスメント手続完了後であっても当該許可等の処分取得前に開発行為に着手した場合
(C)認定から3年以内に当該許可等の処分を取得できなかった場合

 さらに、当該許可等の処分の要否に関する変更であって、当該許可等の処分に関連する制度の変更に伴うものは、軽微でない変更に追加されました(改正施行規則第9条第1項第11号の2)。

3 屋根設置太陽光発電設備に関する認定手続厳格化

 FIT/FIP認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備が屋根設置太陽光発電設備である場合は、以下の書類(当該認定の申請までに当該屋根設置太陽光発電設備を設置予定の建築物に関する工事が完了していない場合には、当該書類を当該屋根設置太陽光発電設備の運転開始までに提出することを約する書類)及び当該屋根設置太陽光発電設備の太陽電池の全てが当該建築物の屋根に設けられていることを示す図面が添付書類として追加されました(改正施行規則第4条の2第2項第8号の2)。

(ⅰ)当該建築物に係る建築基準法第7条第5項又は第7条の2第5項の検査済証の写し
(ⅱ)当該建築物に係る不動産登記法第119条第1項の登記事項証明書
(ⅲ)当該屋根設置太陽光発電設備に係る電気事業法施行規則第66条第1項の工事計画(変更)届出書の写し又は第78条第1項の使用前自己確認結果届出書の写し
(ⅳ)当該屋根設置太陽光発電設備の太陽電池の全てが当該建築物の屋根に設けられていることを示す写真

 なお、屋根設置太陽光発電設備については、その出力が10kW以上のものである場合又はその出力が10kW未満のものであって複数太陽光発電設備設置事業を営む者からの認定の申請である場合に限られています。

 また、屋根設置太陽光発電設備について、FIT/FIP認定基準として、以下の事項が追加されました(改正施行規則第5条第1項第10号の2)。

(a)当該屋根設置太陽光発電設備を設ける建築物が建築基準法第7条第5項又は第7条の2第5項の検査済証の交付を受けたものであること(当該認定の申請までに当該建築物に関する工事が完了していない場合には、当該屋根設置太陽光発電設備の運転開始までに当該検査済証の交付を受けるものであること)
(b)当該屋根設置太陽光発電設備を設ける建築物について、当該建築物に係る不動産登記法第47条第1項の表題登記を完了していること(当該認定の申請までに当該建築物に関する工事が完了していない場合には、当該屋根設置太陽光発電設備の運転開始までに当該表題登記を完了するものであること)
(c)当該屋根設置太陽光発電設備の太陽電池の全てについて、当該建築物の屋根に設けるものであること
(d)当該認定の申請までに当該建築物に関する工事が完了していない場合には、当該屋根設置太陽光発電設備の運転開始までに、前述の(i)(ii)(iv)の書類を提出するものであること

[1] 経済産業省「再エネ長期電源化・地域共生WG 第2次取りまとめ(案)の概要①」
[2] 経済産業省「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等の概要」

2023年09月13日(水)12:00 PM

2023年8月1日に法務省より公表された資料「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」の概要を解説するニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供に関する指針の概要(PDF)

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供に関する指針の概要

2023年9月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2023年8月1日、企業間で交わす契約書等をAIで作成や審査するサービスの提供に関する指針である「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」が法務省より公表されました[1][2](以下「本ガイドライン」といいます)。

1 背景

 「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービス」とは、AI等を用いて契約書等(契約書、覚書、約款その他の名称を問わず、契約等の法律行為等の内容が記載された文書又はそれらの内容が記録された電磁的記録)の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービスを指します(以下「本件サービス」といいます)。

 本件サービスは法律に関連する業務をITで効率化するリーガルテックの1つであり、複数の企業等がサービスを提供しています。AI等を用いたリーガルテックは、サービスによっては弁護士以外による法律事務を禁じる弁護士法第72条との関係が懸念されており、企業の法務機能を通じた国際競争力向上や、契約書審査やナレッジマネジメントにおける有用性等に鑑みて、本ガイドラインが作成されました。

 本ニューズレターでは、本ガイドラインの概要について解説いたします。

2 概要

 弁護士法第72条では、以下のとおり弁護士でない者の法律事務の取扱い等、いわゆる「非弁行為」を禁止しています。

第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


 本ガイドラインでは、本件サービスが次の①から③の各要件のいずれかに該当しない場合は、本件サービスの提供は同条に違反しないとの考えが示されました。

①報酬を得る目的であること

②対象とする案件が、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件であること

③サービスの機能・表示内容が鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務であること

 以下、各要件について解説いたします。

(1)要件①:報酬を得る目的について

 本ガイドラインでは「報酬」について、「法律事件に関し、法律事務取扱のための役務に対して支払われる対価をいうとされるところ、『報酬』には、現金に限らず、物品や供応を受けることも含み、額の多少は問わず、第三者から受け取る場合も含むと考えられる。また、『報酬』と認められるためには、当該利益供与と本件サービスの提供との間に対価関係が認められる必要があると考えられる」と示されています。

 上記を踏まえ、「報酬を得る目的」に該当しない例と該当し得る例は次のとおりです。

該当しない例 該当し得る例
・事業者が利用料等一切の利益供与を受けることなくサービスを提供する場合

金銭支払等の利益供与と本件サービスの提供との間に実質的に対価関係が認められるときで、以下のような場合

ア.事業者が提供する他の有償サービスを契約するよう誘導するとき

イ.第三者が提供する有償サービスを利用するよう誘導するとともに、本件サービスの利用者が当該第三者が提供する有償サービスを利用した際に当該第三者から当該事業者に対して金銭等が支払われるとき

ウ.顧問料・サブスクリプション利用料・会費等の名目を問わず金銭等を支払って利用資格を得たものに対してのみ本件サービスを提供するとき


 なお、「報酬を得る目的」に該当し得るか否かの判断は、本件サービスの運営形態、本件サービスと他の有償サービスとの関係、利用者・事業者・当該有償サービスの提供者・金銭等の支払主体等の関係者相互間の関係、支払われる金銭等の性質や支払の目的等諸般の事情が考慮されます。

(2)要件②:対象とする案件について

 弁護士法第72条に列挙されている「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件」は「法律事件」であり、これらに準ずる程度に法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有する、いわゆる「事件性」があるものが「その他一般の法律事件」に該当するとしています。この「事件性」の該当性の判断は、個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して行われます。

 上記を踏まえて、「その他一般の法律事件」に該当しない例と該当し得る例は次のとおりです。

該当しない例 該当し得る例

・親子会社やグループ会社間において従前から慣行として行われている物品や資金等のフローを明確にする場合

・継続的取引の基本となる契約を締結している会社間において特段の紛争なく当該基本契約に基づき従前同様の物品を調達する契約を締結する場合

・取引当事者間で紛争が生じた後に、当該紛争当事者間において、裁判外で紛争を解決して和解契約等を締結する場合


 なお、上記以外の場合で、企業法務において取り扱われる通常の業務に伴う契約書の作成やレビューは、「事件性」はないものの、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して、『事件性』が判断されるべき」としています。

(3)要件➂:サービスの機能・表示について

 「法律事務」とは、弁護士法第72条に列挙されている「鑑定、代理、仲裁若しくは和解」のほか、法律上の効果を発生・変更等する事項の処理をいい、「法律事務」に当たるかどうかは、本件サービスにおいて提供される具体的な機能や利用者に対する表示内容から判断されます。本ガイドラインでは、本件サービスを、(1)契約書等の作成業務を支援するサービス、(2)契約書等の審査業務を支援するサービス、(3)契約書等の管理業務を支援するサービスの3つに分類しています。

 各サービスが「法律事務」に該当するか否かの事例は次のとおりです。

  該当しない例 該当し得る例
(1)契約書等の作成業務を支援するサービス ・その利用者があらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択することにより、その結果に従って、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した複数の契約書等のひな形から特定のひな形が選別されてそのまま表示されるか、複数のひな形の中から特定のひな形が選別された上で、利用者が入力した内容や選択した選択肢の内容が当該選別されたひな形に反映されることで、当該選別されたひな形の内容が変更されて表示されるにとどまる場合

・その利用者による非定型的な入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示される場合

・その利用者が、あらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択する場合であっても、極めて詳細な項目、選択肢が設定されることにより、実質的には利用者による非定型的な入力がされ、当該入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示されるものと認められる場合

(2)契約書等の審査業務を支援するサービス

・審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分がある場合に、当該相違部分が、その字句の意味内容と無関係に表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性と無関係に、両者の言語的な意味内容の類似性のみに着目し、両者の記載内容に当該類似性が認められる場合に、当該類似部分が表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等にある記載内容について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容又はチェックリストの文言と一致する場合や、ひな形の記載内容又はチェックリストの文言との言語的な意味内容の類似性が認められる場合において、

ア.当該契約書等のひな形又はチェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき

イ.同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書 等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき

ウ.同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説が、審査対象となる契約書等の記載内 容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合

・当該契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される場合

(3)契約書等の管理業務を支援するサービス

・管理対象となる契約書等について、契約関係者、契約日、履行期日、契約 更新日、自動更新の有無、契約金額その他の当該契約書等上の文言に応じて分類・表示されるにとどまる場合

・管理対象となる契約書等について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ登録した一定の時期や条件を満たした際に、当該事実とともに、同システムの利用者が契約書等に関してあらかじめ登録した留意事項等が表示されるにとどまる場合

・管理対象となる契約書等の記載内容について、随時自動的に、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合やそれを踏まえた個別の法的対応の必要性が表示される場合

(4)弁護士による本件サービスの利用について

 上記①から③までの要件のいずれにも該当する場合、つまり「報酬を得る目的」であって「法律事件」に関して「法律事務」を取り扱うものであっても、弁護士(組織内弁護士を含みます)が本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用する場合には、弁護士法第72条に違反しないとする考えが示されています。

 

[1] 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(概要)」

[2] 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」

2023年08月16日(水)12:00 PM

改正電気通信事業法の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

改正電気通信事業法の概要

改正電気通信事業法の概要

2023年8月16日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 電気通信事業を取り巻く環境変化を踏まえ、電気通信サービスの円滑な提供及びその利用者の利益の保護を図るため、「電気通信事業法の一部を改正する法律[1]」(令和4年法律第70号)が2023年6月16日に施行されました(以下「改正法」といいます)。

1 概要

  改正法における改正点[2]は、主に以下の3点になります。

 (1) 情報通信インフラの提供確保
 (2) 安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保
 (3) 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備

 (1)情報通信インフラの提供確保は、ブロードバンドサービスの契約数が年々伸び、整備に加えて維持の重要性も高まっていることから、一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に位置付け、ブロードバンドサービスの安定した提供を確保するための交付金制度が創設されました。

 次に、(2)安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保に関しては、情報通信技術を活用したサービスの多様化やグローバル化に伴い、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクが高まるなか、事業者が保有するデータの適正な取扱いが必要不可欠として、大規模な事業者が取得する利用者情報について適正な取扱いを義務付け、事業者が利用者に関する情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与することが義務付けられました。

 さらに、(3)電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備は、携帯大手3社・NTT東・西の指定設備を用いた卸役務が他事業者に広く提供される一方、卸料金が高額であると指摘されていたため、MVNO等との協議の適正化を図るため、卸役務の提供義務及び料金算定方法などの提示義務が課されました。

 本ニューズレターでは、上記改正点のうち、届出事業者の範囲の拡大[3][4]及び外部送信規律[5]について解説いたします。

 2 届出事業者の範囲の拡大

 電気通信事業を営もうとする者は、電気通信事業法第164条第1項の適用除外を除き、電気通信事業を営むことについて第9条の規定による登録を受け、又は第16条第1項の規定による届出を行う必要があります。

図 1 電気通信事業法の規律対象について
(総務省総合通信基盤局作成)

 改正前は、以下の電気通信事業は、電気通信事業法に基づく登録及び届出が不要とされていました(改正前法第164条第1項)。

① 専ら一の者のみに電気通信役務(当該一の者が電気通信事業者であるときは、当該一の者の電気通信事業の用に供する電気通信役務を除く)を提供する電気通信事業(第1号)
② その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む)又は同一の建物内である電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(第2号)
③ 線路のこう長の総延長が5キロメートルに満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(第2号)
④ 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除く)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業(第3号。以下「第三号事業」といいます。)

 改正法では、上記④に関し、ドメイン名電気通信役務に加えて、①「検索情報電気通信役務」及び②「媒介相当電気通信役務」についても第三号事業から除外され、新たに届出が必要な対象となりました(改正法第164条第1項第3号ロ・ハ)。①はオンライン検索サービス、②はSNS・掲示板が該当すると考えられ、届出対象となるのは、いずれもその内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定めるものとされており、具体的にはそれぞれ以下のとおりです。

① 検索情報電気通信役務(改正法第164条第2項第4号、改正法施行規則第59条の3第4項)
 「検索情報電気通信役務」とは、利用者が入力した検索情報(検索ワード等)に対応して当該検索情報が記録されたウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を電気通信役務のうち、(ア)前年度の月間アクティブ利用者数の平均が1000万以上、(イ)分野横断的な検索サービスを提供するものを指します。

② 媒介相当電気通信役務(改正法第164条第2項第5号、改正法施行規則第59条の3第5項)
 「媒介相当電気通信役務」とは、不特定の者から受信した情報をサーバ等の記録媒体に記録し、当該記録された情報を不特定の者に送信するなどの電気通信役務(不特定者間の情報の送受信を実質的に媒介するサービス)のうち、(ア)前年度の月間アクティブ利用者数の平均が1000万以上、(イ)主として不特定の利用者間の交流を目的としたものを指します。

 なお、検索情報電気通信役務又は媒介相当電気通信役務を提供する事業者は、総務大臣による指定を受けた後に届出が必要となります(改正法施行規則第59条の2)。

3 外部送信規律について

 電気通信事業者又は第三号事業を営む者が、利用者に関する情報を外部に送信を行おうとするときは、あらかじめ、送信される内容等について当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならないとする外部送信規律が新たに定められました(改正法第27条の12)。

 外部送信規律の対象となる事業者、利用者に関する情報、事業者が講じるべき措置は、下記のとおりです。

(1) 対象事業者(改正法施行規則第22条の2の27)
電気通信事業者又は第三号事業のうち、ブラウザその他のソフトウェアを通じて、内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少ないものとして、以下の①から④のいずれかに該当する電気通信役務を提供する者とされています。
① 他人の通信を媒介する電気通信役務
(例)利用者間のメッセージ媒介等
② その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
(例)SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール等
③ 入力された検索情報に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
(例)オンライン検索サービス
④ 上記①から③のほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの
(例)ニュース配信、気象情報配信、動画配信、地図等の各種情報のオンライン提供
(2) 利用者に関する情報(改正法施行規則第22条の2の30)
「利用者に関する情報」とは、利用者の端末に記録されている情報のことをいい、具体的には、Cookieや広告ID等の識別符号、利用者の氏名等、利用者以外の者の連絡先情報等の幅広い情報が含まれます。ただし、当該電気通信事業者のサービスの提供のために真に必要な情報や、当該電気通信事業者が利用者に送信した識別符号は、外部送信規律における通知・公表等の措置の対象外とされています。
(3) 事業者が講じるべき措置(改正法施行規則22条の2の28~31)

外部送信規律の適用を受ける電気通信事業者は、以下の3つの所定事項について利用者に通知又は公表しなければなりません。
① 当該利用者に関する情報の内容
② ①に規定する情報の送信先となる電気通信設備を用いて当該情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称
③ ①に規定する情報の利用目的

また、通知等又は公表の方法についても規定されており、以下のいずれにも該当する方法により行う必要があります。
(a) 日本語を用い、専門用語を避け、及び平易な表現を用いること
(b) 操作を行うことなく文字が適切な大きさで利用者の電気通信設備の映像面に表示されるようにすること
(c) 上記(a)(b)に掲げるもののほか、利用者が所定事項について容易に確認できるようにすること

なお、通知又は公表に代わって利用者の同意を取得する方法又はオプトアウト措置により外部送信規律への対応を行うことも可能としています。この場合においても、利用者に対し、事前に利用者に関する情報等を通知しなければならない点に留意する必要があります。

 改正法では、事業者が利用者への通知又は公表を行わなかった場合、総務省による業務改善命令の措置をとることができると定められており(改正法第29条第2項)、業務改善命令に違反した場合には、200万円以下の罰金が科されます(改正法第186条第3号)。

 また、総務省による報告徴収及び検査の対象として第三号事業者が追加され、報告徴収及び検査に対する報告を実施しない、又は虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金が科されるとしています(改正法第166条、第188条第17号)。

 

[1] 総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律」新旧対照条文
[2] 総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律」概要
[3] 総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」
[4] 総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」
[5] 総務省HP「外部送信規律FAQ」

2023年07月14日(金)4:37 PM

改正特定商取引法の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

改正特定商取引法の概要

改正特定商取引法の概要

2023年7月14日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年6月16日、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律[1]」(令和3年法律第72号)が公布されました。この法律により「特定商取引に関する法律[2]」(昭和51年法律第57号。以下「改正法」といいます)が改正され、通信販売の詐欺的な定期購入商法の対策強化、送り付け商法の対策強化、消費者利益の擁護増進のための規定の整備が主に行われました。
 本ニューズレターでは、改正法のうち、2023年6月1日より施行された契約書面等の電子化に係る規定に関して解説いたします[3][4]。

1 概要

 改正前の特定商取引法では、訪問販売等の一定の取引を行う場合、事業者は、次の書面(以下総称して「契約書面等」といいます)を紙にて交付する義務がありました。

① これから勧誘しようとする取引等の概要について記載した書面(概要書面)
② 申込みの内容を記載した書面(申込書面)
③ 契約内容を明らかにする書面(契約書面)

 改正法では、これらの契約書面等について、紙での交付を原則としながら、消費者の承諾を得た上で、当該契約に関する事項を記載した契約書面等を電磁的方法により提供することが可能になりました(改正法第4条2項、第13条2項、第18条2項、第20条2項、第37条3項、第42条4項、第55条3項、第58条の7第2項)。
 以下では、具体的な電磁的方法の種類等、事業者が消費者から電子化の承諾を得る際の定められた手続き、契約書面等を電子化する際の留意点について解説します。

2 電磁的方法の種類及び内容の提示

 事業者は、あらかじめ、消費者に対し電磁的方法による提供に用いる電磁的方法の種類及び内容を示した上で、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を行うに当たっての承諾を得る必要があります(改正法施行令 第4条1項)。
 具体的な電磁的方法の種類及び内容は、次のとおりです(改正法施行規則 第9条)。

① 改正法施行規則第8条1項に掲げる方法のうち、事業者が実際に使用するもの(消費者が複数の電磁的方法の中から選択できる場合には、その選択できる電磁的方法の全て)
② 電磁的方法により提供される書面に記載すべき事項が消費者に係る電子計算機に備えられたファイルへ記録される方式(使用されるファイルの規格や要求されるバージョンを指す)

3 契約書面等を電磁的方法により提供する手続き

 事業者が、消費者から、契約書面等を電磁的方法による提供する際には、改正法令で定められた手続きを踏まえて行う必要があります(改正法施行令第4条、第9条、第10条、第21条、第26条、第32条、第35条)。

図 1 契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供する際の流れ
(消費者庁取引対策課作成)

(1) 承諾の取得に当たっての説明
 事業者は消費者に対し、以下の事項を説明する必要があります(改正法施行規則第10条1項)

① 電磁的方法による交付の承諾をしなければ、原則どおり書面が交付されること
② 電磁的方法により提供される事項は、書面に記載すべき事項であり、かつ、消費者にとって重要なものであること
③ 書面に記載すべき事項をCD-R等の電磁的記録媒体を交付する以外の電磁的方法で提供する場合においては、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に消費者に到達したものとみなされ、かつ、到達した時から起算して8日を経過した場合、クーリング・オフができなくなること
④ 電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な電子計算機(映像面の最大径が4.5インチ以上であるもの)を通常使用し、かつ、当該提供を受けるために電子計算機を自ら操作(当該提供が完結するまでの操作)することができる消費者に限り、電磁的方法による提供を受けることができること

 上記の事項を説明する際は、消費者が理解できるように平易な表現を用いなければなりません(改正法施行規則第10条2項)。

(2) 承諾の取得に当たっての適合性等の確認
 事業者は消費者に対して、以下の事項を確認する必要があります(改正法施行規則第10条3項)。

① 消費者が電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、かつ、当該閲覧のために必要な電子計算機及び電子メールにより契約書面等に記載すべき事項を提供する場合には電子メールアドレスを日常的に使用していること
② 消費者が閲覧のために使用する必要な電子計算機に係るサイバーセキュリティを確保していること
③ 消費者があらかじめ指定する者に対しても契約書面等に記載すべき事項を電子メールにより送信することを求める意志の有無及び(消費者が当該送信を求める場合においては)消費者が指定する者の電子メールアドレスを確認すること

 上記の事項を確認するときは、消費者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者の設けるウェブサイト等を利用する方法により行わなければなりません(改正法施行規則第10条4項)。

(3) 承諾の手続
 消費者から書面又は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって改正法施行規則第11条で定めるものによって、承諾を得るものと定められています(改正法施行令第4条1項)。情報通信の技術を利用した場合の承諾の取得方法は、次の3つの方法が掲げられています(改正法施行規則第11条1項)。

① 電子メール等によって承諾する旨の送信する方法
② 事業者のウェブサイト等を利用する方法
③ 消費者が電磁的記録媒体に承諾する旨を記録して、当該媒体を事業者に交付する方法

 なお、これらの方法は、事業者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものである必要があります(改正法施行規則第11条2項)。
 さらに、 消費者が真意に基づき承諾したことを確実に担保するために、承諾に当たっては、消費者に氏名等の記入を求め、消費者に一切の必要事項の具体的記入すら求めないチェックボックスやボタン押下による承諾は、政令が定める方式に基づく承諾とはならないことに留意する必要があります(改正法施行規則第10条5項)。

(4) 承諾を得たことを証する書面の交付
 消費者より承諾を得たときは、事業者は消費者に対し、電磁的方法による提供を行うまでに、当該承諾を得たことを証する書面(当該承諾を書面によって得た場合においては、当該書面の写しを含む)を交付する義務があります(改正法施行規則第10条7項)。
 「当該承諾を得たことを証する書面」の記載事項としては、消費者が契約書面等の交付に代えて当該記載事項を具体的にどのような電磁的方法により提供を受けることについて承諾したのかを明らかにされた書面であることなどが典型例として考えられます。ただし、この承諾を得たことを証する書面について、(ア)特定継続的役務提供、連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引において交付される概要書面、(イ)取引全体をオンラインで完結させることが可能な特定継続的役務提供契約及び特定権利販売契約を締結した場合の契約書面に限り、電磁的方法により提供することが認められています(改正法施行規則第99条8項)。

(5) 電磁的方法による提供
 事業者が契約書面等を電磁的方法により提供する方法は、以下の3つの方法が定められています(改正法施行規則第8条1項)。

① 電子メール等によって契約書面等に記載すべき事項を送信する方法
② 事業者のウェブサイトを利用する方法
③ 事業者が記録媒体に契約書面等に記載すべき事項を記録して、当該記録媒体を消費者交付する方法

 さらに、次のとおり上記の電磁的方法として満たすべき基準も規定されています(改正法施行規則第8条2項)。

① 消費者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものであること
② ファイルに記録された書面に記載すべき事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置が講じられていること
③ ダウンロードによる方法の場合、ファイルに記録された書面に記載すべき事項を事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する旨又は記録した旨を消費者に対し通知するものであること

 なお、契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供するに当たり、事業者は、消費者が当該事項を明瞭に読むことができるように表示する必要があります(改正法施行規則第8条3項)。

(6) 第三者への契約書面等に記載すべき事項の送信
 事業者は、消費者が希望する場合には、契約書面等に記載すべき事項を消費者が指定する者に電子メールにより送信する必要があります(改正法施行規則第10条6項)。
例として、消費者に電子メールで契約書面等に記載すべき事項を提供する場合、消費者が指定する者のメールアドレスも宛先などに加えて電子メールを送信する方法が考えられます。

(7) 到達の確認
 事業者は、契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により消費者に提供したときは、消費者に対し、契約書面等に記載すべき事項が消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたか否か及び契約書面等に記載すべき事項の閲覧に支障があるか否かを改正法施行規則第12条で定める方法により確認する必要があります(改正法施行令第4条3項)。
 具体的な確認方法について、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録され、かつ、消費者が閲覧することができる状態に置かれたことを確認することにより行うこととされています(改正法施行規則第12条)。

4 留意点

 改正法では、一定の行為を契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係る事業者の禁止行為として、行政処分の対象と定められています(改正法第7条、改正法施行規則第18条等)。例えば、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を希望しない旨の意思を表示した消費者に対し、電磁的方法による提供に係る手続を進める行為や、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を受けるように威迫し困惑させる行為などが禁止されています。
 また、事業者が改正法令上の手続き等に違反した場合、消費者庁より消費者の利益保護等の観点から当該違反行為の是正のための措置、2年以内の業務停止処分、役員等に対する業務禁止処分が行われる可能性があります(改正法第8条、第8条の2)。

 

[1] 消費者庁「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」新旧対照条文
[2] 「特定商取引に関する法律」
[3] 消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法改正に係る令和5年6月1日施行に向けた事業者説明会について」
[4] 消費者庁「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」
[5] 「特定商取引に関する法律施行令」
[6] 「特定商取引に関する法律施行規則」

 

2023年06月13日(火)11:01 AM

改正消費者契約法の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

改正消費者契約法の概要

 

改正消費者契約法の概要

2023年6月13日

One Asia Lawyers 東京事務所

弁護士 松宮浩典

「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」[1](令和4年法律第59号)が2022年6月1日に公布、2023年6月1日に施行されました。

本ニューズレターでは、上記法律によって改正された消費者契約法(以下「改正法」といいます)に関して解説いたします。

1.概要

 改正法における主な改正点[2]は、次のとおりになります。

①契約の取消権の追加

②解約料の説明の努力義務

③免責の範囲が不明確な条項の無効

④事業者の努力義務の拡充

上記の改正点についてそれぞれ解説いたします。

2.契約の取消権の追加(改正法第4条3項)

 消費者契約法において、消費者が事業者の一定の行為(困惑を通じて消費者の意思表示に瑕疵をもたらすような不適切な勧誘行為)により困惑し、それにより当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、取消しが認められることとされています。改正前の消費者契約法では、事業者の一定の行為として、以下の8つの類型が定められていました。

①不退去

②退去妨害

③社会生活上の経験が乏しいことを不当に利用して、不安をあおる告知

④社会生活上の経験が乏しいころを不当に利用して、恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用

⑤加齢等による判断力の低下の不当な利用

⑥霊感等による知見を用いた告知

⑦契約締結前に契約による義務の全部若しくは一部を実施し、原状回復を著しく困難にすること

⑧契約締結前に契約締結を目指した事業活動を実施し、これにより生じた損失の補償を請求する旨の告知

 改正法では、新たに以下の3つの類型が追加されました。

⑨勧誘することを告げずに、退去困難な場所へ同行し勧誘をすること(改正法第4条3項3号)

⑩威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害すること(改正法第4条3項4号)

⑪契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にすること(改正法第4条3項9号)

3.解約料の説明の努力義務(改正法第9条2項)

 改正前の消費者保護法では、契約の解除等に伴う違約金等の額及び説明に関する明文規定はありませんでした。事業者から消費者に対し違約金等を請求する際に、違約金等について説明をする必要がないため、高額な違約金等を設定して不当に利益を得る場合がありました。

そこで改正法では、消費者からの求めに応じて、事業者に対して違約金等の算定根拠の概要について説明する努力義務が定められました。

第9条2項

事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。

4.免責の範囲が不明確な条項の無効(改正法第83項)

 改正前の消費者保護法において、事業者に故意又は重大な過失がある場合における事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項は無効とされていました。しかしながら、事業者に軽過失が認められる限度で契約条項を有効にするために特段の要件は設けられておらず、「関連法令に反しない限り」等の留保文言によって事業者に軽過失が認められる限度で契約条項を有効とすることが可能でした。

 改正法では、損害賠償責任の一部を免除する契約条項は、事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載することが求められ、軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない条項は無効となります。

 例えば、「関連法令に反しない限り」や「法律上許される限り」といった記載ではなく、「弊社に軽過失がある場合に限り」や「弊社に故意又は重過失がある場合を除き」等と規定することで、軽過失による行為に限り適用されることが明らかにされているため、当該契約条項は無効とならないと考えられます。

第8条3項

事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

5.事業者の努力義務の拡充(改正法第31項)

 改正により、事業者に対して次のような努力義務が課されることになりました。

まず、事業者が消費者に契約締結の勧誘をする際、個々の消費者の知識及び経験に加え、「年齢、心身の状態」を総合的に考慮した上で、契約の目的となる者の性質に応じて、契約内容についての必要な情報を提供することが努力義務として課されました(改正法第3条1項2号)。

 また、消費者が定型約款の表示請求権(民法第548条の3第1項)を実際に行使できるようにするため、事業者の努力義務として定型約款の表示請求権についての必要な情報を提供することが規定されました(改正法第3条1項3号)。

 さらに、消費者が解除権の行使に関する情報の提供を求めたときは、解除権の行使に関して必要な情報を提供する努力義務が定められました(改正法第3条1項3号)。

第3条1項

事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。

1 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

2 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。

3 民法(明治29年法律第89号)第548条の2第1項に規定する定型取引合意に該当する消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者が同項に規定する定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じているときを除き、消費者が同法第548条の3第1項に規定する請求を行うために必要な情報を提供すること。

4 消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供すること。

 

[1] 消費者庁「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」新旧対象条文

[2] 消費者庁「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」概要

以上

2023年05月15日(月)10:16 AM

日本における労働条件明示の制度改正の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

労働条件明示の制度改正の概要

 

労働条件明示の制度改正の概要

2023年5月15日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の公布等について[1]」(令和5年3月30日基発0330第1号)が2023年3月30日に公表されました。無期転換ルール及び労働契約関係の明確化が行われることになり、改正された労働条件明示のルールが2024年4月1日に施行される予定です(以下「本改正」といいます)。

1 概要

 本改正における主な改正点[2]は、次のとおりになります。

 ①就業場所・業務の変更の範囲の明示
 ②更新上限の明示
 ③無期転換申込機会の明示
 ④無期転換後の労働条件の明示

 本ニューズレターでは、本改正の概要について解説いたします。

2 就業場所・業務の変更の範囲の明示

 現行では、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、下記の労働条件を原則書面の交付により明示しなければならないとされています(労働基準法第15条1項、労働基準法施行規則第5条1項、3項、4項)。

労働契約締結及び更新時の労働条件明示事項

(1)    労働契約の期間
(2)    (有期労働契約の場合)有期労働契約を更新する場合の基準
(3)    就業の場所及び従事すべき業務
(4)    始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(5)    賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)    退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

 上記のとおり「就業の場所及び従事すべき業務」は労働条件明示事項の1つでしたが、「雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務」で足りるとされていました(平成11年1月29日基発第45号[3])。

 本改正では、「就業の場所及び従事すべき業務」に加えて、これらの「変更の範囲」(将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲)についても明示事項に追加されました(改正労働基準法施行規則[4]第5条1項1号の3)。なお、就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示は、全ての労働契約の締結時及び有期労働契約の更新のタイミングごとに明示する必要があります。

3 更新上限の明示

 本改正では、有期労働契約の締結及び契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容の明示が義務付けられました(改正労働基準法施行規則第5条1項1号の2)。

 また、以下の場合は、更新上限を新たに設ける又は短縮する理由を有期契約労働者に対し、更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで説明する必要があります(改正有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準[5]第1条)。

 ①最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合
 ②最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合

4 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示

(1)無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示

 同一の使用者との間で、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合には、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるとされています(以下「無期転換ルール」といいます。労働契約法第18条1項)。

 この無期転換ルールに対する労働者全体の認知状況を踏まえ、より一層の周知徹底を図るため、本改正では、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、①無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示及び②無期転換後の労働条件の明示が必要となりました(改正労働基準法施行規則第5条5項)。

 上記①及び②の例として、厚生労働省が公表しているモデル労働条件通知書[6]には、「本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日(〇年〇月〇日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり))」という記載が入れられています。

 なお、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件について明示することが求められます。

(2)無期転換後の労働条件に関する説明

 また、本改正では、無期転換後の労働条件を明示する場合、使用者は、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項について、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないと定められました(改正有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第5条)。

以上

[1] https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080722.pdf

[2] 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります

[3] https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1912&dataType=1&pageNo=1

[4] 令和5年3月30日厚生労働省令第39号

[5] 令和5年3月30日厚生労働省告示第114号

[6] https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080104.pdf

 

2023年04月13日(木)11:58 AM

日本における改正民事訴訟法の一部施行の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正民事訴訟法の一部施行の概要

 

改正民事訴訟法一部施行の概要

2023年4月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年5月号で取り上げた「民事訴訟法等の一部を改正する法律案[1]」(令和4年法律第48号。以下「改正法」といいます)は、2022年5月18日に成立し、同月25日に公布されました。

本改正法は、公布後4年以内(令和7年度)までの間に段階的に施行される予定であり、今般一部施行されました。

1 概要

 本改正法における主な改正点[2]は、次の5点になります。

 ①住所、氏名等の秘匿制度の創設
 ②ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し
 ③ウェブ会議を利用して口頭弁論期日に参加することが可能となる仕組み
 ④人事訴訟・家事調停におけるウェブ会議を利用した離婚・離縁の和解・調停の成立等
 ⑤オンライン提出、訴訟記録の電子化、法廷審理期間訴訟手続の創設等

 本ニューズレターでは、①住所、氏名等の秘匿制度の創設(本年2月20日施行)、②ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し(同年3月1日施行)について解説いたします。

2 住所、氏名等の秘匿制度の創設

 改正前の民事訴訟法では、訴状には、原告の住所・氏名等を記載する必要があり、また、原則として誰でも訴訟記録の閲覧が可能であり、当事者に対して訴訟記録の閲覧を制限することを認める規定はありませんでした。それゆえ性犯罪やDVの被害者が、加害者に自己の住所等を知られることをおそれ、訴えの提起を躊躇するおそれがあることが指摘されていました。

 そこで改正法では、一定の要件にて当事者等の氏名・住所等を訴状等に記載しないことなどを可能とする秘匿決定の制度が創設されました(改正法第133条)。本制度の対象となる情報及び要件については、下記のとおりです。

対象となる情報

(改正法第133条1項)

申立て等をする者又はその法定代理人の住所等又は氏名等。

 

l  「申立て等をする者」

(例)原告、被告、当事者参加人、補助参加人

l  「法定代理人」

(例)親権者

l  「住所等」…住所、居所その他その通常所在する場所

(例)職場

l  「氏名等」…氏名その他当該者を特定するに足りる事項

(例)本籍

要件

(改正法第133条1項)

住所等又は氏名等が当事者に知られることにより、申立人等が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。

 

 本制度を利用する場合、申立人等は秘匿決定の申立てを行い、秘匿すべき事項の内容を記載した書面を届け出る必要があります(改正法第133条2項)。上記要件が認められる場合に、裁判所より秘匿決定がなされ、以下の3つの事項が可能となります。

 ①秘匿決定において定めた住所又氏名の代替事項を記載すれば、真の住所又は氏名の記載は不要(改正法第133条5項)

 ②他の当事者等による秘匿事項届出書面の閲覧等は制限される(改正法第133条の2第1項)

 ③訴訟記録中の他の秘匿事項・推知事項の記載部分の閲覧等の制限申立て・決定が可能(改正法第133条の2第2項)

3 ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し

 改正前の民事訴訟法では、民事訴訟の弁論準備手続についてウェブ会議や電話会議を利用するためには、当事者が「遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に該当し、当事者のどちらか一方は裁判所に現実に出頭する必要がありました(改正前法第170条3項、民事訴訟規則第96条1項)。

 本改正により、弁論準備手続におけるウェブ会議等の利用について、遠隔地要件は廃止され、「相当と認めるとき」との要件に改められました。また、当事者双方がウェブ会議等を利用して出席することが可能とされました(改正法第170条3項)。同様に、和解期日についても新たにウェブ会議等を利用して当事者が出席することが可能となりました(改正法第89条2項)。

 今後、ウェブ会議による口頭弁論期日への参加(令和6年5月25日までに施行予定)、人事訴訟・家事調停におけるウェブ会議を利用した離婚・離縁の和解・調停の成立(令和7年5月25日までに施行予定)、オンラインによる訴え提起や書面提出等を可能とする制度(令和8年5月25日までに施行予定)の導入についても予定されており、民事訴訟制度の全体的なIT化が進められていく予定です。

以上

[1] 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」新旧対照条文

[2] 法務省「改正の概要」

2023年02月13日(月)8:59 AM

令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の概要

 

令和4年資金決済等改正に係る政令・内閣府令案等の概要

2023年2月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年8月号で取り上げた「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律[1]」(令和4年6月10日法律第61号。以下「改正法」といいます)は、2022年6月3日に成立し、同月10日に公布されました。

 かかる法改正を受けて、今般、金融庁は、2022年12月26日、令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等[2][3](以下「本政令等案」といいます)を公表しました。

1 概要

 本政令等案における主な規定の整備は、次の3つになります。

 ①電子決済手段等に係る規定の整備
 ②為替取引分析業に係る規定の整備
 ③高額電子移転可能型前払式支払手段に係る規定の整備

 本ニューズレターでは、①電子決済手段等に係る規定整備のうち、いわゆるステーブルコインに関する規制整備について取り上げます。

2 電子決済手段について

(1)電子決済手段の種類

 いわゆるステーブルコインは、改正法で「電子決済手段」と定義され、以下4つの種類があります。

 

該当条文

発行可能者

改正法における定義の概要

改正法第2条5項1号・電子決済府令第2条1項及び2項

銀行等、第二種及び第三種資金移動業者

代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成19年法律第102号)第2条第1項に規定する電子記録債権、第3条第1項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める者を除く。)を除く。②において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(③に掲げるものを除く。)

改正法第2条5項2号

銀行等、第二種及び第三種資金移動業者

不特定の者を相手方として(1)に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(③に掲げるものを除く。)

改正法第2条5項3号

特定信託会社、信託兼営銀行

特定信託受益権

改正法第2条5項4号・電子決済府令第2条3項

 

代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことがで きる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録 されているものに限る。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(①又は③に掲げるものに該当するものを除く。)のうち、当該代価の弁済のために使用することができる範囲、利用状況その他の事情を勘案して金融庁長官が定めるもの

 

(2)特定信託受益権の要件

 「特定信託受益権」とは、金銭信託の受益権(電子情報処理組織を用いて移転することができ、電子機器等に電子的方法により記録される財産的価値に限る。)であって、受託者が信託契約により受け入れた金銭の全額を預貯金により管理するものであり、以下の要件を満たすものとされています(改正法第2条9項、電子決済府令第3条)。

【要件】

 ①円建てで発行される場合 信託財産の全部が預金又は貯金により管理されるものであること。
 ②外貨建てで発行される場合 信託財産の全部がその外国通貨に係る外貨預金又は外貨貯金により管理されるものであること。

 また、一定の要件を満たす特定信託会社(特定信託受益権を発行する信託業法に規定する信託会社及び外国信託会社)は、届出により特定資金移動業(特定信託為替取引のみを営む資金移動業)を営むことが可能となります(改正法第37条の2)。

3 電子決済手段等取引業について

 (1)電子決済手段等取引業の登録

 電子決済手段等の発行者と利用者との間に立つ仲介者が行う以下の行為のいずれかを業として行うことを「電子決済手段等取引業」と定義されました(改正法第2条10項)。

 

内容

(ア)

電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換

(イ)

(ア)に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理

(ウ)

他人のために電子決済手段の管理をすること(信託会社等が信託業法等に基づき行うことも可能(電子決済府令第4条)。)

 また、電子決済手段等取引業を営む場合、内閣総理大臣の登録が必要となり(改正法第62条の3)、以下の登録申請書及び添付書類を提出しなければなりません(改正法第62条の4、電子決済府令第7条乃至第9条)。

【登録申請書】

(電子決済府令別紙様式第1号[4]

主な記載事項

 

(a)     商号及び住所
(b)     資本金の額
(c)      電子決済手段等取引業に係る営業所の名称及び所在地
(d)     取締役及び監査役の氏名
(e)     電子決済手段等取引業の業務の種別
(f)      電子決済手段関連業務を行う場合にあっては、取り扱う電子決済手段の名称並びに当該電子決済手段を発行する者の商号又は名称及び住所
(g)     電子決済手段等取引業の内容及び方法
(h)     電子決済手段等取引業の利用者からの苦情又は相談に応ずる営業所の所在地及び連絡先
(i)      主要株主の氏名、商号又は名称

上記含め約17項目。

【添付書類】

主な添付書類

 

(A)    別紙様式第3号[5]により作成した電子決済手段等取引業者の登録拒否要件(法第62条の6第1項各号)に該当しないことを誓約する書面
(B)    取締役等の住民票の抄本又はこれに代わる書面
(C)    取締役等が破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の官公署の証明書
(D)    別紙様式第5号[6]又は別紙様式第6号[7]により作成した取締役等の履歴書又は沿革
(E)    別紙様式第7号により作成した株主の名簿並びに定款及び登記事項証明書又はこれに代わる書面

上記含め約19書類。

なお、官公庁が証明する書類については、申請日の前3か月以内に発行されたものに限られています。

 

(2)海外発行ステーブルコインの取扱い

 電子決済手段等取扱業者は、一定の要件を満たす外国電子決済手段(以下「海外発行ステーブルコイン」といいます)を取り扱いが可能となります(電子決済府令第30条1項5号)。ただし、①外国電子決済手段の発行者が債務不履行等となった場合、当該債務の履行等が行われていることとされている金額と同額での買取り及び買取りのための必要な資産を保全すること、②電子決済手段等取引業者が管理する利用者の海外発行ステーブルコインを移転する場合において、その1回あたりの移転可能額を100万円以下に限定するなど、利用者の保護のために必要な措置を講じる必要があります(改正法第62条の12、電子決済府令第30条1項6号、ガイドラインⅠ-1-2-3(2))。

以上

[1] 金融庁「改正資金決済法 新旧対照条文」

[2] 金融庁「令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」

[3] 本ニューズレターにおいては、資金決済に関する法律施行令を「施行令」、電子決済手段等取引業者に関する内閣府令を「電子決済府令」、事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係17電子決済手段等取引業者関係)を「ガイドライン」といいます。

[4] 登録申請書(電子決済府令別紙様式第1号)

[5] 誓約書(電子決済府令別紙様式第3号)

[6] 履歴書(電子決済府令別紙様式第5号)

[7] 沿革(電子決済府令別紙様式第6号)

2022年12月13日(火)10:35 AM

港湾法の一部を改正する法律の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

港湾法の一部を改正する法律の概要

 

港湾法の一部を改正する法律の概要

2022年12月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年11月18日、「港湾法の一部を改正する法律」(以下「改正法[1]」といいます。)が公布され、2022年12月16日より施行される予定です(ただし、一部の規定を除く)。

1 背景

 カーボンニュートラルポートの形成や港湾の安定的な機能維持・管理の効率化を図るため、今回の改正が行われました。エネルギー・産業構造の円滑な転換に必要な港湾における脱炭素化の取り組みを官民連携により推進するための仕組みを整備するとともに、パンデミックや災害時における港湾機能の確実な維持や、民間活力を活用した港湾空間の形成を図るための措置等を講ずることが内容となっています。

2 概要

 本改正法における主な改正点[2]は、以下の3点が挙げられます。

 ①港湾における脱炭素化の推進
 ②パンデミック・災害の際の港湾機能の確実な維持
 ③港湾の管理、利用等の効率化と質の向上

 本ニューズレターでは、上記①及び③について解説いたします。

3 港湾における脱炭素化の推進

 (1)港湾の基本方針への位置づけの明確化

 国が定める港湾の開発等に関する基本方針(以下「基本方針」といいます。)に、港湾が果たすべき役割として「地球温暖化の防止及び気候の変動への適応」など脱炭素化に関する事項が明記されました(改正法第3条の2第3項)。

 また、港湾法の適用を受ける港湾施設に、船舶に給油及び給炭の用に供する施設の他に、水素、燃料アンモニア等の動力源を補給する施設等も追加されました(改正法第2条第5項)。

(2)港湾における脱炭素化の取組の推進

 官民の連携による港湾における脱炭素化の取組を推進するため、「港湾脱炭素化推進計画」制度が創設されました(改正法第50条の2第1項)。

 港湾管理者は、港湾脱炭素化推進計画を作成することができ、主な記載事項は以下の(1)~(6)になります(改正法第50条の2第2項)。

 (1)官民の連携による脱炭素化の促進に資する港湾の効果的な利用の推進に関する基本的な方針
 (2)港湾脱炭素化推進計画の目標
 (3)前号の目標を達成するために行う港湾における脱炭素化の促進に資する事業(以下「港湾脱炭素化促進事業」といいます。)及びその実施主体に関する事項
 (4)港湾脱炭素化推進計画の達成状況の評価に関する事項
 (5)計画期間
 (6)上記(1)~(5)に掲げるもののほか、港湾脱炭素化推進計画の実施に関し当該港湾管理者が必要と認める事項

 なお、港湾脱炭素化推進計画は、基本方針に適合したものである必要があります(改正法第50条の2第4項)。

 さらに、港湾管理者は、港湾脱炭素化促進事業を実施すると見込まれる者、関係する地方公共団体や港湾利用者等からなる港湾脱炭素化推進協議会を組織し、港湾脱炭素化推進計画の作成及び実施等に関し協議することができます(改正法第50条の3)。

4 港湾の管理、利用等の効率化と質の向上

 港湾緑地等において、カフェ等の収益施設の整備と当該施設から得られる収益を還元して緑地等のリニューアルを行う民間事業者に対し、緑地等の貸付を可能とする認定制度が創設されました。貸付を受けようとする事業者は、港湾環境整備計画を作成し、認定を申請することが可能です(改正法第51条第1項)。

 港湾環境整備計画への記載事項及び認定要件は、次のとおりです。

【記載事項】(改正法第51条第2項)

 (1)貸付けを受けようとする緑地等の区域
 (2)緑地等の貸付けを受けようとする期間
 (3)(1)の区域において整備する飲食店、売店その他の施設であって、当該施設から生ずる収益の一部を(4)に規定する港湾の施設の整備に要する費用の全部又は一部に充てることができると認められるものに関する事項
 (4)(1)の区域において整備する休憩所、案内施設その他の港湾の環境の向上に資する港湾施設に関する事項
 (5)(3)、(4)に掲げるもののほか、(1)の区域において行う緑地等の維持その他の港湾の環境の整備に関する事業に関する事項
 (6)資金計画及び収支計画

【認定要件】(改正法第51条の2第1項)

 (1)当該港湾環境整備計画の内容が当該港湾の港湾計画に適合するものであること
 (2)当該港湾環境整備計画の実施が港湾の環境の向上に資すると認められるものであること
 (3)当該港湾環境整備計画の内容が当該港湾の利用又は保全に著しく支障を与えるおそれがないものであること
 (4)当該港湾環境整備計画が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること

 認定計画が認定要件のいずれかに該当しなくなった場合、及び必要な措置をとる旨の勧告に従わなかった場合は、認定を取り消される場合があります(改正法第51条の4第1項、第2項)。

以上

[1] 国土交通省「港湾法の一部を改正する法律案」新旧対照条文

[2] 国土交通省「港湾法の一部を改正する法律案」概要

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